ソードアート・オンライン 二次創作 『3人のユリ』 作:マスカルウィン
特に語る事はないです。
2016年3月
結局俺は、その後居酒屋でアルバイトをする事になった。
この世界でやりたいことなんてなかったし、学校と家を往復するだけの毎日は正直なところ苦痛だったのだ。
何かが変わるかもしれないと始めたバイトであったが、マスター……店長もかなりいい人で正直初めて良かったとは思っている。
それでも、彼女を失った穴を埋めているわけではない。
未だに俺の世界は灰色のままで、俺は未だに彼女を探し続けているかもしれない。
「俺が知っているSAOってこんな感じかな、いやこんな感じです」
「別に敬語使わなくてもいーよ? バイト終わったんだし先輩後輩なんて忘れてね?」
「そうか?」
アルバイトが終了し帰り道、早百合さんと一緒に途中まで帰るのが当たり前になっていた。
最初は断っていたのだが、彼女の容姿、見た目、言動等が彼女と被って見えて彼女がいるような錯覚をしてしまい、幻想でもいいので彼女と一緒にいたいと一瞬でも思ってしまった俺の甘えからだ。
一緒に帰る時は、基本的にSAOの話しをする、勿論俺と『ユリ』の関係は未だに話せてはいない。
話してもいいかとは思うのだが、最初に断った手前話すきっかけを見つからずに数週間が過ぎた。
正直なところ、今の早百合さんとの関係が、壊れるかもしれないと思っているかもしれない。
「どうしたの? 大丈夫?」
「えっと、大丈夫……です。 ちょっと考え事してて」
「それじゃ私の話聞いてなかったでしょう? もう一度言うね」
「すいません……」
「悠里君の学校に行ってみたいなーって」
「俺の?」
「君の」
「SAO帰還者が集まる学校でしょう? 私の姿を見たら知ってる人がいるかもしれないかなーって、ほら私ユリと似ているし」
「あぁ、なるほど……な」
「それに……やっぱりSAOの話しを聞くたびに思うんだ、妹がどういう風に生きて、どういう風に死んでいったか気になるって、もしそれを見届けてる人がいるなら話をしたいって」
「そっか……」
目の前にいるとはいえなかった、いや言うべきなんだろうけどいえるはずがなかった。
いやそもそも、俺が知っている『ユリ』と彼女が言う『ユリ』は別のプレイヤーなのかもしれない。
一緒と言う確証は一つもないんだ、あるのは名前の一致と見た目が似ていると言うだけ、アバターが似てても、現実世界では違う顔をしている可能性も無くはない。
自分でも笑ってしまうような苦しい言い訳をしつつも、今こうやって『ユリ』に似ている早百合さんと話しをできるだけでも、俺は正直嬉しかったりする。
本当に……ダメな男だな俺って――。
「それじゃ、明日行きませんか? 確か明日はお店休みでバイトもないですし」
貼り付けたような笑顔で彼女に言うと、彼女はまるで『ユリ』のように答えてくれる。
「ホント!? 善は急げっていうし! うん明日、えーっと悠里の学校に行くから待っててくれる?」
「勿論、あした学校で待ってるんで、ついたら携帯に連絡してください」
「わかった、それじゃまたあしたね!」
そう言って彼女は急いで帰路を後にする。
俺はと言うと、チリチリと頭痛を感じながら、重たい足取りで家に向かった。
あの時断っとけば良かったと、思いながら憂鬱な学校生活を送った。
正直なところこんなに憂鬱な学校生活と言うのは、久しぶりではなかろうかと思ったぐらいにだ。
いつもは何も考えずに授業を受け、何も考えずに帰宅し、それなりに頑張ってバイトをする日々だったので、ある意味で新鮮と言えば新鮮なのかもしれない。
とはいえ、放課後から30分ほど経った時に、早百合さんから連絡が入った。
「今正門前! どうしたらいい?」
「あー、行くんでそこで待っててください」
「りょーかーい」
早百合さんから連絡が来たので、重い足取りで正門に向かうと、制服姿の早百合さんがそこにはいた。
「ごめんねー」
「いや、今日って言ったの俺だし」
「そっか、それじゃ案内よろしくね?」
「案内って言ったって、何処に案内すればよいか……」
「綺麗な中庭があったよね! あそこに!」
流石に他校生の学生を先生の許可無く、学校内を歩かせる勇気が無かった俺は、
途中職員室に立ち寄り、先生の許可を得ようと先生に話しかけると。
あぁいいよ? 別にそんな許可取らなくても。
と言う軽い答えが返ってきたので落胆しつつ、中庭を目指した。
「広いねー、ここでお昼ごはんとか食べたら気持ちよさそう」
中庭に着いた時に、彼女が言った感想が頷きながら、しかしここでお昼ごはんは食べる事はできない。
「残念ながらここは、いつも先客がいるから、誰も食べに来ないよ」
「先客?」
そう早百合さんが首を傾げるので、ベンチを指差すとそこには二人のカップルがベンチに座っていた。
なるほどねと早百合さんは笑いながら二人に近づいていく。
「はじめましてお二人さん! お邪魔して御免なさい。 ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「早百合さん……」
ベンチに座っていた二人に、迷うことなく話しかけに言った彼女に吃驚しながら、後ろから追いかける。
閃光様は非常に迷惑そうな視線を早百合さんに向けている。
女ってやっぱり怖いなぁ……じゃなくて。
「悪い和人、ちょっとこの人の話聞いて貰ってもいいか?」
「あ、あぁ別に行けど悠里の知り合いか?」
「いやぁ、うん。 バイトの先輩同い年だけどな、んでもってSAOの被害者のお姉さん」
和人と明日奈はそれだけで何かを察してくれたらしい、彼女の話を聞いてくれるようだ。
「つまり、早百合さんは妹さんの……『ユリ』さんの情報を探している……と?」
「和人さん言葉はいつも通りでいいですよ。 情報と言うか、どうやってあの世界で生きてたか気になるんです」
「多分だけど、早百合さんが探している『ユリ』さんって多分、攻略組みに近かった軽装ランス使いの『ユリ』さんだと思う」
「あぁ、やっぱりアスナも聞いた事あったか、俺が知っている『ユリ』って人は、その人だけだな」
「じゃ、じゃぁ二人は妹に会った事が……!」
「残念ながらない、俺たちは攻略組みのメンバーで正直なところ攻略組みのメンバーの名前と姿は今でも思い出せるけど、それ以外のプレイヤーとなると」
「そう……ですか」
「それに、ユリっていう名前は正直他にも居る気がするんだよな、例えばサユリというキャラクタネームで、ユリって呼ばれてたとか」
「えぇ、その可能性も私も考えてたわ、私たちが言う『ユリ』さんが、貴方の妹さんのじゃない可能性だってある。 私達の知り合いにユリエールって言う人がいるんだけど、その人もユリって名前で呼ばれてもおかしくないでしょう?」
「そうか、そうですよね」
落ち込む彼女に、何か言葉をかけようとするが思いつかない。
そもそも俺は一番近いと思われる可能性を、彼女に話していないのだ。
それに、二人の話から推測される『ユリ』は俺の覚えている『ユリ』と完全に一致してしまった。
「でもキリト君」
「わかってるよアスナ、後現実世界でキャラクターネームは……」
「あっ、ご、ごめんなさい」
「俺の知り合いに、SAOの行動をログを見れる人が居るんだが、その人に妹さんの行動ログを検索してもらう事が可能だけど……」
「迷惑になりそうならお願いしたくないですが、その和人さんの顔がその人の借りを作りたくないって顔してますけど」
「あぁ、いやうん。 まぁそれぐらいなら大丈夫だろ。 それに遺族の人に対して仮想課の連中だ何かしたいと思ってるだろうしな」
「仮想課……?」
「実際に会ってみたらわかるよ、日時が決まったら、悠里に言うから着てもらえるかな?」
「わかりました。 でも大丈夫なんですか?」
「まぁ、うん問題ないだろう」
そうこう話しをしていると、明日奈の携帯が震える。
「どうしたのリズ? ん今キリト君たちと一緒だけど……、うん。 ちょっと聞いてみるね」
「キリト……じゃなかった和人君、今リズ達がエギルさんのところに居るんだって言ってみる?」
「そうだな、エギル達に『ユリ』さんの事聞いてみるのも一手かもしれないな」
エギル……だって? キリト達はアイツとも現実世界で会っていたのか!
確かに仲良かったというか、店に訪れていたのは覚えてはいるが……
結構な回数アイツには二人でお世話になっていたが、これから会いに行くのは――
「誰なんですか? そのエギルって言う人は」
「あーえっと、SAOで商人をしていた人で、交友関係がかなり広いんだ、俺達より確かな情報持ってると思うぜ」
「それに中層プレイヤーのシリカちゃんや、鍛冶師のリズだって今エギルさんの店に居るから、もしかしたら『ユリ』さん知ってるかもしれないし、一緒にお店に行かない?」
「えーっとでも……」
そう言いながら早百合さんは、『ユリ』と同じ角度で上目遣いで俺を見てくる。
だから卑怯だよそれ。
チリッと目の奥に痛みを感じながら、俺はそれに答える。
「わかったよ、それじゃ案内はこれで終了だな。 エギルには俺もあいたかったし丁度いい」
ぶらっきぼうな言い方になってしまったのは許して欲しい。
「それじゃ、エギルの店に行こうか!」
「行きましょ早百合さん」
2014年4月
50層アルゲートエギルの店前
「ここ?」
「そうここ、らしいけど」
アルゲートにある小さな店の前で俺たちは情報やから勝った、高値で素材アイテムを買い取ってくれる店の前に来ていた。
「店主の圧力に押されたら、安値で渡す事になるから、気を引き締めていけヨ、って言ってたよね?」
「言ってたな、さてどんな化け物みたいな奴が現れるのか」
二人で深呼吸した後、店に乗り込んだ。
店内に入るとこじんまりとした店であったが、何処と無く暖かさを感じる作りだった。
「おう、いらっしゃい。 っと初めて店に来てくれたよな? ようこそ俺の店に」
そういって歓迎してくれたのは、スキンヘッドの黒人さんだった、それも長身と言うおまけつきである。
「あ、あぁはじめまして俺はユーリ、こっちはユリだ」
「ユーリにユリか名前が似ててややこしいな、けどまぁコンビを組んでるならお似合いなのかもしれないな。 それで今日はどのようなご用件で?」
「情報屋から教えてもらって、素材を買い取って欲しいんだが」
「アルゴにか、なるほどな。 なら多少色つけて買わないといけないな」
トレードでアイテムを提示すると、エギルはそれをみていく。
「ふーむ、悪くないアイテムだが、いかんせん在庫が余ってるからなぁ……全部で10万コルぐらいでどうだ?」
「10万か……」
悪くない値段だが、俺達が今まで言ってた買取屋で売り飛ばしても、それぐらいの値段で買い取ってくれるだろう。
「今の中層プレイヤーが喜びそうな素材アイテムじゃないかな? 俺達が持ってきたアイテムは」
「まぁ、わかるが在庫がなぁ……」
「これから何度かよらせてもらうつもりで、アルゴには情報を買ったんだが……」
「アルゴには宣伝してもらうために金支払ってるからな、あいつのは感謝してるよ」
ぬぅ……これは一筋縄ではいかない。
この世界に来てそれなりに人と話す事が苦手ではなくなったが、本来こういう交渉ごとは苦手なんだ。
「もう少し色付けてもらう事は?」
「11万……いやめいっぱい見積もって12万と言ったところか」
その提示された額に悩んでいたが、悩んでいても仕方が無い、と思いユリに聞こうと振り向くとそこにはユリの姿が無かった。
あいつ何処に……。
「この槍強い! ねねね、店主さんこの槍幾ら!」
「お目がいいねぇお嬢さん。そいつは20万コルだ、リズベット武具店ってところで鍛えてもらって構優秀な槍なんだが、攻略組みには必要ないって言われてな、安値で販売してるんだよ」
「ユーリ素材買取幾らだっけ?」
「あ、あぁえっと12万だって言ってたよ」
「店主さんこの槍幾ら!」
「いやだから20万って……」
「買取は! 12万……」
「い・く・ら!」
ユリの勢いに圧されて店主はおっかな吃驚している。
あぁうん、武器の事に関すると目の色変わるんだよなぁ……何故か。
「わかぁったよ、この素材アイテムとトレードでいいか?」
すると店主が折れて、うなだれるようにトレード画面を操作し、槍と素材アイテムを交換する。
「なんか、すまんな」
「気にすんな、これぐらいの出費覚悟して何ぼだ、それより!」
「な、なんだよ」
「これからも俺の店をよろしくな、ユーリ、ユリ」
「……あぁ!」
それから素材アイテムやドロップアイテムはエギルの店に持ち込む事になったのが、二人の決まりとなった。
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