黄昏に染まる空の果て ― 紅《くれない》黙示録 ―   作:nyan_oh

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―― 《襲撃》 ――

 ミリアムは抱えていたスタッフを手にもつと、ぼそぼそと小さな声で何事かをつぶやきはじめた。

 つぶやきは、独特の(いん)をもってしだいに朗々と抑揚(よくよう)を変え、ソプラノの美しい声にのせて一面に(ひび)いた。

 

 アレスは戸口の(かげ)に身を隠し、機会をうかがって呼吸を殺している。

「なにをしているのだ! 敵が攻めてきているのだぞ!」

 はやし立てるような声に、とげのある視線が突き刺さる。

 

「だまってろ」

 

 ……

 

 ……ッ……ッ

 

「よし」

 短剣を握りしめた手に力をこめる。

 オリヴィアがしびれを切らし、クレイモアーを手に飛び出そうとしたその瞬間、外にハダカの男が現れた。

 

――人間!?

 

 弓をつがえ、今にも矢が発射されようとしたそのとき、低い場所から飛影が走った。

 (きた)えぬかれた腹に短剣が突き刺さり、苦鳴が上がる。

 

 ドスッ

 

 放たれた矢は、あやういところで逸れた。

「しっかりしろや。お姫さん」

 アレスが短剣を投げた格好のままで声をかけた。

 

「あれは人であったぞ!」

「ハッ、人に見えたかよ」

 鼻で笑われ、さらにプライドが傷つく。

 

「俺が出て行ったら、もっかいちゃんと見てみるんだな」

 さらに別の短剣をつがえると、素早く身を乗り出して交差させるように投擲(とうてき)する。

 おぞましい悲鳴が上がり、大きな音が倒れたと思うや、すぐに遠ざかっていく。

 するりと車内からすべりでると、絶命した御者をはねのけ、手綱をつかんだ。

 

 馬がいななく。

 

 オリヴィアは戸口と反対側の窓からランタンを掲げて乗りだすや、目にした光景に驚愕(きょうがく)した。

 人の体に、馬の身。色は様々だが、そのどれもが(ひづめ)の足で高速に駆けてきている。

 人ではなかった!

 

「あれはなんだ!」

「俺がしるか。あんたのが詳しいだろ」

「わかるものか! あんな化け物のことなど!」

「ハハッ! それだけわかりゃ上等だろうよ! それより、詠唱(えいしょう)のジャマをすんなよ!」

「詠唱?」

 

 ハッ、として車内をふりむく。

 

「あなたは魔術師なのか!?」

「ジャマすんなっつったばっかだろうが!」

「す、すまん」

 おとなしく言うことを聞かれて出鼻をくじかれる。

 

「へっ、まぁいい。たのむぜ。ヨークランド随一の秀才さんよ」

「イー・ハーム・テラ・ファーム・ヴァン・オーム・キリアム・リルド――」

 ふわりと彼女の長い髪が宙を舞い、高々とスタッフが掲げられた。

 

「オーム・イル・フレア!」

 

 瞬間、上空にまぶしい閃光がはじけた。


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