片思い中の男の子は好きですか?
親父みたいな格好良いハンターになりたくて、俺は生まれ育った街から遠く離れたユクモ村にやって来た。
兄貴も親父も俺を笑って見送ってくれたけど、お袋だけは泣き笑いだったなぁ…そんなに心配しなくても大丈夫だっつーの。末っ子だからってナメんなよ!
……………って、思ってた俺を殴りたい……!
のんびり寝こけてたらジン…ジンなんとかに襲われて、荷車から落っこちて、崖から転落。
運良く木の葉がクッションになって死なずに済んだけど、荷物はどっかに行っちゃうし…ボロボロの身体を引き摺ったら川が見えて、汚れを落とそうとしたら先客がいた。
それも―――光で美しく輝く銀髪にインナー姿、眩しい美脚を水に浸けた先客だ。
豊かなむ、胸に目が行く前に、俺は彼女の顔―――を見ようとして、白い項を見てた。思わず頭を近くの木に殴りつけた。
そしたら当然彼女は気付くわけで―――あちこちボロボロ、傷だらけで額から血をダラダラ出してる俺にライトボウガン片手に近づくと、胸の谷間を俺の目線に晒して、手入れの行き届いた指先で頬の泥を落としてくれた。
何かもうドキドキしてて色々ヤバイ俺に八重歯を見せて笑う彼女は、「どうしたのかな?」と優しく尋ねてくれた。
母性を感じる声に、俺が気を許した――――瞬間だ。
後ろから太刀(※鞘に入った状態)で頭を殴られ、二日間俺は目を覚ます事は無かった。
―――それもこれも、あの時呑気に寝てないで荷車にしっかり掴まってれば、起きなかったんだ。
*
目を覚ましてから俺は、村長さんに村の事を説明してもらって、これから住む事になる家の大掃除をして――――殴られた事とあの見目麗しいお姉さんの事を忘れていた。
―――寂しいから玄関先に花を植えていた俺の目の前に、例のナイスボディ過ぎて困るお姉さんが、やってくるまでは。
「やっほ。元気だったかな?」
「………」
あの綺麗な銀髪を高く緩く団子に、リンネルのシャツと薄い赤カーデを着ときながら胸を大胆に出してて、ショートパンツからガーターで留められた靴下との境が……うわぁぁぁぁ目のやり場に困る格好をしてる!殺しに来てるぅぅぅ!!
団子を留める黒いリボンを風に揺らして、花束一つを脇に抱えた彼女。八重歯を見せて笑う所といい、色っぽいのに男らしい何かを感じさせる人だった。
俺は軍手を外しながら、「お久しぶりです…」とちっさい声で返したけど―――むしろ「あの時はすいませんでした」と言うべきだったかも。あの後俺を運んでくれたのはこの人達なのだ。
「本当は咲ちゃんも来る予定だったんだけどね、あの子ったらどっかの狩りに行っちゃってさ。…はい、お見舞いとこの村に来てくれたお祝いに」
「あ――――ありがとうございます。…すいません、こっちから挨拶に行かなくて…それに……」
「それに?」
「あの……あなたの、……し、下着、姿を……あの…」
「んんー!真っ赤になっちゃって可愛い子だねー!」
格好良く花束を渡した彼女に肩を抱かれ、「あれ、これ普通は逆じゃね?」とか思いつつも「本当にすいませんでした…」と謝る。ていうか近づかないで下さい。む、胸が……!
「あんなの別に気にしてないよー!事故だよ事故!ていうか君、身体は大丈夫なの?お姉さんそれだけが心配だなー」
「あっお陰さまで…秘薬をくれてありがとうございます」
「あ、飲んだ?」
「はい、よく効きました…」
「へー……アレ作ったの咲ちゃんなんだけど、消費期限切れたからって君にあげたんだよね」
「嘘ぉぉぉ!?」
俺の叫びで花弁が何枚か散ってしまったがそれどころではない。
あの野郎、俺を殴るどころかゴミ捨て場扱い!?リンチにされるよりもある意味酷くない!?地味に嫌がらせしやがって、姑かお前は!!
お姉さんには悪いけど、そんな真実知りたくなかった。……ていうか、
「飲む前に止めて下さいよ!」
「死にはしないからいいかなって。乗り越えたら酒の肴になるじゃん」
「哂い者にする気かよ!?」
「大丈夫。ヤバそうだったら私が看病する予定だったし…一応、私お手製の解毒薬も置いてったしいいかなーって」
「よくな………よくねーよ!」
もう駄目だこの人。享楽主義者だ絶対。ていうか人格破綻者だ。素敵なお姉さんから駄目な人に転落したわ。敬語なんて使えねーわ……!
そう思って使うのをやめたんだけど、お姉さんは気にせず「うんうん、自然体が一番だ」と笑うだけだった。
「ま、詫びといっちゃあアレなんだけど。君がこの村に慣れるまでは私を頼ってくれていいよ。相談も絶賛受付中!」
「……もう一人の…」
「咲ちゃん?咲ちゃんはねー、人間嫌いだから近寄ったら刺されるかも。でもしつこく接すると構ってくれるよ」
「………太刀でぶすっ、の構うじゃないよな?」
「残念。グーだよ。私は女の子だからしてこないけど、君の場合は腹パンかも」
……何でこの村のハンターは人格破綻者しかいないんだ…!
村長さん曰く、この村の在住ハンターはこの二人だけ。あとは療養とか旅の途中のハンターだけらしい……この人しか頼れないのかよ!?
「よろしくね、"イリス・スウィーツ"君?」
しかも何で俺の名前……あ、村長から聞いたのか……。「イリス君って呼んでいい?」呼ばないで下さい恥ずかしいんですお願いぃぃぃぃぃ!!!
*
それから俺は、街とは勝手の違うこの村に困って、ホームシックになって、お姉さんの家に通った。
村の人間がアイツの事を「チェダー」(多分名字)って呼んでるから、俺もチェダーって呼んでた。特に何も言われなかった……ていうか普通、自分の名前を名乗るもんじゃねぇの?
そう聞くとチェダーは言い忘れてたって顔して「聞く?」と首を傾げるから―――何かイラッとして、聞いてない。……ちょっと後悔してる。
でもその代わりアイツも俺の事「イリス」じゃなくて「スウィーツ」って呼んでくれてるし、……まぁそんなもんかな、って片づけてる。
チェダーは気ままで所々駄目な人間だが、変な所で面倒見が良くて、からかうのが大好きな奴だけど、いっつも優しかった。
俺が寂しいからとか言わず、「暇だから」とそっぽ向いて言っても「よく来たねー」と八重歯を見せて、猫みたいに笑う。
この前なんて、アイツの弟の一番下が学者さんになったんだと笑ってた。仕送りも減るから、これからは貯金に多く回そうかなって酒片手に笑ってたけど、ちょっと寂しそう。
……こいつの猫達が賑やかでうるさいのも、寂しくないようになのかも、しれない。
毎日毎日チェダーの家に通いながら、俺は所々自分勝手に解釈してて――――そんなある日、「お前何人殺してきたの?」って聞きたくなるような覇気を出すあの野郎に出会った。
「スウィーツ、このナルガみたいな子が咲ちゃんだよ。私と同じ上級ハンターさん」
「……
「スウィーツですけど!」
「イリス・スウィーツ君だよ。名字で呼んであげてね」
「何で?」
「何でもいいだろ!」
「……何でこいつ、こんなに攻撃的なんだよ」
「うーん、咲ちゃんの後輩虐めが酷いからじゃないかな」
あっそ、とどうでもよさげなアイツ。それからも何度か会ったけど結局俺達の中は冷え込んだまま。
……日々からかっても振り回しても問題起こしててもチェダーには少し気を許してるし………付き合ってんの?
――――そう疑問に思って、ちょっと泣きそうになった時、俺は気付いてしまったんだ。
「俺、チェダーのこと、好きだった……?」
ていうか、現在進行形で片思い。
(……えっ、どこで好きになったんだ俺!?)
―――口に出してからはもう遅く、俺はベッドで足をバタバタしてた。
家でのんびりするたびにチェダーの事を考えてて、チェダーの家に遊びに行く時に身なりに30分くらい時間かけてるのに気付いた時には自分の乙女具合に死にたくなった。
だけどチェダーに服装とか気付いてもらえると恥ずかしくて嬉しい。家に入ると緊張するけど、アイツの気まぐれに振り回されてるうちにどうでもよくなる。
……しかも、チェダー曰く、咲の姑野郎は遊びに来た事は無いらしい。チェダーが遊びに行く事はあるらしいけど……俺より咲の方が顔も良いし、腕だって良いけど……!
その他の面では俺が優れてるし!チェダーの料理の腕前が幸いにも(?)壊滅的だったから、そこを狙って毎日お裾分けとか料理作りに行ってるし!気付いたら俺の生活の拠点がチェダーの家に移りそうな位にはなってるし!
咲に「通い妻かよ……」って冷めた目で見られた時はちょっと泣きそうだったけど、……別にいいだろ、好きな人を振り向かせる為には三つだったか四つの袋だったかを掴めって言うだろ!
「――――スウィーツ、君にピアスをあげよう」
「えっ」
「片耳でお互い点けてみない?」
「えっ!」
キタ―――――!
ほらな、胃袋掴んだら勝負は速攻でつくんだよ!俺は口元にやけながら両の手でピアスを受け取った―――
「いやね、二つ買うと安くなるからさー…でもこれ、シンプル過ぎてアレだなーって。これなら男の子でも付けてて恥ずかしくないでしょ?」
「……――――~~ッ」
………………それでも好きだ!!
*
惚れた弱みって奴ですよ、坊っちゃん。…の、巻。
追記:
執筆中BGM(というか個人的に彼のターンでは)は「S.w.e.e.t Ma.g.i.c」。乙女な歌詞が良いですよね!←
補足:
スウィーツの名前、「イリス」はギリシャ神話の虹の女神様から。
咲ちゃんは日本神話の
豊受は豊受大神からだし……男連中だけ神様、しかも女神様の名前というwww