この話で気になっていた謎が少しだけ明らかにされると思います。
駄文ですが、よろしくお願いします。
「本当にまどかなのよね?」
自分の目の前にいる少女―――まどかに対して、ほむらは体を震わせながら恐る恐るそう尋ねる。そんなまどかは彼女に笑顔を向けるとこう答えた。
「もう、そうだって言ってるでしょ?」
まどかの発した言葉からは喩えようもない優しさが滲み出ていた。彼女を陥れたほむらがそんな言葉を聞く機会は二度とないであろう。そう考えていた彼女にとってこれは信じられない事だったらしく、思わず目に涙を浮かべた。
「まどかぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわっ!?」
少ないとはいえ、辺りには通行人がウロウロといるのだ。しかし、ほむらはそんなことお構いなく思いっ切りまどかに抱きついた。その勢いで二人は地面に倒れてしまう。まどかは「いてて……」と頭を撫でながら、上に乗っているほむらの方を見た。
「もう……ほむらちゃん、びっくりしちゃったよ」
「だって、またあなたが私から離れてしまうと思って……」
ほむらは涙を流しながらそう話す。彼女の涙は頬を通ってまどかの服の上に滴る。そのせいで、まどかの服は多少濡れていた。まどかはそんな彼女の頭を優しく撫でる。
「私はほむらちゃんから離れたりしないよ。いったでしょ? ずっと一緒にいるって……」
「まどか、あなた……記憶が……」
ほむらの問いにまどかは頷く。ほむらは右腕で涙を拭うと、まどかの上から離れてその場に立ち上がった。
「うん。けどこの世界じゃ円環の力は使えないみたい」
「そう……」
その言葉を聞いたほむらは胸に手を置きほっとした様子をした。するとまどかは彼女の手を掴んで前の方に指を向けた。
「それよりほむらちゃん、そこに美味しそうなクレープ屋があったんだけど、一緒に食べにいかない?」
「えっ!? けど、まだあの魔法使いの方が……」
まどかに手を握られてオロオロとした姿を見せるほむらに対して、まどかはにこりと笑顔を見せる。
「せっかくこの世界に来たんだよ? 私達が別れる前にこの世界で楽しい思い出……いっぱい作ろう!!」
「わっ、ちょっとまどか!!」
ほむらは腕を強く引っ張られ、その場から離れることになった。彼女は抵抗できず、結局まどかが話していたクレープ屋の前までやってくる。二人はお好みのクレープを買うと、近くのベンチに座って食べ始めた。
「美味しいね、ほむらちゃん」
「ええ、とっても……」
そう言ってほむらは笑みで返した。そんな彼女を見たまどかは心底嬉しそうな反応を見せる。二人がクレープを食べ終わった後、まどかは落ち着いた様子で語り始めた。
「私、今までほむらちゃんとこうやってゆっくりお話することなかったんだよね」
「私のソウルジェムの中で話したじゃない」
「それはそうだけど……けど、あれを含めなければそうでしょ?」
「……そうね。円環の理ができる前の私はあなたを救うため、殆どのことを切り捨てていた……だから、警戒されるほうが多かったわね。……ねぇ、まどか。元の世界に戻ったら、円環へ戻ってしまうの?」
ほむらは心底辛そうな表情でまどかに尋ねた。それに対して彼女はゆっくりと頭を縦に振る。
「……うん。前にも言ったでしょ? 自分勝手にルールを破るのはいけないことだって……」
「……」
まどかの答えを見据えていたのか、ほむらはそれ程驚くことはなかった。ただ彼女は視線を下に向ける、肩を落として悲しげな表情をする。
「そんな顔しないで、ほむらちゃん。その代わり、今この時間を有効に使おう!!」
「まどか……」
そうまどかに励まされたほむらは顔を上げる。まどかは彼女の背中を優しく摩ると、突然ベンチから立ち上がり、近くに立ち並ぶ服屋の方に指を向けた。
「じゃあ、次はあそこにしよう!」
まどかは陽気にそう言い始めると、ほむらの腕を掴んでその店の方に向かおうとした。
「えっ、ちょっとまどか!! そんな強く引っ張らない……」
《おーい、ほむらー》
ほむらが何か言いかけた時、自分の頭の中に女性の声が聞こえてきた。彼女はピタッと足を止め、まどかに謝りながら優しく手を放すと、声の主に問いかける。
《その声……美樹さやかかしら?》
《当ったりー》
テンション高めにそう答えるさやかの声を聞いたほむらは顔を顰め、面倒くさそうに溜息もついた。
《……そう、こうやって連絡を取れるのね。切るわよ》
《あわわ、ちょっと待ってよ!!》
慌てるさやかの声を聞いて、ほむらそのままテレパシーを続けた。
《早く要件を言いなさい》
《マミさんとなぎさをどこかで見かけなかった? 連絡しても繋がらないんだよね》
《いいえ、知らないわ。切るわよ》
無情にもそう告げるほむらに対して、さやかは《えぇ……》という非難の声を上げる。
《そりゃないっ……》
《さやかちゃん?》
「えっ!?」
ほむらとさやかのテレパシーの中に誰かの声が割り込んできた。その声は二人とも聞き覚えのあるもので、ほむらは咄嗟にまどかの方へ振り向いた。
《今の声ってまどか!? ちょっとどういう事よ!!》
声の主は二人が予想した通りまどかだった。彼女はほむらを見ながら頭を掻き、照れくさそうに笑っている。ほむらはさやかの問いにこう答えた。
《偶然見つけたのよ》
《偶然って……》
ほむらの答えにさやかは溜息交じりの声で呆れていた。
《ごめん、さやかちゃん。いっぱい話したいことあるんだけど、今からほむらちゃんと行かなきゃいけない所があるから……》
《えっ!? ちょっ、まっ……》
またも慌てだすさやかに対してほむらは一言。
《切るわよ》
そう伝えると、ほむらはさやかとのテレパシーを終えた。彼女は少しくたびれた様子を見せると、まどかの方へ近づく。
「まどか、あなたテレパシーを使えるの?」
「うん。なんだかそうみたい」
「そう……」と答えたほむらはまどかの両手中指の方に目を向けた。そこには指輪らしきものはない。他にも観察してみたが、変わったところといえば腰にピンクの長袖ベストを巻き付けていたくらいだった。きっと彼女なりのファッションなのだろう。
「けど、私達のようにソウルジェムないわよね? なぜかしら……」
「もしかしたら円環の力が少し働いているのかもしれないよ」
「なるほど。そうね、まどかならあり得るわね」
まどかの答えにほむらはゆっくりと頷く。するとまどかは又しても彼女の腕を掴んで引っ張り始めた。
「そんなことより早く行こうよ!!」
「ええ。だからそんな強く引っ張らないで」
嫌がる素振りを見せるほむらの頬にはえくぼが見えた。この状況を楽しんでいるのかもしれない。彼女はそのまま、まどかと共に服屋の中へ入っていった。
さやかがほむらにテレパシーをした少し前、マミとなぎさはこの世界のなぎさの母である女性と一緒に狭い路上を歩いていた。空はすでに黄金色となり、多くの人が家へ帰宅しているのを窺えた。マミ達はというと、沢山の荷物を手に抱えて女性の家へ向かっていた。特になぎさが抱えている荷物の量は非常に多かった。
「ごめんなさいね、買い物に付きあわせてしまって……」
「いいですよ。そう簡単に私達が探している人は見つからないと思いますから。それに……」
マミは視線を隣にいるなぎさの方へ向ける。凄い量の荷物を抱えているはずなのに、なぎさはとても微笑ましい表情をしていた。
「なぎさちゃんもこんなに嬉しそうですし」
マミの言葉が聞こえたのか、なぎさは反応して頭を縦に振る。するとマミは女性に聞こえないくらいの音量で彼女に一つ尋ねた。
「そういえば元の世界のなぎさちゃんのお母さんってどうしているの?」
それを聞いたなぎさは突然顔を下に向け委縮してしまった。マミは慌ててなぎさに詫びると、彼女は顔を上げてくれた。そんな彼女の目には涙を浮かべている。
「わからないのです……お母さんは私が魔法少女になった辺りから体調を崩し始めたのです。いつも看病していたけど、ある時私のソウルジェムがどす黒く濁ってそれで……」
「そう……辛かったのね」
気に掛けたようにマミはなぎさのことを見つめ、優しく言葉を投げ掛けた。するとなぎさは涙を拭って彼女に笑顔を見せる。
「だから、こうやってまたお母さんと楽しく話せて……とても嬉しいのです!!」
「なぎさちゃん……」
なぎさはその表情を女性の方にも見せた。女性はそれに笑みで返す。三人の間でどっと笑いが起きた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、何!?」
丁度その時だった。マミ達の後ろから誰かの叫び声が聞こえたのだ。
「あっちから声がするのです!!」
そう遠く離れていないと判断した三人は荷物を木の陰に隠し、急いで声がした方へ向かった。
「こ、これは……」
彼女達が現地へ到着した時、辺りは悲惨な光景と化していた。そこはいくつか土管が置かれた空地である。地面には鮮血が広がり、手形のベルトと魔宝石の指輪が落ちていた。その上空には舌を出して口周りを舐めている魔女の姿がある。
「魔女? ……けどこの魔女、見覚えがあるわ」
マミがその魔女を見てそう呟く。胴体は黒でとても長く、顔はピエロのようだった。
「……私の魔女なのです」
「えっ!?」
「なぎさ……」
彼女達の前にいたのは、この世界のなぎさが魔女化した姿―――お菓子の魔女だったのだ。なぎさの答えにマミは驚きを隠せない様子で息を呑み、女性は地面に膝をつけていた。
「感動の再開だな。どうだ、久々に娘と会えた感想は?」
その時、三人の近くから誰かの声が聞こえてきた。マミ達は声のする方に振り向くと、土管の上に一人の男が座っていた。髪は金色で、黄色のTシャツの上に赤いベストを羽織っている。公園の近くで密かに三人を眺めていた人物だった。
「な、なんですかあなたは!!」
「『仁藤攻介』。しかし、我は『仁藤攻介』であって、そうでないもの」
「ど、どういう意味?」
マミの問いに面倒くさそうにする『仁藤』という男は、彼女の言葉を無視してお菓子の魔女の方へ顔を向けた。
「それより倒さなくてもいいのか? また犠牲が出るぞ?」
「な、なぎさを倒すことなんてできるわけ……」
女性は目に涙を浮かべながら頭を横に振る。すると『仁藤』という男はその反応を見て嘲笑い始めた。
「そうか。なら我が奴を倒し……いや、食ってやろう」
「えっ?」
『仁藤』という男がそう言い放った瞬間、彼の体は異形のものへと化した。皮膚は金色に輝き、胸部にはバッファロー、左右の肩にはそれぞれイルカ、隼、そして下半身の後ろにはカメレオンの頭部の意匠が見られる。そして頭部は金色の毛を靡かせながら獅子の如く変形した。
「ファ、ファントム!?」
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!」
『仁藤』という男は異形のものになると、両手を目一杯前に広げ獅子の如く雄叫びをあげた。三人の前に現れた異形のもの―――ファントム・キマイラだった。
というわけで、オリジナルファントム・キマイラさんの登場です(オリジナルではないけども)
そして次の辺りからシリアスになるかもです。
準備ができ次第、また投稿しようと思います。