ヤマトは、隕石を含む宇宙気流での損傷を修理しながら進んでいた。ヤマトの周囲には点滅するように飛んでいるものがある。いわゆる宇宙蛍であった。
「艦の補修は95%終了。もうすぐ完了するわ。」
律子が第一艦橋へ伝える。
「テレサさんから入電ですぅ。」
『わたしはテレザートのテレサ...テレザートのテレサ...』
「はっきり聞こえますぅ。テレサさん、航路の指定をお願いしますぅ。」
『テレザート星はそちらから2時の方向、18万宇宙キロ。航路上に小惑星1があります。』
「了解しましたぁ。千早さん、2時の方向です。」
「了解。2時の方向へ。ようそろー」
『わたしは、テレザートのテレサ...』
テレサの声はか細くなってやがて途切れる。
そのころ、デスラー艦隊では、
「ヤマトを倒すのはかまわない。ですがテレサを怒らせることはわがガトランティスの利益になりません。」
ミルがデスラーとタランに抗議していた。
「ミル、お前は何様だ。この宙域の最高司令官はデスラー総統だ。大帝の命令ならいざしらず、一監察官でしかないお前の指図は受けん。」タランがミルに反論する。
「デスラー総統は個人的な執念で戦っておられる。ガトランティスの戦略のほうが優先されるはずです。」
「ガトランティスの戦略?お前などに戦略だの大帝のご意思だの理解できるとは思えん。ガトランティスの戦略じゃなくてサーベラー長官の「ご意見」だろう。さっきは妨害電波を消したことに抗議し、今度はテレサを怒らせるな、か。ご都合主義のきわみだな。自分の発言の矛盾に気づかないかね。それから残念だが君の案じているヤマトはただいま料理中だ。」デスラーはつぶやく。
「タイムレーダーが反応しています。10時間ほど前の映像です」
「!!」
「律子さん?」
「これはガミラス機だわ。なんか散布されているようね。」
舞は、それが宇宙蛍であることに気がつく。
「至急、宇宙蛍の採取をやめさせなさい。律子、宇宙蛍を分析して。」
艦内放送で宇宙蛍はガミラスがばらまいたもので危険性が疑われるので採取しないこと、すでに採取したものは捨てるように通達がなされる。
「はい。」
「これは...鉄を腐食させるバクテリアです。」
「第二艦橋の重力コントロール装置は無事?」
舞がそうたずねたとき、皆の体が宙に浮く。
「デスラー総統、ヤマトが作戦地点Xを通過しました。」
「何のことだ?」
「ふふふ。ミル君は余計なことに気を使わないでもらおうか。」
「タラン、戦闘空母を送ってヤマトを歓迎してやれ。」
戦闘空母の指揮官は、七色星団の戦いで戦没したバンデベル将軍の弟である。
兄が大バンデベルと呼ばれるのに比して区別のために小バンデベルとも呼ばれる。
「急降下爆撃機発進!」
「飛行編隊発見!右舷前方1500宇宙キロ。」
「主砲制御室は発射可能?、コスモファルコンは発進可能?」舞はたずねる。
「体が、浮いて...思うように...。」
「発進不能です。」
「波動防壁展開!技術班は第二艦橋の修理!」舞は命じる。
波動防壁が展開され、急降下爆撃をなんとか防ぐ。
ヤマトが艦載機を発進できず、主砲を散発的にしか打てない様子がデスラー艦の内部のスクリーンで映し出される。
「か、艦長、春香ちゃん、で、デスラー総統ですぅ。」
通信機に必死にしがみつく雪歩がメインパネルにデスラーの姿を映す。
「ふつふつふ。ヤマトの諸君。久しぶりだね。」
「待っていたよ。こうして対面できて光栄だ。」
「お、赤いリボンのお嬢さんだね。」
デスラーは春香をみつけてつぶやく。
「あなたは、お亡くなりになったはずでは...。」
「ふふふ。確かに死んだ。しかし、執念でよみがえったのだ。」
「彗星帝国の蘇生技術でね。そして彗星帝国内で疎んじられていると。」
舞はにやりとデスラーをみつめる。さしものデスラーも言葉に詰まる。
(この女、どこまで...なぜピンチなのにこんなに平然としてられるのだ。)
デスラーの心は動揺したが平静を装う。
「諸君の長旅をいやすために心ばかりの贈り物をした。早速受け取ってもらえたようで光栄だ。はっはっは。」プツン...
(速くたたみかけないとやられる...)デスラーは相手を嘲笑したはずなのに、心の中で恐怖を覚えた。(あの女がドメルを倒したヒダカマイなのか。)
「主砲、第二艦橋修理完了。」
「見てなさい。ガミ公。サーモバリックモード、主砲発射!」
数十機に及ぶガミラス機は、あっというまに熱風と燃料の誘爆であっというまに消滅する。
「!!」(なんという回復力だ(=原作よりずっとはやいじゃないか)。)
「コスモファルコン発進!」
今度は数十機のコスモファルコンが戦闘空母におそいかかる。
小バンデベルは砲手たちに命じる。
「主砲及びミサイル発射だ!」
「発射装置作動しません。」
「ヤマト1000宇宙キロ!」
「艦尾被弾!」
「飛行甲板第10装甲板被弾!」
「飛行甲板第8装甲板被弾!」
「瞬間物質移送機損傷!」
「第一砲塔中破!第二砲塔大破!」
「司令官...。」
「なんだ?」
「発射装置が...。」
「!!」
そこで小バンデベルが見たものは、発射装置を腐食して乱舞する宇宙蛍の群れだった。
彼はがくぜんと膝をつき頭をかかえた。
「コスモファルコン離脱!散開!」
コスモファルコンは散開する。
「主砲発射!」
ショックカノンの光条が戦闘不能になった戦闘空母を貫いた。
次の瞬間、戦闘空母は煙と爆発光を発して四散した。
「敵艦隊、退却していきます。」
「!!」
「右舷方向、1500宇宙キロに宇宙蛍の大群!」
「春香、わたしたちも逃げましょう。」
「そうですね。千早ちゃん、左舷50度回頭」
「了解。左舷50度回頭」
「艦内に鉄腐食バクテリアがいないか点検して。」
舞が命じる。
デスラーは、タランを呼ぶ。
「タラン。作戦の第二段階だ。準備はできているか。」
「もちろんです。総統。」
「ヤマトがテレザート星を目指す場合、この小惑星の付近を通過します。」
画面にちくわ状の小惑星が映し出される。
「ヤマトは、鉄腐食バクテリアにやられているはずですから修理のためのドッグとしてこの小惑星を利用しようとするでしょう。そこをこの磁力封鎖装置で動けなくします。ヤマトはネズミ捕りにかかったネズミ同然です。」
「ネズミ捕りか。ふはははは。」
デスラーは高笑いするものの、ガミラス本星での戦いと先ほどの鉄腐食バクテリアへの迅速な対処、そしてガトランティス内部での自分の立場を看破した舞に底知れぬ恐れをいだきはじめた。自分はとんでもない化け物と戦っているのではないかという恐怖心が頭をもたげる。
(おそらく力任せな戦い方しかできないガトランティスは、ガミラスと同じ轍を踏むか相手を侮っている分だけもっと悲惨なことになるだろう。)
副官のタランも同様だった。
(あの「宇宙蛍」にあれほど迅速な対処をするとは...今度の作戦も油断ならないな。)
中央作戦室の玉座に座る大帝の前にサーベラーがやってきた。
「それで、デスラーが何をしたというのだ。」
「ミルの報告によりますとヤマト一隻に夢中になっているとのこと。しかも作戦に失敗して取り逃がしたそうです。」
「ヤマトへの攻撃はわしも承知していることだ。しかし、ヤマトは、ナスカ、ゴーランドをやすやすと葬ったというではないか。わしのつかんでいる情報によると二人ともデスラーの忠告を聞かずにヤマトにしてやられたというぞ。どうなのだ、サーベラー。」
サーベラーは反論に窮しあわててとりつくろって答える。
「それはデスラーの勝手な振る舞いが原因なのです。これ以上お見逃しになっては我が帝国のためにならぬと存じます。」
「サーベラー、何を恐れるか。われわれはただ突き進むのみでよいのだ。」
「大帝、われわれはあと150ガトランティス時間でテレザート宙域に達します。今、デスラー総統がテレサを刺激するようなことがあれば...。」
「ゲーニッツ!」ズォーダーは一喝する。
「何度言えばわかるのだ。デスラーのことはデスラーに任せておればよい。」
「は、ははっ。」
「サーベラー長官、よもやこのままでよろしいとはお考えではないでしょう。」
おもいあまってゲーニッツはサーベラーに話しかける。
「ゲーニッツ総司令、これ以上デスラーをほうっておくわけにはいきません。私の意地にかけても。」
二人は顔を見合わせた。サーベラーの眼光がきらめいた。
「空洞のある小惑星発見。」
「ここの指揮は春香に任せるわ。なにかあるかも知れないけど春香なら戦死者なしで切り抜けられる。宇宙蛍の駆除や修理をするならそれでよし。それからテレサのメッセージ解明のための出航だから避けられる戦いは避けたほうがいいわね。」
「はい。」
第一艦橋の面々は承諾した。
「空洞の内部へ進入します。」
ほぼ中央部に達すると春香は
「補助エンジン停止します。」と指示する。
「補助エンジン停止!」真が復唱する。
「艦内内部と船外作業で外面装甲を点検して。」律子が指示する。
その間にデスラー艦隊が小惑星を包囲してしまった。
「磁力線装置作動!」タランがスイッチを押下すると
小惑星の外部と内部には磁力線発生装置が取り付けられており放電が開始される。
「!!」
「何だ!?」
船外作業員が突然の放電に驚く。
「どうしたの?何が起こったの?」
春香が通信機で船外作業員に尋ねる。
「なにか放電がはじまって作業ができません!」
「春香!小惑星全体に放電されて磁力線につかまってしまったわ。至急船外作業中止!」
「船外作業中止してください。」春香が指示する。
「敵艦ですぅ。前にも後ろにも...どうしよう。」
雪歩が伝える。
「すっかり包囲されたようね。」千早がつぶやく。
「船外作業班、収容終わったわ。」伊織が伝える。
「千早ちゃん、補助エンジン始動して!」
「補助エンジン始動!」千早がアナウンスし
「補助エンジン始動!」真が復唱し補助エンジンがふかされるが動く様子がない。
再び「メインエンジン始動!」と千早がアナウンスし、真が復唱する。
「くつ...動かない...。」
しかし、ヤマトの船体に前進する気配はまったくみられない。
「エンジン停止して。エネルギーを蓄積したほうがいいわ。」律子が指示してエンジンを停止する。
「エンジン停止してください。」
「は、春香ちゃん、デスラーから入電ですぅ。」雪歩が悔しさが混じった泣きそうな声で伝える。メインパネルにデスラーの姿が映し出された。
「!リボンのお嬢さんか。艦長はどこだ。」
「わたしは、天海春香という名前があります。艦長は、わたしに指揮をまかせるということでここにはいません。」
「ふつふつふ。ヤマトの諸君。今度ばかりは私の勝ちだ。もう奇跡を期待するのも不可能
だ。そこで潔く死にたまえ。哀悼の意ぐらいは表してやる。はつはつは...。」
画面からデスラーの姿が消える。
「....。」春香は唇をかんだ。
「どうしたらいいんだろう...。なんで艦長はわたしに...。」
春香は沈んだ気分になった。
デスラーは旗艦の艦橋で部下と杯をかわしていた。
「諸君。ヤマトの最期とわれわれの勝利の前祝いに。乾杯!」
デスラーに習い艦橋の要員たちは杯を飲み干すとグラスを床に投げ捨てる。
「デスラー砲発射用意!目標ヤマト」デスラー砲の照準はヤマトのいる小惑星に定められた。
「失礼します。」春香が艦長室にはいる。
「艦長、どうしたらいんでしょう。メインエンジンをいくらふかしても動かないんです。」
「春香、わたしの戦いぶりと14万8千光年の航海を思い出して。こういう局面はいくつもあった。はじめてワープした後とかね。春香なら判るはず。」
(はじめてワープしたとき...?)
(わからない。だけど落ち着け、冷静になれ、わたし。ここは絶対切り抜けなければならないけど、だからこそあせっちゃダメ。)
春香はあせる自分に冷静になるよう言い聞かせて必死に思いをめぐらせた。
宇宙蛍による危機を切り抜けたヤマトにデスラーのしかけた電磁石のわながおそいかかる。デスラー砲の照準がヤマトに向けられた。
舞さんに指揮させたところ、デスラー総統がたちまち死にそうになったので苦戦から立ち上がるイメージの春香にしました。