お布団の中からおはようございます、飼い主さん。
私は放すものかと布団をしっかり握りながら、朝ご飯の香りがする飼い主さんに言いました。
……でも私の必死の抵抗虚しく、飼い主さんは容赦なく私から布団を奪うのです…そして首根っこを掴んで猫達の待つ厨房に連れていかれました。
私としてはまだ丸まっていたいのですけど、ご飯の匂いを嗅いだらやる気が起きました。飼い主さんの隣に座って、一緒に「いただきます」って言って、葉っぱが巻かれた分厚いのが数個浮かんでいるスープに手を付けます――――。
「む……っうぅぅぅ…!」
「おい、俺の隣で吐いたらお前もコレみたいに巻いてスープにすんぞ」
「…う、ぅそつき…」
「俺が一体なんの嘘をついたんだ」
酷い酷い酷い!葉っぱの中にお肉が入ってるだなんて酷い!
飼い主さんは朝から意地悪だ。残したらきっと怒って無理矢理口に入れさせるし、吐いたら無言で責めるだろうし。でも食べたくないし…。
「―――いいか、これはお前の為なんだ。ただでさえ棒みたいなのにお前…そのままだと血が作れなくなって倒れんぞ」
「………」
「これでも肉を少なめにしたんだ。葉っぱの裏に芋虫が付いてると思って食えば別に抵抗ないだろ」
「…あ、そっか」
「………否定しろよ…!」
飼い主さんは頭を抱えて「元は兎だしな…」とか「いや、でも女として芋虫が付いてる葉っぱを食っても平気、って考えは…」とかぶつぶつ言ってるのを見てたら、猫達がテーブルの下から「一気!一気!」と囃したてます…うーん。
「……もむっ」
「……!」
「む……う、ぅぅ…」
「…食いながら呻くなよ…」
「ん……い、芋虫食べましたっ」
「これは芋虫じゃねーよ!」
「む――――!」
二つの意味で突っ込まれました。
もうお腹いっぱいです…食べたくないです…でも飼い主さん怒ってるし…うっ
「よしっ飲み込んだな!?」
「…っ…ぅむぅ…」
「これで最後の一個だ。これが食えたらそこの新鮮野菜サラダ食っていいぞ」
「………あ――」
「ああん?」
「(´・ω・`)」
あーん、って。さっきみたいにして欲しかっただけなのに……ぐすん。
*
「……(´・ω・`)」
「―――おい、そんな顔してんな。採集クエスト行ってくるだけだろ。むしろ下級クエストにお前の敵はいないだろ」
「……(´・ω・`)」
「だからそんな顔……しょうがないだろっ俺は今日はどうしても付き合えないんだっ船に乗んないといけなくてだなっ」
「……(´・ω・`)」
「お前には向いてないクエストなんだ。ほらっ今日は弓の練習しに行くって約束したんだろ。遅刻は駄目だ、早く行きなさい」
「……」
「……」
「……(´;ω; `)」
「…あの…あれだ、変な人に付いてったら駄目だぞ…」
「……(´;ω; `)」
「………送りぐらいは行ってやるから。待ってろ」
黙って泣かれるのが苦手な飼い主さん。焦り過ぎて刀じゃなくて包丁を持ってるのですが……ちなみに待ってる間も泣いてました。だって飼い主さん、今日は夜遅くに帰ってくるのです…一人ぼっちです…。
「旦那さん、砥石忘れてるにゃー」
「あ、そうか…」
「旦那さん、それはただの石にゃー」
「……」
飼い主さん……エプロン外すの忘れてます…(´;ω; `)
【集会浴場】
「――――着いた、な」
「……(´・ω・`)」
「…そうだな、黒が採集頑張ったら美味しいもの作れるかもしれねぇな」
「本当ですか!?」
「………お前って、食欲が満たされればなんでもいいんだな…」
ほら、クエスト頼んでこい。と飼い主さんに受付まで連れて来られたのですが、にこにこ笑ってる受付嬢さんは最近来られた人間なので、慣れてなくて…結局、飼い主さんが受付を済ませてくれました。
――――飼い主さんは早く自立しろと言います。でもそういう割には甘かったり面倒を見てくれます。だけど意地悪で…複雑な人間です。
なんでも飼い主さん曰く、人間というのは面倒くさいモノなのだそうで、私は子供だから分かっていないだけなのだそうです。それはとても…外見年齢と精神年齢が釣り合ってない私には危ない(何故か知りませんが)事らしいので、私の人間関係には基本的に飼い主さんが間に入ってます。
なので向こうからやって来るお二人も、当然ながら飼い主さんのお友達ですよ。
「夜ちゃーん!お待たせー!」
「…?咲、お前なんでこんな早く…?」
「―――ふふふ、聞いちゃ駄目だよスウィーツ!咲ちゃんは心配性で小さい子大好きな人なんだからっ」
「チェダー…此処で刺身みたいに捌いてやってもいいんだぞ…?」
「やーん怖い!助けてスウィーツー!ロリコンが襲ってくるー!」
「このッ」
「あ゛ー!待った、ごめん、悪かったから、落ち着けって!こいつはこういう風にしかスキンシップとれないんだよ…」
二人の間にスウィーツさんが割って入ると、飼い主さんは怖い顔でチェダーさんを見た後、飼い主さんの背中に隠れていた私を引っ張り出しました。
「?」
「いいか黒、絶対にこのアマの言う事する事は真似するなッ弓の使い方だけ学んで来い!」
「あ――――」
言うだけ言うと、飼い主さんは背を向けて何処かに行ってしまいます。
そうすると私は急に心許無くなって、慌てて飼い主さんの装備の端っこを掴みました。
「ま、待って下さい。見送ってくれないのですか…?」
「……俺は送りだけって言ったろ」
「あっ…か、飼い主さん…」
「飼い主さんはやめろって――――!」
「……(´;ω; `)」
「泣くなよ!?」
「……(´;ω; `)」
すると後ろから女の子泣かしたー!という声が聞こえ、周辺の人は泣いてる私を見てヒソヒソ囁き合ってます。
飼い主さんはごしごし大きな手で涙を拭うと、強く私を引っ張ってお二人の元に連れて行ってくれました。
飼い主さんがチェダーさんと無言で見つめ合っている間にスウィーツさんが手続きを全て終わらせてくれたので、……ついに飼い主さんとのお別れが…(´;ω; `)
「いいか、二人に迷惑かけんじゃねーぞ。転んで怪我したら、回復薬飲んですぐに傷口を綺麗な水で洗って大人しくするんだ」
「水が無かったら?」
「回復薬でもかけてろ」
「……飼い…―――咲さんも、お気をつけて」
「ああ、…大丈夫だ、別に一人で行くわけじゃないしな」
「………」
お気をつけてと言っておきながら飼い主さんの装備を離せないでいる私の肩に、飼い主さんの大きな手が乗せられました。
「俺のいない間、留守を頼むぞ」
「………」
「…まあ、そんなに家を開けないけどな。夕方から夜までの間、俺の代わりに頑張れよ」
私は声に出せない代わりに静かに頷いて、そろそろと飼い主さんの装備から手を離します。
すると飼い主さんは「ショボくれてんじゃねーぞ!」と背中を一回叩くと、未練がましく何度も振り返りながらクエストに向かう私を、ずっと見送ってくれました。
*
――――チェダーさんは銀の髪が美しい、上級ハンターさんです。
遠距離の武器しか使えないそうですが、凄い実力の方で飼い主さんも舌打ちしながら認める程の腕前なのです。
装備もとても綺麗な虫さん装備。スウィーツさんとお揃いで、頭の装備も一緒が良いからとカチューシャではなく帽子。紫の色がとてもお似合いなのですよ。
スウィーツさんは濃い茶の髪で、青の瞳。三人の中で一番遅く上級ハンターさんになられたそうです。
何だかんだで押しに弱いとか騙されやすいとかお二人(飼い主さんとチェダーさん)から聞いています。それと会う度にお菓子をくれたりするので、私は大好きなのです。
「――――はーい、もっと弦を引っ張ってー…もうちょい、もうちょっと頑張ってー…はい、パーン!」
「…あっ」
お二人は飼い主さんの狩り友で親友(飼い主さんは否定していましたが)のよしみで、主にハンマーを振り回すぐらいにしか能の無い私に根気良く付き合ってくれます。
チェダーさんは普段は子供のように無邪気な人ですが、今のようにご教授くださる時は飼い主さんと似たような雰囲気になります。―――私に食事の仕方を教えてくれた時のような…ですかね。
ですが折角チェダーさんが手を添えて下さった私の矢は、何故か途中で落っこちて跳ねて転がります……。
「うーん、最後力が抜けちゃったからかな」
「……はい」
「夜ちゃん力持ちだもんねー、下手に力入れちゃうと矢がボキン、だし」
「私に…弓は向いてないんでしょうか…」
「んん、まだ分からないよ?力の加減が分かればいい訳だし…狙いはそんなに悪くなかったと思うんだよねぇ」
私が転がった矢を拾い上げてもう一度構えてさっきよりは強めの力で射ると、今度は木に刺さったものの――――ポテ、と矢が抜け落ちました。
「……(´・ω・`)」
「うーん、これはこれで才能があるというか―――」
そう言って引き抜くと、チェダーさんは自分の弓をぱちりと取り出して矢を引っ張ります。
目は細められていて、形の良い唇はにやりと歪んでいて、渇いたのか舌で湿らせた瞬間―――鳥さんのお尻に射ました。
吃驚した鳥さんが産んだ大きな卵。凄い凄いと跳ねる私に「でしょっ?」と笑いかけると、弓を仕舞い込んで卵を拾い上げました。
「じゃ、ボックスの所までの護衛、よろしくね?」
「私…が、頑張ります!」
「よしよし、やる気があるのは良い事だぞー」
まあそう意気込んでも、此処は比較的穏やかな子ばかりだから、下手な事しなければいいだけなんですよね…。
一応片手にしっかりと握っている弓をパタンパタン弄りながら、鼻歌交じりに隣を歩くチェダーさんとおしゃべりしてもいいでしょうか…。
「あの、チェダーさん」
「ん?」
「飼い主さんは…今日は何のクエストに行かれるのですか…?」
飼い主さんはたくさんの人の前では咲と呼べと言いますが、チェダーさんとスウィーツさん、村長様の前ではそう呼んでも怒られません。いや、嫌そうな顔はするんですがね。
何でも、飼い主さんが「もしも」の時の為の保険だと、私の正体を信頼できる方にだけ教えていたのです。その「もしも」は何かと聞くと、飼い主さんは答えてくれないのですが。
「あー、確か砂漠だったかな。何か珍しいのが来てるから、船で追って仕留めるんだよ」
「砂漠で舟…ですか?」
「そ。…実は私、熱いのが苦手でさーそのモンスター倒した事ないんだよね」
「私も砂漠は嫌いです」
「まったくだよ。クーラー十本飲んでてもフラフラだね」
「それはドリンクのせいじゃ?」
「スウィーツもそう言ってきてね、『いいや、君のせいだよ』って耳元で囁いたら顔真っ赤にして石に躓いてやんのー!もっと弄ってやろうと思ったらボスが来ちゃったんだけどさ、スウィーツは使い物になんないし、結局私が仕留めたわけ」
「チェダーさんはいじめっ子?」
「愛のあるいじめっ子だよ!」
夜ちゃんも咲ちゃんにやってみなよ、きっと反応に困って何やらかすか見物だから!―――と大変イイ笑顔で勧められたので、いつかやってみたいと思います。「面白そうです」と私が笑うと、チェダーさんは懐かしむような顔で私をまじまじと見ました。
「どうしました?」
「んん、いやね、故郷の妹に似てるなぁと思って」
「妹さんも髪が黒いのですか?」
「私と同じだよ。そうじゃなくてな―――うん、子供みたいに笑う所が似てるんだろうね」
「子供…」
「そ。見ててこっちがふわふわしてくる感じ。…いいなー、こんな子と寝食共にしてたら幸せだわー、癒されるわー。……あのロリコンが羨ましい…」
「ずっと思ってたのですが…その『ロリコン』って何ですか?」
「ロリコンはねー、小さい女の子が大好きな変態の事だよ。夜ちゃんは外見は18ぐらいに見えても、中はまだまだ小さな子だからね、あの変態はそのギャップに――――ひゃっ」
がしゃん、とチェダーさんが両腕に抱いていた卵を落としそうになって必死に抱き直し、私が急いで振り向いて弓を構えた先には、襲ってきた青い熊さんを追い払っていたスウィーツさんが濡れた手でチェダーさんにデコピンしていました。
どうやら言葉を遮ろうと後ろから近寄って首筋に冷えた手を当てたようです。
「お前な、夜に変な事を教えてんじゃないの」
「教えてないですぅー、聞かれたから答えたんですぅー」
「お前が聞くように仕向けたんだよね!」
夜も今のは忘れとけよ、と肩に蜂蜜がまだ少しこびり付いているスウィーツさんに頷こうとしたら、チェダーさんが「スwwウィーwwツの、肩ww蜂蜜www」と笑った事に怒ってしまってそれどころでは無くなりました。
「何?蜂蜜でも投げられちゃったの?上級wwハンターなのにwww」
「う、うううるさい!ペイントボールが急カーブして当たらなくて…もたついてたら蜂蜜が」
「ペイントボールは急カーブする機能が付いてるんですか?」
「急カーブする機能wwとかwwスウィーツのペイントボールって最先端ww」
「うっさいよ!」
ひとしきり笑った後、急いで卵を置いて青い熊さんを皆で倒しに行く事にしました。
これも練習だと、私が射るのを二人が見守りつつサポート、って感じでしたが。
何故か戦闘場所はペイントボールがたくさん転がっているし、あっちこちに中身が飛び散っていてるし…、チェダーさんがお腹を抱えて笑ったのには熊さんも吃驚していました。
*
育児もこなすハンターさん+世間知らずな兎ちゃん+いじめっ子ハンターさん+出番の少ない格好のつかないハンターさん
オマケ(キャラクター紹介)
*チェダーさん
私がプレイした時のキャラクター名です。「チェダー先輩」って登録してました(笑)可愛い装備しか着せませんよ!
ユクモ村の中では射撃の腕前はピカイチ設定。だって基本的に今回出てきた人しかいないからね!他のハンターさんは旅の途中寄って来た人とか療養してリハビリ目的でとかで、四人以外誰も集会浴場に来ない時があるというマイ設定です。
ガンナーでもバリバリ前線に出てきたり何だりとアクロバティックな射撃をする子ですが、狙いは常に良いという…。いじめっ子ではありますが弟妹の面倒をみてきたせいか年下の面倒をみるのが好き。自分の面倒もみて欲しいけどね!
何だかんだで良い子だから、咲はからかわれても信頼しちゃうのでしょう。
*スウィーツ君
私がプレイし(ry
装備はチェダーと同じ虫装備。シルクハット被ってますが何か?
双剣ハンターで、好きな武器は狩団子。だってスウィーツだからね。猫達の名前もスウィーツな感じ。チェダーさんはチーズ関係の名前とか付けてる。
ちなみにチェダーさんとの出会いは鼻血ものの出会いだった。
最初はチェダーさんが一応年上で先輩だから敬語を使ってたけど、色々酷過ぎて敬えなくなって素で接してる。でもちょっかいかけてくれるチェダーさんに懐いていて、何かとチェダーさん家に遊びに行ってる。村の人間からはさっさとくっつけよリア充とか思われてる。
*二人共名字を名乗ってて、お互いはお互いの名前を知ってる。
咲君も知ってるけど、スウィーツ君が自分の名前が可愛過ぎて死ねる位名前を呼ばれるのが嫌なのを知ってるので呼ばない。チェダーさんはどうでもいい時に呼んだりする。最近はチェダーさんに呼ばれても恥ずかしがらなくなってきて、咲君にさっさとくっつけよリア(ry)と思われてる。
チェダーさんは何となく言わないだけ。聞かれたら多分名乗る感じ。
ただ性格に合わない綺麗過ぎる名前なので咲君が呼びたくないだけ。周りはそんな咲君のせいでスウィーツ君と同じく自分の名前嫌いなのかなって思って名字呼びしてる。
咲君曰く、チェダーさんの親以上にチェダーさんはネーミングセンスが無い。