雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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※若干アレなお話です。

※死人が出ます

以上、ご注意ください。






不器用少年は裏を知る

 

 

佐之、というハンターは、すごく気難しい人でした。

 

大雑把なものと几帳面に手を尽くすものとの境が曖昧ですし、許容出来るものの境も微妙。手が早いのかと思えば、彼の数少ない知人には滅多に上げない――どころか、他人に対しても基本的には上げないのです。…ただ、睨むというか、凄むのが多いので、結果的に喧嘩を売ってったり買ってたりの問題ありまくりの毎日を送っている人です。

 

そんな彼にちょっかいを出せるのは数少ない知人の中でも「豊受」が一番で、その次ら辺に娼婦、酔いどれハンターくらいでしょうか。

 

 

「―――今日は腕を使い過ぎただろうから冷やしておけ。明日はお前を前線に出すからな」

 

…と、このメンバーの中で新人のイースに水に浸けた手拭いを投げると、佐之は豊受の次によく狩りに連れて行く剣士"ジャック"と一緒にさっさとネコタクに乗ってしまいます。

 

ぞんざいな言い方ですが、佐之はどんな無茶な指示をしても、"こういう面"では優しいというか、配慮してくれるというか―――気を配ってくれるのです。

 

豊受も常にイースの面倒を見てくれるのですが、こう…偶に優しい佐之の方に有難みを感じてしまいます。

 

「あー、帰って飯食って寝たいー」

「俺は風呂入って寝たい」

「二人は似てるんだか似てないんだか分からないな」

「あ?こんな馬鹿受と一緒にすんな。誰だって疲れたら寝たくなんだろ―――なあ?」

「………」

 

こくん、と頷くだけのイースに、「ほらな」と不機嫌な猫のような佐之はジャックに背を向けてしまいます。

二人はそれを「手のかかる子供」でも見るように肩を窄めて帰りの準備を始めるのでした。

 

「イースは佐之のお気に入りだよなー」

 

とからかうように言う豊受の隣に弓を置くと、イースは反応に困って無言を貫きます。

 

「硬派な雰囲気が良いんだろう。……豊受は軟派だからな」

「何それー。俺だって誠実なのにぃー」

「普段の雰囲気だ雰囲気」

 

そういうジャックは豊受と佐之よりも一つ二つ下ですが、二人よりも落ちつきのあるハンターです。

 

家族の仕送りやら身体の弱い恋人の為にハンター職に就いている彼とは、イースも歳が近いのもあって仲が良かったのでした。

 

 

「にしても、このクエストって金は良いけど…二度目はヤダな。豊受さんの肌に合わないもん」

「まあ二度目は無いだろう。俺の方もこれで必要な金は得たし」

「ああ、治療費これで最後だっけ?お疲れー」

「ははっ次は新生活への資金集めさ」

「ループしてんねぇ―――あ、そういえばイースって毎回貯金してるよね?」

 

 

何でー?と無邪気に尋ねる豊受に、あえて触れずにいたジャックは「答えなくてもいいんだぞ」と気を使ってくれましたが―――ジャックの思うような理由ではなく、初で傍から見ると可愛らしい理由だと教えるのを躊躇って、……もごもごと、答えました。

 

 

「……エリスを……迎えに行きたくて」

「おぉー!?女の子の為かー!」

「迎えに行くって?」

「……その、家族が亡くなって、親戚の所に引っ越してしまって……だから、立派になって、生活が安定したら………それまで、待っててって……」

「うきゃー!何それ初々しい!!お前って堅物かと思ってたけど可愛い堅物だったんだな!」

「……っ…」

「おい豊受、イースが困ってるだろ」

「だって―――なあ佐之、お前もそう思うだろ?…って、ああそうか、佐之は爛れた生活してるもんなーwww」

「ぶっ殺すぞ脳内花畑野郎」

「こーわーいーwwだから娼館立ち入り禁止になるんだよwww」

「佐之……ついに立ち入り禁止になったのか…」

「佐之の"さ"はドSの意味ですってかwww鬼畜wwwこの前聞いたけど靴舐めさせたって本当?www」

「んな気持ち悪いことさせる訳ないだろ。…床でも舐めてろ売女って言ったんだ」

「外道やん……一体何のプレイなのそれ……」

「"私Mです"って言うから」

 

 

面倒臭そうに答えた佐之は「さっさと帰るぞ」とだけ言って不貞寝してしまいます。

ジャックと豊受は「やれやれ」と「www」な顔をして、イースを促して帰路に着くのです――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"お元気ですか?…秋も深まり、冬が来そうです。温かくしていてください"

 

"この前同封してくれた紅葉の栞。とても綺麗でした―――…"

 

 

手紙ならば素直に気持ちを伝えられるのに。…と、イースはアイルーに手紙を託します。

 

そろそろこの街に来て一年経ち、腕にも自信がついたし貯蓄も十分増えてきました。……もう少し頑張ったら、彼女を迎えに行けるかもしれません。

 

(それとも、もう一年ここで……)

 

きっとそれが確かなのでしょうが、遅い迎えではエリスに手が届かなくなってしまうかもしれません。…現に、このぐらいの歳になれば周りも結婚を勧めるでしょうし。

 

いえ、取り繕った考えを払うと―――ただ、会いたいのです。

 

会って、きっと大人びてもなお変わらぬだろう笑顔が、少しずつ少しずつ近寄る彼女の可愛らしい心が変わっていない事を確認したい。誰かに横から奪われる前に、奪って二人で暮らしていきたいのです。

 

またあの日のように手を繋ぎたいけど照れて繋げ無くて、キスするのも緊張してしまうあの日々に戻りたいのでした。

 

 

 

「―――佐之さぁん、今日は―――…」

 

 

…と、肌寒いというのに露出した服を着る女性が、狩りに行って来た(単独の狩りも佐之は好むのです)帰りの佐之に寄りかかって宿に引っ張ろうとします。

 

イースはその二人の姿に目が汚されたような気持ちになって、佐之と目が合う前に去ってしまおうと―――思ったのですが、その前に目が合ってしまいました。

 

もっと運が悪く女性も二人の目が合うのに気付くと、「お仲間?」と綺麗な紅を弧に描きます。

 

 

「…どうでもいいだろ。さっさと離れろ。こっちはさっさと休みたいんでな」

「えー、冷たぁい」

「………当然だろ?」

 

――――お前みたいのに。

 

そんな意を含んだ言葉より、イースは人間として認識しているのかも怪しいほどに冷たい、淡々とした目に、心底ゾッとしました。

 

佐之の事をイースは憧れの人として見ていますが、…こういう、女性関係なりその噂なりを見聞きする度に、「この人は壊れてるんじゃなかろうか」と思うのです。

 

この人は―――誰かを、愛せないのではないのかと。

 

 

「……イース、」

「!」

 

そう思っているイースに、佐之は変わらず淡々とした声で、こう言いました。

 

「明日、"フィーズ"達と狩りに行くから、…しばらく付き合えない。じゃあな」

 

 

"フィーズ"というのはこの街で一番などと噂されるハンターです。

いつも端から見ていたイースには、どうにもフィーズは佐之を好んでいないように見えたし、佐之も珍しく態度には出していませんでしたが、あの凍るような目にはその感情が浮かんでいました。―――まるで、

 

「殺してやる」

 

…そう、凍っているのに燃えているような、歪んだ気持ちが見えたのです。

 

それにイースは怯えても、変わらず佐之たちと狩りに行きましたが―――憧れの気持ちに、汚れが落ちてしまったのを、否定する事は出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

「―――やあ佐之君、…良かった、皆とはぐれてしまって…君はまだ若いからね、何かあったら大変だろうと心配していたよ」

 

「ここの洞窟は迷いやすくてね…ああ大丈夫、地図なんか無くても私が付いているよ―――こっちだ」

 

「……悪いが佐之君、この奥の方、覗いてくれないかな?……そうそう、もっと奥、にっ」

 

「………えっ、…なん…佐之!?貴様謀ったな!?」

 

「くそ、この矢は―――…!?な、なんであいつが…あいつは俺と、」

 

「くそ、くそっ…繋がってたのかお前ら…!――――あ?」

 

 

 

「……ガキ以来だと言ってやろうか、"親父"?」

 

 

 

 

 

 

――――悲しいことが起きました。

 

この街一番と謳われたフィーズが、狩りの最中に事故で仲間と離れ離れになった結果、モンスターに食われて亡くなったのです。

 

怪我を負って中年の男に肩を貸してもらった佐之は、その男に感謝の言葉を告げて心配して私服姿でギルドに押し掛けたジャックと豊受の元までやって来ると、ふらついてイースの肩に手を着いてから、二人にぼそりと言いました。

 

 

「終わった」

「そう。…アレは?」

「もう頼んだ。ジャックは手筈通りに」

「ああ」

 

 

悔しがる声やら何やらで騒がしいギルドの中。

一見分からないけれど、イースは、あの瞳と予感を持っていたイースは、分かってしまったのです。

 

 

フィーズを殺したのは、彼なのだと。

 

 

 

 

 

 

詳しいことは「小話:さくちゃん」にて。

 


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