黄昏に染まる空の果て ― 紅《くれない》黙示録 ―   作:nyan_oh

14 / 19
―― 《襲われた村》 ――

 紅蓮の炎が狂ったように空へと触手を伸ばす。

 夜の暗闇は煌々(こうこう)たる(くれない)の炎に照らし出され、真昼よりなおの明るさで、てらてらと無慈悲にその惨劇を映し出す。

 

 血しぶきがとぶ。

 

 悲鳴が尾を引く。

 

 数少ない村人たちは逃げまどい、母は子をかばい、娘はおびえて声を枯らす。田畑を耕すための道具を唯一の武器とした父は、逆に串刺しにされて無惨に事切れた。

 

 ギョロリ、と乳白色に濁った目が次の獲物を探して動く。

 緑色をした異質な肌はいくつもひび割れを起こし、子供くらいの背丈には獰猛な牙が2本生えている。唾液まじりに呼吸するたび、黄色い硫黄のような色の息が漏れては、鼻の曲がるような異臭を放った。

 ギャイギャイと獣じみた声を上げながら数匹で一人の人間を追いかけ回し、血のりのついた刃物や鈍器で飛びかかっては、袋叩きに切り刻む。まるで殺戮を楽しむかのように、ギャイギャイと声を上げて笑った。戦利品のように首を刈り取っては、ぶら下げてもてあそぶ。

 先ほどまで平穏だった村は、突然の奇襲に為すすべもなく悪夢の渦中と化した。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 恐怖の叫びが断末魔(だんまつま)となり、また一人、若者が犠牲になる。

 どこに逃げればいいのだろう。

 誰に助けを求めればいいのだろう。

 泣くことすらも許されない地獄の中で、泣くことを忘れた少女が呆然と座り込んだ。

 

 異形の化け物どもが嬉々(きき)として取り囲む。

 下腹部がひきつり、恐怖に嗚咽(おえつ)すらままならず、股間からあふれでた温かい液体が地面をぬらす。

 

 血に塗れた刃物。

 ぶら下がった知人の首。

 断末魔で凍り付いた表情。

 

 そのどれもが、自分の運命を雄弁(ゆうべん)に語っていた。

 異形どもが自分を指して野卑(やひ)な笑い声をあげる。

 少女は運命を呪った。

 

「――はァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

 

 化け物どもがビクッ、とおののく。

 背後から伸び上がった巨大な影が、振りかぶった長剣を一閃する。

 

「フンッ!」

 

 振り向くまもなく、クレイモアーが剣風とともに二匹の化け物をまとめて断罪する。

 止まらない。

 

「フッ!」

 

 勢いを利用してさらになぎはらう。

 避けようとしたのだろうが、いびつに突きでた腹を切り裂かれて耳障りな悲鳴を上げた。

 少女の前に立ちふさがり、オリヴィアは憎しみに目を燃え上がらせる。

 

「――きさまらぁ!!」

 

 突然の乱入者にとまどったように、化け物どもが互いに目を合わせる。

 一目散に逃げ出した。

 

「逃げるなァ!」

 

 怒鳴り声をあげ、追いかけようとする。

 

「オリヴィア様! 今は村人を助けることが先決です!」

 ミリアムがアレスを護衛にして駆けつける。

「わかっているっ! くそっ!!」

 投げ捨てられた、村人の首。

 父の姿がダブって見えた。

 

「無事か!」

 後ろに声をかけると、失禁した少女は自分を見上げて、かすんだ瞳でうなずいた。

「ならば立て! 奴らに屈するな!」

 自分を映した瞳から、感情の波が(せき)をきってあふれ出す。

 イャハムが少女を抱え上げる。

 

「生きている者を探すぞ!」

 

「はっ!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。