雪の中からこんにちは、飼い主さん!   作:ものもらい

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本編
1.初めまして、元兎のハンターです


 

 

雪の中からこんにちは。お元気ですか?

 

―――ねえねえ、お元気ですか?ねえねえ。…と私は一生懸命跳ねてみるのですが、『飼い主さん』はまったく反応してくれません。折角温かいテントから抜け出して雪の中に潜り込んで飛び出してみたのに。飼い主さん酷いですっ。

 

 

―――え、『飼い主』って?

…ふふふ、この人は私の飼い主なのです。何故なら私は兎。元兎の現人間ですから。

私は真っ白な雪兎の中で、ただ一匹だけ黒くて――――皆によくもきゅもきゅされましたのでもきゅもきゅし返したら、何故か皆、私に構ってくれなくなりました。

 

寂しくて雪の中に埋もれてたり、雪玉を作っては通り過ぎる人間に見せたりしたのです。構って欲しくて猫パンチならぬ兎パンチもしたのです。そしたらやっぱり皆逃げちゃって、一人しょんぼりしてたら飼い主さんが来たのでした。

私は同族と同じ匂いのする飼い主さんに喜んで飛び付きました。ぐるぐるしました。兎パンチしてみました。そしたら雪の山に埋もれてしまったので、一生懸命引っ張り出しました。

 

でも何故だか飼い主さんは起きないし震えているので、くっついて温めてあげました。

その間、蜥蜴さんが興味深そうにこっちを見てたのですが、私と目が合うと何処かに行っちゃって。寂しくてそのままお昼寝することにしたのです。

 

―――うとうとしていたら不意に飼い主さんがもぞもぞ動きだしたので、私も目を覚ました訳ですが……何故か飼い主さん、ゴロゴロ転がっていました。

私も真似てゴロゴロしたら飼い主さんに蹴られてしまい……多分その時の私は(´・ω・`)って顔してたと思います。飼い主さんも似たような顔をしてました。

それから飼い主さんはゆっくり手を伸ばして、もしゃもしゃしてくれたので鼻先を押し付けてみました。ああそれで…髭を、引っ張られました…。

 

でも、仲良くじゃれ合ってたのに、飼い主さんは何処かに行ってしまったのです。

私は寂しくて寂しくて、ずっとそこで丸まってました。そしたら陽が昇った頃に飼い主さんがまた来てくれて、お肉を寄こしてきましたが私はベジタリアンなので拒否りました。そしたら今度は飼い主さんが(´・ω・`)って顔をして、それを見た私も似たような顔をしたと思います。

 

次の日も次の日も来てくれたのですけど、やっぱり帰っちゃう飼い主さんが恋しくて、雪山の凄い人に聞いてみたんです。会いたいよーって。

凄い人は「お前は人を見るともきゅもきゅしちゃうから人里には行っちゃ駄目なんだ」って言われました。人間は弱くて、もきゅもきゅすると死んでしまう。そうすると怖い人に滅多刺しにされて、飼い主さんに悲しい思いをさせるんだよ、とも言われました。

じゃあ私はずっと独りぼっちなの?って聞いたら、凄い人はうーんって悩んだ後、小さな声で教えてくれました。

「一つだけ、方法があるけど、そしたら君はもう戻れないし、自分の身も十分に守れなくなるんだよ。それでもいいかい?」

 

私は当然頷きました。

何かあっても何とかなるだろ精神で生きてきましたから、あんまり深く考えなかったのです。

 

凄い人は不思議な山菜を渡すと、飼い主さんの前で食べなさいとだけ言いました。き、き、きせいじじつ?…を作ればイケると言っていました。

 

それで今度は美味しそうな葉っぱを持って来てくれた飼い主さんが遠くに見えた瞬間にささっとぺろっと食べて、飼い主さんが寄ってくる頃にはもう、ぷるぷる震えてました。

飼い主さん…すごくキョドってました。雪を孕んだ風に一瞬視界が閉ざされた後、すごく寒かったのを覚えてます。耳が痛かったのも覚えてます。

飼い主さんは何も言わないで私を見てまして、ややあってから私に剥がれた(?)毛皮をしっかり着せて手を引いてくれたのですよ。

その後色々あったけど、飼い主さんは飼い主さんになってくれました。そっけないけど心の広い人なのです!

 

だから今だってそっけなく掘り続けてるけど、あと一分したら私の好物の林檎をくれるって分かってます。

そのまま黙って林檎を齧ってたら、最初に言いつけられた―――テントに戻って火の番をしてろと頼んでくるのです。私が火の番をしながら寝てる頃には帰って来て、また林檎をくれるのです。偶に苺もあるので、わくわくしちゃいます。

 

「ほら」

「……」

 

――――でも、本当に偶に、意地悪をしてくるのです。

目の前に転がってる肉。機嫌が悪いとこれを投げてきます。そういう日は黙っていなくなって心配かけてやるのです。

 

私は震えていた猫を一匹掴んで、兎の頃よく昇ってた場所に腰掛けます。暇だったので雪玉を作ってみました。…兎の頃と違って、当時の雪玉を作るのはちょっと時間が必要なのです。

そしてやっと出来た雪玉!これを――――飼い主さんの出口近くに落として気を引くのですよふふふ。よいしょ、よいしょ、てい。

 

「ぎ―――――!!」

「ちょ、」

 

えっへん。と胸を張る下で、何かの鳴き声と隣から猫の「ちょ、」が聞こえましたが無視です。二個目を作りましょう―――投下!

今度は何の声も聞こえません。猫は毛を逆立てて丸まっています。私は緊張している猫を撫でると、遥か下から飼い主さんが私を呼ぶ声が聞こえました。

 

 

「―――黒ぉぉぉぉぉ!!降りて来いっお前はなんて狩りをしてるんだ!!」

 

………狩り、って。何の事でしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご注文は?」

「肉」

「葉っぱ!」

「え……」

「…―――サンドイッチで」

 

あの後、飼い主さんが見事仕留めた…えーっと、何とかを売ったりしたら余裕が出たので、飼い主さんが何か買ってもいいよって言ってくれました。

普段はあまり買ってくれないのです…生活が苦しいのかなと思って猫に聞いたら、飼い主さんは医療費とか将来の事も考えて貯金したりとか、色々考えてお金を使っているだけだと言っていました。…その言葉通り、どんなに高くても武器と防具とかには妥協しませんもの。

私は家計簿をつけてる飼い主さんの膝を枕にして火に当たる時間が好きです。偶に大人しくしてると二三回頭を撫でてくれるのですよ。

――――あ、葉っぱと何かが来ました。美味しそうです。

 

「……」

「…おい、サンドイッチを早々に分解するな」

「だって、お肉が…」

「食えよ、それぐらい」

「……」

「いただきます、っと」

「………」

「……」

「…………」

「………」

「………ぐすん」

「―――~~っ、一口食えよっ一口!」

 

そう言われて突っ込まれたのは飼い主さんの油たっぷりのお肉でした。戻しそうですが飼い主さんの手に塞がれて戻せません。しょうがないので飲み込みました。

「ったく…ほら、取ってやったぞ」

「葉っぱ!」

 

口直しに食べる葉っぱはとても美味しいです。飼い主さんが淡々と口に入れてるお肉よりも美味しいのです。

でも飼い主さんも兎仲間も、お肉が一番美味しいと言います…葉っぱしか食べない私を変な物でも見るように……あ、飼い主さんは「栄養がー」とか「もっと太れー」とか言ってくるのですが。

 

「……美味しい、です」

「あ?…ああ」

「…あの、美味しい、んです」

「……そうか」

「(´・ω・`)」

「察しろ。家ならまだしも店では駄目だ」

 

さっき、飼い主さんは私に分けてくれたのに。なんで私は駄目なんですか。

ずっと(´・ω・`)な顔をしていたら、飼い主さんは特別に甘いものを頼んでくれました。

……えへへ、とても美味しいのです。

―――でも急いで食べないといけません。

飼い主さんが言うには、これからこの街では花火が上がるそうなのです――――私は急な音や大きな音が苦手なので、そういう音を聞くと固まってしまいます…だから私を遊びに連れてってくれる場所は静かな所が多いのです。

今日は飼い主さんの用事は無いので、居られる限りは私に付き会ってくれるそうですから、私が早くぺろっと食べちゃうのは全然変じゃないのですよ。だから飼い主さん、そんな目で私を見ないで下さい。

 

 

私は飼い主さんに口を拭く様に言われたのでゴシゴシ拭いていると、会計を済ませた飼い主さんに促されて店を出ました。

あまり人のいない所なのではぐれる事は無いのですけど、飼い主さんはちゃんと服を掴ませてくれるのです。

 

「何が欲しい?」

「葉っぱ!」

「さっき食っただろうが」

 

じゃあ林檎なら良かったんでしょうか…飼い主さんは小物とかを勧めてきますが、食欲の前にはまったく……あ、

「きらきら?」

「あー?…ああ、飾り物屋か」

「……?」

「…ま、お前も女だしな。折角だし買ってやる。何が良い?」

「林檎がいいです」

「……うん、俺が選ぶわ」

 

駄目出しばっかりなのです…。

だけどあれはどうとかこれはどうとか聞いてくる飼い主さんの駄目出しは嫌いじゃありません。

大きな手が小さな髪飾りを摘まみ上げるのをじっと見ながら、されるがままになってるのも、嫌じゃありませんよ。

服もですけど、誰かにあげようとしてうだうだしてる姿を見るのも楽しいのです――――あれれ、今回は早く決まっちゃいました。

飼い主さんは値切らずにそのまま買い付けると、私の髪にそっと差してくれました。

それは青い硝子の髪飾りで、頭を動かすとしゃりしゃり音を鳴らします……ちょっと、不快。

でも飼い主さんが小さく「まあまあだな」って言ってくれたので、頑張って慣れます。頑張って……うーん。

「…どうした?」

「あ…―――あり、がとう、ございます」

「いや…」

 

じゃあ、次行くぞ、と頭をわしゃわしゃしてくれた時に鳴った髪飾りの音は、不快じゃありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

無口だけど面倒見のいいハンターさん×天然な兎少女

 

 






オマケ(キャラクター紹介)

*兎少女⇒名前は「夜(ヨル)」真っ黒な髪の女の子。力持ち過ぎてヤバイ。天然過ぎてよくトラブルを起こす兎さん。
兎ウルクスス時代の名残は髪以外に無い。兎耳を期待した人はごめんなさい。雪ん子なので肌は白いしベジタリアンだから細い。
装備はウルクススだった自分の毛皮で出来た装備。装備屋の店主が夜に合わせて作ったので、…オリジナル装備なのかな。ちなみに毛は黒って表記したけどチョコレートを黒くした感じ。


*飼い主さん⇒名前は「咲(サク)」二人合わせて咲夜さん!…というのは置いといて、薄茶(セピアゴールドの安っぽい感じ?の色で)の髪の青年で、家計簿をつけたりする家庭的なハンターさん。林檎の兎をよく作ってくれるよ!
夜のことは兎時代に「黒」って呼んで可愛がってた(ちなみに実は小動物大好き)その名残。
「飼い主さん」呼ばわりは非常にヤバい、明らかに変な性癖の人と見られかねないので、公の場では「咲」と呼ばせてる。



*本当は竜にしようかな、って思ったんですが、話を練った当時がちょうど雪の時期⇒兎!に。

いとう/かなこさんの「と.あ.る.竜.の恋.の.歌」を聞いてたら人外×男で何か書きたかったのが始まりです。
とても壮大で美しい歌ですが、本作は壮大さ皆無でございます…。

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