雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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旦那たちのとある一日

 

 

イーシェ・チェダーの朝は遅く始まる。

 

一緒に寝ていたイリスはイーシェが起きる前に家を掃除し、食事を作り、イーシェを起こすのに手を焼く。

 

食事なんてまったく作れない癖に味には煩いイーシェが「ごちそうさまでした」と言って煙管を吹かせる傍で、イリスはさっさと皿を洗い始め、イーシェが顔を洗ったり何だりと行動し始める頃には洗濯にとりかかる。

…ちなみに、ヤンデレの家ではてくてく働く兎の傍を旦那(ヤンデレ)が引っ付いて離れず、家事はまったく進んでいない。

 

 

イーシェが髪を梳かし終わって適当に(今日はゆるゆるの三つ編み)結ぶと、ソファに寝そべって嫁の働きぶりに感心してみる。偶に気が向けばセクハラもしてみる。

 

「かまってー」とじゃれて来たイーシェを適当に流して、イリスは気持ちの良い風に吹かれながら洗濯物を干し始めた。……つまり、イーシェは暇でしょうが無い。

 

 

退屈凌ぎに嫁に何も言わずに外に出たイーシェは、そのまま手ぶらで村を歩き、気が向いたので雑誌を二つ購入。一つは狩り関係の雑誌。もう一つは料理のレシピ本。…これは嫁用では無くて自分用である。

 

そのまま気の向くままに歩いていると、縁側で裁縫に耽る兎と膝枕をして貰いながら不貞寝をするヤンデレを見かけ、声をかけるのもアレだったのでスル―した。背後で優しくヤンデレの名前を呼ぶ兎の声にほのぼのしつつ、その後聞こえた兎の悲鳴とヤンデレのしたり声はスル―した。

 

 

家帰ったら嫁に膝枕して貰おうと考えるイーシェは、小さな女の子がぴゃーぴゃー喚いてやがるのに眉を寄せた。子供を放って親は何してんだと思いながら、女の子に声をかける姿は誰が見ても優しいお姉さんである。

 

―――泣き喚く子供曰く、母が身体を壊し、肉でも食べて精を付けて欲しくて父から渡されたお金を落としてしまって見つからず、父は家の為に働いていてもう家にはいないし、母にはこんなこと言えない。どうしようかと思ったら泣いてしまったとのこと。

 

イーシェはお金探すのなんて地味な事に集中力は続かないので、自分の金で解決するかと肉屋に寄った―――が、残念なことに、肉は二三件の家に(主に子供の祝いにと)大半持ってかれ、他のも売ってしまって無かった。

 

暇なイーシェは泣き出す女の子に「じゃあ狩ってくる」と言って家に帰らせると、庭掃除をするイリスに声もかけずにボウガン片手に出て行った。

……ちなみに手に在るのは大鬼ヶ島。引っこ抜きやすい所にあった為にこれを使う事にした。

 

 

そのまま村の外れの森の中に装備=私服の状態で入り、美味そうな鳥を探し始める。

 

途中で何故かのっしのしと歩いているフルフルにビビったが、フルフルは凍土目指しててくてく歩いているだけなので、まあいいかと捜索を再開する。

 

森の中ほどで石榴の木(兎が旦那に連れて行ってもらったという例の木だと思われる)を見つけ、何個か採ってみる。鉱石が覗く岩壁に弾を撃ちまくって採取し、ようやっと鳥を見つけて撃った。

だらしない彼女だが腕は良いので、当然一発で仕留めた。何匹か仕留めて帰る頃、兎とヤンデレがきゃっきゃと仲良さそうにイチャついてるのをスル―して赤い目の女の子に約束のブツとついでに石榴を渡すと、女の子は大きな声で「ありがとう!」と感謝した。照れた。

 

女の子はお詫びにとお酒(結局話を聞いたらしい母親からの)を一本貰い、「こりゃあ上等もんだぜ、げへへ」と内心思いつつ女の子の頭をもしゃもしゃ撫でて格好良く別れた。

 

 

大鬼ヶ島を背負い、片手に鳥肉(余った)片手に酒を持った、装備だけ聞くと豪快な猟師のようなイーシェが夕暮れに帰れば、怒り顔の嫁に「どっか行く時は伝えておきなさいって言ったでしょ!」と叱られた。

 

イーシェはごめんねーっと頬っぺたちゅーして嫁の動きを止めると、酒と鳥を嫁にプレゼントした。最後の締めに胸の谷間から鉱石を取り出すと、「臨時収入ね」と押し付けて家に上がる。

 

 

逞し過ぎる旦那の背に付いて行きながら嫁は「風呂沸いてるから」と一言。イーシェは大人しく従い、ぷはーと一番風呂に入る。その頃嫁は鳥を捌いて漬けたり何だりと慌ただしい。

 

同時刻に兎の旦那は兎な嫁が豚の生姜焼きを一生懸命作る姿を見ながら今月の家計簿を付けていた。

 

 

「上がったよー」

「んー…後少しで出来るから」

 

 

未だ勝手にそこらをうろついていたのを根に持っているのか、そっけない嫁の背後にこっそり立ってほとんど生にちかいお胸様を背中に付けて「怒ってる?」としょげて見たら怒られた。

しかしこっちを一切見ないで怒るのでイーシェはどこぞの親父のように嫁の尻を撫でてみる。

 

すると振り返って怒鳴った嫁は鼻血を出していて、「痴漢プレイが好きなの?」と首を傾げたらガチギレされた。「てめーのデカイ胸のせいだ馬鹿ぁ!」と言うだけ言って料理に戻った嫁にふてくされつつ髪を乾かす頃、兎の旦那は可愛い嫁の口元のご飯粒を舐めとっていた。

 

 

髪を乾かしたり何だりと忙しいイーシェを呼ぶ嫁の声に大人しく部屋から出てみれば、今日はチキンステーキだった。

「酒飲もうぜ!」と言う前に開けたイーシェに、俯いたイリスが淡々どころかネチネチ?いいやチクチクと今日の事を叱り始める。

 

 

・黙って何処か行くなら教えろ

・言ってくれたら付いてったのに

・投げてった雑誌(※料理)を見て不満があるのかと思った。他の雑誌(※狩り関連)も見て甲斐性がないと思われたんじゃないかと不安になった

・村中探し回ってもいないのにすごく不安だった。どこかで倒れたとか何か事件にあったんじゃないかと心配だった

・それなのに帰ってきたら……

・頬っぺたちゅーは気まぐれでするんじゃなくて毎日してください

・風呂に上がった後、ちゃんと服をしっかり着なさい。身体弱いんだから、そこんとこしっかりしなさい

・料理中にセクハラするんじゃない

 

 

 

………などなど。

最後に「無事に帰って来てくれてよかった」とぽつりと呟いた嫁の可愛らしさに、イーシェはきゅんときてイリスを抱きしめた。

 

おずおずと腕を回すイリスが可愛くて顔を胸に突っ込んでぱふぱふしたらイリスが血だらけになって倒れた。……結局、二人がまともに食事にありつけたのは冷めて肉が堅くなる頃である。

 

 

その後風呂から上がった嫁に膝枕をしてもらったり二人でジェ●ガで遊んだりして夜も更け、おやすみーと嫁の唇を奪って一緒に寝た。

 

銀髪に自分の焦げ茶の髪が紛れるのが、とても幸せだと思うイリスを婿に貰った彼女は、今日も明日も幸せな夢を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木花(コノハナ) (サク)の朝は大変早く始まる。

 

ぬくぬくと彼の腕の中で眠る嫁の姿を一時間、いや二時間黙って観賞するのが彼の朝なのだ。

 

 

やがて嫁が目覚めて、寝巻き(当然咲の大きなシャツだ)の片方の肩がずれて剥き出しになりながら、ふにゃりと「おはようございます」と挨拶をする嫁に萌え、双剣使いの忠犬を飼っているババアに入れ知恵された嫁がたどたどと自分の着替えを手伝う仕草に萌え、大っぴらなのに可愛らしく服を着替える姿に萌え、ブラのサイズが合ってないとか内心色々アレな事を思いつつ、イケメンwwwの面を下げて嫁の髪を整えてあげる。

 

そんな嫁は大変無垢、言い方を悪くすると無知で、どっぷり信頼してしまっている咲がアレな目で見ている事も知らずに、ちょっとだけ、普段よりはちょっとだけ肌の出る服に嬉しそうに袖を通す。

 

―――ワンピースにカーディガン、色も服装も全て咲の趣味。……ほんの少しの露出にムラ…じゃない、可愛らしいと思うのが彼である。ガンナーのババアのように肌を顕わにして喜ぶのはまだまだ青い駄犬ぐらいだ。少しの露出、そしてそんな服を裂くか汚してしまいたい衝動と戦うのが浪漫だ馬鹿が。……というのが、彼の持論である。

 

 

 

さて、今日は久々に遠出しようと(かなり珍しく)咲が提案したので、朝食は行きながら、である。

 

何人かと乗り合わせの馬車に乗り、二人で適当に選んだサンドウィッチをはむはむし、林を抜けるまで興味津々の嫁に萌え萌えしながら周囲の外敵(おとこ)を警戒して、二人は少しばかり大きな村に辿り着いた。

 

 

 

織物や調度品などが有名なこの村は、今日は祭り。

意外と穏やかに始めて穏やかに終える、珍しい村だからこそ、音に敏感な嫁を連れて来たのだった。

 

見た事ない物に美しい物。その全てが嫁の心を捕えたらしく、離れ離れになって不当に働かされて以来、他人に対しても敏感になった嫁は咲の手をぐいぐい引っ張っては花の蜜を吸う蝶のようにあっちへこっちへと忙しい。

 

織物に恐る恐る手を触れる嫁に萌え、硝子細工に目を輝かせる嫁にも萌え、彼は至福の時を過ごしていた―――の、だが。

 

 

小さな箱型のオルゴールに目を留め、気持ち良さそうにその音に聞き入る嫁が遠慮するのも無視して購入し、もじもじしながら「ありがとうございます」と見上げる嫁に萌え死した時、事件は起こった。

 

二人でイチャイチャしていたら、昔(つまり黒歴史時代の)咲が捨てた、身体だけの関係(咲としては)だった女と、(黒歴史最盛期の荒れ過ぎの)咲と派手に喧嘩して大変アレな事になってしまった男と、……出会ってしまった。

 

 

女は大事そうにオルゴールの包みを持ち、咲に小さな手を包まれている嫁に咲の最低過ぎる日々を暴露してみるも、元モンスターには難し過ぎる言葉が多すぎて「(´・ω・`)?」である。

咲が片腕で背に隠す時にはすでに、期待の反応をしない嫁にブチ切れた女が「そこの屑のどこが好きなのよ!」と怒鳴り、嫁はやっと理解できる話題になったと微笑んで、「咲さんの全部です」と大変朗らかに答えてしまった。

ちょっとニヤニヤしてしまった咲だが、余計に悪化した空気に嫁を一歩下がらせる。

 

女はぽかんとした後、真っ赤な顔で「騙されてんだよ!頭悪い女!」と怒鳴った。

流石に嫁を侮辱されてキレた旦那の手で女は腹パンの刑に遭い、運が良いのか悪いのか見えなかった(咲が嫁の帽子で視界を遮った)嫁は「騙されてません…」と律義に返事をしていた。

 

 

溜まりに溜まった、積年の恨みとやらを晴らしに殴りかかった男(女の罵声に飲まれて何も言えなかった)の、包帯の巻かれた真新しい傷を抉って大変アレな事をしている旦那が見えないままに、一生懸命自分の想いを言葉にしていた律義な嫁が「咲さんはとても優しい人ですっ」と言う現場は大変シュールである。

 

遠巻きに見ていた観衆の一人が「お嬢さん…帽子をとってご覧よ…」と現実を教え、嫁が帽子の存在に気付いて(夢中になるとそれだけになってしまうのは、やはり幼い故だろう)慌てて帽子を取ろうとしていたので、旦那は慌てて傷口を抉るように踏むのを止め、露わになった喉を攻撃して男を沈める。

そしてあまりの事態に吃驚の嫁の手を取り、見回りの男衆が駆けつけて来る前に逃げたのだった。

 

 

騒ぎが収まるまで路地裏に隠れた二人がイチャイチャ(嫁は叱ってる心算)してる頃、オトメンは不意打ちを仕掛けたモンスターから嫁を守り、嫁に「ありがとう」とキスされていたというのに……。咲は嫁に「暴力駄目!」と叱られている。

 

 

 

―――もうそろそろ良かろうと未だ怒りモードの嫁を連れて、咲は御機嫌を窺おうとして、嫁に薬屋に連れて行かれた。

 

暗かったのと怒っていて気付かなかったのだが、咲の指は攻防の末に浅く切れていた―――少し落ち着き、陽の下に出て発見した嫁は、何度目かの「もう喧嘩なんて駄目ですよ」と叱りつつも丁寧に薬を塗ってくれて、咲は萌えキュンした。

 

 

治療が終わると共に嫁はもう喧嘩の事は言いださずに、珍しい品物に目を奪われながら「帰りましょうか…?」と気を使う。

 

咲はかまわずに祭りの中に入り、露店で何か食おうと嫁に言ってみた……が、織物などの物品を扱う露店とは違って大声で(しかし他の村の祭りと違って小さい方だ)呼びかける店員に怯えて嫁の足は竦んでいる。

 

身を固くしたまま咲に引っつく嫁に、咲は優しく背中を擦った。

やがて呼吸の落ち着いた嫁の小さな注文に、二人はゆっくり露店の流れに従ったのである。

 

 

 

―――この村特有の料理に二人くっついて食べていると、山車が通りを騒がせる。

 

踊り子と歌い手に観衆が手を叩き、調子付いた誰かが踊り出す―――というのが、この祭りで最も祭りらしい所というか。救いなのはやっぱり曲が明るいが騒音ではない事だろう。

 

最初は驚いて咲の背に隠れた嫁も、次第にそろそろと顔を出し、恋人同士、夫婦同士で踊る騒ぎをじっと見る。

咲は性に合わなくて苦笑いするも、そわそわとした嫁の手を引いて踊りに誘ってみた。

 

 

白いワンピースがひらひら揺れて、昔買ってやった髪飾りがしゃりしゃり鳴る。黒髪は花の匂いを散らせて舞っている―――自分が、こうして恋人と祭りで踊るとは思ってもみなかったな、と咲は小さく笑った。

 

きゃっきゃと危ういステップを踏む嫁を支えながら、咲は昔の知人が見たら噴くかガクブルに震えだすだろう程の優しい笑顔で、嫁を抱きしめてみた。嫁は嬉しそうに笑い声をあげる。

 

 

その声にとても幸せを感じた。

 

 

 

 

 

 

嫁たちのおかげで旦那たちは今日も幸せ!

 

 

 






イリス君はイーシェ姐さんの嫁です(キリッ


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