※下品。下ネタオンパレードです。すっごくご注意ください。
これは、ヤンデレが幼馴染に殴りかかって入院が伸びた頃、兎にデレデレしたり周囲の男性に威嚇したりと大変忙しかった頃の話。
……つまり、オトメン編が終わって間もない頃の話。
「お家デートなるものをしようや!」
「………え?」
―――まだ同居なんてしてないこのカップルの、主導権を握りまくりのお姉様による第一声により、始まった。
手にはさっきまで読んでいた雑誌があり、本人は大変御機嫌麗しく花瓶の水を入れ替え中の恋人をせっつく。
「お家って、イーシェの家には今現在…」
「違う、イリスの家」
「えっ」
「私、イリスの家の…居間ぐらいは入れたけど部屋に行った事ない。イリスは寝てる私の所にやって来ては色々してご満悦なのにさー」
「ちょ、変な言い方しないで!俺はお前の滅茶苦茶の布団を直して空気の入れ替えして掃除してるだけでしょ!」
「私知ってるよ。昨日私の胸に触っ…」
「あれはお前の寝間着を直してあげたんでしょうが!!今度からはしっかりしたの着てよね、はしたない!…はしたない!!」
「何で二回言った」
「大事なことだから!」
「…じゃあ一昨日、ソファで寝たフリしてた私にキスし―――」
「し、してないもん!全然してないんだから!絶対してないんだから!!」
「…………なんだ、もしキスしてたなら、可愛いイリス君にたくさんちゅーしてあげようと思ったのに」
「してました!」
「よしよし、良い子だねー」
「…………頬っぺた…」
不服そうにイーシェを見るも、予想と反してイーシェが照れ臭そうに笑うのを見てキュンとしたイリスは、照れ照れしてるのを隠そうとして元の話題に戻した。
「と、とにかくっ、俺の部屋は―――」
「……私達、恋人同士なのに」
「!」
「何も雑誌を読んだからやりたいワケじゃない、これから結婚も考える上で、同棲するからには相手の事ももっと知らなきゃって、相手の部屋の内情を同居する前に知るのも大切って…」
「……い、イーシェ…」
「……何より、イリスは私の事知ってて、私はイリスの事知らないなんて…」
「ご、ごめ、イーシェがそこまで考えてくれてたなんて……そ、そういう事なら俺、今日中に掃除するから、明日n」
「いや、掃除したら駄目。隠してるのも同意だから」
「えっ」
「もし掃除した痕跡があったらイリスの部屋に我が家のこやし玉を全部ばら撒くから」
「えっ!?」
―――と、言う訳で。
イリスの家の前、長い銀髪を三つ編みに、いつもよりは露出控えめなイーシェはニコニコと渋り顔のイリスを小突きながら家に入ったわけだが。
「…掃除した?」
「特別な掃除はしてないけど…」
「え、何コレ、埃一つ無い……ちっ、『あら、こんな所に埃が…』ってヤツやりたかったのに」
「姑か!」
「ていうか綺麗と言うより可愛らしい居間なイリスん家を見るとさ、なんだろ…無茶苦茶にしたくなるよね」
「それは屑の考えだ」
モカ色のソファに生成り色の(※イリスお手製)クッション、テーブルクロスもメイドインイリス。……何度見ても、これは男の部屋じゃないと思うイーシェだった。
「…汚いとか言うなよ」
立派な居間を過ぎて、部屋の前でイリスはやたらゆっくりとドアノブを握る。
少しの高い音を鳴らして開かれた扉の向こうに広がるのは……
「…え、これ誰の部屋?」
「…俺の部屋」
青いベッドの上には編みかけのレース、白い小さなテーブルにはきっとメイドインイリスのレースにメイドインイリスの花、…窓辺にも一つ。
クッションはやたら凝ったメイドインイリスで本棚は刺繍と料理と数冊の月刊「狩人」で埋められ、部屋の隅々っていうか色んな所にメイドインイリスのぬいぐるみ…しかも小型の機織り機も見つけた。
揺れる白と淡い青のカーテンといい、テーブルの上の可愛らしい小物一覧といい…何と言うか、物語的なというか、女の子の理想的な部屋である……。
「……受けだ」
「え?」
「イリスは受けだ受け!何か……何か回り回ってホモ臭い!」
「え゛!?」
「何このメルヘン!このぬいぐる…やっべー超細か…もっと汗臭さを出せや!」
「えー…汗臭い部屋とか…汚いじゃん…」
「咲ちゃんの部屋は―――…あ、殺風景だったわ…私の弟たちの部屋なんて汗臭かったり野獣臭かったり私の下着と臭いティッシュが転がってたりするのに何よこれ!」
「ちょ、最後のはどういうこと!?」
「流石にエロ本はあるんでしょうね?今回はエロ本探しの為に来たのに!」
「…え?」
ぬいぐるみを掻き分けては探すイーシェに、色々ショックを受けていたイリスは数秒間固まり――――真っ赤になって叫んだ。
「え、えええええエロ本!?そ、そんなあ、アレなの持ってないし!持ってないし!」
「乙女ぶってんじゃないよ!どこに隠したんだい?言ってご覧!」
「持ってないもん、そ、そんな破廉恥な…」
「男がエロ本の一つも持ってないっておかしいでしょ、咲ちゃんだって…いや、あいつは金で済ますか…ウチのお父さんなんて金髪巨乳のエロ本持ってたんだから!」
「金髪…」
「ちなみにお母さんは銀髪貧乳、…もちろんその後修羅場になったお☆」
「明るく言うな!…あ、ちょ、駄目駄目、本棚漁んないで、傷んじゃうっ」
「あ、あと私の下着を勝手に使用した弟はライトボウガン(※特性コルク弾で)片手に追いかけまわして土下座させて川に落としたよ。安心してね」
「何に安心するの!?ていうか実の弟に何してんの!?」
もうやめてぇぇぇ!!とイーシェを背後から、深く考えずに肩を掴んでくるっとこっちを向かせると、ちょっと吃驚した顔のイーシェに低い声で「もうやめよう、」と続ける。
「いい加減人の部屋を荒らすなよ。俺はそんな本持ってないし、持ってたとしても恋人に見せたいと思う訳ないだろ」
「イリス……」
ぐいっと無理矢理座らせようとするイリスにふっと近づいて、イーシェは長い睫毛を伏せ―――え?これ期待していいの?とどっきどきなイリスの服を掴み―――そっと空いた唇に………。
―――…一分後、へにゃっと座りこんだイリスにトンっと本棚に背を預けたイーシェ(※お察し下さい)であるが、真っ赤な顔でイーシェを見上げたイリスは、ふう、と息を吐いたイーシェから、
「……じゃ、これが荒らすお代って事で。暫くそこで腰抜かしてて」
「……えっ」
「もうここまで荒らされるのを嫌がられるとさ、無茶苦茶に暴きたくなる性なのよ。だからそこで黙って…ね?」
「…ひ、ひどい……ヤリ捨てされたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「キス一つで何喚いてんのよー…あ、この月刊狩人に付箋が…」
「らめぇぇぇぇぇ!!それ読んじゃ…読んじゃあ…!」
「"月刊狩人専属占い師による、武器別の恋診断!"」
「」
「"ちょっと癖のあるガンナー娘と付き合えるテクニック"」
「」
「"ヘタレ過ぎて頼りにされない?そんなあなたに『男らしさ』を伝授!"」
「」
「"身体の弱いハンターへの気遣い十カ条"」
「」
「"ヘタレだけど頑張ったら付き合えたったwww"…笛ガールの先輩(可愛い)が好きで好きでしょうがないヘタレ男ですwww一か月前に告白したらリア充の仲間入りしたおっおっwww……………これ、は…」
ある可能性を胸にヘタレな恋人を見れば…顔真っ赤で涙目で口元が恥ずかしさでわなわなと震えていて、……急にガバッと両手で顔を隠すと、今までの比にならないほど叫んだ。
「そうですッそれ読んで参考にしてましたッ!…これでいいんでしょ、俺の事ヤリ捨てして滅茶苦茶に暴きまくってスッキリしたでしょ!……もう、最低ぃ…!」
「ちょ、泣くなし。あとヤリ捨てなんてしてないでしょ、ディープなキスしてやったんだから黙って見てろって言っただけでしょ」
「キスはもっと神聖なものなんだからッ…汚されたぁぁぁぁ!!」
「あーもー面倒臭……ほらほら、私の大事なイリス君、泣かないでイリス君お手製のお茶を私に淹れてくれないかな?」
「…………」
「イリスの淹れたお茶、好き過ぎて毎日楽しみなんだけどなー」
「………………ぐすっ……お茶、淹れてくる…」
「わあ!うっれしー!」
キスの代わりにハグしてやれば、イリスはおずおずとハグし返して部屋をのそのそと出て行く―――遠ざかる足音にニヤッと笑ったイーシェは……またも暴き始めた。
「くっくっく…私がたかがエロ本だけで済ませると思うたか…!他にもイリスの恥ずかしい物探しに来たんじゃー!」
そう(小声だけど)「おー!」と一人叫んだイーシェは、本棚を荒らす際にイリスがさり気なくイーシェの視界から隠そうとしたぬいぐるみの一山に腕を突っ込む!
「付箋まで貼ってある月刊狩人を犠牲にしても隠したかった物は何かな―――?……お、箱じゃあないか…良い匂いがぷんぷんするぜぇ…!」
大きめの飾り気のない箱を開け―――……手紙と、小箱だけが、ぽつんとあった。
手紙はラブレターとか親への手紙とかそういう類の物ではなく、適当に作ったくさいメモに見慣れた字がふらりふらりと書かれている。……イーシェの字だ。
「"咲ちゃんに虐められてる可哀想な後輩君へ☆
この前は酔っぱらいお姉さんを介抱して家まで届けてくれてありがとね、とっても助かりました。
お礼と言うほどの物でもないけど、お姉さんが長い間使ってたピアスをあげちゃうんだぜ☆
結構高値の物だから食うに困ったら売っても良いよ!どうせ貸した金の利子の足りない分として頂戴したピアスだし。スウィーツはお金をちゃんと返せる子になるんだぞ☆
ちょっと職人さんに頼んで加工してもらったけど、まあ価値は変わらないと思うよ。そのピアスの効能って結構レアなのよ。……どんなのか忘れたけどね!
お姉さんからのせめてものお礼です。受け取ってね♡本当にありがとう、愛してるぅー!
追記。お姉様のキスマーク付きだぞー!嬉しいだろ、すっごく嬉しいだろー!!"」
……書いてる最中も酔っていたのか、所々字が怪しい方向に行きかけ、赤いキスマークがメモの端を陣取ったこの"手紙"は、……こんなふざけた内容なのに何度も読み直した跡が残ってて、薄くなったキスマークと「愛してるぅー!」の文字が、ほんのりと胸に沁みる。
傍に置かれた小箱は与えた記憶の無い桐箱で、幾重の絹に包まれたそれは当然ピアスで、綺麗な輝きを今も保ち続けていた。
「…………」
イーシェはがさごそと鞄からポーチを引っ張り出し、お気に入りの口紅を濃く塗ってメモの空いた箇所に新しく口付けて、そっと仕舞うと桐箱の中に口紅を入れた。
―――ちょっとしたお詫びと、サプライズと、…少しのからかう心を込めて。
丁寧に箱を戻し、ぬいぐるみを戻し、トントンと階段を上がるイリスの足音を尻目に……イーシェは、
「お茶持って来―――」
「エロ本見つけたど―――!」
「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」
「タイトルは"金髪巨乳美人百選…"」
「らめええええええええ!!」
「……………いや、『らめええええええええ!!』じゃないよ、どういうこと?金髪って」
「だ、だってぇ…す、好きな人と似てる子なんて見れない…」
「ウチのお父さんと同じ言い訳してるんじゃないよ!」
「痛い!!」
「このっ、変態っド変態ッ!」
「痛っ、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ…!」
「私よりカップの大きい娘を見てニヤニヤしやがって!この、ケダモノめ!」
「あうっ、ご、ごごごめんなひゃ…う゛っ…い、痛いのはやめ…」
「その痛いのがイイんだろ、この変態豚野郎!」
「もう変態でも豚野郎でも良いからやめ…むっ」
「ん、」
一方的に虐めて、すっごく気まぐれなキスをしましたとさ。
*
最後のSM(笑)はお姉様なりの照れ隠し。