遂にあの方も登場します。勿論暴れます……
駄文ですが、よろしくお願いします。
廃工場。中には荷物の類が見られず、工場の屋根は綺麗に剥がされている。
そんな人気のない場所に二つの影が見えた。その影の一つは恭介のもので、もう一つは仁美のものだ。二人とも体にいくつかの傷が見られ、それぞれ魔法使い、魔法少女の姿に変わっている。
「ぐぐっ……」
「なんですの、このファントムは……」
二人は工場の奥の方を見て困惑している様子だ。すると、そこに仁美の悲鳴を聞きつけたさやか、杏子が現れた。
「恭介、仁美!!」
「美樹さんに佐倉さん!!」
「どうしたのよ!! なんでその姿に……」
「三人とも気を付けて!!」
恭介は一歩後ろに下がって三人に警告した。仁美がゆっくりと息を呑む中、二人が対峙していた異形の生物―――ファントムが姿を現す。
体色は銀色に統一され、背中で大きく広げられている翼、そして地面へ垂れ下がっている強靭な尾が窺えた。四肢には鋭く尖った爪を備えてあり、頭部は伝説の聖獣『竜』を想像させるものだった。そのファントムの身体からは並々ならぬ気迫が滲み出ており、さやか達は姿を見ただけで冷や汗を掻いてしまう。
四人の前に姿を現したのはファントム―――ドラゴンだった。
「ほう、ターゲット自ら出向いてくれるとはな」
ドラゴンはさやかと杏子を見るなり、両腕を胸の前で組んでそう呟いた。
「ターゲット? 何言ってるのよ!!」
「お前達が知る必要のないことだ。それより……」
ドラゴンは組んでいた腕を下ろすと、恭介と仁美の方へ視線を向ける。
「まずお前達には消えてもらおう」
ドラゴンは二人を指差すと、強気な口調でそう断言した。
「はぁ!? 何言ってやがるんだ!!」
「そんなこと、あたし達が絶対にさせない!!」
杏子、さやかは恭介達の前に立つと、魔法少女の姿に変わる。同時に彼女達の手元には槍、剣とそれぞれの武器が現れた。
「私もそう簡単に負けたりしませんわ!!」
「それに今は4対1……僕達の方が圧倒的に有利だ!!」
仁美、恭介もさやか達の横に並び、仁美はブーメランを、恭介はウィザーソードガンを持って身構えた。
「はぁ……これだから餓鬼は嫌いなんだ。『操真晴人』の方が物分かりはよかったぞ?」
ドラゴンは呆れた様子で頭を横に振り、軽い溜息をついている。
「誰だ、それ?」
「俺の事を希望にしていた奴さ。不運にも病魔に蝕まれて哀れに死んだがな」
ドラゴンがそう答えると、突然彼は人間の姿に戻ってしまった。
人間態のドラゴンの容姿は『イケメン』に分類されるものだろう。髪には少し茶色が混じっており、顔はほっそりとしている。黒いジャケットの下に赤のTシャツを着て、下にはワイン色のズボンを穿いていた。
「なっ!?」
「戦わないのか?」
さやか達はドラゴンが人間の姿へ戻ったことに驚きを隠せず、恭介は警戒した様子で疑問を投げかけた。
「いや、戦うさ……先程の姿はあまり好きじゃないのさ……」
ドラゴンはそう答えると、両手の中指に指輪をはめ込んだ。右手には手形の意匠が見られる指輪で、左手にはルビーのように赤く輝く指輪が嵌められている。
「なっ、何よその指輪」
さやかが身構えた状態でドラゴンに質問をぶつけるが返事はない。彼は右手の指輪をベルトのバックル辺りに近付けると、『ドライバーオン・プリーズ』という音声が流れて、恭介が身につけている型のドライバーが浮かび上がってきた。
「そのベルト……まさか!!」
ただそのベルトは恭介が身につけているものとは少し異なっていた。恭介がつけているベルトの黒い手形の意匠―――パームーオーサーには赤い縁取りが見られるが、ドラゴンのものは黄色で施されている。また、その周りのカラーリングが白のみと非常にシンプルだった。
「『銀色の魔法使い』!?」
「そういえば、最近そんな風に呼ばれているな」
ドラゴンはふと思いついた様子で顔をあげると、ベルトについたレバーを引いて、手形の意匠―――ハンドオーサーの向きを操作した。
『シャバドゥビタッチヘーンシーン!』
ドラゴンのベルトからは恭介が身につけているものよりも若干高い音声が流れてくる。
「変身」
『フレイム・プリーズ! ヒー! ヒー! ヒー・ヒー・ヒー!!』
ドラゴンは左手に嵌めた赤い指輪をバックル部に翳すと、聞きなれない音声が流れてくる。彼は左腕を目の前にあげると、そこに赤い魔法陣が出現した。ところどころから炎を噴き出しているその魔法陣がドラゴンの体を包み込むと、彼は魔法使いの姿に変わった。
体色は赤、黒で統一され、頭部は丸い形状をした赤い宝石の仮面を被っている。全身には黒いローブを纏い、冬の冷たい風に靡かせていた。『銀色の魔法使い』―――ウィザードである。
「あの力を使わなくても、お前達には勝てるがな」
彼曰く、今の姿は『銀色の魔法使い』と言われる所以のものではないらしいが。
「舐めるなぁ!!」
杏子は槍を構え、先陣を切ってウィザードに攻撃を仕掛ける。彼は右手の指輪を新しくものに嵌めかえると、ハンドオーサーに翳した。
『コネクト・プリーズ』
ウィザードの右隣に小さな魔法陣が出現すると、彼は右手をつっこんで『ウィザーソードガン』を取り出す。そのまま杏子が振り下ろしてきた槍を受け止めた。
「はっ!!」
「おらぁ!!」
互いの武器が激しくぶつかり合い、辺りに金属音が鳴り響く。それを何合か続けていると、杏子の後ろからさやか、恭介、仁美が攻撃を仕掛けてきた。ウィザードもこれには堪らず距離をとる。
「ほう、やるな。ならば……」
そうウィザードは呟くと、左手の指輪を別の物に嵌めかえた。その指輪はエメラルドのように緑色である。ただ、先程の赤い指輪が丸い形状をしていたのに対して、この指輪は逆三角形をしていた。
『ハリケーン・プリーズ! フー・フー! フーフーフーフー!!』
ウィザードはその指輪をハンドオーサーに翳すと、上空に緑色の魔法陣が現れる。その魔法陣の中では緑色の風が吹き荒れ、彼が飛び上がって通過すると、今度は緑色のウィザードが現れた。頭部は逆三角形の形状をした緑色の宝石の仮面を被り、体色は緑、黒で統一されている。彼の体を緑色の風が包み込んでおり、宙に浮いていた。
「か、変わった!?」
「エレメントチェンジが出来るなんて……」
ウィザードが別の姿へ変わったことに動揺を隠せない四人。恭介がいう通り、彼は『エレメントチェンジ』を行ったのだ。先程の姿が『火』であるならば、今は『風』なのだろう。
「まずはお前だ」
宙に浮いているウィザードはさやかに指を向けると、右手の指輪をまた別のものへ嵌めかえる。それをハンドオーサーの前へ翳した。
『コピー・プリーズ』
ベルトから音声が流れてくると、ウィザードの右手に持っていたウィザーソードガンが左手にも現れる。彼は二つのウィザーソードガンを逆手持ちにすると、さやかに襲い掛かった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
ウィザードは風の力を利用して、体を駒のように回転させながらさやかに斬りかかってくる。さやかは手元の剣でその攻撃を受け止めるも、彼はめげずに体を回転させながら斬り続けてきた。武器がぶつかる毎にさやかの剣から火花が散り、やがて折れてしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
ウィザードの攻撃を防ぐ手立てがなくなったさやかは、ウィザーソードガンの刃をもろに受け、激しく吹き飛ばされた。
「さやか!? てめぇ!!」
杏子は槍をがっちりと構えてウィザードを睨み付けると、彼との距離を詰めた。
「次は……」
ウィザードはそう呟いて左手の指輪を黄色のものへ嵌めかえると、杏子が辿り着く前にハンドオーサーへ翳した。彼が今嵌めた指輪はトパーズのように黄色く、四角い形をしている。
『ランド・プリーズ! ドッ・ドッ・ドッドッドッドッ! ドッドッドッド!』
ウィザードのベルトから音声が流れてくると、今度は目の前に黄色い魔法陣が出現した。魔法陣の周りでは地面が揺れ、通過すると黄色のウィザードとなった。
「あいつ、どれだけの指輪を……」
恭介が驚くのも無理はない。普通の魔法使いは主に一種類のエレメントしか使えないのだ。そのほとんどが『火』のエレメントであり、彼のように他のエレメント―――『ブリザード』のような魔法を使うのは稀である。
それなのにウィザードは三回もエレメントチェンジを行っている。ちなみに今回は頭部が四角い形状になっており、黄色い宝石の形をした仮面を被っていた。体色は黄色、黒で統一され、エレメントは『土』である。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
杏子はウィザードの頭部を目掛けて槍を振り下ろした。しかし、その攻撃は彼に届くことはない。
「なっ!?」
ウィザードは武器を一切使わず、素手で振り下ろされた槍を掴んでいた。杏子は信じられないのか目を大きく見開いて動揺している。
「その程度か? お前の力は……ふんっ!!」
「うぐっ!?」
ウィザードは槍を握りしめている杏子ごと地面へ叩き付けた。その衝撃で彼女は苦痛の声を漏らす。
「私がいきますわ!!」
仁美はブーメランを投げ捨てると、お得意のファイティングポーズを取った。それに警戒したウィザードは地面に転がっている杏子の近くから離れると、青い指輪を取り出す。
「肉弾戦か。なら……」
ウィザードはサファイアのように青く輝く指輪を左手についたものと嵌めかえ、ハンドオーサーに翳した。
『ウォーター・プリーズ! スィースィー・スィースィー!!』
ベルトから音声が流れてくると、ウィザードの足元から青い魔法陣が出現する。魔法陣からは水が噴き出ており、それが彼の体を包み込むと、青色のウィザードに変わった。
頭部には雫のようなひし形をした宝石の仮面を被り、体色は青、黒に統一されていた。エレメントは『水』である。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
ウィザードがエレメントチェンジをしている内に仁美は彼の懐辺りまで潜りこむと、ボディーブローをかまそうとした。咄嗟に避ける彼は右手に違う指輪を嵌め直すと、急いでハンドオーサーに翳す。
『リキッド・プリーズ』
ベルトから音声が流れるが、ウィザードに変わった様子はない。仁美は恐れることなく彼との距離を詰めると、右の拳に力を込め、腹部に向かってボディーブローを放った。
「なっ!? 貫いて……」
しかし、仁美のボディーブローは決まることはなく、ウィザードの体を貫通したのだ。彼の体は先程の魔法で液状化したらしく、彼はそのまま彼女の右手を掴んで腕挫十字固の態勢をとった。
「ここから……」
腕挫十字固の態勢になったことで、仁美は背中を地面につけ、右腕を横に伸ばす形となった。
「ほらっ」
ウィザードはその状態で腰を思いっきり浮かした。仁美の伸びきった肘に「ボキッ!!」という鈍い音が聞こえる。彼女は苦悶の表情を浮かべて涙を流した。
「う、うぐっ!?」
ウィザードは仁美から離れて立ち上がると、地面に倒れている彼女の胸倉を掴んで持ち上げる。
「邪魔だ」
ウィザードはそう冷たく言い放つと、彼は掴んでいた仁美をさやかがいる方へ投げ飛ばした。さやかの元には杏子も集まっており、杏子は投げ飛ばされた仁美を見事キャッチする。
「仁美!!」
「う、腕が……」
さやかは自身の傷を塞いだ後、立ち上がって仁美の元へくる。彼女は右腕の肘辺りを左手で押さえながら、苦悶の呻きをあげていた。
「待ってて、今腕治してあげるから……」
さやかはそう言うと、仁美の右腕の肘辺りに両手を優しく乗せた。すると、仁美の肘が青い光に包まれ、彼女の表情は和らいでいく。
『キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!』
しかしウィザードは彼女達に休み暇も与えてくれない。彼はウィザーソードガンを右手で持つと、鍔のところにあるハンドオーサーを起動して、左手に嵌めてある青色の指輪を翳した。
『ウォーター! スラッシュストライク!! スィー・スィー・スィー!』
ウィザーソードガンから音声が流れてくると、刀身に青い魔力が付加され、その周りを水が激しく渦巻いた。
「やっ、やべぇ!?」
「はっ!!」
ウィザードはウィザーソードガンを勢いよく前へ振り下ろした。ウィザーソードガンの刀身に付加されていた魔力は青い衝撃波となり、丁度仁美を治療しているさやか達の方へ飛んでくる。
『バリアー・ナウ』
恭介は咄嗟にさやか達の前へ立つと、六角形の障壁を生成してウィザードの攻撃を防いだ。
「ありがとう、恭介!!」
「うん。けどこのままバラバラで戦い続ければ勝ち目はない。連携していこう。僕の指示に従ってくれ!」
恭介はウィザードが襲ってくる前に三人を集めて作戦を伝えると、駆け足で円型に広がり、ウィザードを囲んだ。
「よし、指示は頼んだぞ!!」
杏子の言葉を聞いて恭介は軽く頷く。
「仁美、腕の調子は?」
「ええ、もう大丈夫ですわ。ありがとうございます、美樹さん」
仁美の右腕も回復したらしく、彼女は腕をブンブンと振り回して見せる。三人はそれぞれの武器を生成すると、それを手に握って戦闘態勢に入った。
「作戦は話したとおりだ。じゃあ、いくよ!!」
恭介の合図と共に四人の反撃が始まった。杏子と仁美が先駆けてウィザードに攻撃を仕掛ける。彼は二人から距離をとって指輪をバックル部のハンドオーサーに翳そうとするが、突如背後から剣が飛んできた。彼が後ろを振り向いた時、そこにはさやかの姿があった。
「ほう、やるな」
ウィザードはそう感心していると、その後ろから恭介がスクラッチネイルを振り下ろしてきた。彼は前を向いたままウィザーソードガンを持った手を後ろに回してその攻撃を受け止めると、体を半回転させて恭介に斬り掛かかろうとする。
しかしウィザードが後ろへ振り向いた時、すでに恭介の姿はなく、代わりに仁美が彼の懐の中まで接近していた。彼はすぐ回避しようと試みるも、その行動よりも先に彼女のボディーブローが腹部へと直撃してしまう。彼女の拳にある棘の装飾が青い宝石で構成されているウィザードの鎧に突き刺さり、ヒビが入ってしまった。
「……お前達を舐めてみていたようだ。少し本気を出そう」
ウィザードは低い声でそう言い放つと、四人が作り出している輪の中からするりと脱出した。彼はすぐ左手に嵌められた指輪を赤いものに戻すと、ハンドオーサーに翳す。ただし、今彼が嵌めかえた赤い指輪は最初に使っていたものとは異なっていた。
文章が読みづらくてすみません。
次もできるだけ早く投稿したいです。