黄昏に染まる空の果て ― 紅《くれない》黙示録 ― 作:nyan_oh
「フッ!」
剣が
獣じみた叫びがあがり、赤い鮮血が視界をふさいだ。
ふりかかる生あたたかな血に嫌悪感がこみ上げてくるが、むりやり飲み下して次の標的へと向かう。
「ハァ!」
ギン!
怒りをあらわにしたハ虫類の眼が、仲間を殺された恨みで縦に細く伸び上がる。
ヒョロリと二股の舌がわずかに姿をみせて引っこんだ。
(化け物め!)
「シィァ!」
ふりはらわれて体勢を立て直す。
「陛下を
「南の門が破られました! 奴らの増援です!」
「馬鹿が! 後手に回っているではないか!」
舌打ちする。
「貴様ら――」
「シィァ!」
ギン!
鋼の剣と同等か、それ以上の硬度の爪を横へとながし、かえす刀で真一文字に斬り裂く。
「ギィアアアアアア!!」
耳ざわりな声。
そののど笛に刃を突きこむと、ギョロギョロと目玉を踊らせて異形は絶命した。
大剣を引き抜く。
整った顔立ちが返り血に染まり、美しさと戦闘の熱に浮かされた
「魔術師殿はどうした!? 結界を張っているはずではなかったのか!」
「それが……気づいたときには、すでに姿がなく」
「逃げたのか!? 宮廷魔術師ともあろう方が!?」
「わかりま――うわぁ!」
「ちっ!」
広間は混戦状態だった。
赤い絨毯はなお紅く色づく鮮血にまみれ、いくつもの屍が無残に転がっていた。
――味方のほうが、数が多い。
あきらかに敗戦色が濃厚。
逃げだした、ということもわからないでもない。
「ひぅ――」
するどい爪は鋭利な刃物のように、兵士ののどぶえを切り裂いた。
「よくも!」
両腕に力がこもる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
駆けざまに剣をふりあげ、脳天から斬りつける。
幅広のクレイモアーは、まるで巨大なアクスのように、鱗におおわれた
断末魔の苦鳴をあげるいとまもなく、緑色の
長く伸びた舌がだらりと垂れた。
肩で息をして、絶命した化け物を眺める。
見れば見るほどに、信じられない生き物だった。例えるなら、二足歩行する
だが蜥蜴には、鋭い牙も長く伸びた爪もない。これは、この地上に存在しない生き物だ。
「隊長!」
全身を赤く染めた兵士が駆けよってくるなり、血だまりの池にひざをついた。自分と同じように鮮血と、無数の傷跡が目立つ。
「伝令です。王は地下よりお逃げいたしました!」
「そうか、よし! ではわれわれも退くぞ――」
この戦い――人に、勝ち目はないかもしれぬ。
銀の髪をもつ女騎士は、無念に唇を噛んだ。