※雛祭り企画小説。
村長さんから借りた"キモノ"というもの…初めてで少々窮屈ですが、何と言うか、しゃんとします…。
「咲さん咲さん、出来ました!」
「ん―――おお、綺麗だな」
「本当ですか!」
「ああ、流石村長、良い物持ってんな…夜の美人ぶりが引き立ってるよ」
「えへへ…」
「桜の簪も似合ってる」
「くすぐったいです…」
簪をしゃりしゃりと弄り終わると、咲さんは私の手を取ってゆっくり歩いてくれます。
もう片方にはお酒が握られて―――ええ、今日はチェダーさんのお家で"ヒナマツリ"というものをするらしいのです。
それで物知りの村長さんに"ヒナマツリ"は何かと聞いたら"キモノ"を何故か貸してくれて…村長さん、たくさんの"キモノ"を持ってました…。
「おい、来てやったぞ」
そうこうしているうちに辿り着いたチェダーさんのお宅の扉を足で(両手が塞がってるからって咲さん…)叩くと、エプロン姿のスウィーツさんが慌てて開けてくれました。
「似合ってるな」と私に目を向けてくれたスウィーツさんに無理矢理お酒を押し付けて肩を押した咲さんは、ぐいっと私を引っ張って奥に……奥、に…。
「わぁ…!!綺麗…!」
七段程ある真っ赤な敷布の上に、お人形さんがいっぱい…!
顔をよく見るとちょっと怖いけど、…でも、とても綺麗…。
「……立派なモンだな」
「でしょー?実家が娘はテメー一人なんだから持ってけってさ」
「こう、何段もあると圧巻だよなー。人形の着物やら小道具一つとっても高級感がさ…イーシェの家って裕福なの?」
「いや?これは爺さんが知り合いに貸した金の、借金のカタっつーの?そういうので貰った奴の一つ」
「「………」」
「しゃっきんのかた?」
「………急に汚れたもんに見えて来たな…」
「……なんかね…」
「何よー」
杯があるのに銚子から直で酒を呷るチェダーさんは紅のキモノを…え、えーっと、破天荒に着てらっしゃっていて、乱れがちの銀髪は今日も美しく輝いています。
お酒のせいか頬を染めたチェダーさんは全員揃ったのを確認するとニヤッと笑って、胸元に差し込んでいた扇子で床をコツコツ叩くと、「まあ皆で楽しく騒ごうじゃないの」とスウィーツさんを見て―――スウィーツさんは飾られたお人形の一人のようにスススと近寄って、両手で持った、大きめの丸めた紙を床に敷きます。
そこにはマスにチェダーさんの文字が書き込まれていて、次に箱を持って来たスウィーツさんは全員の席に小さな飾られたお人形さんを一体ずつ配ると、サイコロを一つ、箱から転がして出しました。
「席に着きたまえ」
肘置きに寄っかって扇子を扇ぐチェダーさんの言葉に私が質の良い座布団に座ると、咲さんはとても嫌そうな顔をするも渋々座布団の上で胡坐をかきました。
スウィーツさんは一通りのおつまみとお酒、私の為にお菓子(お団子です!)も用意すると、白い…何でしょう、白い液体を渡してきました。
「夜だけ仲間外れにするのもあれだし…それに、雛祭りって言ったらコレだろ?」
「……?」
「夜、それは"甘酒"って言ってな…酒と言ってもそう酔わない…なんだ、子供向けの酒みたいなもんだ。身体にも良いから飲んどけ」
「はーい!」
「甘酒のおかわりはコレな。…はい、イーシェ、お酒」
「苦しゅうないぞ―!」
やっぱり飾られたお人形さんのように静かにチェダーさんにお酒を注ぐと、呆れ顔の咲さんにも注いで、自分用にも入れて、やっとスウィーツさんは席に着きました。
「―――…で、雛祭りって趣旨の筈だが?」
「貝合わせとかの方が良かった?」
「いや……何ですごろく…」
「作者がね、本当は正月企画に『皆ですごろく!』ネタをしたかったらしいんだよね」
「作者とか言うなよ、色んな物が終わるだろ」
言って、やってられないとばかりに酒を一気に呷った咲さんに私が銚子を持ち上げると、一瞬動きの止まった咲さんは「こういうのも良いよな…」と小さく呟いて杯を差し出しました。
私が出来るだけ静かにお酒を入れていると、チェダーさんは扇子をパチン!と閉じて、「じゃあ皆、今回はコレで遊ぶって事で良いかな?」と―――笛を吹いたお人形さんに聞かれていました…。大丈夫でしょうか…。
「……イーシェ、俺達こっちだから」
「分かってるぞー!」
「甘酒美味しいです」
「そうか…お前は一生甘酒を飲む女でいてくれな…」
「じゃんけんするぞ!」
「もう面倒臭いからお前から時計周りでいいだろ」
「じゃあそうするー」
イカの足をもしゃもしゃしながら、チェダーさんはコロコロとサイコロを転がします。
出た目は四。お姫様の人形を四つ移動させると、サイコロをスウィーツさんに渡して説明しました。
「今回の私お手製のすごろくは王様ゲーム的なノリのマスが幾らかあります。そのマスに止まった場合、その指示通りにすること!」
「い、痛い事とかも…?」
「痛いのは無いよー…肉体的なのは」
「え?」
「勝った人にはこの!めっちゃ高かったお酒と!高級菓子屋のセットと!着物一式をあげちゃいまーす♪」
「い、一式ですか…!?」
「どれも上等モンだけど、どうした?」
「お菓子はお父さんから!お酒と着物は借金のカタに爺さんg」
「始めるぞ!さっさとサイコロ転がせ菓子野郎!」
「ちょっとー、人の話遮んないでよー…この借金のカタはね、じ」
「あー!俺、六まで進んだ―!」
「次俺だな…」
「爺さんの知り合いが大事に大事にとっておい」
「五だったわ―――!…って、」
スウィーツさんと咲さんがわざと大声でゲームを進行していくと、咲さんの手番で「指示アリ」のマスに止まりました。
そのマスは……。
「右隣の人を、熱く抱擁……?……俺の、右隣は…」
「……………………………俺、です……」
「咲×菓子のカップリングが出来るぞー!」
「お、おー?」
「分かんないのにノるな夜!…こんな青臭ぇ男に抱きつくとかふざけんな!」
「俺だってお前みて―な病んでるのに抱きつかれたくねーよ!」
「第一俺には夜が―――なあ、夜!?」
「―――見て見てー、蜂蜜色から赤香のグラデーションに珊瑚朱色の花が綺麗に咲いてんのよ、見事なモンでしょー?」
「ええ、本当に…帯も綺麗で…」
「私着物嫌いだからさ―、夜ちゃん似合いそうだしって思ってね?引っ張り出して来たのよー」
「…頑張って優勝します!」
「おお!女の子だねぇ」
「…………」
「…え、咲?…え゛っ、嘘、やだ、ちょ、イヤぁぁぁぁぁやめてぇぇぇぇぇ!!」
私とチェダーさんがその悲鳴に振り向くと、咲さんが…すっごく、熱くスウィーツさんを抱き締めてました。骨の軋む音が聞こえるくらい、激しい抱擁でした…。
「――――夜、お前の番だ」
「は、はい……」
めそめそとチェダーさんに泣きつくスウィーツさんをチラチラ見つつ、私は恐る恐るサイコロを…………一ですか…(´・ω・`)
「…"恋人に愛の誓いを囁く"…?」
「よし!どんと来い!」
「咲ちゃん充電タイムキタ――――!」
自棄酒をやめて私の肩に両手を置いて待つ咲さんと、囃したてるチェダーさん。
私は真っ直ぐ見てくる咲さんの視線に恥ずかしくなって、両手を組んだり解いたりしながら、しどろもどろに囁いてみました…。
「わ、たし…咲さんと一緒に居ると、安心して、ぽかぽかしてきて、あの、あう…さ、咲さんだけっ咲さんしか愛せないので!せ、責任とって下さい(?)!」
「俺の嫁――――!!」
「きゃあぁぁぁぁ!?」
急にガバッと抱きついてそのまま押し倒してきた咲さんに悲鳴を上げたら、杯が咲さんの頭に投げられて―――咲さんはその衝撃で唇を噛んで血を流すと、……ややあってから離れていきました。
私も恐る恐る起き上がると、咲さんに不意打ちにキスされ……ああああ咲さんにまた杯が!!
「私のターン!…二!"左隣の人の服を一枚脱げ"…そいやー!」
「らめぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「………くっそ、血の味がする…」
「咲さん、こっちを向いて…舐めとってあげます」
「………………それって誘ってるってことだよ―――今度は何だ!?」
「次、スウィーツ終わったから咲ちゃんの番」
三回目の杯を交わすと、咲さんは大変不機嫌にチェダーさんからサイコロを奪い―――…あら、六ですね……ええと、
「"左隣の人に、自分の秘密を三つ喋ってもらう"…だと…」
「私ですね!」
「一番酷いの頼んだよー!」
「おいっ」
スウィーツさんにじゃぶじゃぶとお酒を注ぐチェダーさんに頷くと、私は両手を胸に、堅く握りしめて口を開きました。
「さ、咲さんは…!」
「「………咲さんは!?」」
「甘いニンジンさんが食べれません!」
…………。
一瞬の沈黙の後、二人は大いに笑ってくれました。
「ぷ―――!!あまっ、甘いニンジン嫌いだってぇ―――!」
「お、お前甘いの嫌いだもんな、アレは耐えられる甘みじゃなかったのか!」
「甘いwwwニンジンさんwwww咲wwwちゃんwwww」
「………ッ」
「二つ目は!…咲さんが夜中に帰って来て、お風呂から上がって居間に戻った時!私が暗がりの中から静かに顔を出したら『ふあっ!?』って可愛い声をあげてお酒を零してしまいました!」
「ふあっwwwwふあっwwwwwwwww」
「分かるわ、それは怖いもんなwwwwwふあっwwwwww」
「三つ目は!咲さんが怖がられるのは、主に背後に居る女の人のせいです!」
「女のwww………えっ?」
「……お、おんな…?」
「……おい、当事者の俺も初耳――――」
そう言って、咲さんが身を乗り出したら、
急に部屋の明かりが、フッと消えました…………。
*
後半を待て!