駄文ですが、よろしくお願いします。
ファントム・キマイラは雄叫びをあげて非常に昂った様子だった。彼はお菓子の魔女の方へ体を向けると、背中から赤い翼を生やす。そのまま翼を羽ばたかせて飛び上がると、魔女に攻撃を始めた。
「や、やめて!!」
女性は泣きながら懇願し続けるが、キマイラは攻撃をやめようとしない。彼女はすぐに立ち上がると、右手についた指輪をベルトに翳した。『ドライバーオン・ナウ』という音声が聞こえると、腰にベルトのバックルが浮かび上がる。彼女はパームオーサーの向きを操作すると、「変身!!」と言いながら左手に嵌められた指輪をバックル部に翳した。
『チェンジ・ナウ』
女性は魔法使いメイジの姿に変わると、キマイラの方へ駆けだした。マミとなぎさもソウルジェムを取り出すと、魔法少女の姿となって彼女の後を追う。
「邪魔だ、どけっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
女性は飛び上がってキマイラにスクラッチネイルを振りおろすが受け止められてしまい、カメレオンの形をした尻尾の攻撃によって下に弾き飛ばされ、地面へ叩き付けられそうになる。
「危ない!!」
マミがリボンで受け止めたため、女性は地面に叩き付けられることはなかった。彼女はマミに軽く頭を下げると、キマイラの方へ体を向ける。彼は魔女を蹴り飛ばすと、翼をしまって地面に降りてきた。彼女達を標的にしたようだ。
「はぁ……こい!!」
「そのつもりです!!」
マミはそう答えると、なぎさを連れて真っ向から立ち向かった。二人はそれぞれマスケット銃、ラッパを用いて中距離攻撃を行う。しかし、キマイラはその攻撃を両手で弾くと、突進して二人を吹き飛ばした。
「なぎさを殺させはしない!!」
『イエス! スペシャル!! アンダースタンド?』
女性は吹き飛ばされた二人の前に立つと、目の前に魔法陣を出現させ、キマイラに向けて強力な火炎を放った。
「ふぅぅぅん……はぁ!!」
しかしキマイラはそんな攻撃を物ともせず、右腕を大きく振り払うと、炎を消し飛ばしてしまう。女性が驚く仕草を見せる中、彼は獅子のような頭部の口から光線を放った。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
キマイラの一撃を受け、マミとなぎさは空き地の壁に叩き付けられ、女性の変身は強制的に解除される。
「はっ!! 弱いな」
「な、なぎさ……」
女性は地面に転がった状態でお菓子の魔女の方に手を伸ばしている。そんな光景をキマイラは大声で笑いながら見下していた。
「どうした、もう終わりか? なら奴を食ってやろう」
キマイラはそう言うと三人に背を向けお菓子の魔女を見た。魔女は恐怖からなのか体を震わせている。彼はまた背中から赤い翼を生やすと、魔女の体に飛びついて咬みつき出した。
「や、やめて!!」
女性は必死に声をあげ、マミとなぎさは立ち上がろうとしていた。しかし、二人の身体はすぐ動いてくれそうにない。そうしている内にキマイラはお菓子の魔女の体の肉を歯で引き千切り、口の中へ飲み込んでいった。魔女は顔を真っ青になりながら上空で体をバタつかせ、無理矢理キマイラを振り剥がそうとする。
「ふぅ、不味いな。こんなの食う価値もない」
キマイラは口に含んでいた食いかけの肉を吐き捨てると、魔女の体を蹴り飛ばして地面へ叩き落とす。
「さらばだ」
「なぎさぁぁぁぁぁぁ!!」
女性が娘の名前を叫んだ瞬間、キマイラの頭部、そして両肩のイルカ、隼、胸部のバッファローの口のような場所から光線が放たれた。その威力は先程三人が受けたものの比にならず、お菓子の魔女の頭部、そして胴体を貫通する。マミとなぎさが立ち上がって駆け出した時、魔女は四散して消滅した。
「ひ、酷いのです……」
「な、なぎ……」
マミとなぎさがその光景を見て呆気に取られていると、突然女性の体に異変が生じた。彼女の体に無数のヒビが浮かびあがり、中から虫のような生き物の手足が出てくるからだ。
「な、何これ!?」
「ファントムになろうとしているのさ」
「ファ、ファントムに!?」
キマイラの言葉を聞いてマミとなぎさは目を見開く。
「まあ、そんなことさせないけどな。お前は二人を絶望させるための道具として大いに役立ってもらう」
キマイラはそう答えると、なぜか『仁藤』の姿に戻ってしまった。彼はポケットから指輪を取り出すと、右手の中指に嵌める。その指輪が嵌められた手をベルトのバックル部まで下すと、『ドライバーオン!!』という音声が流れてきた。彼の腰辺りには見たことがないバックルが浮かび上がる。そして左手の中指にはそれとは別の指輪―――金色に輝き、ライオンの意匠が見受けられる指輪を嵌めた。
「き、金色の指輪!?」
「指輪にライオンの……まさか!?」
「変身……」
マミとなぎさが動揺を隠せず一歩後退りしてしまう中、キマイラは掛け声と共に左手の指輪をバックル部の左側面にあるシリンダー―――リングスロットに差し込んで回した。
『セット! オープン!』
リングスロットを回すことにより、バックル部の扉―――リベレイションズドアが観音開きに展開し、中から金色に輝く六角形の魔法陣が出現する。
『L・I・O・N ライオーン!』
魔法陣がキマイラの体を包み込むと、そこにはファントムの時と同様、金色の体を持った魔法使いが現れた。頭部はライオンのような形をし、緑色の複眼をしている。
「い、『古の魔法使い』!?」
二人の前に現れたのはこの見滝原で恐れられている二人の魔法使いの内の一人、『古の魔法使い』―――ビーストだった。
「さあ、ランチタイムだ」
ビーストは決め台詞を決めると、絶望してファントムを生み出そうとしている女性に一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。すると、彼の前にマミとなぎさの二人が立ちはだかった。
「何をするつもりか知らないけど、この人には絶対近寄らせない!!」
「お母さんは……私が助けるのです!!」
「お前等如きにそのようなこと……不可能だ!!」
ビーストはそう言い放つと、観音開きに展開されているバックル部からフェンシングのような細身の剣―――ダイスサーベルを右手で引き抜いた。剣の鍔の所にはサイコロの面がはめ込まれ、その数字は『6』を示している。
ビーストは駆け出すと、まずマミに向けてダイスサーベルを振り下ろした。彼女はリボンで生成したマスケット銃を右手で掴むと、それを前に出して彼の攻撃を受け止める。「ガキーン!!」という金属音が鳴り響くと当時に、もう片方の手に生成していたマスケット銃の銃口をビーストの顔に向け、弾丸を放った。彼はヒョイッと頭を横にずらして弾丸を避けると、彼女との間合いをとって左手の中指に新たな指輪を嵌めこんだ。
その指輪は赤く、鳥の意匠が見られる。彼はそれをリングスロットに差し込んで回した。
『ファルコ・ゴー! ファッファッファッ・ファルコ!』
ベルトから音声が流れると、ビーストの前に赤い六角形の魔法陣が現れる。それが彼の体を通り抜けると、右肩に赤い隼の頭部を模した肩装甲が装着された。肩装甲の下には赤いマントが垂れ下がっている。
「我についてこれるか?」
ビーストは左手の中指を立てて挑発をすると、その場で飛び上がって飛行し始めた。彼の体は赤い風に覆われ、凄まじいスピードで二人に近づいてくる。
「私達を舐めないで!!」
マミは目の前に無数のマスケット銃を生成し、なぎさは息を吸って力強くラッパを吹く。マミのマスケット銃からは弾丸が、なぎさのラッパからは爆発性のあるシャボン玉がビースト目掛けて放たれた。
「舐めているのはお前達のほうだろう」
ビーストはそう言って鼻を鳴らすと、赤いマントを勢いよく煽いだ。すると、彼を覆っていた赤い風の中から衝撃波が放たれ、二人の攻撃を跳ね返す。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
跳ね返ってきた攻撃とビーストの放った衝撃波を受け、二人は吹き飛ばされ、地面に転がった。
「ふん、他愛もない」
ビーストは地面に転がっている二人を見下しながらそう冷たく言い放つと、背を向けて女性の方へ行こうとする。
「ま、まだなのです!!」
なぎさはゆっくりと立ち上がると、ビーストの方を見据えてそう言った。彼女の瞳の中には、彼の他にファントムへなりかけている母親の姿も映っている。
「ほう……まだ戦う気力は残っているようだな。面白い」
ビーストは新たな指輪を左手の中指に嵌めると、リングスロットに差し込んで回した。指輪の色は緑で、カメレオンの意匠が見られる。
『カメレオ・ゴー! カカッカッカカ・カメレオ!』
ビーストの前に緑色の魔法陣が現れると、彼の体を通り抜け、マントの色は緑へと変わった。肩装甲は緑のカメレオンの頭部となっている。
「さあ、我がどこにいるのかわかるかな?」
ビーストはそう言うと、突然なぎさの前から姿が消してしまう。
「き、消えたのです!?」
なぎさはラッパを口に加えたまま、いつ攻撃が来てもいいようにと身構えた。
「後ろが空いているぞ!!」
「えっ? きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
なぎさの背後からビーストの声がし、彼女はすぐさま後ろへ振り向いた。そこには彼の姿はなかったが、彼女の体から何かに斬り付けられたような痛みが生じ、よろめきながら後ろへ一歩後退する。すると、彼女の前からダイスサーベルを構えたビーストの姿が見えてきた。
「ふんっ!」
ビーストは右肩をなぎさの方へ向けると、肩装甲からはカメレオンの舌を伸ばして彼女の体を拘束した。拘束されたなぎさがじたばたと抵抗を続ける中、彼は左手の指輪を剣の鍔についたスロットへはめ込んだ。
『シックス・カメレオ・セイバーストライク!』
剣の鍔にはめ込まれたサイコロが回転すると、『6』の目が表示される。ビーストの前に金色の六角形の魔法陣が現れると、彼はそこに向けてダイスサーベルを振り下ろした。それと同時に魔法陣の中からカメレオンの形をした幻影が6体現れ、拘束されたなぎさに突撃していく。彼女は声を上げる暇もなく吹き飛ばされると、地面へ転がり強制的に変身が解けてしまった。
「うっ……」
「そこで寝ていろ、小娘」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
気迫の入った声がビーストの背後から聞こえ、彼は思わず振り向いてダイスサーベルを構える。「ガキーン!!」という金属音が鳴ると、そのあとすぐに「バンッ!!」という銃声音が聞こえてきた。彼の顔の横を弾丸が通過したのだ。
「ほう……」
ビーストは感心した声をあげる。彼のダイスサーベルと交えていたのはマミのマスケット銃だった。彼女の息は荒く、全身傷だらけである。そんな彼女は眼を充血させながら瞼を大きく開き、鬼の形相でビーストを睨み付けていた。
「絶対に負けられない……なぎさちゃんやあの子のお母さんは私が……魔法少女であるこの私が守って見せる!!」
「やってみるがいい」
ビーストは余裕そうに答えると、ダイスサーベルを振り払ってマミとの距離をとり、左手の指輪をまた新しいものへと取り換えた。指輪の色は茶色でバッファローの意匠が見られる。
『バッファ・ゴー! バッバッバババ・バッファ!』
茶色の魔法陣がビーストの体を通り抜けると、今度は茶色のマントに代わって、肩装甲はバッファローの頭部へ変わった。
「はっ!!」
マミは先程よりも多くのマスケット銃を生成すると、ビーストに向けて一斉射撃を行った。彼はそこから動かず、拳で地面を思いっきり殴りつけると、彼の目の前で衝撃波が起こる。その衝撃波が彼女の放った弾丸の軌道を曲げたため、当たることはなかった。
「ふんっ、効かんな」
「うっ、なら……」
マミの手を挙げて何かの合図を出すと、先程外した弾丸がすべてリボンに変わる。そのリボンはビーストの死角を通ると、彼の身体に巻きついて拘束した。
「これで!!」
ビーストは不意打ちを受け、ダイスサーベルを手から離して地面に落してしまう。
「拘束したつもりか? たかがリボンで?」
「えっ?」
相手を威嚇するようにビーストは言うと、彼は体中に力を入れ始めた。
「こんなもの……」
ビーストの右肩に装着された肩装甲のバッファローから唸り声が聞こえてくると、彼の体を拘束していたリボンは引き千切られてしまった。
「う、そ……」
ビーストのまさかの行為にマミは声も出ず、表情が青ざめてしまう。すると、その一瞬の隙を突いたビーストは彼女との距離を詰めると一言。
「歯……食いしばれよ?」
そう小声で言い放った瞬間、マミの腹部に物凄い衝撃が入ってきた。
「うぐっ!!」
マミは吹き飛ばされ地面に転がると、変身が解除されてしまう。彼女は腹部を抱えながら咳き込み、酷く歪んだ表情で悶え苦しんだ。
「ふぅ……あとはお前だけだな」
邪魔者を戦闘不能に追い込んだビーストは少し溜息を見せると、再び女性の方へ向いた。
「なぎさ……なぎさ……」
女性は身体を屈めた状態で震わせ、今にもファントムを生み出そうとしていた。
「お、お母さん……」
なぎさは地面の上を這いずりながら、女性の方に手を伸ばし続けた。ビーストはそんな彼女の方へ顔を向けると、冷酷な声で言い放つ。
「別れは済んだか? なら終わりにしよう」
ビーストは肩装甲を解除させると、再び左手の中指にライオンの意匠が見られる指輪を嵌め直した。そのままリングスロットに差し込むと、シリンダーを回す。
『キックストライク・ゴー!』
ビーストのベルトから音声が流れてくると、上空に金色の魔法陣が出現する。彼は大きく飛び上がり、その魔法陣を向けて跳び蹴りを放つ。彼の足にはライオンの頭部を模したエネルギーが纏われ、そのまま女性の体に直撃してしまった―――
「どうしよう。マミさん達には繋がらないし、ほむらに至ってはあれだし……」
さやかはマミ達と連絡が取れない事で非常に困っていた。空はすでに暗く、午後六時を回っていた。
「てか、まどか見つかったのか。あれっ? けどなんでテレパシー使えたんだ?」
「はあ、財布が空っぽだよ」
さやかが色々なことで悩んでいたころ、恭介は自分の財布の中を見て深く溜息をついていた。仮に今の彼がチンピラに囲まれて、その場でジャンプする事態に陥ったとしても、ジャラジャラという小銭の音すらしないだろう。
「仕方ないですわ。これが私に手伝わせた代償ですの」
仁美は満面の笑みで恭介を見つめていた。その笑みには悪意が込められている様子だ。彼は「ううっ」と言いながら肩を落とすが、すぐ吹っ切れた様子を見せる。彼はそのまま軽い口調で語り出した。
「まあ、課題も終わったしいいか。さて、僕達はそろそろ帰るけど君達は?」
「あたし達はどこかをほっつき歩いている知り合いを探しにいきますわ」
「そうか。わかったよ」
恭介はそう言って頷くと、仁美の隣に立って並ぶ。四人がいる場所は左右二本に分かれた道となっており、恭介と仁美は右へ、さやかと杏子は左へ進むことにした。
「では美樹さんに佐倉さん、御機嫌よう」
仁美は軽く会釈をすると、恭介と共に右の道へ進んでいった。さやかは手を大きく振って別れを告げると、杏子を連れて左の道へ入っていく。さやかはちらっと顔を後ろに振り向けるが、すでに二人の姿はなかった。
「ったく、マミ達一体どこいったんだか……」
「全くだよ。変なことに巻き込まれてなければいいけど……」
頭の後ろで両手を組んで歩いている杏子がそう呟く。すると、突然彼女は目を見開き、「ああっ!!」と声をあげた。さやかは驚いたのか、体をビクっと一瞬震わせてしまう。
「変なことといえばさっき、変わった魔女見かけたなあ」
「変わった魔女?」
さやかは腕を組んで首を傾げ、杏子に疑問を投げかける。
「異様に胴体が長い奴でさ……なんだろう、恵方巻みたいな?」
さやかは杏子の話を聞いた瞬間、物凄い形相になって彼女の肩に掴みかかった。
「杏子!!」
「わわっ!? いきなりなんだよ!!」
突然肩に掴みかかられたので、杏子は動揺して数回瞬きをしてしまう。さやかがあまりにも真剣な表情だったため、強く言い返すことさえできない。
「あんたそれどこで見たのよ!!」
「えっと、魔女倒した所の近くだったかな?」
「なんでそれ早く言わないのよ!!」
「えぇ、だって腹減ってたし」
杏子の単純かつ明確な答えにさやかは呆れた様子で頭を抱え込んでしまう。
「もうっ!!」
さやかが不満そうな表情でそう怒鳴ったため、杏子は何もできず、ただおどおどしていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
その時だった。どこからか女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。それも二人にとって聞き覚えのある声だった。
「い、今の仁美の声!?」
「おい、あっちから聞こえてきたぞ!」
杏子が指を向けたのは、丁度今通ってきた道だった。
「杏子、行ってみよう!」
「そうだな!!」
先程の悲鳴を聞いて焦りを覚えた杏子はすぐに頷く。二人は来た道を戻って恭介達と別れた所まで来ると、悲鳴がした方へ駆けて行った。
ここまでです。
ちなみに本編の方で説明をしないのでここでビーストの秘密を一つ。
この世界のビーストのセイバーストライクは『6』以外出ません。
次もできるだけ早く投稿しようと思います。