まどか☆マギカ in Magic Land   作:ウボハチ

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久々の投稿。最近ちょっと取り組んでいることがあるから中々進まない。
駄文ですが、よろしくお願いします。


キュゥべえ

「ほむらちゃん、信用しちゃっていいの?」

 

まどかとほむらは少年の後についていく。彼は一言も話さず、ただ前を向いて歩いていた。そんな彼を不審そうに見つめるまどかはほむらの耳元でそう囁く。

 

「信用していないわ、まどか。けど彼は私達の知り得ない情報を持っている様子だった。ただ立ち止まっているよりマシよ」

 

ほむらも少年に聞こえぬよう、まどかの耳元で囁いた。

少年の名前は『星 臼兵衛』。その名前、そして彼の体から醸し出す雰囲気はまさにインキュベーターそのものだ。ただ、インキュベーターであるか問いただしてみても、彼は首を傾げるばかりである。

 

二人が疑いの目で彼の背中をじっと見ながら歩いていると、突然彼は足を止めた。まどかは意表を突かれたかのように体のバランスを崩し、彼にぶつかりそうになる。ほむらは慌ててまどかの前に立ち、ぶつかるのを未然に防いだ。

 

「ここだよ。最近良くない噂が後を絶たないっていう建物は……」

 

少年の視線の先には十階建てのマンションがあった。マンションの壁はあちこち廃れ、中から人気は感じられない。

 

「そう。ここが……」

「ここでごく偶に『銀色の魔法使い』が見かけられるって噂さ。そして……」

「『金色の魔法使い』の姿もあった。そうだよね、キュゥべえ?」

 

少年はゆっくりと顎を引く。さりげなくまどかは少年のあだ名をつけたようだ。彼はその件に関して気に留めていない。

 

「けどあくまで噂だ。必ず姿を現すってわけじゃない。空振りに終わることが多い。たとえ姿を見せたとしても、その殆どが彼に消されてしまうのさ」

「とにかく入りましょう。……まどか、本当についてくるの?」

 

ほむらはまどかの方に顔を向けると、気掛かりな様子でそう尋ねた。

 

「うん。私、心配だから……このままじゃほむらちゃんまでいなくなっちゃうと思って……」

 

まどかは微笑みを見せてそう返事をした。

 

「大丈夫。私は元の世界に戻るまでいなくなったりしないわ」

 

ほむらはまどかを慰め、ここで待っているよう説得を試みる。

 

「けどやっぱりついていく!!」

 

しかし、まどかは一歩も引こうとしなかった。ほむらも諦めた表情で溜息をつく。

 

「わかったわ。キュゥべえ、あなたもついてきなさい」

「嫌と言ったって無理矢理連れて行くんだろ?」

「えぇ」

 

ほむらの返答にキュゥべえはやれやれと頭を横に振った。

 

「わかった。僕も一緒に中へ入るよ」

 

こうして三人はマンションの中へ入っていった。

マンションの中にエレベーターなどの機械類は存在せず、骨組みのみとなっていた。柱の一本一本はしっかりとしているため、倒壊する恐れはないだろう。

 

「ほう、珍しい……ターゲット自ら敵地へ出向いてくるとは……」

「だ、誰!?」

 

ほむら達が階段で次の階へ上がった時、後ろの方から男の声が聞こえてくる。声のする方へ振り向くと、男が柱に寄り掛かりながらドーナツを食べていた。

 

「俺はドラゴン。赤髪と青髪の餓鬼は俺が預かっている」

 

ドラゴンはドーナツを平らげ、指に付いた砂糖を叩き落とすと彼女達にそう伝える。

 

「き、杏子ちゃんとさやかちゃんを!?」

「では、あなたが殺したのね。……志筑仁美を」

 

まどかとほむらは咄嗟に身構えてドラゴンを睨み付けた。

 

「志筑仁美? ああ、緑髪の餓鬼か。そいつだけじゃない。一緒にいた魔法使いもこの手で消した」

「魔法使い……まさかあなた、上条恭介まで!?」

 

ほむらは目を大きく見開き、無意識に声を荒げてしまう。隣に立つまどかは青ざめた表情をした。

 

「そんな……上条君……」

「こんなことして、あなたの……あなた達の目的は一体何なの!!」

 

ほむらは拳を強く握りしめ、鋭い目つき怒鳴る。彼女はすでに魔法少女の姿に変わっていた。

 

「さあ、なんだろな。……まあ、お前が知る必要はない……」

 

ドラゴンは体をほむら達の方へ向け、ゆっくりと近づいてくる。彼の足が地面へつく毎に、彼の体から凄まじい気迫が漏れて出してくる。ほむらが無意識に一歩後退りする中、彼はドライバーのレバーを引いて、ハンドオーサーを操作した。

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!』

 

ベルトが虹色に輝くと共に、奇怪な音声がほむら達がいる階層一帯に響き渡る。

 

「お前はただのターゲット……いや、人柱として役立って貰うからな」

「人柱?」

 

ほむらはドラゴンの言葉に眉を顰める。彼はポケットから赤い指輪を取り出すと、左手の中指に嵌めこんでハンドオーサーへ翳した。

 

『フレイム・プリーズ! ヒー! ヒー! ヒー・ヒー・ヒー!!』

 

ドラゴンの目の前に炎の魔法陣が出現し、彼の体を包み込む。すると、そこには赤い宝石をモチーフとした魔法使い、ウィザードの姿があった。

 

「まずいよ、あれは『銀色の魔法使い』だ!!」

 

まどかの背中に隠れているキュゥべえは、体を震わせながら声を張り上げる。ウィザードは右手の中指に指輪を嵌めると、ハンドオーサーへ翳した。

 

『コネクト・プリーズ』

 

ウィザードの横に小さな魔法陣が出現すると、その中に手を突っ込んでウィザーソードガンを取り出す。

 

「さあ、ショータイムだ」

「まどか、離れていて!!」

「ほ、ほむらちゃん!?」

 

ほむらはまどかとキュゥべえを近くの柱へ隠すと、盾の中から銃型のウィザーソードガンを取り出し、そのままウィザードの方へ駆けて行った。

ほむらはウィザーソードガンに魔力を込めて数発の弾丸を放つ。ウィザードは体の向きを変えて咄嗟によけようとするが、弾丸が彼の後を追いかけてくる。ウィザードは仕方なく手元のウィザーソードガンで弾丸を弾き飛ばした。

 

「はっ!!」

 

ほむらは休むことなく攻撃を続ける。彼女に接近したいウィザードは対応に困っている様子だった。

 

「やるな。ならこれだ」

 

ウィザードは一旦柱の後ろに隠れると、右手の指輪を嵌めかえる。もう一度ほむらの前に姿を現すと、彼女を見つめながら嵌めかえた指輪をハンドオーサーへ翳した。

 

『バインド・プリーズ』

 

ほむらの周りに無数の魔法陣が出現し、中から赤く熱せられた鎖が彼女の体に巻き付こうとする。ほむらは咄嗟に盾を起動させると、時の流れを止めてしまった。

ここはほむらだけの世界。まどかやキュゥべえ、そしてウィザードが全く動作を見せない。いや、することができないのだ。彼女は自身の前で動きを止めた鎖に触れぬよう脱出すると、ウィザードの前までやってくる。

 

「いくら『銀色の魔法使い』であっても、弾丸を額に受ければ終わりよね」

 

ほむらはそう呟くと、ウィザードの頭部の高さまでウィザーソードガンを持ち上げて構える。勿論彼に触れてしまえば時間停止の効力が消えてしまうので、頭部との間に少し感覚を開けると、弾丸を数発撃った。時間停止中のため、弾丸は彼の頭部の手前で止まる。ほむらは迷いなく時間停止を解いた。

 

『バリアー・ナウ』

 

「えっ!?」

 

時間停止が解かれると同時に、ウィザードの前に障壁が出現した。ほむらが放った弾丸は障壁に阻まれ、ウィザードに当たることはなかった。彼は咄嗟に顔を伏せたが、安全であることを確認すると、ウィザーソードガンのハンドオーサーを起動させる。

 

『キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!』

 

「やってくれたな」

 

ウィザードはドスの利いた低い声で言い放つと、左手の指輪をウィザーソードガンのハンドオーサーへ翳す。

 

『フレイム! スラッシュストライク!! ヒー・ヒー・ヒー!』

 

刀身に炎の魔力が付加すると、ウィザードはほむらの前でウィザーソードガンを振り下ろす。刀身から炎の衝撃波が放たれた。ほむらは左腕に装備された盾を前に構えるが、あまりの衝撃で完全に防ぎ切ることができず、後ろへ吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「ほむらちゃん!!」

 

ほむらはまどか達が隠れる柱の所まで吹き飛ばされ、体を地面へ激しく打ち付ける。

 

「まどか、来ちゃ駄目!!」

 

頭部を強打したせいですぐ立ち上がることができないほむらの前にまどかが近寄ってきた。心配そうな表情をしているのが窺える。彼女はほむらの前へ来ると、膝を地面につけて手を握った。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ウィザードは雄叫びをあげて倒れているほむらに接近し、ウィザーソードガンを振り下ろす。まどかは瞬時に立ち上がると、両腕を横に大きく広げ、ウィザードの前に立ちはだかった。

 

「まどかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ほむらは目を大きく見開いて右手を前へ伸ばした。ウィザーソードガンの刀身がまどかの眼前まできた。

しかし、刀身はまどかの眼前ギリギリのところでピタッと止まる。すると、ウィザードはウィザーソードガンを投げ捨てて声を荒げた。

 

「あっ!? どういうことだ!!」

 

ウィザードはまどか達の前で激しく怒鳴り始めた。彼の視線が右往左往しているところを見ると、二人に言っているわけではなさそうだ。おそらく何者かとテレパシーをしているのだろう。

 

「あぁ? だから俺がこいつを絶望……」

 

ウィザードは一瞬口を止めると、「なるほどな」と呟いて変身を解く。人間態のドラゴンは不敵な笑みを浮かばせていた。

 

「命拾いしたな、お前」

 

ドラゴンは地面に転がっているほむらを見下すと、ファントムの姿に変わってマンションから飛び去ってしまった。

 

「ど、どういうこと?」

「私にもわからないよ……」

 

呆然とするまどかとほむらは互いの顔を見つめ合った。まどかは訳が分からないという表情をしている。

 

「はっ、まさか!!」

 

ふと何かに気づいたほむらはまどかの手を借りて立ち上がると、キュゥべえに近づき、勢いよく胸倉を掴んだ。

 

「あなた、あの魔法使いに何か指示していたんじゃないのかしら?」

「僕がなんでそんなことする必要があるんだい?」

 

キュゥべえは不思議そうな表情でほむらの顔を覗き込む。そんな彼の態度にほむらは苛立ちを隠せず怒鳴りつけた。

 

「あなたが『金色の魔法使い』だからよ!!」

「その証拠は?」

 

きょとんとした表情をするキュゥべえは頭を傾げる。ほむらは舌打ちをすると、彼の胸倉から手を放した。

 

「ない。けど、あなたは他人には言えない秘密を抱えている。それだけは分かるわ」

「そうかい……」

 

ずっと同じ表情でいるキュゥべえを見ていると、なんだかこちらがおかしくなっていく。そう感じたほむらは彼に背を向けると、まどかの方へ歩み寄った。

 

「ほむらちゃん、このあとどうする?」

 

まどかの問いにほむらはある方向を見つめた。その方向は先程ドラゴンが飛び去った場所である。

 

「あの魔法使いが向かった方へいくわ。きっと何かあるかもしれない」

「そうだね。行ってみよう!!」

「キュゥべえ、あなたも来なさい」

 

ほむらはキュゥべえの方に顔を向けると、キッと鋭い目つきで睨み付けた。

 

「はいはい」

 

キュゥべえは呆れた様子で溜息をつくと、ほむら達に近づく。そのまま三人はドラゴンが飛び去った方面へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「ちなみにキュゥべえ、こちらの方角に変な噂が立っている場所はないかしら?」

 

ほむらは頭を唸らせながらキュゥべえに訊いた。あれから数時間は経過するが、ドラゴンを見つけられていない。彼女は苛立ちを隠せない様子で髪を掻き毟った。

 

「うーん、そうだね……あっ!」

 

キュゥべえに思い当たる場所があるらしい。三人は早速その場所へ向かうことにした。

 

「ここ……元の世界だと私の家がある場所だね」

 

住宅街が立ち並ぶ中に一軒、見覚えのある家が見えてきた。まどかの家だ。勿論、本当の彼女の家ではない。

 

「ええ。人は住んでいないようだけど」

 

その家から人の気配は感じられなかった。ここだけではない。周囲に立ち並ぶ家も微かに生活感はあるものの、雨戸やカーテンが全て閉ざされていた。まだ昼過ぎだというのに奇妙である。

 

「確かここだったはずだよ。奇妙な声が聞こえてくるって有名なんだ。みんな怖がって近寄ろうともしない」

 

その家を指差すキュゥべえの表情は変わらないものの、少し震えているようにも見えた。また、そこから醸し出している雰囲気は魔女の結界にいる時と同類のものを感じる。

 

「入ってみましょう」

 

ほむらはキュゥべえに手招きをすると、彼を先頭に立たせて家の中に入ろうとした。

 

「わ、私も!!」

 

おどおどしていたまどかは勢いよくほむらの腕を掴んだ。ほむらは少しだけ眉間に皺を寄せる。

 

「まどか……やっぱりあなたには待っていてほしいわ」

「それはできないよ。私にとってほむらちゃんは大切だから……離れるなんて無理だよ」

 

まどかの眸を見つめていると、どうもうまく断れない。ほむらは深く溜息をつくと、笑みを見せてから急に真剣な表情になった。

 

「まどか……わかったわ。必ずあなたは私が守る。あとキュゥべえ……」

「はいはい。わかってますよ」

 

キュゥべえはやれやれと溜息をつきながらドアノブを握りしめると、手前へゆっくり引いた。どうやら鍵は掛かってないらしい。家の中は綺麗に整頓されてはいるが、椅子や机、それにキッチンなどの至る所に布が被せられていた。恐らく埃がつかないようにするためだろう。

三人は手分けして一階、二階の隅々まで探索したが、これといった手掛かりはなかった。ほむらは「見つからないわね……」と溜息混じりの声で呟き、この家の玄関へ向かおうとした。その時、彼女は足元で何かを蹴り飛ばしてしまう。

 

「何かしら?」

 

ほむらは腰を下ろして蹴り飛ばしたものを拾うとまじまじ見つめた。それは丸い形状の磁石だった。飾り気のない磁石の表面はなぜか金色にコーティングされている。

 

「ほむらちゃん、ここ……」

 

ほむらはそっとまどかの方へ体を向けた。彼女が指差していたのは冷蔵庫。その表面に一つ、不可解な窪みがある。ほむらは恐る恐るそこにその磁石を嵌めると、突然冷蔵庫の後ろが金色に輝き始めた。冷蔵庫は金色の輝きに呑まれて消滅すると、扉へ変化した。先程の磁石は金色のドアノブとなり、ほむら達の体に緊張感が走る。

ほむらはキュゥべえを見てからドアノブの方へ目をやると、彼はやれやれと首を振りながら扉の前に立つ。そっとドアノブを握って扉を開くと、その先には地下へ繋がる階段が現れた。

 

「……いきましょう」

 

ほむらはまどかと目配せを行うと、キュゥべえを先頭に立たせて階段を降り始めた。一歩一歩階段を降りる毎に、家の外で感じた雰囲気が体全身へ直に伝わってくる。

ようやくゴールだと思われる扉が現れ、ほむら達の額から汗が流れてきた。キュゥべえがそっと扉を開くと、その先には広々とした空間が現れる。

 

「何これ……」

 

ほむらは唖然とした。その空間の壁一面には灰色の大きな布が覆い被せられ、陰気な研究室の雰囲気を漂わせている。しかし、彼女が驚いたのはそこではない。目の前に見上げるほど大きい装置があったのだ。その装置の中には数百という人骨が見て取れる。

 

「『タナトスの器』だ」

 

キュゥべえは目の前の装置を見て口を開いた。

 

「『タナトスの器』?」

「魔力を蓄積させる装置のことさ」

「魔力を? どうして……」

「それはね……」

 

キュゥべえは腰のベルトをチラつかせると、右手の指輪をバックル部に翳した。

 

『チェイン・ナウ』

 

ほむらの前に魔法陣が出現すると、中から鎖が現れて彼女を拘束した。ほむらは拘束された衝撃で体のバランスを崩し、地面に倒れ込む。

 

「キュゥべえ!? ……やはりあなた!!」

「約束は果たしたよ……『金色の魔法使い』」

「へっ?」

 

キュゥべえの言葉を聞いてほむらは呆然としてしまった。何を言ったのか理解していない様子である。

 

「キュゥべえ、ありがとう! いや、焦っちゃったよ。みんな演技下手すぎだって」

「ま、まどか?」

 

まどかは高らかな声をあげながらほむらの横を通り過ぎると、装置の前に立って体を振り向かせた。そんな彼女は満面の笑みを浮かべている。

 

「まあ、上手くいってよかったよ」

「まどか、何をいっているの?」

「何って言われてもね……私は今、大いに喜んでいるんだよ」

「えっ……えっ?」

 

今のまどかが浮かべている笑みからは不気味なものが感じ取れる。ほむらは体を震わせながら非常に混乱していた。

 

「言ったでしょ? ほむらちゃんは私にとって大切だからって……『人柱』としてね」

 

まどかはほむらを見下ろしながらそう伝えると、壁の方に歩いていき、勢いよく布を剥がしとった。そこには行方不明だったさやか、杏子、マミ、なぎさが磔の状態で拘束されていた。四人とも手足を枷がつけられ、気を失っているようだ。

その四人の並びの中心部にもう一人、同様の拘束を施された少女の姿があった。それはほむらがもっともよく知る人物―――そこで甲高い声で笑っている少女と同じ容姿をしていた。

 

「嘘……まどか……」

 




はい。今回はここまで。次は一週間以内には投稿したいです。

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