雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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臆病少女は泣き叫ぶ

 

 

"エリス、お元気ですか?ちゃんと食事はしているでしょうか。"

 

"今日は久し振りに太刀に触れてみました。弓と違った重さが、とても怖く思えてしまう僕は、きっと弱虫なのだと思います。"

 

"……佐之さんはスパルタな人ですが、村の教官よりも的確…というと、ルシール教官に怒られてしまいますね、でも――――"

 

"―――…あの鮮やかな腕は、まるで剣舞のようで、不思議な、原初の祭事を見ているような気分になります。少々手癖も人付き合いも悪い人ですが、ふとした瞬間の優しさを思うに……、"

 

 

 

――――ねぇ、あなたの中に私は居ますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、手紙を読むたびに、エリスは胸がツンとするのでした。

 

暗い文でないだけ有難いのに、きっと一生懸命イースはその日その日に感じる思いを、無事を伝えたがっているだけなのに、エリスは自分の存在が薄くなって染みのような存在に成り下がっているのではないかと、不安になってしまいます。

 

 

――――だから彼女は、頑張って薬師の勉強をして、努力の実った自分で彼に胸を張って……いいえ、違いますね。離れ離れに耐え切れず、なんとか許しを得て、自ら不安を消す為に彼の元へと向かったのでした。

 

 

弾む心も染まる頬も隠さずに、うきうきと馬車に乗り………。

 

 

 

 

「きゅおー(´,,・ω・,,`)」

「ぐおー(`・ω・´)」

「きゅおー(´,,・ω・,,`)」

「ぐおー(`・ω・´)」

 

 

 

………。

…………深い夢から覚めたエリスは、所々浅く切れている身体を用心深く(といっても足は圧し掛かる果実のせいで動かせないのですが)確認すると、いつの間にか一匹増えてしまったこの現状にまたも気が遠くなりそうでした。

 

葉の隙間から覗くその姿は真っ黒で大きくて……本の中で読んだ、ウルクススの色違いのようですが…。

もう一匹はベリオロスで、仕留めたポポをさっと見せて、ウルクススが何故か「(´;ω; `)」な顔を―――…エリスはどういう訳か、恐怖心が和らぎました。

 

 

「ぐおっぐおっ!(`・ω・´)」

「きゅおー…(´;ω; `)」

「ぐおおっ!(`・ω・´)」

「きぅ…(´;ω; `)」

 

 

何故か叱られている(風に見える)ウルクススを見て、エリスはやっぱり何故か応援してあげたくなりました。

 

………。

……………いえいえ、そんな呑気な事をしている場合ではありません。今はどうしてか寒さも感じずにいられますが、いつ凍死してしまうか分かりません。

エリスは割と大きな果実を慎重にずらそうと手を伸ばそうとして―――ぐらっと果実たちが転がり落ちてくるのに、彼女は慌てて両手で頭を庇いました。

 

 

「きゅおっおっ!(´;ω; `)」

 

…どうやら、ウルクススが果実をその大きな鼻先で突いて、何かを懸命に訴えていたようです。

 

崩れた果実も葉っぱも上手い具合にエリスを避け、幸運なことに足に乗っていたのも退いてくれました。……エリスは、震える手足を必死に動かして食料の山から抜け出します―――。

 

 

「ぎぅー…(´,,・ω・,,`)?」

 

 

―――山の影からひょっこり顔を出したエリスは、上からの鳴き声に思わず背中がぞくりと。…慌てて顔を引っ込めれば、天井に張り付いたギギネブラがのっそのっそとやって来たのです。

 

 

「……ぎぅ、ぎーぅ(´,,・ω・,,`)?」

「ぐおー(`・ω・´)」

「きゅうぅー…(´;ω; `)」

 

 

三匹共幸運なことにエリスの存在に気付いていません。

ベリオロスがポポの死体をぶんぶん振りまわしてウルクススに押し付けている隙に逃げ、

 

 

「ぎぅっ(´,,・ω・,,`)」

 

 

べろっと口から何かを出した、得意気な顔のギギネブラを、……その、吐き出された、所々青く変色した―――人間、は。

 

 

「きゃあああああああああああッ!!!」

「(´,,・ω・,,`)!?」

「(`・ω・´)!?」

ω; `))!?」

 

 

ああ、その毒に犯された死体は―――エリスが不信に思っていた、あのハンターの一人ではありませんか!

 

エリスは洞窟中に響くような悲鳴を上げ、死体を口に咥えたままエリスを見るギギネブラと誰よりも先に戦闘態勢をとったベリオロス……に隠れて、震えて泣いているウルクススの三匹の視線に、ショックで死んでしまいそうになりました。

 

 

「ぐるるるるるるるるるる……!!」

 

まるで幼い二匹を守るように、ベリオロスは先程までの可愛い顔から一転、凶悪な顔で牙を見せて唸ります。

 

耐えきれずにエリスが膝を突き、喉を引き攣らせて涙を流した瞬間、ベリオロスが口をカッと開け、

 

 

「きゅおー!(`・ω・´)」

「ぐぷっ(;`・ω・´)!?」

 

 

泣くのを止めてぴょーんと、…何故か、ウルクススがベリオロスにジャンプ。

泣き虫ですが大きなウルクススなので、もふもふの塊に着地されたベリオロスは大変苦しそうです…。

 

「きゅおっ!きゅきゅー(`・ω・´)ノシ」

「ぐおっお!ぐおー!(;`・ω・´)」

 

何かを懸命にベリオロスに訴えるウルクススに、乗っかられたままのベリオロスは「知るかー!退け馬鹿兎が!」と言うかのように抗議し、ぶんぶんと身体を振ろうと―――して、また「ぐぷっ」と奇声を上げました。

 

 

「ぎぅー(´,,・ω・,,`)」

 

「混ぜてー」と言わんばかりに無邪気に、ギギネブラはウルクススの背中に張り付き―――二匹の重みに耐えられなくて、ベリオロスは潰れました。

 

 

「きゅーおっ(´,,・ω・,,`)ノ」

「あっ…」

 

 

――――もしかして、助けてくれた……ので、しょうか?

 

エリスは気が動転し過ぎて、初めて触れる「異世界」に感覚が麻痺して、そんな愚かな事を思ってしまうのです。

 

それに―――ふこふこと動く鼻先、ゆらりゆらりと動く耳、円らでうるうるとした瞳、その全てを見ていると憎めないというか、どうにも気が抜けてしまいます…。

 

 

「きゅっきゅ、きゅぉー(´,,・ω・,,`)」

 

すにーっと鼻先を伸ばすウルクススは、もしょもしょとした口を閉じたままで―――不意に、果実の良い匂いがしました―――…ああ、そうじゃなくて、…「撫でて?」と甘えるような仕草に、エリスは恐る恐る、

 

 

「ぎぅっ(´,,・ω・,,`)」

 

―――ウルクススの上から、のっそりと顔を出したギギネブラ―――の口、から、また、べろりと、

 

 

「きゃああああああああああああっ!!!」

「ぎぅっ(;´,,・ω・,,`)!?」

「きゅおー…(´;ω; `)」

「ぐおっお!ぐお!(;`・ω・´)ノ」

 

……ちなみに、ここだけ彼らの会話を伝えますと、「私も仲直り!」と自分の獲物を"譲ろうと"ギギネブラがやらかしてしまい、エリスの悲鳴に「えっ」となり、……「ギギさん何をしてるんですか…」と目の前で泣かれて貰い泣きしてしまったウルクススと「馬鹿っ!人間に"お前の御馳走(+毒のソース付き)"をやるな!」とギギネブラを叱るベリオロスさんで―――…はい、彼らは悪意もなく、無邪気に"モンスターとしての"仲直りをしようと試みるほどには、エリスに対して友好的だったのです。

 

それはエリス自身が果物と、染みついて消えない薬草の香りだけがして、彼らの嫌いな「|人間(ハンター)」の特徴をまったく持っていなかったからですが―――ああ、エリスはまたも気を失ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

"―――エリス、君は一度で良いから僕が狩りをする姿を、一緒に色んな世界を見たいと言ったけれど、……僕は反対です。"

 

"だって、君はとても繊細で…危険で奇妙なこの世界には、きっと耐えられないと思う。優しい君は、僕がモンスターを傷つける姿を見たら、……いや、違うな。"

 

"僕は君が泣きだしてしまうことよりも、君が僕を軽蔑した目で見る事が、きっと怖いんだ。……だから、ごめん。"

 

"でも、その代わり君に、絶対綺麗な世界を見せてあげる。僕が今まで見た中で、……絶対の安全の中で、だけど。それで、許してくれますか?"

 

"―――…エリスの手紙を読む度に、頑張ろうって思えるよ。だから、君も僕が迎えに行くまで、頑張って。"

 

 

 

―――――ああイース。……私もう、頑張れないよ。

 

 

 

 

 

凍土仲良し三人組との出会い。

 


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