雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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14.お馬鹿さんではないのです

 

 

『(´,,・ω・,,`)』

『何だか見てるこっちまで幸せをお裾分けできそうだわぁん』

『フルフルさん―――飼い主さん、いつごろ来てくれるのでしょうか…』

『ん~、まだ日が昇ったばかりだから、まだまだだと思うわネ』

『………そう、ですか…』

『あっで、でも、もしかしたら早く来るかも!来ちゃうかも!』

『(´,,・ω・,,`)』

 

 

 

―――朝日を眺めながらおはようございます、真っ黒兎です。

 

飼い主さんが来るまで暇なので、私はキラキラ綺麗に輝く雪を踏みしめ、起き出したフルフルさんの周りで跳ねたりゴロゴロしたり、逆にフルフルさんにゴロゴロされたりしながら飼い主さんを待っていました。

 

『ころころころーん☆』

『きゃーっ』

『ころーん』

『てやー』

『そいやー』

 

ぺいっとフルフルさんに転がされた私は、ころんころんと丸太のように転がって……そのまま崖から落ちてしまう所を、フルフルさんが素早くキャッチしてそのまま飛び上がってくれました。

 

キラキラと雪が眩しい山の下、人間の村は小さくて見え辛かったのですが―――何だか世界が玩具のようで、私はとてもはしゃいでいて。

 

上機嫌なフルフルさんと小さなモンスターの群れを上から眺めて、私は高ぶった感情のせいかぴょんぴょんと跳ねる耳をそのままに、この興奮をフルフルさんに伝えました。

 

 

『全部が小さくて可愛らしくて…綺麗です!飛ぶのって楽しいんですね!』

『まぁね、気晴らしにはちょうどいいわよん♪』

『私もフルフルさんみたいに自由に飛べる羽が欲しいです…』

『フフ、やめときなさい。男は自由な女は嫌いよ』

『……?でも、スウィーツさんはチェダーさんと仲が良いです…』

『んー、それは振り回されたいドM男なんじゃないかしら。もしくは惚れた弱みで何も言えないとか』

『ほー?』

『あぁん!その分かってない顔、可愛いっ』

『ひゃっ、落ちてます落ちてますっ』

『駆け落ちも良いものよー!』

 

 

ヒャッハー!と落ちたり舞い上がったりと遊び始めたフルフルさん。私は楽しいの半分、怖いの半分で、思わず身体の毛がぶわっと膨れて丸まりました。

 

私の耳が風圧であっちこっちに揺れるのにちょっと泣きそうになっていたら、フルフルさんは少し声を落として『寂しくなるわね…』と続けます。

 

 

『……私も、寂しいです。人間に戻ったら―――戻る事が、出来たら、…もう、フルフルさんと、おしゃべり出来ないし…』

『ええ。折角、女の子トーク出来る子見つけたのに…あーあ、オネェさん寂しくて死んじゃうー!』

『ふあぁぁぁぁ落ちてますぅぅぅぅ!!』

『私も恋がしたぁい!人間になっちゃおうかなー☆』

『急カーブは耳にキツイですぅぅぅぅ!!』

『可愛いおんにゃのこになって、たくさんの男をメロメロにしちゃ―――』

 

 

 

――――その時の音を、私は言い現す事が出来ません。

 

 

とにかく耳が壊れてしまいそうな破裂音としか…一瞬で目の前が青白い光に包まれて……ぶるぶると震えながら辺りを見渡すと、フルフルさんが『上よ』と教えてくれました。

 

フルフルさんは無言で力強く舞い上がると、凛としていて綺麗で…神様のような、澄んだ獣と顔を会わせました。

 

ちょっと円らな瞳がとても可愛らしくて、私はさっきの雷で縮こまった身体を伸ばし、フルフルさんを見上げてあの可憐な子に手を向けます。

 

『とても綺麗な子ですね、フルフル…さ…ん…?』

 

 

私はのほほんと、この子とも仲良くなれると思って、きゃっきゃと勝手にはしゃいでいました。

 

……あ、私達獣にとっては攻撃(今回のように落雷や、私だと雪玉をぶつけたりとか…)は気を引く為の挨拶(加減によっては威嚇ですが)みたいなものなので、……見た目の華奢さもあって、私はてっきり遊びに誘われたのかと、そう思っていたのです。

 

 

 

――――フルフルさんの口から、飼い主さんのように低い、鋭い声が出されるまで。

 

 

『飛んでる時に何してくれとんじゃワレぇぇぇ!?じゃじゃ馬もいい加減にしねぇと馬刺しにして崖から捨てんぞ、ああん!?』

『ふ、フルフルさん…?』

『うるさいわね、このドブスッ妾の山で汚物と一緒に飛んで視界を汚したんだから殺されてもおかしくないと思いなさい!』

『誰が汚物で汚したのよォ!?こっちはテメーのせいで気分が悪いんだよ害獣が!』

『妾が害獣!?ふざけないで!妾は天に愛された神獣なんだから!貴方みたいな成り損ないとは違うのよ!!』

『人間に狩られるような獣が神獣なワケないでしょー?自惚れ過ぎwww乙wwww』

『半端モノに言われたくない!!』

 

『((( ;゜Д゜)))』

 

 

お、お二人(匹?)とも、仲が悪いのでしょうか……いえ、仲が悪いんですね、お互いバチバチ本当に雷出してますもの。

 

……あ、あの、お二人は雷の獣だから喰らっても平気でしょうけど、私は耐性が無いのです。お二人の雷なんか喰らったら死んじゃうのです……!

 

 

命の危機を感じた私は、中々離れないフルフルさんの手足から逃れて、ずるり、と。

 

 

『ふあぁぁぁぁぁぁ飼い主さぁぁぁん!!』

『―――夜チャン!?待ってなさ―――』

 

 

 

思ってたよりも怖い落下の途中、フルフルさんの声はぷつりと聞こえなくなりました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、夜ちゃんのこと、好きなの?」

 

 

登山用の荷造りをしている咲の背中に、豊受は握り飯を片手にどうでもいい風を装って、尋ねた。

 

「……急にどうした?」

「いやね、船の時からずーっと思ってたのよ。女には異様に距離置くお前が、男には距離置くどころか失せろなお前がよ?せっせと女の子の世話焼いちゃってさ―、」

「…俺だって、人の情ぐらいはあるぞ。あんな世間知らずを外に放っておけるか」

「――じゃ、最近人当たりが良くなったのは?」

「………」

「お前が送って来た手紙、何十回『夜』って名前が出たろうなー?幾らの金を積んだんだっけ?」

「………はあ、俺はあんまこういう話を他人に言いたくないんだ」

「ウブだな」

「殺すぞ」

「ごめん…」

 

 

剥ぎ取り用ナイフがあまりにも鋭く光るものだから、豊受は泣きそうなのを堪える……震えてしまったけれど。

 

対する咲は鼻を鳴らしてナイフを仕舞うと、限界までホットドリンクを詰めながら口を開いた。

 

 

「お前が聞きたい言葉は、悪いが誰にも言う心算は無い」

「誰にも?」

「…俺は、なんだろう、何て言えばいいのか―――そういう言葉って、本命じゃない誰かに言うと、……安く感じないか?」

「……ごめんね、安い愛で…」

「お前は『好き』は連呼しても『愛してる』は恥ずかしがって途中で死んでるって婚約者から聞いたぞ」

「聞かないでよ!」

「向こうから勝手に惚気られたんだぞ」

「ごめん…」

 

 

ちょっとニヤッと笑いながらの謝罪に眉を寄せながら、咲は林檎を一個、鞄に詰める。

 

 

「―――誰かに、噂話でもするみたいに、淀んだ所で吐かれた愛の言葉って、言えば言うほど安く見える。

そのふざけた口で言う『愛』に、重みなんてあるのか?その言葉の信頼性がどんどん――それこそメッキが剥がれるように崩れているようにしか見えない。……『愛』の言葉だけは、もっと神聖なものとして扱われるべきだ」

「お、おお…?」

「酒場やら夜の街を見てみろ。娼婦とふざけて遊ぶ奴、婚約や結婚までしてるのに女に手を出して相手を裏切る奴。みんなドロドロしてて汚い―――それで生計を立ててる人間もいるから、彼らを指差して非難はしないがな」

 

 

砥石を適当に突っ込むその手を、不意に止めて。

 

咲は、光りで目を細める豊受に振り返った。

 

 

「俺はああはなりたくない。大事に大事に、その言葉の価値が高いままで、夜にその言葉を贈りたいし、受け取ってもらいたい。……それで、俺の気持ちは伝わっただろう?」

「………咲…」

「……」

「………咲……、お前って、詩人だふぁぶべっ」

 

 

咲は最後の最後まで握り飯片手に茶化した豊受の腹を思いっきり蹴ると、荷物を担いで(横腹を軽く蹴ってから)豊受を跨いで部屋を出た。

 

「む゛、無茶ずんなよ゛…げほ、したらお仕置きだかんなー!」

「この歳になって無茶するかよ―――…てめーは黙って床に零した飯でも食ってろ」

「酷いっ」

 

 

 

イラッとしたが、豊受が反応に困る(というか難しくて理解出来ない)事や恥ずかしがる時は茶化す性格は、昔からよくよく知っていたのですぐに気にならなくなった。

すでに思考は、これからの事や夜の事だけだ。

 

 

咲は幼馴染を部屋にさっさと宿から出ると、足早に夜のいる雪山に向かった―――まだ早いせいか、特に咎める者はいない。

 

 

(……あいつ、誰かに虐められたりとか………ていうか、デカイくせに情けない顔を下げてるから虐められるんだぞ、まったく…)

 

 

あの後、部屋に戻ってからずっと、夜が虐められてないか、寒さで震えてないかと心配だった。チラチラと窓に目をやり、寂しげな獣の鳴き声がしないか、ずっと耳を澄ましていた。

 

あんな雪山じゃあまともな食事も出来ないだろうから、足りないだろうが夜の好きな林檎に栄養剤、…必要な物を考えているうちに眠りに落ち、背に担いだ革袋に色々と詰め込んだ。

 

 

(しばらくはこれで―――あの花について調べが済むまで、とりあえずたくさんの栄養剤といくらかの食べ物を与えよう。さっさと調べを終えたら、夜がたくさん食べれて安心して眠れる場所に連れてって…)

 

 

―――ざくざくと雪を割って山の上を目指しながら、咲は今後の拠点についてぼんやりとだが見通しをつける。

 

……実はこの道、本来なら登ってはいけない道だ。早くは着けるがモンスターとの遭遇率が高い、危険な道である。

 

……何度も嫌になったハンター業だが、今回だけはハンターであって良かったと思う。

 

荒稼ぎすれば、夜に不便な生活を強いる事もないし、その特権で夜に出会えるのだか、ら―――?

 

 

(…なんだ、急に雲……っ!?)

 

 

びゅおおおおおっと上から落ちてきたのは、真っ黒な塊。

 

どすんと落ちて、びくびくと震えている兎に、咲は悲鳴のようにその名を呼んだ。

呼んで―――耳がピンと立ってぴこぴこと動き、尻尾がぽふぽふ動き始め―――咲はやっと息を吐けた。

 

 

「夜、お前なんつー所から落ちてくるんだ…」

「(´・ω・`)」

「虐められたのか?どいつにやられた?」

「(´・ω・`)」

「……あ、そうだった、俺の言葉は通じないのか…」

 

 

けれど辺りに手頃な棒は無い。

 

腕で書くにも、この堅くなった雪にそれは無理と言うか…しょうがない、とりあえず労わりの気持ちも込めてとふさふさの毛を撫でた。

 

目を伏せて気持ちよさげな夜を思う存分もふもふした後、咲は荷物から林檎を何個も取り出す。

夜は嬉しそうに鼻をひつかせて、林檎を手渡して栄養剤をかける咲の腰に頭をすりつけ―――まるで猫のようだ、と咲が笑って林檎を与えると、夜はぺろりと飲み込んだ。

 

 

何度も何度も飲み込み、咲がまた林檎を手渡そうとしたら、伸ばした腕をやんわりと退かされた。

 

咲が「どうした?」と声をかけると、夜は咲の隣で丸くなる。

寒風を塞いでくれた夜は撫でてーと咲にすり寄って、もう林檎はどうでもよさそうだ。

 

 

「お前って案外気ままだよな…」

「(´,,・ω・,,`)」

「昨日は誰にも虐められなかったか?どこで一夜を過ごし……あー、棒があればな…」

「(´;ω; `)」

「……分かったよ、何処にも行かないから泣くな。装備を引っ張るな」

「(´;ω; `)」

「い、いや、別に怒ってるわけじゃ…あー…くそ、ちょっとの間でいいから…」

「(´;ω; `)」

「泣くなって―――、そうだ!夜、お前に見せたい物がある」

 

 

困り果てた彼が例の妖しい、不思議な種を袋から取り出し、きょとんとした夜によく見えるように、腕を差し出した。

 

 

「真夜中にな、お前が言ってた…なんだ、『凄い人』?っていうのに会ってな…そいつから貰った種だ」

「(´・ω・`)」

「雷の竜と人間の悲恋の末に出来た子供だってよ。一体どういう流れでこんな種になるんだろうな。オチが分からん」

「(´・ω・`)?」

「………うん、お前も分かってないな…いや、分かってるけどな、これはただの自己満足だ」

「(´・ω・`)!」

「…夜、俺はどんな危険な場所でも、お前が人間になれるように、この種を植えに行く。時間はかかるかもしれないが、俺を信じt」

「もっふ」

「」

 

 

――――ちなみに、打ち忘れではない。

 

咲が決意表明を、届かないとしてもこの場で口にしようとしてる所をこんな形で遮られたら、誰でも口をパクパクしてしまうだろう。

 

 

咲の手にあった希望の『種』は、夜の口から胃へと、消えてしまった―――…。

 

 

 

 

 

 

短いですがここで失礼。夜ちゃん虐めがしたいのか咲ちゃん虐めがしたいのかだんだん不明になってきました…。

 





補足(モンスター紹介):


*キリン様

・唯我独尊この俺様が最高なんだよ下等生物がッ…なのがキリン一族。代々人間が大っ嫌い。自分達以外綺麗な者以外は大っ嫌い。
お気に入り以外には超冷たい+好戦的なフルフルさんとは昔、テリトリー争いで大喧嘩して以来ことあるごとに喧嘩しっぱなし。凍土の氷より冷え切った仲。

・雷を神聖視しており、外見アレなフルフルさんが雷をバンバン吐く事が気に食わない。選民思想にどっぷり浸かった子。
でも人間から山を守る為に(キリン様にとって)下等生物を守ってあげる事も多々あり、弱いモンスターには崇められてたりする。


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