雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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※若干のオトメン的艶やかさと青臭い表現があります。笑って…じゃなかった、ご注意ください。





下心のある男の子は好きですか?

 

俺がとりあえずバスケットの制作をしている隣、紫煙を燻らせるチェダーに「手を怪我したくないけど収入が欲しい」って相談したら、一緒に採集クエストに行ってくれると約束してくれた。

 

 

「どこに行こうか?」

「任せる」

 

 

……ちなみに、チェダーの煙管は身体に悪くない。煙草ではなく医者が調合した薬草と、リラックスするようにと幾らかの花が詰められている。

 

もちろんそれを吸ってる時、チェダーの体調は良くないという事なんだが―――その、ほのかに甘い香りが、好きでしょうがなかった。

 

 

「砂漠は嫌だなぁ…」

 

チェダーは煙管から口を離して苦笑い。

 

俺が見つめるのも気付かず、トントン、と煙管の雁首を叩き、黒檀の羅宇を綺麗な指先で撫でる様がとても―――…妖しく見えて、俺は赤くなった顔を慌てて逸らす。

 

 

「どうかした?」

「あっ……いや」

「顔真っ赤だぞー?」

「気のせいだ!」

 

 

くいっと顎を持ち上げて煙管を咥えるチェダーはいつもと比べて、……具合が良くないせいか、少し暗く…変な色気があった。

 

さらりと一房、銀髪を胸元に零して、アイツは意地悪く俺に煙を吹きかける。

 

「ちょっ」

 

俺が眉根を寄せてきつく目を閉じると、「可愛いなぁ」とからかう声と一緒にチェダーの細い指が俺の唇を突き、

 

 

「そんな可愛い子には―――お姉さんが、気持ちいいこと……教えてあげようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――俺は竜の卵をせっせと運び、アイツはその隣で俺が持参した(本当は違反行為なんだけど)サンドウィッチをむしゃむしゃしながら迫り来るモンスターを狙い撃ってた。

 

 

 

………ああそうさ。さっきまでのは夢だ。夢オチだ。

 

幸いにも自宅のベッドで幸せな夢を見て虚しくなりましたけど何か!?

 

あの後、紫煙をかけられた俺は、チェダーが喋り出すよりも前に、色気に負けてダッシュで逃亡したのが本当なんだ。煩悩を消そうと無理矢理寝て……寝なければよかったわ!

 

虚しくなって一生懸命サンドウィッチ作って、少しは気が晴れたけど―――チェダーからあの紫煙の香りがして……ああもう死にたいッ!!

 

 

 

当てつけみたいにチェダーによそよそしく、あんま見ないようにしてても……、

 

 

「こらこら、そっちは危ないよ。私の方においで?」

「………………うん」

 

 

優しくエスコートされて、ぽやぽやした気分でチェダーに引っ付いてる……。

 

もっと言うと―――眉間に一発、慌てることなく鮮やかに撃ち抜くその腕前と、不敵な笑みが格好良くて惚れ直してた……。

 

 

………チェダーは頬を染めた俺に気付かず、ライトボウガン片手に腕をぐーっと伸ばしていたけどな。

 

 

「―――スウィーツの卵サンドは美味しいね」

「えっ、あ……そりゃ、良かった」

「…疲れた?」

「ん…」

 

 

夢を忘れる為に朝から大掃除をして、チェダーの好きなサンドウィッチをたくさん拵えて、……この卵運搬も含め、すごく腰が痛いっていうか重いっていうか。

 

だけどチェダーに守ってもらっておいてダラダラと歩けないから、少し滑稽な小走りでボックスを目指してた。

 

 

「ちょっと顔色悪いもんねぇ。無理してサンドウィッチとか作らなくてもいいんだよ?」

「……別に。暇だったし……よ、喜んでくれるかなって…………サンドウィッチが」

「ちょwwwサンドウィッチに責任転嫁www―――可愛いなぁースウィーツは!」

 

 

愛い奴め、と俺の肩を抱き、頬を突っつくチェダーにそっぽ向く。

 

トマトとチーズのサンドウィッチを齧りながらニヤニヤしていたチェダーは、ふとそのサンドウィッチを、

 

「あーん」

「えっ」

 

もきゅ、と悪戯っ子の笑みで俺の口に入れた。

 

 

―――ああ、我ながら美味しい、と思ってすぐ、間接キスだって事に気付いた。真っ赤になって慌ててたら、卵が落下した……。

 

 

「ア――――ッ!?」

「あー……今此処で、一つの生命(いのち)の灯が消えたね……」

「せっかく此処まで運んだのに……!」

「泣かない泣かない。泣きたいのは落とされたこの()だからね?」

「さっきからお前の返し方重い!」

 

 

卵の残骸に上から土を被せるチェダーは俺の言葉なんかどこ吹く風で、手早く簡易の墓を作って野花を幾らか摘んで飾っていた。

 

「あとは……あっ、卵サンドでも供える?ラスト一個だけど」

「ブラック過ぎだろ!」

 

 

俺に突っ込まれても何処吹く風、まったく気ままなチェダーは十字を切るとそのまま先へ進んでしまう。

 

俺も野花を摘んで急いで十字を切って後を追いかけた―――採集に戻らないのか?

 

 

「おい、何でキャンプ……」

「少しは休もうよ。まだ時間はいっぱいあるしさー?」

 

 

ぶらんぶらんとボウガンを片手に、チェダーはそのままキャンプのベッドに着くとぼふっとダイブ。

 

遅れて来た俺に「スウィーツもこっちにおいで?」と言いながら寝っ転がったまま足装備に指を這わして脱ぎ捨てて―――ごくり、と唾を飲み込んだ。

 

棒立ちの俺に魅惑の足を曝しながら、チェダーは「腕も取っちゃおうかなー」と手を弄る。……真珠の足はゆっくりと組まれた。

 

 

(…………………帰りたい……ッ!!)

 

 

言っとくが俺は別に足フェチじゃない。そこに足があるから見てるんだ。他に露出されたらそこもガン見……いや、視線が行っちゃうからな!

 

………ていうか、チェダー、下手したらその、太腿の先が見えちゃ、

 

 

パァン

 

 

「…………」

 

 

俺の肩に急に発砲したチェダー。吃驚して固まる俺に近づいて「ごめんごめん、吃驚させちゃった?」と頭を撫でる。

 

 

「スウィーツの背後にブナハブラがいたからさ、危ないと思って……虫退治、したんだけど」

「…………………………そう、か」

 

 

俺はてっきりお前が俺の邪な視線に気づいて発砲したのかと思ったよ。俺という害虫(ブナハブラ)を殺そうとしたのかと思ったよ……。

 

 

おかげで一気にもやもやしてたのが去ったわ。代わりにガクブルだけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ネコタクが故障して、迎えに来れないらしい。

 

俺は思わず伝書鳩の首を絞めそうになった―――……おい、どうすんだよ、これ。

 

ベッドはあれしかないんだぞ!?寝る時はどう考えてもインナーだぞ!?あとチェダーは寝汚いんだ!抱き枕が凄い事になってるのを何度見たと思ってんの!?

 

 

(くっそ……ここは寝ずの番するって……いや、下手するとチェダーも一緒に起きちゃうかも……ああああああどうすんだよぉぉぉぉぉ!!!!)

 

 

誰か教えてくれ。もうこの際、咲のあんチクショウでもいいよ。お前よく夜と一緒にお泊りで狩りに行ってるだろ!その時どうやって対処……あ、別に変わりないのか、同じ家に住んでて一緒に寝てるんだっけ……よく寝れるな!?

 

 

「スウィーツー、水浴びしたいんだけど、いいかな?」

「はぇっ!?」

「え、早い?」

「あ、い、いいや!どうぞ!水浴びして来て下さい!」

 

 

星明りじゃあ心許無いだろうと火を分けようとしたら、アイツはライトボウガン片手に、

 

 

「悪いね―――じゃあ、着いて来てくれる?」

「は……!?」

「いやさ、最近モンスターの動きも活発だし……スウィーツが水浴びする頃には私が見張りするし」

「そ、そうじゃなくて、おまっ……は、裸、とか……!」

「ん?……ああ、ごめんねー、恥ずかしかったよね。大丈夫、お姉さん君の方は見ないようにするから」

「俺の心配じゃ無くて!!」

 

 

「じゃあ何?」とやんわり聞かれて、俺は黙った。意識してるのが俺だけって事が恥ずかしくて――――少し、悲しい。

 

やけくそに「じゃあ行こうか!」と先頭切って進めば、後ろでチェダーの笑う声がする。

 

 

――――その笑い声で、俺はからかわれたんだって、やっと気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェダーの肌から零れて水面に戻るあの音は、水晶が割れる音に似てる。

 

 

……ああ、はい。好き過ぎて美化して変なフィルターがかかってるんです。今ちょっと頭が熱過ぎておかしいんです。気にしないで下さい。

 

 

「――――♪―――…♪…」

 

 

上機嫌に鼻歌まじりのアイツは、月明かりに白い裸体を晒して、両手で濡れた髪を持ち上げてた。…………はい、そうです。本当にすいません、欲に負けました。チラッと見ました。

 

白い背中しか見えないから大丈夫だと思ったんです。腰のくびれとか身体に張り付く銀髪が綺麗だなとか、目が良い事を両親に感謝したくなったんです。

 

 

「……ねえ」

「はいっ」

「星、綺麗だねぇ…」

 

 

独り占めって感じ、と笑うチェダーは、……何だか妖精みたいだった。

 

やがて笑うのを止め、懐かしそうに月を仰ぎ見る様は―――星の河で汚れを落とし、月明かりに愛される乙女だった。

 

どこぞの処女神を彷彿させるほどに、厭らしさの無い、凛として其処に在る―――。

 

 

「…知ってる?ある女神様の入浴を覗き見てしまった男の人の話」

 

 

一瞬考えが読まれたか、それこそ神話の可哀想過ぎて泣ける男と同じことをしていたのを気付かれたのかと、俺はビビって返事が出来なかった。

 

 

「動物に変えられて、猟犬…だったかな、食い殺されちゃうんだっけ?」

「は……はい」

「怖いよねぇ。ただ女神様の裸を偶然見ただけでさ。森で入浴する方が悪いんだよ」

「はい……」

「女って、怖いんだよ。イリス」

「は―――は?」

 

 

説教来るかと震えていたら、「女って怖いんだよ」?…ていうか久し振りに名前呼んで貰えた!?

 

 

「ねえ、女の子って、目的の為ならどんな事だって、案外平気でやるものなんだよ」

 

 

君って純情だから、分かるかな?ちょっと心配。……と掌から水を零すチェダーの、その水が星明りに反射して、とても綺麗だった。

 

 

「……つまりね、君はもう少し警か――――」

 

 

少し説教するような声は、途中で遮られた。

 

 

ばしゃあん、と、チェダーが水の中に沈んで、俺は一瞬の間の後、装備を着けたままアイツを助けに潜った。

 

 

 

 

 

 

オトメンはマジでオトメンだった。





備考:

煙管⇒煙草を吸うチェダーさんカッコイイ!…けど、身体弱い設定…→煙管型のお薬にしちゃえ!煙草の葉の代わりに薬草とか花とか突っ込んじゃえ!もう半分ファンタジーだからオッケーさ☆

患者さんによるオサレな薬物摂取方法として人気なんだよ!もっと言うと、チェダーさんの煙管は高級品だよ!


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