雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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番外編:飼い主さんの育児74日間!

 

 

 

【彼女が来る二十日前】

 

「咲ちゃーん、最近さぁ北からの商人さんが来ないんだってー」

「炬燵から出たくないんじゃねーの」

「なるほど、寒い時の炬燵って咥えたら放さないモンスターみたいだもんねぇ」

「えっ二人共そんな楽観視…」

「スウィーツは難しく考え過ぎなんだよ」

「お前らが考えなさ過ぎなんだよ!」

 

 

 

【彼女が来る十八日前】

 

「……あれ、お前ら…」

「見て見てー、お揃い装備!」

「虫怖かった…!」

「お前は本当に情けない男だな、スウィーツ」

「そんな所が可愛いんでしょ―?…んでんで、上位装備になったら色も揃える予定なの!」

「また行くのぉ!?」

「大丈夫、一緒に付いてってあげるから」

「……ま、まあそれなら……やっぱり無理だ」

「駄目な子め――!」ガシッ

「だ、抱きつくな!」

「………くたばれリア充」

 

 

 

【彼女が来る十四日前】

 

「おい、どうしたんだよスウィーツ」

「……クルペッコに…狩団子壊された…」

「だからおまっ…ネタ武器はやめとけって言ったのに…」

「うぅぅぅぅぅ団子ぉぉぉ!!」

「……で、結局鳥は倒したのか?」

「……」

「……」

「……チェダーが眉間に十発。狩団子の敵をとってくれたよ…」

「………情けなくて涙が出るな」

 

 

 

【彼女が来る十一日前】

 

「うーわーあー…」

「もう!旦那さんが畑の面倒サボるから、虫は沸くわ畑はヤバイわで散々ニャ!」

「あ?畑の面倒見んのがお前の仕事だろうが。給料減らすぞ」

「そ…ッそんな脅しには屈しないニャ!そもそもこの農場はハンターさんの―――」

「緑……お前最近、奥さんが身籠ったって言ってたよな…そんな大事な時にクビにしなくちゃいけないなんて、俺も大変心苦しく思うよ」

「やりゃあいいんだろっやりゃあよぉぉぉぉ!!」

「おい、語尾忘れてんぞ」

「うっせーなっ面倒臭いんだよそんなの!オラ、虫持ってけや!!」

「うわっキモ」

 

 

 

【彼女が来る九日前】

 

「どーしたの?咲ちゃん珍しく元気ないね?」

「ああ、チェダーか…どうにも最近、ウチの猫達が反抗的でな…」

「家事は基本的に咲ちゃんがしちゃうもんねー、最近はオトモも連れてないし。する事がないからじゃない?」

「あいつら日頃の鬱憤を狩りで発散しようとすんだよ。気が立ってるから注意力も散漫だし、危ないだろ」

「まーね」

「家事は…昔っからそうだったから、直しようが…畑の方に猫をやるか」

「え、一匹管理してくれる子がいたら十分じゃない?」

「俺が畑なんてどうでも良すぎて手をつけてないせいか、猫にやる気が無いのか分からないが……アレは畑じゃなかったな」

「スウィーツの畑なんて芸術的だというのに…駄目な子め」

「うっせーな」

「でもさー、それって前からいた子にしたらあんまり嬉しくないんじゃ…」

「ああ、大丈夫。辞めさせたから」

「え、」

 

 

 

【彼女が来る八日前】

 

「――――で、あとそれも」

「どっもーッス……そう言えばハンターさん、知ってます?」

「何が?」

「凍土の方からの商人、何か大きいモンスターに襲われてこっちに出稼ぎに来れないんですよ。そのせいで北にしかない品を扱う店なんて閉めてますぜ」

「あー…あったなそんな話」

「不思議と死人は出てないんですがねぇ。さっきその件の解決を頼むクエストが出てたみたいで、おっさん三人組が出かけていきやしたよ」

「詳しいな」

「まーね!」

 

 

 

【彼女が来る七日前】

 

「咲ちゃん咲ちゃ―ん!私達に依頼来たよー」

「他のハンターは?」

「失敗しちゃいました―wwww」

「……何か情報とかは得たのか?」

「んー、聞いたらさ、『黒い』『大きい』『もふもふ』しか言わないんだけど」

「まったく理解出来ないんだが」

 

 

 

【彼女が来る六日前】

 

「―――おっっっせぇぇぇぇ!!遅すぎるだろお前!お前から誘っといて遅刻して迎えに来させるってどういう神経してんだぁぁぁ!?」

「五月蠅いわぁぁ!!こちとら生●なんじゃぁぁぁ!!動いたら死ぬんだよ、声出したら死んじゃうんだよ。蜻蛉のように儚い私に気を使えよ!!」

「大声出しといて何その台詞!?●理がなんだってんだ、ああん!?血がダラダラ出るだけだろーが!!」

「出るまでが痛いんだよ馬鹿!低能!!血が出た時の不快感は沼地に口突っ込んだ並なんだぞ!」

「沼地に口突っ込んだ事あんのかよ!」

 

「――――朝から下品な会話してんなぁぁぁぁぁ!!」ブン

 

「「狩団子投げた!?」」

 

 

 

【彼女が来る五日前】

 

「くっそ、一人で凍土に行くとか寂しすぎんだろ…何でスウィーツは上級になってないんだよ…」

「旦那っ一人じゃないです、アタ」

「チェダーに朝から呼び付けられて世話してるってお前、あいつには猫がいるんだから必要ないだろ、甲斐甲斐し過ぎだろ」

「旦那っアタシも甲斐甲斐し」

「なんだよなんだよ、俺だけ独り者って事かよ。あいつらジンオウガの手で感電死すればいいんだよリア充が」

「旦那っ無視しない――――ニャぁぁぁぁぁぁ!!」

「ッ…!おい、桃―――クソ、雪で見えな…」

「にゃ、あ…」

「桃!?お前なんで宙に、浮い…て」

「 (´,,・ω・,,`)」

「うわあぁぁぁぁぁ何か黒くてもふもふしてる!?」

「(´,,・ω・,,`)」

「あの……アレだ、落ち着け、クールを貫いてきた俺だ、すぐクールに…あぶっ!?」ズシャァァ

 

 

「――――…う、…なんか、温かい…?」キョロキョロ

「⊂⌒~⊃。Д。)⊃」ゴロリ

「うわあああああああ!!」

 

 

 

【彼女が来る四日前】

 

「旦那っ遅かったですね。……あの、モンスターは……」

「もふもふしてた…」

「え、旦那?」

「名前は黒にするか。今度は肉を持って行ってみよう」

「旦那ぁぁ!?」

「じゃ、三時間したら起こしてくれ。クエストは延長しといて」

「旦那ぁぁぁ!!」

 

 

 

【彼女が来る三日前】

 

「黒。黒、こっち見ろ」

「(´・ω・`)」

「お前って大きいけど結構可愛いな。なんか癒されるわ」

「(´・ω・`)」

「でもその顔がデフォなのか……図体デカいのに残念な奴だな…」

「(´・ω・`)」

「黒が子豚並に小さかったら家に連れて帰ってもふもふして癒されるのにな…残念だ。……今度は魚なんてどうだ?」

「(´・ω・`)」

「……なあ、もうちょっと反応してくれないか…」

「(´・ω・`)」

 

 

 

【彼女が来る二日前】

 

「また凍土に行くの?」

「あ―――うん」

「見つかんないんだもんねぇ…でもさ、もう通行できるようになったからあのクエストは引っ下げたって聞いたけど?」

「いや…なんだ、可愛い小動物が…」

「ああ、咲ちゃんちっこいの大好きだもんねぇ。…でも凍土に可愛い小動物なんていたっけ?」

「大きい小動物なんだ…」ボソッ

「え?」

「いや、何でもない」

 

 

 

【彼女が来る一日前】

 

「咲ちゃん、今日もすごく目がイキイキしてるよ」

「え、ああ…」

「咲ちゃん、今日もすごい雪が乗ってるよ」

「ちょっと…雪山の坂を転がってな」

「転がったの!?」

 

 

 

【彼女が来た日】

 

「よし、黒がなんかもしゃもしゃしてた葉っぱも手に入れた事だし、今日はアイツに俺がエサをやるんだ!」

「旦那さん…ペット大好きニャね」

「ペットじゃねえ。友達だ」

「モンスターが友達ってすごい…アレだニャ…」

「―――ん?おお、黒が出迎えてるみたいだ」

「……(すごく嬉しそうニャ。旦那さん…どれだけ他人の温もりに飢えてるんだニャ…)」

「黒っ今日はお前に―――――…黒?」

「ニャ?」

「黒?黒っ!おい、なんで震えてんだ…ま、まさか毒でも…ハンターにやられたのか?…いや、今此処に来れるハンターは俺だけか……じゃあモンスターに!?」

「旦那さん、黒が丸まって動かないニャ…」

「解毒薬だっ解毒薬、げど、解毒――――」

「旦那さん落ち着いて…にゃふっ」

「ッ…風が…見えない……黒!大丈夫か………あれ?」

 

「――――くしゅんっ」

 

 

 

【彼女が来て一日目】

 

「それで、この子が…?」

「―――ていうか咲ちゃんのせいでおんにゃのこが見えない。消え失せてロリコンズーフィリア」

「てめ、俺はそういうのじゃないッこいつが背中に貼りついて出てこないんだよ!」

「つーかさ、服が男物でぶかぶかなんだけど…可哀想…」

「……しょうがないだろ」

「あ、私のお古がまだあるよ?」

「ああ、じゃあそれ頼むわ」

「頼むって…その子と…住む気か?」

「あっいや、そうい……おい、そんな目で俺を見るな。誰もお前を捨てるなんて言ってないだろ!?」

「―――あら、じゃあ咲様、そこのお嬢さんを養うという事でよろしいのですね?」

「え…いや、あの、俺も男で――――~~だからぁぁぁ!俺をそんな目で見るなよッ」

「咲ちゃんって捨て兎を見たらほっとけない子だったんだね」

「捨て兎って……」

「おいっ、チェダー!お前同性だしコイツと……ああああ遂に泣きだした!」

「兎ちゃんも飼い主さんがイイってさー。……変な事しちゃ駄目だからね」

「しねーよ!!」

「ホントにー?飼い主さんプレイとかするんじゃ…」

「しないって言ってんだろうが!!……あ?黒、どうし―――「かいぬしさん」………え?」

「飼い主、さん?」

「そうそう、飼い主さん」

「飼い主さん!」

「そうそ「チェダーぁぁぁぁぁぁ!!!」飼い主さんうるさいですよー!静かにしててくださーい」

「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!早々に変な事教えやがって!てめ「飼い主さん」……だからぁぁ!!」

「か、い…ぬし、さん……?」ボロボロ

「……や、別に、お前に怒ったわけじゃ……言葉につい…」

「かいぬし……さん……」

「ちょ……俺は飼い主さんじゃなくて咲……」オロオロ

「なんて無責任なの!?弄んで飽きたらポイってわけ!?私をこんなにした責任とってよ!」

「お前はもう何も喋るな!」

「おい。チェダーにスウィーツ、お前ら夜のこと忘れて……あーもー…」

「………くすん」

 

 

 

【彼女が来て二日目】

 

「ロリコーン!服持って来たよー?」

「………|ω・`)」ススス

「お、夜ちゃん!ロリコンハンターは?」

「寝て、ます…」

「あ、寝てるのか…ま、いいや。お邪魔してもいいー?」

「………|ω・`)?」

「…夜ちゃんが可愛いからオッケーって事にしとくか」

「………|ω・`)?」

 

 

 

【彼女が来て四日目】

 

「……肉、…食え」

「………」プイ

「………」

「………」

 

 

 

【彼女が来て七日目】

 

「飼い主さん、飼い主さん」トテトテ

「……?どうした、黒」

「手伝います」

「あ、あー…じゃあ、俺は干してくるからこの部屋をこれで掃いてくれるか?」

「これ…?」

「箒だ」

「………」

「おい。食うなよ、それ」

 

 

 

【彼女が来て十一日目】

 

「今日はここらの地方で使ってる文字を教えてやる」

「モジ?」

「ほら、この本とか…俺の家計簿とかのこれとか…」

「もじ…」

「こっちに座れ。……まずだな、ペンの持ち方からか…」

「………」

「そうだ。じゃ、最初の一文字…は…」

「φ(・ω・ )」カキカキ

「おま……もう書けるの!?」

「『凄い人』から教わりました」

「誰だよそれ!?」

 

 

 

【彼女が来て十三日目】

 

「……飼い主さん、雷が怖いのです……」

「あー…耳を塞いでてやろうか?」

「んー……」ピト

「お、おおお俺の胸に埋めるな!」

「うー!」

「服を掴むな!」

「(´;ω; `)」

「泣くな!……ああもうッ」ギュウゥゥ

「……飼い主さぁん…苦しいです…潰れます…」

「顔は潰れねーよ」

「いえ、……胸が、あんまり抱きしめられると…痛い…」

「―――~~ッ馬鹿が!!」

「(´;ω; `)」

 

 

 

【彼女が来て十四日】

 

「今日も雷が鳴ってます……」

「……怖がってる癖に、何で一々見ようとしてんだ」

「『凄い人』が言っていたのです。雨が降っている時の雷は奇跡を起こして下さるんだって」

「奇跡……?」

「はい。昔々の人間は、恵みの雨と一緒に降る雷に一生懸命祈ったのだそうです。…えっと、……雷は神様の御手で、その御手に自分達の不幸を掬い取ってもらう為に祈っていたのが―――…んーっと、時が経つにつれて不幸の昇華から自らの願いをかけるものに変わったのです」

「……よく難しい言葉を覚えてられたな。えらいぞ」

「えへへー」

「……」

「?」

「…黒、ずっと思ってたんだが、その『凄い人』って何だ?」

「『凄い人』は……」

「……」

「……分かりません」

「は?」

「『凄い人』はいつも真っ白キラキラで、声も性格も会う度にコロコロ変わるのです」

「………ん?なんか昔…語り部の婆さんが……いや、気のせいか」

「飼い主さん?」

「ああ、なんでもない。…ほら、耳を痛めるから窓から離れろ」

「はーい」

 

 

 

【彼女が来て二十三日目】

 

「夜ちゃん肌白いねぇー!」

「は、はあ…」

「むちむちー!ぴちぴちー!」

「む、むー…ひゃんっ」

「美乳じゃないのー!このこのー!」

「ひゃ、や、やっ」

「――――チーズてめぇぇぇぇぇぇ!!何してくれさってんだコラぁぁぁぁ!!」

「ちっ」

「か、飼い主さぁん!」ダッ

「ばっ――――風呂から出るな!!」

「…夜ちゃん捕まえた!」

「ぴゃっ」

「―――よし、そのまま黒を風呂にブっ込め!……そして、テメーは表に出ろ!!」

「やん、エッチ☆」

「き…ききき、着替えてからに決まってんだろうがよぉぉぉぉ!!このッ痴女が!!」

「ハンターさぁん!風呂場では静かに!!」

 

 

 

【彼女が来て二十六日目】

 

「―――これ、お裾分け」

「……?」

「黒、お裾分けって言うのはだな、多く作り過ぎた料理とかを隣の家にやったり日頃世話になってる人間とか親しい人間に分けることだ。これで自分も気分が良いし相手に恩を売れるしで一石二鳥の、」

「……咲、お前はその子をどういう風に育てたいんだよ。後半いらないだろ」

「こいつは馬鹿正直だからな。人間の汚さを教えないと」

「スウィーツさんは…汚い?」

「汚くないよ!?」

「こいつは適切な量で調理出来ない馬鹿なだけだ。安心して受け取れ」

「咲ぅぅ!?」

「あん?……黒、人から物を貰ったら?」

「あ―――…ありがとう、ございますっスウィーツさん!」

「……え、うん…なんか新鮮だわ、そういう風に感謝されるの」

「……」

「…飼い主さん?」

「……(咲、何か分からんけどめっちゃ睨んでくる…)」

「……黒、こいつが女に物をくれる時は下心がある時だからな。大人になったら気を付けろ」

「大人?」

「俺が何時、誰に!下心丸出しでそこらの女の人に物をやったよ!?」

「ほぼ毎日。チェダーに」

「………」

「………」

「………」

「…………………うん、下心があったかもしれない」

「『かも』じゃない。ほぼ毎日あっただろ」

「………咲って、俺のこと嫌いだよな…」

「……爆発しろ、ぐらいしか思ったことは無いぞ」

「爆発!?」

 

 

 

【彼女が来て二十八日目】

 

「…黒、このクッキーを数えてみろ。正解した分だけ食っていいぞ」

「わぁい!」

「この皿に移しながら数えろ。……あ、手は洗ったか?」

「三時のおやつの時間ですから、ちゃんと洗いました」

「よし。――――そら、数えてみろ」

「んっと…い、一…一個?」

「枚だな」

「一枚!」

「正解」

「二枚、三枚、四枚、五枚……」

「……(黒は物覚えが良いな……食欲のせいかもしれないが)」

「七枚!八枚、九枚、十枚っ」

「正解」

「………あっ」

「あ?」

「……うー?」

「……分かんないのか?」

「………」

「………(物覚えがいいのかどうか分からなくなってきたな)」

「……っ……ぐすっ……くっきー……」

「……」

「…、……ぅ、……ふ、ぇ…」

「………」←何故か罪悪感にかられる

「……ぅ、うう……―――」

「―――~~ああもうッ食えよ!食っていいから!」

「本当ですか!?」

「その代わり今日はこれだけだぞ!」

「わぁい!」

「……まったく…」

「ちょこくっきー、いただきまーす」

「……食い意地張りやがってまったく―――…どうした」

「飼い主さん、美味しいですよ!あーん、」

「………」

「あ、あーんっ」

「………ん、」

「美味しいですか?」

「………まあまあ」

 

 

 

【彼女が来て三十六日目】

 

「黒、この硬貨がこれだけで、たいていの店では薬草が買えるんだ」

「……これだけ?」

「そう。…で、村の端に居る男は偶に半額にしてくれる」

「これの……半分?」

「そうだ。だから店に行く前にあの男の所に行って、半額でないようなら店に顔を出せ。いつか商品の良いヤツと悪いヤツの見分け方を教えてやるが―――とにかく、店に良い物がなかったらその男の商品と比べて買え」

「むぅ……」

「まあ、今は金を覚えてくれれば良いから、……そうだな…この林檎は、一個で硬貨がこれぐらいが妥当だ」

「ふむふむ」

「……お前…いや、まあいい。食い物はその時々で値上がったり下がったりするが、そういう話を聞かない限り、大抵はこんなもんだと思え」

「はーい」

 

 

 

【彼女が来て四十三日目】

 

「飼い主さん飼い主さん、何をしているのですか?」

「林檎の兎。……チェダーのあんちくしょうに喧嘩吹っかけられてな」

「兎……」

「……そ」

「……」

「……」

「……ふふ、可愛い」

「…!痛ぁっ!?」

「飼い主さぁん!?」

 

 

 

【彼女が来て四十七日目】

 

「あれ、咲ちゃん、その指の傷どうしたの?」

「……ちょっとな」

「ははーん分かったぞ!スウィーツ以下って言われてから林檎の兎の練習始めたんでしょう!」

「……」

「……咲ちゃん?」

「練習ていうか…おやつにやる度にこんな傷が…」

「えっ」

 

 

 

【彼女が来て五十日目】

 

「いいか黒。火はな…」

「|ω・`)」ススス

「……出て来い」

「……火、怖い、のです…」

「慣れろ。ほら、さっさとこっちに来い」

「|ω; `)」ブワッ

「……俺の背中に貼りついてていいから」

「……|ω; `)」ススス

「あんまり背中に抱きつくなよ。もしもの時には危ないから」

「……だって」

「あん?」

「飼い主さんの背中に貼りつくと、ほっとします…」

「…え――――あっつ!?」

「飼い主さぁん!?」

 

 

 

【彼女が来て五十三日目】

 

「あれ、夜ちゃん一人でお買い物―?」

「こんにちは、チェダーさん。飼い主さんに頼まれて、石鹸とお茶の葉と…あと、余ったお金で好きな物を買えと言われたのです」

「へー。…あっ、そういえば初めてだね、一人でおつかい」

「はいっ頑張ります!」

「うんうん。頑張りたまえよ!変な人には付いてっちゃ駄目だぞー?」

「はーい」

 

 

「いやー、頑張り屋さんだわー。お嫁に欲しいくらいけな…げ…」

「……あ?チェダーか。何してんだ」

「それはこっちの台詞なんだけど!初めてのおつかいを尾行するってどんだけ過保護なの!?」

「俺が言い出した事とはいえ、人見知りの激しいアイツにおつかいだなんて何をしでかすか分からねーだろ」

「むしろアンタが何かしでかしそうなんだけど!その背中に隠したライトボウガンは何!?」

「護身用だ。弾はコルクだから別にいいだろ」

「誰の護身用ですかそれは。コルク弾でもね、銃に関しては下手っぴな咲ちゃんを野放しになんて恐ろし過ぎて先生見逃せませんよ」

「誰が先生……おいっ引っ張るな!何すんだコラ!」

「はいはい、静かにしましょーね―」

 

 

 

【彼女が来て五十四日目】

 

「飼い主さん、おやつの時間ですよ」

「あー?…どうした?そのクッキー」

「昨日、飼い主さんが好きな物を買っていいって言ったから…」

「いや、そうじゃなくて。何でそれが今日まであんだ?」

「飼い主さん、昨日のおやつの時間にいなかったので」

「……お前のなんだから、俺を待ってなくてもいいんだぞ?」

「一緒に食べた方が楽しいです。さあ、早く食べましょう?」

「………」

「飼い主さんはあんまり甘いのがお好きじゃないようでしたから、紅茶味にしたのです」

「………」

「飲み物はホットミルクでいいですか?」

「……お前」

「はい?」

「……なんていうか、アレだな」

「……?どうして頭を撫でてくれるのですか?」

「内緒」

「むー」

「……膨れんな。俺がホットミルク入れてやるから」

「本当ですか!」

「……お前のホットミルクは温過ぎるからな」

「あれが適温です!」

 

 

 

 

 

 

ほのぼのを謳っておいてのシリアス続きと兎さん虐めのお詫びでもありますが、咲ちゃんに「お前のホットミルクは温過ぎるからな」を言わせたかっただけの番外編でした。

 

 


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