雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

15 / 57


※鬱。色々ぼかして表現してるけど犯罪に手を出してる場面があります。中途半端に明るくもなります。いつもより短めです。

それでも大丈夫な方のみお読みください。





小話:さくちゃん

 

 

 

さくちゃんは可哀想な男の子。

 

だけど最初は幸せだったんだ。さくちゃんのお父さんは立派なハンターで、お母さんは村一番綺麗な女の人で、皆から祝福されたんだよ。

 

…なのにさくちゃんのお父さんは女の人が大好きで、お酒が大好きで、人間としては最悪なハンターさんだったから、一途なお母さんとさくちゃんを置いてどっかに行っちゃった。

 

 

 

お母さんはさくちゃんが物心つくまではちゃんと育ててた。ずっとずっとお父さんとの惚気話をするのを除けば、お父さんが長い狩りに行ってるんだと思ってるのを除けば、ちゃんとさくちゃんを育ててた。

 

でもね、さくちゃんはある日お母さんに言っちゃったの。村の子供達から聞いた話を、言っちゃったの。

 

そしたらお母さん、あの優しい笑顔がどっかに行っちゃってね、狂って家の中で包丁と踊ったんだ。その時の傷、今でもさくちゃんの腕に残ってる。

 

 

さくちゃんは隣のお婆さんに引き取られてね、お母さんとやっと会えた頃にはもう、お母さん元に戻ってたよ。

 

だけどお母さんは葉っぱばかり弄ってる。さくちゃんを家に置いてくれるけど、さくちゃんの面倒を見てくれなくなった。

 

さくちゃんは気分の浮き沈みの激しいお母さんが怖かった。でもね、罵倒されて価値がないって言われてから、お母さんを見ると悲しくなった。だからさくちゃんは誤魔化すように家事や勉強に精を出したんだよ。

 

 

 

――――頭の良いさくちゃんはね、学者さんにならないでハンターさんになったの。

 

もっと言うとね、お父さんに似ているさくちゃんがお父さんと同じハンターさんになったら、お母さんに家を追い出されちゃった。

 

 

さくちゃんはそれでも幼馴染の男の子と借家に住んでね、お母さんに仕送りを続けたんだよ。ずっとずっと、お母さんの面倒を見てた。

 

……だけどお母さん、葉っぱが好き過ぎて死んじゃった。さくちゃんも周りの人も止めたのにね、こっそり葉っぱを愛でてた。

 

さくちゃんはお母さんを愛してたかって言われると微妙で、嫌いかって言われたらもっと微妙だからかな、お母さんを埋葬する時、さくちゃん泣かなかった。

 

お家の中を片づけてる時にさくちゃんの仕送りを見つけて、減って無いお金と読まれた手紙を見つけたらやっと泣けたんだけどね。

 

 

 

 

 

さくちゃんはとっても怖い男の子。

 

大きな街に住む事にしたさくちゃんはね、名前を隠してお父さんの後を追っかけ始めたの。

 

街一番のハンターのお父さんと一緒で、立派なハンターさんになったさくちゃん。ある日お父さんに出会ったよ。

 

さくちゃんはいつだって顔を隠してたから、お父さん全然気付いて無かった。矜持の高いお父さんの頭の中はね、どんどん成績を伸ばすさくちゃんをどうやって蹴落とす事だけしか考えて無かった。

 

 

だからね、お父さんは仲間のハンターさん達と一緒に、狩り場の不安定な所へさくちゃんを連れてったの。

 

 

そこで"事故が起きて"二人っきりになってね、さくちゃんを殺してモンスターの餌にしてやろうって思ったの。

 

さくちゃんは腕が上がってもまだまだ経験の足りない子だから、"さくちゃんに味方がいなかったら"さくちゃん死んでたよ。

 

 

 

そう―――お父さんは人を見る目が無かった。

 

お父さんが仲間だと思ってたハンターさんの一人はね、お父さんのことを恨んでたんだよ。さくちゃんはそれを知ってたから、その人と共謀してお父さんを殺しちゃった。

 

 

足をやられて動けないお父さんにね、さくちゃんは頭の装備を外して顔を見せた。名前を名乗った。

 

お父さんは吃驚したよ。心当たりがいっぱいあり過ぎてお母さんの事まで思い出せなかったんだけどね、白々しくお父さんを助けてくれって頼んだの。さくちゃんは溜息を吐いてお父さんを捨てたんだ。

 

さくちゃんがわざと怪我を作ってね、共謀したハンターさんに支えられてキャンプに戻ったの。

 

さくちゃんが回復薬を口に含む頃にはもう、お父さんはぺろりと食べられちゃった。

 

 

それでね、さくちゃんはお父さんの死を美談にしたくなかったから、事情を知ってる何人かと頼んでお父さんが隠してきた噂を街に溢れさせたの。

 

噂が溢れて道端に転がる頃にはもう、さくちゃんは溜息ばかりで、淡々と荷物を纏めてた。

 

 

―――うん、さくちゃんは騒がしいのが嫌いだから、用の無くなった街にさっさとさよならをするんだ。

 

行き先なんてどうでも良かったけど、お世話になった村長さんに帰ってきて欲しいって頼まれたから、気が重いけどさくちゃんは故郷に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

さくちゃんは寂しがり屋の男の子。

 

 

色んな事が終わってしまったさくちゃんはね、誰かの温もりが欲しかったの。

 

でもお父さんのせいで人間が嫌いになったし、お母さんのこともあって女の人はとっても苦手。お父さんが死んだ後のお父さんの仲間と街を見て、声をかけてくる人間を疑ってかかるようになっちゃった。

 

だから故郷にやって来たハンターさんとは仲良くしたくなかったんだけど、何故か故郷にやってくるハンターさんはさくちゃんの心に痛い事をする。

 

 

―――例えば、銀色のガンナーさんはさくちゃんの拒絶を徹甲榴弾で吹っ飛ばして、嫌がるさくちゃんを振り回す。

 

甘いもの好きのハンターさんは物をまともに投げれないくせに、嫌な時に限って直球で真摯な言葉を投げてくる。

 

 

さくちゃんはその度に迷惑そうな顔をするけど、二人はやっぱり面倒にさくちゃんを放り込むの。どんなに部屋に引きこもってもね、ぶん投げてきてしつこかった。

 

 

――――そんな毎日を繰り返してたらね、さくちゃん少しだけ丸くなったの。

 

誰にも言わないけど、ちょっと有難かったんだよ。少しだけ、気が軽くなったんだから。

 

 

 

 

 

 

さくちゃんは正直になれない男の子。

 

仲の良いハンターさん二人組を見て、すっごく羨ましがってるのに、誰かの手を掴みたくない我儘な子。

 

たぶん親の負い目と嫌悪で作りたくないの。友達程度で精一杯のさくちゃんは、その程度の温もりでいいって強がってる。

 

でも心のどこかで期待してるの。誰かに掬って欲しいって願ってるんだよ。

 

 

 

――――そしたらある日ね、神様がさくちゃんにチャンスをくれた。

 

可愛がってた真っ黒兎が女の子になったの。

 

 

泣きそうな目に負けて拾ったさくちゃん、子供みたいに無邪気で素直な女の子は手に余ったけど、自分みたいに寂しい目に合わせたくなくてちゃんと育てたの。

 

危なっかしいから手を握っていれば、さくちゃんにべったりとくっついて甘えてくる。ころころと変わる表情なんて見ていて楽しかった。時々の悪戯だってご愛嬌ってものだったんだよ。

 

さくちゃんと違って疑うなんてことも知らない良い子だから、その女の子はさくちゃんには眩しかった。熱過ぎた。だけど手を離したくなかったの。

 

 

その関係をなんて言えばいいのか分からなかった。家族愛的なものかと思って深く考えないようにしてたんだ。

 

 

だけどね、銀色のガンナーさんが、知らず知らずのうちに自分を騙してたさくちゃんを貫通弾で暴いた。甘いもの好きのハンターさんよりも直球な言葉だった。

 

 

そしたらさくちゃん、色んな感情に飲まれて滅茶苦茶になっちゃった。

 

無邪気な女の子には難し過ぎる感情を、さくちゃんは何て伝えればいいのか分からなかったの。

 

屑みたいなお父さんと同じ姿の自分が、いつか同じ事をしちゃうんじゃないかって恐れてた。

 

 

そんな時に女の子が触れたのはお母さんが切った傷で、さくちゃんは一瞬全てがこんがらがって女の子を突き離しちゃったの。

 

女の子はさくちゃんに拒絶された事の無い、特別な子だったから、吃驚して泣きながら夜の中に溶けちゃって。帰って来なくなった。

 

 

―――さくちゃんは慌てて探したよ。心臓が痛くなってもずっと探したの。

 

 

だけど、やっとさくちゃんを掬い上げてくれるかもしれないと思った女の子はね、見つからないんだ。さくちゃんはどんどん荒れたよ。

 

 

銀色のガンナーさんにヤキを入れられてから大人しくなったさくちゃんは、色んな所に手紙をたくさん出して、やっと当たりを引けたの。

 

 

大喜びで女の子を迎えに行ったさくちゃん―――でもね、そこで折角治まってたのにまた荒れることになっちゃった。

 

 

 

急いで迎えに行ったらね、一生懸命探してた、無邪気だけど人見知りで怖がりの女の子。…すごく弱っていて、ついに耐えきれなくなっちゃったのか―――何処かにまた消えてしまったの。

 

 

流石のさくちゃんも見つけてくれた恩人の幼馴染を殴れなかったから、女の子を苛めたお爺さんを無言で殴って蹴ってお爺さんを病院送りにして気を取り直した。

 

お爺さんが泣きながらギルドに捕まって一家が滅茶苦茶になったけど、さくちゃんはどうでも良かった。ううん。気にも留めなかったの。

 

 

さくちゃんは女の子を探しに村総出で雪山を探してて、考える余裕が無かった。

 

 

探して探して―――さくちゃんは村人が無理だと首を振った瞬間、その場に置いて一人でさっさと雪山の奥に探しに行ったの。

 

 

途中フルフルに会って殺そうとしたけど、さっさと何処かに行っちゃったから……舌打ちして更に奥に行ったらね、ずごごごごごごって凄い勢いで雪崩が迫って来たの。

 

 

吃驚したさくちゃんだけどね、それは雪崩じゃなくて巻き上がる雪だって気付いたんだ。

 

滑り込んだ大きな塊は、そのまま止まらずにさくちゃんに突っ込んで来た。バランスが取れなくて転んださくちゃんが太刀に手を伸ばしたらね、圧し掛かられて潰れそうになった。

 

 

真っ黒もふもふ、ふごふごした頬でさくちゃんの息の根を止めようとしているその"獣"はね、さくちゃんが探してた女の子だったんだ!

 

 

 

さくちゃんは色々考えた挙句にね、とりあえず女の子の頭を叩いたよ。

 

 

 

 

 

 

咲ちゃんの過去は夜ちゃんの毛並み以上に真っ黒。でも、誰よりも優しいから咲ちゃんはずっと独り身だったのかもしれない。…な、お話。

 

 






※作業BGM前半は谷/山/浩/子さんの「意.味.な.し.ア.リ.ス」。
あの気だるげな曲調を背景に、女の子がさくちゃんの半生を無邪気に意味も分からず絵本でも読んでるみたいに語ってるイメージで執筆。

後半はランダムに明るいのを聞いてたせいか変な流れになりました。無理矢理明るくしてごめんなさい……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。