雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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乙女な男の子は好きですか?

 

 

――――俺の中で、咲という人間がよく分からなくなった。

 

すれ違う時に会釈なんてしねーし、遠目から見ても(目つきが)怖いし、アイツの刃物は全部鋭く研がれてて怖いし、思い切って話しかけても「ふーん」だ。

 

 

……この前なんてお裾分けに行ったら「俺、洋物嫌いなんだよ」と言って扉を閉められたし。

 

ムカついてそのまま置いてったら空の重箱が送られて、中を見てみたら和菓子が。ちょっとは可愛いとこあんじゃねーかと思って添えられた手紙を読んだら、「美味しかったですニャ! アイルー一同」の文字。……可愛げ無さ過ぎだろ!?

 

偶に同じクエスト(まあ間にチェダーがいるんだけどね)を頼んだ時はアイツの太刀捌きスゲーとか、クエスト中のチェダーは凛々しいなとか、ガン見してたけど………。

 

 

今、俺の目の前で足を引き摺って蹲ってる男が、あの荒ぶるナルガみたいな男とは、思えない。

 

見つけた時は「こいつをこんなにするモンスターって何よ!?」とダッシュで逃亡しようかと思ったが、勇気を出して近づいた。一歩踏み出しただけで気付かれた。……アイツ、気配に敏感過ぎないか?

 

 

「どうしたんだよ」と聞けば、アイツはプイッと顔を背けた―――が、慌てて胸に手を当てる―――その腕の中に、白くてふわふわした子猫が鳴いていた。

 

子猫は今まで血だらけになっても気にせずモンスターを狩って剥ぎ取る男の指に甘噛みして、ゴロゴロと喉を鳴らして頬をスリスリしてて――――……俺、コイツは絶対動物に懐かれないと、思ってた……。

 

 

とりあえず此処で吹きだしたら殺されるし、俺は冷静にアイツに回復薬(消費期限切れだよ、ざまーみろ!)を差し出し、子猫に手拭いを渡して、温めてやった。

 

アイツは「ありがと」と初めて、初めて、俺に感謝の言葉を述べて、

 

 

 

 

 

 

 

自分の回復薬を取り出して飲みやがった。

 

 

「テメーの考えなんて読めてんだよ」と吐き捨てて、俺の回復薬を木の養分にしやがったアイツ―――でも、その時からだいぶ、ほんのちょっと仲が良くなった。

 

 

「咲ちゃんと仲良くなったんだね」

 

お姉さん安心したよ、と笑いながら、「咲ちゃん、モンスターに食べられる所だった子猫を救ってあんな怪我したんだよ」と後日、チェダーが重箱片手に教えてくれた。

 

……ちなみに、例の白猫は村長さんが欲しいと言って可愛がられてる。

日向ぼっこしている村長さんの隣で、あの白猫は丸まっている―――咲が通ると、嬉しそうに引っ付いてくるが。

 

 

俺は猫を撫でる、咲の少し和んだ口元を思い出し、重箱を受け取った。

中身は大福だった―――程良い甘みの大福を一個平らげ、(チェダーは「お腹いっぱいなの」と、お茶を飲んでいた)もう一個を頬張った、ら。

 

 

 

「う゛っえ゛ぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

――――あの野郎、大福の中に虫(の佃煮)を入れやがった!!

 

しかも何個かはちゃんとした大福という嫌がらせの極みだ。

……勿論知ってたチェダーは爆笑。俺は惚れた弱みで怒れなかった。元気いっぱいに笑うチェダーも可愛いな、って頭ぶっ飛んでる事を思ってた。

 

 

 

それから俺は、あの鬼畜野郎と悪戯っ子の先輩ハンターに虐められる日々を送ったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と咲の仲も、……まあ良くなり、チェダーの家にお泊まりも出来るようになった頃。

 

咲が、女の子を連れてきた。

 

 

「………|ω・`)」

 

 

咲の背に隠れる、華奢でどことなく儚げで、無邪気な感じの女の子―――俺は最初、咲が拉致してきたのかと思った。

 

……真実は咲に懐いたウルクスス亜種で、どういう訳か人間の少女になってしまったらしい―――頭ぶっ飛んでんじゃねーの、と思ったが、今まで被害に遭った人間の人数もその内容も、咲が知らない事まで知っていたから、まあ本当なんだろうと言う事になった。

 

「夜」という名前を貰った彼女は鬼畜野郎の咲に引き取られ―――ちゃんと世話出来んのかと思って、二人を観察してみたら、

 

 

 

「飼い主さん。この花は何ですか?」

「薔薇だ。素手で触るな。棘に刺さるぞ」

「(´・ω・`)」

「……欲しいか?」

「い…いいんです、か?」

「別に。何本欲しい?」

「一個……」

「一本だ」

「い、一本、欲しいです」

「よし、――――すいません、その白い方、十本」

「十本?」

「た…まには、家に花を飾るのも良いだろ」

「そうですね!」

 

 

 

あっ………甘ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

買い物帰りに何てモノを見てしまったんだ俺は。家で飾るとか言っておきながら金掛けてプレゼント用に包んでる咲なんて見たくなかったわ!

 

「とても、綺麗です…」

 

俺の目線の先、細い両の腕で薔薇の花束を受け取る夜は、とっても幸せそうだ。咲の武骨な掌で頭を撫でられて、とっても嬉しそうだ――――うわぁぁぁマジで甘ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

しかも最近アイツは狩りに行かなくなった。

毎日、一日に何件も受けてたのに……今では一般のハンターと同じくらいのクエストを受注してる。

 

あと夜から話を聞くに、「洋物嫌いなんだよ」とほざきやがったあんチクショウ、夜が来てから洋物を作って一緒に食べてるらしい。洋物嫌いはどこに行きやがった!?

 

 

……だが、甘いのはこれで終わらない。

ある日の午後、夜が遊びに来た時の事だ―――

 

 

「―――おやおや?夜ちゃん、その髪飾り……」

「飼い主さんが、頑張ったご褒美に、って」

 

 

青い硝子の花飾りを頭に、夜は嬉しそうに話す。

 

俺はもうアイツの甘さに慣れてたから、花飾りを嬉しそうに撫でる夜に「夜も女の子なんだなー」と思ってた。飾り物を欲しがるようになったんだな―って、微笑ましく思ってたさ。

 

 

「飼い主さんが選んでくれたのです」

「え゛っ」

 

 

……思わず声に出したのは俺だ。

チェダーはあの無愛想な咲が髪飾りを選ぶ様を想像して笑っている。俺は笑うどころか寒気がした……。

 

 

 

―――しかし、寒気は忘れた頃にまた戻ってくる。

 

今度は櫛を貰ったと、チェダーに髪を弄られてる夜が微笑んだ。

 

 

それは花が見事な意匠で、毎朝、咲に梳いてもらってるとか。狩りに出かけた咲を待ち続けながら、夜は「優しい」咲の事を話す。

 

聞いてると、櫛よりも梳いてもらう方が嬉しいようだが、……アレだ、夜フィルターで見る咲は、吐き気を越えてなんかもうアイツ幸せ者だな、って思った。

 

 

―――それと同時に、俺はチェダーに食い物以外に贈った事が無いなぁ、なんて気付いたワケだ。

 

咲を真似して装飾品を贈るにも―――チェダーはお洒落な方だから、下手なのを買えないし。毎日付けてはくれるだろうけど、洒落たアイツに浮いてしまうようなものは……。

 

 

うーん、と刺繍の手を止めていたら、不意にチェダーが頬を突いてきた。

 

綺麗な三つ編みの夜の頭を撫でながら、八重歯を見せて、無邪気に笑う。

 

 

「―――私も、スウィーツから何か欲しいな。……その、刺繍とか」

 

 

はい、了解です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェダーは俺の刺繍を見るのが好きだ。よく隣で寝っ転がっては覗きこんでくる。

 

いつだったか一回だけ「欲しい」と言ってくれて、ハンカチに繕ったけど…俺は結局恥ずかしくなって、失敗したと嘘を吐いた。

 

……少し寂しそうなチェダーに申し訳なくて、手作りのケーキを恐る恐る渡したのも覚えてる。

 

 

だからきっと、あの時「刺繍で」と言ったのは、夜が羨ましかったの半分、もう一度、俺に期待したかったのかも。

あの時そう付け加えてくれなかったら、俺はきっと咲の真似をして物を贈ってた。

 

 

(―――何にしようか…バスケット…いや、あんまりな…ブローチ……んー、あんまり見栄えがな…手鏡…あっ、いいかも…あっちが花なら、こっちは蝶の髪飾りでも作ってみるとか……)

 

 

今度こそは期待に応えたくて、食事もしないで考えた。

 

どれにしようか、どれが喜ぶか………まったく分からなかった。

 

頭が馬鹿になった俺が選択したのは――――…全部、だ。

 

 

名付けて数で攻めろ作戦。またの名を考えるの放棄しました作戦。

 

「喜んでくれると、いいな」

 

 

 

 

 

 

私の想像するスウィーツは、恋のおまじない(失笑)とかしてそう。

 


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