まどか☆マギカ in Magic Land   作:ウボハチ

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元は前話『最後の希望』に付け加えるはずの内容でしたが、時間が経ってしまったので新規で投稿します。
それでは――大変遅くなってしまい申し訳ないです。やっと落ち着きを取り戻したので投稿していきます。ただ、pixivの方で投稿している『まどか☆ハーツ』の関係上、やはり投稿ペースは遅いものになると思いますがご了承ください。
駄文ですがよろしくお願いします。




最後の希望―その二―

「これで準備は整った」

 

絶望により、自身のソウルジェムを黒く濁らせていくほむら。そんな彼女を見下すように眺めるソーサラーはせせら笑っていた。

 

「──金色の魔法使い」

 

すると、ほむらの隣で立ち尽くしていたキュゥべえがふと口を開く。

 

「言われたことはちゃんと成し遂げたんだ。この子をここへ連れてくるキッカケをなれっていうことを──だから、約束通り母さんと会わせてくれよ」

「わかっているさ。そう慌てるな」

 

軽く声を荒げるキュゥべえを落ち着かせるソーサラー。そして彼はローブを靡かせながら後ろへ振り向くと、『タナトスの器』の前に設けられた鉄製の取っ手を指差した。

 

「お前を母親と合わせるのは、そのレバーを引いてからだ」

 

彼が指し示すレバーには見たこともない文字が彫られており、不気味ささえ感じられた。しかし、キュゥべえはそんなことは気にせず、

 

「ほっ、本当だね! それを引けば母さんと──なら、僕が引くよ!」

 

と、興奮気味で名乗りを上げた。

 

「ええ、どうぞ」

 

ソーサラーはこうべを垂らしながら、まるで執事のように左手を腰の後ろに添え、右手でキュゥべえの行く先を指し示した。

キュゥべえはソーサラーに指示されるがままに『タナトスの器』の前に設けられたレバーの元まで歩み寄る。その足取りはどこか重く、まるで足首にダンベルでも括り付けているかのようだった。

 

「こ、これで母さんと──」

 

レバーの前へ辿り着いたキュゥべえは正面を向いたままソーサラーに尋ねた。そんなキュゥべえの声はとても震えており、額からは一筋の汗が流れ落ちる。

 

「ええ、会えるとも──」

 

ソーサラーの言葉を耳にしたキュゥべえはゴクンと息を呑むと、両手でしっかりとレバーを握りしめた。

 

「母さんっ!」

 

そうキュゥべえが声をあげると、勢いよく握りしめたレバーを下へ引きおろした。

するとどうだろう。レバーが引き下ろされると同時に、『タナトスの器』へ金色に輝く魔力が送り込まれ、部屋には轟々と鳴り響く音が聞こえてくるではないか。

さらに、『タナトスの器』の中に積み上げられた人骨の隙間からは、キュゥべえの想いを応えるかの如く、無数の光が放射されているのだ。

 

「凄い──」

 

その光景に目を奪われているキュゥべえはぽつりと言葉を漏らした。そして、ハッと我に返った彼はソーサラーの方へ振り向く。

 

「ソーサラー、やったよ! さあ、早く母さんと──」

「ああ、会わせてやろう──あの世でな」

「えっ?」

 

ソーサラーの言葉は顔を顰めるキュゥべえ。そんな彼の反応が合図となり、突然『タナトスの器』から燦々と放たれていた光が消え失せ、代わりに闇のように黒い霧が噴き出してきた。

 

「なっ、これは──うっ!?」

 

急な展開に動揺を示すキュゥべえだったが、黒い霧が部屋中を覆い尽くすと、突然彼は呻き声を上げて床へ崩れ落ちた。

同時にまどかを除く磔状態にされたさやか等の魔法少女、そして床にうつ伏せで倒れているほむらにも苦悶の表情が浮かび上がった。

 

「この霧が今後、どのような行動を取るか教えて上げよう。まず霧は私達が入ってきた扉を通って外へ漏れ出す。漏れ出した霧は数十秒もしない内に上空へあがり、やがて地球を覆い尽くすだろう──」

 

ソーサラーはキュゥべえや魔法少女達を嘲るような調子で語り始めた。

 

「地球を覆いつくした霧はその後どうなると思う? このまま集束して金色の魔法陣を作り出すのさ。──そう、私の魔法陣だ。そして──」

 

ソーサラーは話を中断すると、すっと右手を真上へ挙げた。

 

「うわああああああ!!」

 

その途端、キュゥべえは先程よりも悶え苦しみ、その体には紫の亀裂が生じ始めた。

 

「ああああああっ!!」

「うがああああああっ!!」

 

まどかを除く魔法少女達も例外でなく、彼女達が身悶える毎に、それぞれのソウルジェムは急激に黒く穢れ、その奥から魔女の卵──グリーフシードの影が浮かび上がってきた。その光景を目にしているソーサラーはほくそ笑みながら、

 

「この世界に住む魔法使い、魔法少女は絶望する」

 

とドスの利いた声で答えた。

 

「『タナトスの器』は膨大な魔力を蓄積するために作られた装置だ。──しかし、それはあくまで表向きの話。本来の役目は蓄積された膨大な魔力を逆流させ、この世界の魔法使い、魔法少女全てを絶望させる装置なのだ。しかし、装置を起動させるには、ここへ溜め込まれた魔力の持ち主の絶望──つまり、円環の理、鹿目まどかの絶望が必要となる。いくら私の魔力が円環の理の影響で強化されたからといって、神に等しき存在を絶望させるのは至難の業だ。そこで考えたのは、鹿目まどかがもっとも大切に思う魔法少女──そう、お前達を絶望させることだった!」

 

力の入った声でそう言い放つソーサラーは、磔状態にされたさやか達を指差した。彼女達は依然として魔女になるかならないかのせめぎ合いを繰り広げており、彼に反論する余裕さえない。

 

「だから私はお前達を鹿目まどかのように拘束はせず、絶望のキッカケを与えるために一時の間、この世界へ野放しにしたわけだ。――友と共闘できて楽しかっただろう? 実の親と再会できて嬉しかっただろう? そんな幸福が崩れ去った時こそ絶望の色は濃くなり、さらに鹿目まどかへ与える影響も大きくなる。そして今、暁美ほむらのソウルジェムが黒く濁り出したことで鹿目まどかは絶望し、このように『タナトスの器』が起動した。これでこの世界はファントム、魔女しか存在しなくなる――これこそ、私の望んだ世界だ!!」

 

そう語り終えたソーサラーは高らかに笑い始め、その声は部屋中に反響した。

 

「じゃ、じゃあ僕との約束は――嘘だったという、のかい?」

 

すると、先程までもがき苦しんでいたキュゥべえ――いや、今でも絶望して体中に紫の亀裂を生じている彼がよろよろと立ち上がり、涙ぐんだ様子でソーサラーに訊いた。

 

「だから何度も言っているだろう。会わせてやると――あの世でな」

 

ソーサラーは鼻で鳴らしながら答えると、突如右手でパームオーサーの向きを操作し、そのまま嵌められた指輪をベルトのバックル部へ翳した。

 

『イエス! バニッシュストライク!! アンダースタンド?』

 

ベルトから音声が流れると同時にソーサラーが手を前へ差し出すと、その掌に小さな金色の魔法陣が出現し、その場で回転し始めた。魔法陣は回転する毎に風船の如く膨れ上がり、気づけば人間一人ほどの大きさがあるエネルギー球体となった。

 

「そ、そんな――」

「さらばだ」

 

キュゥべえが絶望に満ちた表情を浮かべる中、無情にもソーサラーは彼に向けてエネルギー球体を放った。

 

「うわああああああっ!!」

 

ソーサラーの放ったエネルギー球体はキュゥべえに直撃すると大爆発を起こし、キュゥべえは悲鳴を上げた。しかし、爆発が静まるとその声も聞こえなくなり、彼が立っていた場所には何一つ残されていなかった。

 

「うぅっ――」

 

キュゥべえが消滅したことで、ほむらを縛っていたチェインの魔法が解け、彼女は自由に行動できる態勢となった。

 

「まどか――ごめんなさい。私、あなたを裏切っていたのね――」

 

しかし、ソーサラーによって精神的に追い詰められたほむらが動けるはずもなく、彼女の口からは繰り返し懺悔の言葉が発せられていた。そこにはいつものような冷静沈着さは微塵も感じられず、眸からはただただ涙を流し続けていた。

 

「そうだ。お前の身勝手な行動が鹿目まどかに対する裏切りとなり、結果絶望へと繋がった。これは全て暁美ほむら、貴様の責任だ」

「うぅっ──」

 

そんなほむらへさらに辛辣な言葉を投げかけるソーサラー。彼女はその言葉を否定することができなかった。

 

「さあ、早く絶望して魔女になるがいい」

「──そうね、それがいいわ」

 

ほむらは自分の最後を悟った様子で軽く頷くと、視線を磔状態にされたまどかの方へ向けた。

 

「まどか──今まであなたの想いを踏みにじってばかりいてごめんなさい。まどかが絶望したなら私の生きる価値はないわ。だから――さよなら」

 

ほむらはそうまどかに伝えると、自らの瞼をゆっくりと閉じた──

 

 

 

 

 

『絶望しないで、ほむらちゃん!!』

「何!?」

 

その時だった。突然少女の声がソーサラーの頭の中へ流れ込んできたのだ。その声の主は明らかにまどかのものであり、流石のソーサラーも驚きの声を上げながら体を彼女のほうへ向ける。

 

「──まどか?」

 

ソーサラーと同じく、まどかの声を直接脳へ流れ込んできたほむらは閉じた瞼をゆっくりと開き、まどかの方へ視線を移した。

そこには先程までのまどかの姿はなく、白のドレスに長く垂れ下がる髪、そして体から放たれる桃色の輝きは神々しさが感じられる。但し、その瞼は依然として閉じたままだった。

 

『さやかちゃん達も絶望しないで!!』

「えっ、まどか?」

「か、鹿目さん?」

 

さやか達もまどかの呼び掛けに応じるように、悶えながらも彼女のほうへ顔を向けた。

 

『この世界は金色の魔法使いが私の魔力を利用して作り出した世界──つまり、この世界の創造主であるあの魔法使いを倒せば、全てが元通りになるんだよ』

「じゃ、じゃあ恭介や仁美は──」

「お、お母さんは──」

『うん、戻ってくるよ』

 

恐る恐る疑問を投げかけるさやかとなぎさに対し、まどかは温情のこもった言葉をかけた。

その言葉を耳にしたさやか、なぎさは目を潤ませながら鼻を啜った。

 

「けど、まどか――私は取り返しのつかないことをしてしまった。あなたの想いを裏切って絶望させてしまったのよ」

 

そんな中、ほむらは眸の奥を自身のソウルジェムのように黒く濁らせながらまどかを見つめていた。いくら彼女の声を聞いたとしても、そう簡単に立ち直ることはできないらしい。

 

『――確かにほむらちゃんは私の想いを裏切った。それは金色の魔法使いの言う通りだよ』

「だからこのまま私を――」

『だからって絶望したわけじゃない。それは金色の魔法使いが言っているだけであって、実際は私の魔力が全て吸い出されて、存在そのものが消えようとしているだけだよ』

 

まどかがそう答えると、ほむらは驚愕した様子で顔を上げ、再び彼女の顔を見つめた。

 

「絶望――してない? でもなぜ? あなたは私に裏切られたのよ? あなたの純粋な想いを踏みにじって新しい世界を作り出し、挙句の果てに偽りのまどかと有意義な時間まで過ごしてしまった。こんなこと、誰だって許すはずがない。それなのになぜあなたは絶望せずにいられるの!」

 

いまだ苦悶の表情を浮かべ、すでにソウルジェムがグリーフシードになりかけている中、ほむらはまどかに向けて力強い言葉を投げかけた。

 

『許せる、許せないの問題じゃないよ、ほむらちゃん。だって私達――最高の友達でしょ?』

 

「えっ?」まどかの返答にほむらはまるで鳩が豆鉄砲を食ったように固まった。

 

『ほむらちゃんは私を絶望の運命から救い出すために何度も時を戻した。私を円環の理から裂く時だって、ほむらちゃんなりに私のことを思ってのことだった』

 

「それは――」思わぬことをまどかに言われたほむらは、思わず口籠ってしまう。

 

『そこまで私のことを考えて行動してくれたほむらちゃんだもん。だから今度は私の番だよ』

「ふんっ、今の貴様にいったい何ができるというんだ? この世界の魔法使い、魔法少女はすでに絶望し始め、貴様の魔力の殆どは『タナトスの器』へ蓄積された。もう止めることはできないぞ」

 

丁度その時、まどかとほむらの話に割り込んできたソーサラーは鼻を鳴らしながら強く言い放った。

 

『確かに今の私には何もできない──けど、みんなの希望になるぐらいならできる!!』

 

そうソーサラーに負けんばかりの力強く言葉を送った途端、まどかの体から放たれていた桃色の輝きがほむらやさやか達五人の魔法少女のソウルジェムに注ぎ込まれた。すると、彼女達の顔から苦悶の表情が嘘のように失せ、それぞれのソウルジェムから穢れが消え去って輝きを取り戻した。

 

「こ、これは──」

『私の体に残っていた魔力の殆どをほむらちゃん達に分け与えたんだよ。これでしばらくの間は装置の効力は受けないよ』

 

ほむらの疑問にそう返答するまどか。そんな彼女達のソウルジェムの輝きは普段よりも一段と増しており、まさに神の加護を受けているに等しかった。

 

「馬鹿な!? そんなことをすれば貴様の体は『タナトスの器』の搾取に耐えきれず、数分もしないで死に至るぞ!」

「そんな──まどか!!」

 

ソーサラーの口から漏れた言葉を聞いたほむらは目を見張り、慌てて声を上げた。

 

『わかってる。けど、みんなが絶望していくところなんてこれ以上見たくないから。それに──』

 

そこでテレパシーが途切れると、先程まで女神のような姿であったまどかの容姿がいつものものへ戻り、同時に彼女はゆっくりと瞼を開いてほむらを見つめた。

 

「みんながきっと──悲しみに満ちたこの世界を終わらせてくれる──そう信じてるから…………」

 

そう自らの口で伝えると、まどかは再び瞼を閉じて、ガクンとその場で気を失った。

 

「まどか──」

 

気絶したまどかを見つめながらそう呟くほむら。すると突然、彼女はクワッと目を大きく見開いて魔法少女の姿となり、盾の中から木製の黒い弓を取り出した。さらに弓を前に構えると、三本の紫色の矢を生成し、ソーサラーに目掛けて一斉に放った。

 

「なっ、貴様!」

 

ソーサラーは放たれた三本の矢を目にすると、すぐさまパームオーサーの向きを操作して、右手に嵌められた指輪をベルトに翳した。

 

『リフレクト・ナウ』

 

ベルトから音声が流れると、ソーサラーは右手の掌を前に出して金色の魔法陣を出現させた。魔法陣はソーサラーの身長ほどの大きさがあり、その表面からは僅かながら雷が迸っていた。

まずほむらが放った一本の矢はソーサラーに目掛けてのものだった。彼は出現させた魔法陣をその矢と衝突させ、雷を帯びさせながら矢をほむらへ打ち返した。

 

「くっ!」

 

ほむらは打ち返された矢を盾で防ぎながら軌道を逸らし、そのまま地面に向けてはたき落した。

 

「──かかったわね」

 

その瞬間、ほむらは口元をニヤリと綻ばせ、残り二本の矢の軌道をそれぞれ左右に曲げた。二本の矢はソーサラーに当たることはなく、彼の後方に向けて飛んでいった。

 

「貴様、どこを狙って――はっ!?」

 

ソーサラーは焦りの声をあげ、すぐさま背後へと視線を向けた。

ほむらの放った矢は弧を描くように曲がり、右はさやかと杏子、左はマミとなぎさの手首につけられた枷に向かって直撃し、粉々に破壊した。

 

「なっ! くっ――」

『バリアー・ナウ』

 

ほむらの放った矢がまどかの手足首へ向かう直前、ソーサラーは新たな指輪をベルトに翳し、まどかと『タナトスの器』を透明な結界に囲んだ。そのため、ほむらの放った二本の矢は結界に阻まれ、「ガキンッ」という金属音を立てながら床に落ちた。

 

「うわっ――たあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

同時に、ほむらの矢によって両手が解放されたさやか達は、自らの足首に嵌められた枷を素手で破壊して床へ着地。そのままほむらの元へ駆け寄った。

 

「できれば、足首の方も破壊してくれたらよかったんだけれどなあ」

「手首だけでも破壊してあげたのだから感謝しなさい」

「あーあ、もう元に戻っちゃったの、ほむら。さっきのほむら、凄く可愛かったぞ?」

「だーまーりーなーさーい」

 

と、ほむらの隣に立ち並んださやかは彼女に軽くちょっかいを出し、杏子やマミ、なぎさはそのやり取りを見て笑みを零していた。

 

「貴様等──」

 

そんな和んだ雰囲気の中、ソーサラーはゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「金色の魔法使い──」

 

さやか達は彼のほうへ顔を向け、その場で魔法少女の姿へと変わった。そこには先程までの笑みはなく、怒りを剥き出しにしていた。

 

「あんただけは絶対に許さない。あんたのせいでまどかや恭介、それに仁美──みんなが傷ついたんだ」

「絶対に生かしておけねぇ」

 

さやかは左手で握り拳を作り、肩をプルプルと震わせた。杏子は槍の先端をソーサラーに向け、今にも飛びかかろうという雰囲気を醸し出している。

マミは自身のスカートの中から何十丁ものマスケット銃を構え、なぎさはラッパを口元にあてていた。

 

「金色の魔法使い──あなたにはここで消えてもらう」

 

ほむらは弓を握りしめながらそう言い放った。




久しぶりに書いたせいでコツが掴めていない。前の話と辻褄が合わない所があれば言ってください。
ちなみに投稿の報告については、最近始めたTwitterに随時報告していく予定なので、そこでご確認下さい。
次は十二月に入るまでに投稿したいです。

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