「――――チェダーさぁん!今回の捜索、クエストとして出る事になりましたー!」
「えっ、マジで?」
「ええ、調査員の人達がモンスターの影を何度も見たそうで…人間の味を覚えたモンスターは危険だからって。はい、」
「お、おぅ……それじゃあ、狩り場ってもしかして…」
「不安定です」
「……ごめん、ちょっと待って、お姉さん"そっち"用に着替えてくる」
「ああはい…さっきも寒い中に居たんですから、明日にされては…?」
「そうにも行かないっしょ。か弱い女の子の命がかかってるからね」
「そうですね……それでは、お待ちしてますね」
「はぁーい」
「………"銀世界、踊る悪魔達の狂宴"…って、誰がこんなタイトル付けてんだろ…だっさ…」
*
―――その頃、"悪魔達"は。
「きゅおー…」
「ぐごー…」
「ぎおー…」
………三匹仲良く、くっつきあって、寝ていました…。
「………ッ」
ウルクススの真っ黒な毛に埋もれるように眠っていたエリスは、その奇怪な図に喉を引き攣らせ―――しかし、前回の反省から、叫ぶようなことはしませんでした。
それに、よくよく見るとこの三匹、ベリオロスが冷たい風吹く出入り用の穴を塞ぎ(少し震えています…)、ギギネブラはそんなベリオロスの枕代わりになってあげていて、ウルクススはベリオロスのお腹にひっつき、エリスに温もりを与えてくれていたのです。
(……どうして、この子達はこんなにも私に、ううん、人懐っこいんだろう…?)
イースもイーシェも言っていました。ポポなどの弱小・草食モンスターは人に従うし、場合によっては懐いてくれるけれど、この三匹ほどに強いモンスターが、何故にここまで
「くしゅんっ」
……見を呈して寒風を塞いでくれているベリオロスには大変申し訳ないのですが……やはり、エリスには耐えられません…。
自覚したら余計に寒くなってきて、凍える身に耐え切れず丸くなっていたら、「きゅーお?」と先程のくしゃみで起きてしまったらしいウルクススが、おずおずと鼻先を伸ばしてきました。
そのままゆっくりエリスの首をふがふがと嗅いだりして、温かい息がエリスに当たり…それと同時にとてもくすぐったくて、エリスはくすくすと笑いながらウルクススの頬を撫でます。
「きゅるるる…(´,,・ω・,,`)」
「……ふふ、」
エリスは思い切ってウルクススの首に抱きついて、頬をすりすりしてみました。
案外獣特有の汚れとかベタつきの無い、綺麗な毛並みであるのが意外で、手を突っ込んで梳いてみます。
やっぱり果物と葉の匂いがして、モンスターにも綺麗好きな子がいるのだな、と、
「ぎぅ……(´・ω・`)」
ベリオロスの枕代わりになっているギギネブラが、羨ましそうな悲しそうな、そんな表情というか雰囲気を出して、エリスとウルクススを見ていました。
もじもじとしたギギネブラは一見凶悪で獲物を狙っているようにも見えますが―――エリスが手を上げたり下げたりしていると、見かねたウルクススがもしょもしょとした口でエリスの背を優しく押して、それでも躊躇うエリスの目の前で、そのもふもふの頬をギギネブラに擦り付けたのです。
「きゅおー(´,,・ω・,,`)」
「ぎおー(´,,・ω・,,`)」
「………、」
――――可愛い……。
エリスは、ああ遂に自分は壊れてしまったのかと思ったエリスは、きゅんきゅんする胸を押さえたまま、ウルクススに隠れながらギギネブラに触れてみました。
ぶよんとしてて滑らかな、意外と温かい、不気味な外見ですが、色々麻痺してきたエリスには可愛いく見えます。
「くしゅんっ」
……ですが、やはり寒い。……エリスが白い息を吐くと、「ぐおぅお?」と寝惚けたベリオロスの声が聞こえました。
「きゅんきゅおっ(´,,・ω・,,`)」
「ぎぅぅー(´,,・ω・,,`)」
「ぐお……(`・ω・´)」
幼い子供二匹に見える彼ら(いや、図体はでかいのですが…)にもきゅきゅとされつつ、ベリオロスはエリスから視線を外しません。
「ぐおっ(`・ω・´)」
「きゅっ(´・ω・ `)」
「ぎうー?(´・ω・ `)」
「ぐおーおっぐおっぐおっ!(`・ω・´)」
「きゅおー。おー?(´・ω・ `)」
「ぎううー(´・ω・ `)」
窘めるような、そんなベリオロスの警戒丸出しの姿にちょっと寂しく思いつつ、エリスはもふもふのウルクススの身体に寄り添いました。
「きゅきゅ、きゅおー」
「ぎう、」
「ぐおっ!…………ぐう」
その様子を見て、もきゅもきゅの三匹は何かを決めたようです。
「しゃーねーな」と言わんばかりのベリオロスを先頭に、ベリオロスの背に乗るギギネブラ―――の背後、ウルクススが不意に足を折ると首を下げて「きゅお!(´,,・ω・,,`)」と……「乗れ」ということでしょうか?
「……乗っていいの…?」
「きゅんっ(´,,・ω・,,`)」
「あ、ありがとう…」
大変不格好にウルクススの身体をよじ登ると、ウルクススはのんびりと、振動も小さくとてとてとベリオロスとギギネブラの後を付いて行きます。
途中、ファンゴや他のモンスターに遭遇しても、この先頭のベリオロスとギギネブラ二匹を恐れてすぐに退散したので、まったく道中安全です。
(……守って、くれてるんだ…)
きっと。敵のエリスを、ぱくりと食べられないように。
…もしかしたらあとでぱくりとかかもしれませんが、ここまで冷凍待ちもせず、つまみ食いもしないで友好的であってくれたのです、……エリスは、信じてみたくて、大人しくウルクススの首に抱きついていました。
例の不信なハンター達との道中よりも、言葉も種族も違うウルクススの背の方が安心するだなんて、エリスは頭の病気を疑われてもしょうがないやも……。
「きゅお―――――!!(´,,・ω・,,`)」
寒さで思考が鈍くなってきたエリスは、ウルクススの嬉しそうな鳴き声にはっと顔を上げ―――吃驚、しました。
冷えた洞窟の奥(多分)に来てみれば、目の前には湯気がもうもうと立つ"温泉"があったのです!
「ぎうー(´,,・ω・,,`)」
まず最初に、ベリオロスの身体から滑り落ちて、ばしゃんとギギネブラが温泉に転がり落ちてもごついた後、気ままに泳ぎ始めました。……どうやら、中々深い温泉のようです。
ウルクススは首を下げてエリスを落とすと、腕を温泉に突っ込んでエリスに触れさせました―――まるで、「大丈夫だよ」とでも言うように。
エリスも恐る恐る指先を触れてみましたが、丁度良い湯加減の、何てことのない温泉です。
思わず振り返りますと、濡れた手で自分の顔を洗っているウルクススと出入り用の穴の前で内外どちらも警戒中のベリオロスがいます。………これは。
これは、「温まってね」と、いうことなのでしょうか?
「………うん、」
エリスはゆっくり靴を脱ぐと、薬を弄り続けた繊細な手でお湯を掬って少しずつ温めます。
丁度良い塩梅でそろそろと両足を温泉に浸す頃には、ギギネブラが「どーよ?」と言うかのようにお湯から身体を出しました。
「………温かい…」
心も、身体も。とても温かい。…そう、エリスははにかみます。
このままなら死なずに、イースの元へ生きて帰れるかもしれません。…エリスは希望から口元を綻ばして、湯から顔を出すギギネブラを撫でてお湯をかけてあげました。
「ぎうー(´,,・ω・,,`)」
「ふふ、」
「ぎーうー(´,,・ω・,,`)」
エリスがすっかり無害なギギネブラにほのぼのとしていると、その様子をボケーっと見ていたベリオロスにウルクススが温泉を勧め、自分は―――お腹を空かせただろう、エリスに果実を持って来ると出ていきました。
ベリオロスはこつんとおでこをウルクススに当てたあと、もそもそと温かい温泉に入り……ああ、生き返ったと思わず顔を緩ませます。
そしてきゃっきゃと触れあうエリスとギギネブラを見ると―――不意に弱い風を起こして、二人にお湯を被せてきました。
「ぎおっ(´,,・ω・,,`)」
「ぐおっ(`,,・ω・,,´)」
ぷいっとしつつも、ベリオロスは度々風を起こしてはエリスとギギネブラにちょっかいを出し、……ウルクススがとてとてと果実を持って来る頃には、ベリオロスのじゃれるような頭突き(とも言えない)に床に転がったエリスは、くすくすと笑って―――――
「きゅお――――――!!!(´;ω; `)」
「えっ!?」
「ぐおっ!!(;`・ω・´)」
あの弱くて優しいウルクススの悲痛な鳴き声に、エリスは倒れた身体を起こしてウルクススを見ます。
ベリオロスは牙を見せて唸り、ギギネブラは壁に張り付いて冷えた空気を出し―――悲鳴を上げたウルクススは、お尻を上に突き出し、ぶるぶると震えていました。
ふるふるふるっと震える可愛らしい尻尾の付け根より上に、物々しい、矢、が。
「…………リス。エリス、エリスは―――どこだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
初めての、穏やかさも何もかもかなぐり捨てた叫びに、エリスは思わず身体が固まり―――目が熱くなって、ぼろぼろと涙を零しました。
可愛らしい三匹のおかげで麻痺していた物が戻って来て、二本目をかまえた彼に、涙声で、その愛しい名前を叫びます。
「イース!」
「え―――エリス!!」
髪もぐちゃぐちゃ、装備のあちらこちらが汚れてて、凍っていて。目の隈だった酷い。…なのにエリスには輝いて見えるのです。愛しい人が、信じていた通りに、いえそれ以上に。まさかの本人が助けに来てくれた――――…。
「ぐるるあああああああああああああああああああああ!!!」
「ひっ」
伸ばした腕を引っ込めて肩が跳ねあがり、呼吸がおかしくなる―――そんな殺気と咆哮が、彼女の背後で響き渡りました。
それに便乗するようにギギネブラが天井からひょろりと揺れて、恐ろしい口をがばりと、構えたまま微動だにしないイースに………
「――――ま…って、待って、駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
叫んで、エリスはイースに向かって駆け出します。
優しいこの三匹の恩に背きたくない為に、…イースを、こうして突き飛ばして、守―――
「エリスッ!!!」
*
「はーい、皆さんに残念なお知らせでぇーす。ウチの馬鹿アホ駄目っ子弟が勝手に暴走して凍土の奥
に特攻しやがりましたー……ジでふざけんなよクソガキがあああああああああ!!」
「チェダーさん落ち着いて下さい!」
「姉さん落ち着けってあんなに言っただろうがぁぁぁぁぁ!!何で聞かないの?何でこういう大事な時に限って聞かないんですかー?お姉さんもう怒りがMax過ぎてライトボウガン乱射して〆たい気分ですよカスがッ」
「チェダーさん、そんなことあっしらに言われても困ります」
「行方不明のハンターの手が見えた瞬間に駆け出すとか!この埋められた紫死体の処理の事も考えてあげてよ!別に行ってもいいけどオトモぐらい付けろやぁぁぁぁぁ!!!」
「でもねえ、こんなの見たらこうなりますって」
「ねー。…ていうか、モンスターも凍死体を埋めてあげるんだねえ。……下手くそな埋め方だけども」
「このハンターが不味くて途中で戻したんかなあ…しっかし、この紫の斑点…毒って、ギギネブラしかいませんよねえ」
「あいつらにも埋葬の習慣あったのか…」
「生ゴミ処理しただけかもよ。…んなことより!これからA班は死体処理!残りは私と一緒に馬鹿探しに行くよ!」
「「「へいさー!」」」
*
凍土の再会はデンジャラス。