正義の魔法使い・ウィザードが好きな方申し訳ない。元々ソーサラーしか出す予定がなくて、それであんなことに…
駄文ですが、よろしくお願いします。
『フレイム・ドラゴン! ボー! ボー! ボーボーボー!!』
ウィザードの前に赤い魔法陣が現れると、彼はそれに包み込まれて、『火』のエレメントを宿る姿へ変わった。その姿は先程のものとは大いに異なっており、頭部には角のようなものが生え、両肩には赤い宝石を模った肩装甲が装備されている。胸部の装甲はファントム・ドラゴンの頭部を模したものとなり、ローブは黒から赤へと変わっていた。
「さっきより魔力が上がったぞ!?」
杏子は目を大きく見開いて一歩後退りしてしまった。他の三人もウィザードの急激な変化に動揺を隠しきれていない。
『コネクト・プリーズ』
ベルトから音声が流れてくると小さな魔法陣が出現し、ウィザードはその中に左手を入れる。彼は魔法陣から手を引き抜くと、そこには新たな道具が握られていた。彼が魔法陣から取り出したものは、ハンドオーサーに似た手形の意匠と、赤、青、緑、黄色と順に色で区分されている時計を備え付けたブレスだった。
「さぁ……ここからはショータイムだ」
ウィザードはゾッとする程の低く力強い声で決め台詞を言い放った。それを聞いた四人の体に悪寒が走ってくる。
『ドラゴタイム』
ウィザードはそのブレス―――ドラゴタイマーを右腕に嵌めると、時計のダイアルを反時計回りに回して赤い区分でスタンバイさせる。
『セットアップ』
「少しは楽しませてくれよ」
ドラゴタイマーから音声が流れてくると同時にウィザードはそう四人に伝える。彼はハンドオーサーの親指部分のレバー―――サムズエンカウンターを左手で軽く押した。
『スタート!!』
その音声と共にウィザードはウィザーソードガンを構えると、四人がいる方へ突っ込んできた。
「こいつ、なんのつもりだ!? 一人で飛び込んできやがった!!」
ウィザードの考えを理解できていない杏子は彼の行動に戸惑ってしまう。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
杏子の横から気合の入った声をあげる仁美が飛び出していくと、ウィザードの頭上目掛けてブーメランを振り下ろした。丁度その時、ドラゴタイマーの時計は青い区分に達する。彼は駆け出しながら左手でサムズエンカウンターを押した。
『ウォータードラゴーン!』
「えっ!?」
ドラゴタイマーから音声が流れてくると、彼女の前に青い魔法陣が現れ、中から別のウィザードが現れる。その姿はもう一人のウィザード同様、頭部に角のようなものが生え、宝石を模った肩装甲、胸部の装甲はファントム・ドラゴンの頭部を模したものとなっていた。違うところと言えば、そのウィザードの体色が青であったことだけだ。
そのウィザードの右手にもウィザーソードガンが握られ、振り下ろされるブーメランを受け止めてしまう。
「ふ、増えた!!」
さやかが口を大きく開けて驚いている隙に、ドラゴタイマーの時計は緑の区分に達し、ウィザードは再びサムズエンカウンターを押した。
『ハリケーンドラゴーン!』
音声が流れてくると、今度はさやかの後ろに緑の魔法陣が出現し、中から銃型のウィザーソードガンを右手に握ったウィザードが現れた。そのウィザードも他の二人と同様の姿をし、体色は緑であった。
「ま、また!?」
緑のウィザードが放った弾丸を剣で弾くさやかは非常に困惑した様子だった。
「おい、あいつの右腕に嵌めてる時計、なんだかやべぇぞ!!」
杏子は赤のウィザードが嵌めているドラゴタイマーを指差して注意を促す。彼女は恭介と目配せを行うと、左右から同時に赤のウィザードへ飛び掛かった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
恭介が雄叫びをあげながらスクラッチネイルを振り下ろし、赤のウィザードはそれをウィザーソードガンで受け止める。激しい金属音が鳴る中、杏子は彼の背後から槍を突き出した。
『ランドドラゴーン!』
「うわっ!?」
しかし、杏子の槍は黄色い魔法陣に当たって跳ね返り、その衝撃で彼女は地面に転がってしまう。その魔法陣の中からは他と同様の姿をしたウィザードが現れた。体色は黄色で、右手にはウィザーソードガンが握られている。
「これでお互い同じ数になったな」
『ファイナルターイム!!』
全員一旦間合いを取ると、それぞれ武器を構えた状態で横に並んだ。
「うっ……」
さやかは体を震わせながら、一歩後退ってしまう。先程よりも強化されたウィザードが四人に増えてしまったのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
四人のウィザードは雄叫びをあげると、一斉に襲い掛かってきた。赤のウィザードは恭介、青のウィザードは仁美、緑のウィザードはさやか、黄色のウィザードは杏子を標的とする。
さやか達の連携でやっと一人のウィザードと対等に戦えたというのに、そのウィザードが四人に増え、さらに分断されてしまったのだ。こうなってしまうと、さやか達は防戦一方となり、窮地に陥ってしまう。
「ふんっ!!」
青、緑、黄色のウィザードがウィザーソードガンを振り払うと、その相手をしていた仁美、さやか、杏子は吹き飛ばされて地面に転がる。その間に三人のウィザードは同時に右手の指輪を新しいものへ嵌めかえ、バックル部のハンドオーサーに翳した。
『チョーイイネ! ブリザード!! サイコー!』
『チョーイイネ! サンダー!! サイコー!』
『チョーイイネ! グラビティ!! サイコー!』
それぞれのウィザードのベルトから音声が流れてくると、仁美とさやかの前には青と緑の魔法陣を、杏子が転がっている所の上空には黄色の魔法陣を出現させた。
『バリアー・ナウ』
恭介は赤のウィザードの猛攻をかわしながら、嵌めていた指輪をバックル部に翳す。すると仁美、さやか、杏子の三人の前にそれぞれ障壁が生成され、ウィザードが放った冷気、雷、重力の攻撃を受け止めた。
「やるな。その歳でここまで上手く魔法を操る奴はいないぞ。だが、これを防ぐことはできるかな?」
赤のウィザードはそう言って恭介から距離をとると、ドラゴタイマーのサムズエンカウンターを軽く押した。
『ドラゴンフォーメーション!!』
ドラゴタイマーからそのような音声が流れてくると、四人のウィザードの背後にそれぞれの色の魔法陣が出現する。魔法陣の中から竜の形をした魔力が放たれると、青のウィザードの下半身からは強靭な尾が生え、緑のウィザードの背中には翼、黄色のウィザードの両腕には鋭い爪が出現し、赤のウィザードの胸部の装甲にはファントム・ドラゴンの頭部が現れた。
恭介は「うっ!?」と声をあげると、再び右手に嵌めた指輪をバックル部に翳そうとする。
「上条、それ以上魔力を使うな!! あんたの体が持たないぞ!!」
杏子は恭介の方を向いて、そう大声で伝える。
「で、でも!!」
「あたし達の身は自分でなんとかする!! だからお前も自分の身だけを守れ!!」
「うっ……わかったよ」
杏子の言葉に恭介は渋々頷くと、バックル部に翳すのをやめ、代わりに右手の中指に別の指輪を嵌めた
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
四人のウィザードは雄叫びをあげると一斉に行動を開始した。青のウィザードは仁美の横腹目掛けて自身の尾を叩き込み、緑のウィザードは高速飛行してさやかの体を掴むと、上空へ飛び上がる。黄色のウィザードは杏子との距離をつめて爪を振り下ろし、赤のウィザードはドラゴンの頭部から火炎を放った。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
仁美は青のウィザードの尾の攻撃を受けて吹き飛ばされ、壁に衝突する。さやかは緑のウィザードに掴まれたまま上空へ連れていかれると、そこから一気に下降して、彼女の頭部から地面へ勢いよく叩き付けられた。杏子は目の前に編み込みの結界を生成するも、その結界もろとも黄色のウィザードの爪で切り裂かれ、地面に転がる。そして三人の変身が解けてしまった。
『イエス! ブリザード!! アンダースタンド?』
恭介は自身の前に青の魔法陣を出現させると、その魔法陣から強力な冷気を発生させる。冷気は赤のウィザードが放った火炎と激しく衝突し、相殺させた。しかし、彼はその光景を見届けると、膝を地面へつけてしまう。
「まずはお前からだ」
「う、ぐっ……」
四人のウィザードは跪く恭介の方へ体を向けると、ドラゴタイマーをバックル部に翳した。
『オールドラゴン・プリーズ』
ベルトから音声が流れてくると、赤のウィザード以外の姿がドラゴンの形をした魔力に変わっていく。
「あっ、あいつの魔力が一カ所に固まって……」
地面に転がり、体の傷を押さえていた杏子はウィザードの姿を見てそう呟いた。青、緑、黄色のドラゴンの形をした魔力が赤のウィザードへ集結すると、爪、翼、尾、そして頭部のパーツ全てが彼の体に具現化される。具現化されたパーツ全てが今までのものより巨大化し、さやか達はウィザードの凄まじい魔力を肌身で感じ取ることができた。
「恭介、逃げて!!」
「上条君!!」
地面に倒れて立つことすら儘ならないさやかと仁美は、大声で必死に叫び続ける。恭介は体を動かそうとするが、呼吸が乱れて立ち上がることさえできない。彼は何度も指輪をバックル部に翳すが、『エラー』という音声しか返ってこなかった。
そんなことをしている間にウィザードが彼の前までくる。ウィザードは彼の胸倉を掴むと、上空へ投げ飛ばした。
「恭介ぇぇぇぇぇぇ!!」
「フィナーレだ……」
ウィザードがそう小さな声で呟くと、彼の足元から巨大な魔法陣が出現する。彼は両足に力を込め、その魔法陣を踏み台にして上空へ勢いよく飛び上がった。そのまま彼は急上昇すると、投げ飛ばした恭介の腹部に向かって跳び蹴りを決めた。
上空では大爆発が起こり、琥珀色の指輪と粉々に破壊されたドライバーが地面に落ちてくる。さやか達は今、目の前で起きた悲劇の光景に対して、ただただ言葉を失っていた。
「まずは一人」
ウィザードはゆっくりと地面に降りてくると、両手を腰に当てて「ふぃー」という言葉を漏らした。
「嘘、恭介が……そんな……」
「おい、さやか!! しっかりしろ!!」
さやかは失意に満ちた表情をしながら、目には大粒の涙を浮かべる。彼女のソウルジェムは少しずつ黒く濁り始めた。
「かみ、かみ……上条君……」
「さやか、仁美のソウルジェムが!?」
「えっ……」
だが、仁美はさやかよりも深刻な状態に侵されていた。彼女のソウルジェムはすでに真っ黒く濁っていたのだ。
「ひっ、仁美!?」
「私……もう……」
「仁美、気をしっかり保って!!」
「このままじゃ魔女になっちまうぞ!!」
焦り始めたさやかは杏子と共に仁美の元に来て、彼女の体を支えると懸命に励ます。すると、仁美は悲しみに暮れた表情で二人にこう伝えた。
「美樹さん……佐倉さん……ごめんなさい……」
二人に支えられた仁美は少しだけ笑みを見せると、瞼をゆっくり閉じた。それと同時に彼女のソウルジェムは綺麗に砕け、魔女の卵『グリーフシード』を生み出す。
「おい、嘘だろ?」
杏子は目を大きく見開き、動揺を隠せない様子で『グリーフシード』に変化した仁美のソウルジェムを見る。その『グリーフシード』から黒い輝きが放たれると、魔女が出現した。
「仁美が……仁美が魔女に……」
豪邸の魔女―――その性質は「価値」。城のような姿、形をし、その場で動かずにじっと佇んでいる。至る所にガラス窓があり、中では女の子の使い魔が泣きながらピアノ、茶道の稽古をする姿が見て取れる。庭のような場所では多くの女の子の使い魔が一人の男の子の使い魔に色々な芸を披露していた。
さやかは二度と目覚めることがない友人を抱きかかえながら、その魔女の姿を無言で見つめていた。
「あとはこいつだけか」
ウィザードはそう言って豪邸の魔女の方へ体を向ける。
「や、やめて!! これ以上あたしの大切な人を……」
「無理な相談だな」
さやかは涙を流しながら必死に願いを乞うが、ウィザードは口からは出たのは非情な答えだった。
「なっ、てめぇぇぇぇぇぇ!!」
杏子は物凄い形相でウィザードを睨み付けるが、彼は気にも止めず、魔女の方へ向かっていく。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
杏子が体を動かそうとするが、立ち上がるだけの体力は残っておらず、ウィザードが魔女を倒す光景を見ていることしかできなかった。隣にいるさやかは仁美の体を支えながら放心状態となり、小声で何かぶつぶつと呟いている。そんな彼女の姿を見た杏子は顔を下に向け、失意のどん底へ落ちて行った―――
ここまでです。オリジナル魔女登場。
次は日曜日までには投稿したい。