雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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6.装備は自分の毛皮です

 

 

「あー…こりゃあ修理に時間かかるわ」

「どれくらいかかりそうだ?」

「一か月過ぎちゃうかも。今、嫁さんの悪阻が酷くてな……」

「ああ……心配だよな」

「そうそ――――うわあああ可愛いと思って付けた尻尾が(´;ω; `)」

「……(親父の(´;ω; `)て顔すげー気持ち悪い)」

「…力作だったのに―――……ぐすん。……まあしょうがない、折角だしちょっと大人っぽくする?まだ毛皮余ってんだろ?」

「すっげー余ってる」

「後で持ってこいよ、あと料金はこんなでよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――雑誌を読みながらこんにちは、あれから怪我が良くなった元兎です。

 

実は昨日、私のボロボロの装備を修理しに行ったら一か月の時が必要と言われ、丁度いいから新しい防具を買う事になりました。

 

 

その時に貰った「新作・人気の防具ベスト」を帰ってから飼い主さんと読んだのですが……飼い主さんは重そうな防具ばかり選ぶし、私はどうすればいいか分からないしで選べず、チェダーさんの所へ相談しに来たのです。

 

飼い主さんはとても嫌そうな顔をしていましたが、私がチェダーさんに憧れているのを知っているので渋々一緒に付いて来てくれました。

 

 

……ちなみに、そのチェダーさんのお家―――所々花が飾ってあったりする可愛らしい家に似つかわしくない、「ラッシャイヤセー!」という猫達の大きな挨拶には一年半経っても慣れません。

 

しかも遊びに行くと偶に、猫の尋常じゃない悲鳴が聞こえてくるのですが…。あれは何の悲鳴か聞きたいのですけど、答えが怖くて聞けません。

 

 

――――そんな不思議なお家の主であるチェダーさんは、猫に持って来させたお茶と茶菓子を私達二人に押しやると頬杖をつきながら口を開きました。

 

 

「――――それでー?私が選んじゃって構わないの?」

「…ああ、お互いこういうのに不向きだからな」

「よろしくお願いします」

「いいよいいよー!めっさ可愛いの選んであげるー!」

「……おい、見た目より性能の方を「あ、これ可愛いー!」聞けよっ」

「いーじゃん別にさー。どうせ咲ちゃんがずっと傍にいるんだから、可愛さ重視で良いじゃん」

「この前みたいに別のクエストに行ってる事だってあんだろ」

「いや、そうじゃなくてさ、どうせ嫁に貰うん…痛い!」

 

 

もともとカリカリしていた飼い主さん、チェダーさんのからかう声に耐えられずにデコピンを……ああでも、デコピンで済ませるだけ(いつもは首絞めてますからね)良いのでしょうか?

 

 

「……あの、お二人共、これはどうですか?」

「あん?…カボチャ装備は駄目だ。馬鹿みたいだろ」

「馬鹿じゃないです、可愛いのですっ」

「魔女っ子夜ちゃん萌えるわー」

「俺はそんな奴の隣を歩きたくねーんだよ」

「(´・ω・`)」

 

 

慎みのあるのにしろ、と言ってお茶を呷る飼い主さんは「月刊狩人暮らし」を読み始めました。

もう知らんとばかりの態度で読まれているページには「子豚拾ったったww」というタイトルが書かれています。

 

 

「じゃあファルメルはー?大きな羽が可愛いんだよ」

「へー!あれですよね、青緑の綺麗な―――」

「あれ邪魔だから。却下」

「……じゃあ頑張ってナルガにしてみるー?セクシーだけどね、」

「却下。合わん」

「………私とお揃いのブナハにしてみる?それで一緒に狩りに行くの」

「チェダーさんとお揃いですか!?嬉しいです…私、チェダーさんと姉妹みたいにお揃いの装備を着けるのが夢でして」

「―――却下。ブナハはチャラくて見てて苛々する」

 

 

「もしよろしければ」と続けようとした私の言葉を遮って、飼い主さんはとてもとても低いお声で淡々と言うと、ぱらりとページを捲ります。

次のページは「娘がデキ婚する件……」と見出しがついていました。

 

 

「あーもー!!却下却下って―――私に任せたんなら黙って雑誌読み耽ってなさいよ!」

「金払うのもこいつとほとんど一緒に狩りに出かけるのも俺だ、任せはするが少しは俺の意見を入れて選べよ。…一緒に狩りに行く俺にな」

「―――何?何で二回言ったの?そんなに姉妹みたいになりたいって夜ちゃんが言ったのが嫌だったの?……大丈夫、夜ちゃんの事は取らないから。あれだよ、咲ちゃんと一緒だと新婚さんに見えるんだから小さい事言わないの。黙ってデキ婚の話でも読んでなさい」

 

 

茶菓子を口に入れるチェダーさんの発言の後、飼い主さんが急に咳込んで手に持っていたお茶がテーブルと雑誌に少しだけかかりました。

 

 

(―――飼い主さん、顔真っ赤です……咳のせいで苦しいんでしょうか…)

 

あと「新婚」と「デキ婚」って何なのでしょう?

 

疑問に思ったのですが飼い主さんの咳が治まらないので聞くのをやめて、飼い主さんの背中をさすりながら零れたお茶を布巾で拭きとりました。

 

 

 

―――その後も似たような事の繰り返しだったのですが、チェダーさん提案のスカラ―ならまあ良いかもという話になり……ちょうどチェダーさんがお持ちだというので、試しに来させてもらいました。

 

 

「可愛いわー!ほんっとーに可愛いわー!」

「そ、そうですか?」

「照れてる所も可愛いわー!咲ちゃんの所じゃなくてお姉ちゃんと一緒に住んで欲しいぐらいだわー!」

「えへへ」

「今度お揃いで狩りに行こうね!」

 

 

むぎゅー、と抱きしめてくれるチェダーさんに頷いて飼い主さんの方を見ると、じろじろと上から下まで睨まれました…。

 

ですが何も言わずに本を閉じると、チェダーさんに「次の連続狩猟、お前ら二人来れるか」とだけ言いました。

 

「私は空いてるけど、スウィーツは知らない」

「いつも一緒なのにですか…?」

「んー、私が誘う時はいつでも『空いてるからいいよ』って言うんだよねー。結構気まぐれに誘ってるんだけど」

「……………さっさとくっつけよリア充」

「何か言ったー?」

「いや」

 

 

ぽそっと呟く飼い主さんに二人で首を傾げると、飼い主さんは咳払いして続けました。

 

 

「…こいつにはまだ連続狩猟は難しい上に怪我が治ったばかりだからな。あまり無茶をするのも良くないだろうから、四人でさっさと倒したいんだが」

「咲ちゃんって本当に過保護だよね。チェダーさんたまに苦笑いしちゃいそう」

「うっせーな。…とにかく来れるのか来ないのかどっちだ」

「熱い所じゃなきゃいいよー」

「…じゃあ渓流か孤島か――――孤島にするか」

「どうしてですか?」

「三匹相手にするか二匹相手にするかなら後者だろ」

 

 

お前はまだ一対一の状況で狩りをしたほうがいいからな。と言って私のずれた帽子をぽんぽん叩くと、「着替えて来い」とチェダーさんからばりっと剥がされて奥の部屋に背を押されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すすす、すい、すいまっ…せん!クエ、くええ、くえ……」

「なんで鳥の鳴き真似をしてるんだお前は」

「ふふふ、夜ちゃんお久しぶりですね。今日は何のクエストで?」

「れん、ぞく。しゅ…りょうです」

「はいはい。連続狩猟の?」

「あの…あの……咲さぁん!(´;ω; `)」

「……これで」

「ふふ、了解しました。…お二人でですか?」

「いや、四人で」

「……え、あの、下位クエストですよ…?」

「速攻で終わらせたくて」

「………(´;ω; `)」

「―――夜、背中に引っつくのも泣くのも止めてさっさとお前のサインを入れろ」

「夜ちゃん大丈夫ですよー、怖くないですよー」

 

 

 

―――恐る恐る飼い主さんから離れてそろそろっとサインを入れてる元兎です。おはようございます。

 

今日はスカラ―装備を手に入れる為、連続狩猟のクエストを頼もうとしたのですが……受付のお姉さん、とても優しい方なんですが、人慣れしていない私には怖く思えてしょうがないのです。ごめんなさい…。

 

「……しっかし…この程度のクエストでその装備とか……虐めじゃないですか」

「常に全力なんで」

「それにしても四人はちょっと…」

 

スタンプを弄りながら渋る受付のお姉さんと、変わらずに「常に全力なんで」を繰り返す飼い主さん。

その背後にぴったりくっついた私が飼い主さんの腰の装備を弄っていると、小さな声でお姉さんに呟きました。

 

 

「――――…最近のモンスターが異常なのはアンタも聞いてるだろ?」

「え、ええ…異様に凶暴だとか大きいとか―――あ、もしかしてその調査n」

「不安定な狩り場にこの馬鹿(前科持ち)を連れていけないし」

「………過保護ですよね、咲さん…」

 

 

ああもういいですよ。はいはい受理しました―、とぺたんとスタンプを押すとお姉さんはちょろっと顔を出していた私に「気をつけるんだよー?」と微笑みかけると、クエスト注文票を手に奥に下がってしまいました。

 

 

 

 

 

―――

―――――

――――――――

 

 

「おはようございます、スウィーツさん、チェダーさん」

「――――本当に来たな」

 

 

出口前でお二人を待って十分後、お揃いの装備でこちらに向かってくる(いいなぁ…)チェダーさんとスウィーツさんが来られました。

 

「何だよ咲、『本当に来たな』って」

「……いや」

 

 

さっさと行くぞ、と頭装備を被りながらネコタクに乗る飼い主さんに首を傾げるスウィーツさんでしたが、特に追求する気はないのかチェダーさんの隣に乗り込みました。

 

私は飼い主さんの隣で―――はなく、後ろです。だって今の飼い主さんは、飼い主さんは……!

 

 

「おい黒、背中に引っつくなって言ってんだろ」

「…ひっ!」

「ナルガ君、大好きな兎ちゃんに怖がられてるけどー?」

「うっせーなッ」

「怖いもんな、分かる分かる」

「黙れエセ貴族」

「エセ貴族って言われた!?」

「虫野郎よりはいいんじゃないの」

 

 

どうとも思っていない声色のチェダーさんの後ろに隠れようとしたら、飼い主さんに無理矢理引っ張られ、飼い主さんの――――うわあぁぁぁぁん怖いぃぃぃ!!

 

 

「………怖いか、黒」

「はいっだからこっち向かないで下さい!ナルガには昔、猫パンチを連打されて追いやられた事があるのです!トラウマなのです!!」

「…じゃあ、ナルガ装備、要らないな?」

「……あ、見ない分には耐えられ…覗きこまないで下さいぃ――――!」

「要らないな?」

「はいぃぃぃ!」

 

 

しつこく顔を上げさせようとしてくる飼い主さんにそう叫ぶと、私は今度こそチェダーさんに抱きつきました。良い匂いのするチェダーさんにしがみついて、飼い主さんの怖い匂いを忘れようと堅く目を瞑ったら、チェダーさんが優しく撫でてくれました(´;ω; `)

 

その隣でチラチラと此方を見ていた(そんな視線がしました)スウィーツさんが私達二人に小さな焼き菓子をくれました……あれ、クエストに関係の無いもの持って来ちゃいけないって、飼い主さんが………。

 

 

「…お前、ただの菓子からチーズ菓子になったな」

「えっ」

「後で覚えておけよ」

「何で!?」

 

 

飼い主さんとスウィーツさん、この村では唯一歳の近い同性なのに―――ちょっと、仲悪いですよね……。

 

 

 

 

 

 

新装備候補の中で、一番着て欲しくないものがナルガ装備だった飼い主さん。






★オマケ(チェダー先輩による後輩の誘い方)↓


「御主人―、明日はどうするのニャ?」
「明日は洗濯を一気にやっちゃって、庭弄りするか。家の掃除は任せたぞー」
「勿論だニャー!……にゃ?」

「―――おーい、スウィーツー」
「あー?」
「明日さ―、皆で狩」
「行く」
「御主人!?」
「そ。クエストはこれだって。じゃ、」
「あ、……待て」
「そうですよ待って下さい!御主人ッ洗濯とかどうす」
「なにー?」
「これから暇か?…も、もし暇だったら、夕飯食べていかないか…?」
「御主人!御主人、あたしの話聞いてく」
「いーのー?…じゃ、お言葉に甘えて―――」

「クソアマがぁぁぁ!!あたしと旦那の仲を裂こうとすんじゃないよぉぉぉ!!」
「ちょ、この猫蹴ってくるんだけど」
「…ショコラ、クビにされたくなかったらどっか行ってくれ」
「ご、御主人!?」
「あと明日、俺の代わりに全部お前らでやっといてくれな。じゃ」
「ちょ………ごしゅじ――――ん!」


………という、必死過ぎて酷い男の子がいました。



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