宇宙戦艦YAM@TO白色彗星帝国戦役編   作:Brahma

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太陽系外縁のナスカ艦隊を破ったヤマト。しかし、テレザート星に近づくにつれ新たな敵艦隊がまちかまえていた。


第6話 待ち構える敵

そのころ彗星帝国ガトランティスには、ナスカ艦隊の敗報が伝わっていた。

「大帝、残念な報告をしなければなりません。」

長髪で細面の軍人がガトランティスの中央作戦会議室に入室する。統合作戦本部議長ラーゼラーであった。ラーゼラーは、うなだれた姿で大帝ズォーダー5世に告げる。

「ナスカ艦隊が全滅いたしました。」

「何!!」

細身で両目が左右につりあがった妖しげな美女が驚きの表情をつくる。支配庁長官のサーベラーである。

一方、玉座にどっかと腰をおろす大帝ズォーダーは泰然自若として微動だにしない。

「何を騒ぐことがあろう。われわれは、このまま地球を目指せばよいだけのことだ。地球には、ヤマト以上の戦艦アンドロメダがあり、同じクラスの戦艦が次々と造られるだろう。

力に頼るものは力によって滅ぼされる。適度なスパイスがあったほうが征服の旅の楽しみが増えるというものだ。はっはっは...。」

ズォーダーは高笑いをした。

 

「メッセージが入電しましたぁ。」雪歩が告げる

『ヤマトの皆さん、...一刻も早く....三時の方向...途中....気をつけて...。』

技術班、通信班、航海班が協力して、航路を計算し、次のワープの予定を立てている。

 

「ヤマトが三時の方向に進路を変えたようです。」

彗星帝国テレザート星守備艦隊のゴーランドは、航宙士の報告を聞くと

「全艦、出撃準備!」と命じる。

そのとき副官が

「ガミラスのデスラー総統から入電です。」と伝える。

「ほうっておけ。」

しかし、デスラーの姿がメインパネルに映し出される。

「ゴーランド君。わたしの指揮のもと、君はテレザート星の前面に展開することになっているはずだが。これは大帝の命令でもある。」

ゴーランドは心のなかでつぶやく。

(負け犬の亡命者が。大帝の名を借りればこっちが言うことをきくと思っているのか。)

「デスラー総統。わたしにもガトランティスの武人としての矜持があります。敵をみすみす見逃す気はありません。」

「矜持か...はっはっは...君もナスカ君と同じ過ちを犯す気かね。戦いは指揮官の命令のもと、一糸乱れぬ行動がとれることが必須なのだ。」

「言葉を返すようだが、それでもあなたはヤマトに負けた。ここは、ガトランティスのわたしのやり方に任せていただきたい。」

「ヤマトを知らない君に何ができる。綿密な戦略を練った上で、ひきつけるだけひきつけてわなに落として倒すのだ。ヤマトはかならずテレザートへやってくる。」

「では、なおのことテレサに接触させてはならない。万一ヤマトを撃破し損ねたら我がガトランティスにとって大きな禍根を残すことになります。」

 

テレサは、デスラーとゴーランドのやりとりをテレザート星の地下にある宮殿テレザリアムの一室で傍受していた。

「ゴーランド司令。テレザート方面軍総司令として命じる。ただちに独自の作戦を中止し、...。」

デスラーの姿がパネルから消える。テレサは通信機のボタンやダイヤルの調整を試みるが回復しなかった。

 

「通常空間へワープアウトしました。」

「!!」

「千早ちゃん、流されてるよ。」春香が千早に伝える。

「春香、ここから引き返すのはさすがに無理よ。」

「メッセージが入電しましたぁ。」

「雪歩、どこからなの?」春香と千早が雪歩に問い返す。

雪歩は通信機を操作してメッセージが流れる。

『あつ...白色彗星が近づいてくる...助けて...早く...。』

「なんか変ね。芝居じみて聞こえる気が...。」律子がつぶやく。

「発信源判った?」

舞が雪歩に問う。

「どうやら、宇宙気流の上流、6000宇宙キロと思われますぅ。」

「わなね。律子、どう思う。」

「おそらく近くに敵艦隊がひそんでいて合成音声をリレー衛星で流しているものと思われます。」

「そんなとこでしょうね。律子、このあたりの状況を探るためのステルス機能付探査衛星を2時、10時、4時、7時の方向へ打ち上げて。」

「了解。打ち上げます。」

「上流6000宇宙キロに次元空洞。衛星の機能が減衰します。急速に時間が流れている模様。」

「やっぱり。わたしたちをさそいよせて次元空洞へ落とすつもりだったんだわ。」

「10時方向の衛星が敵艦隊を確認。」

 

「異次元レーダーが作動していますぅ。12時の方向からです。」

「どうやらそっちが本物のメッセージね。」

「こちら、ヤマトですぅ。」

 

「とにかく脱出よ。」

「敵ミサイル接近。」

「左舷前方12番装甲被弾!」

「右舷前方7番装甲被弾!」

「波動エンジン内圧力上昇。エネルギー充填100%」

「エンジン全開。フルパワー噴射!」

千早がレバーを引いて、宇宙気流の流れをうまく利用しつつ、なんとか脱出することに成功した。

 

「ヤマト、気流を抜け4時方向から2時方向へ向かっています。」

ゴーランドの副官がスクリーンを見ながら告げる。

(まさか、テレサが...)ゴーランドの心に不安がよぎる。

「よし、やつらの鼻っ柱を抑えるのだ。」

ゴーランドは先回りを試みるが、副官の次の言葉に驚愕した。

「ヤマトから発射反応あり。」

「何いい!」

ゴーランド艦隊にショックカノンの光条がふりそそぐ。

「司令...やつらの監視衛星が...。」

「何だと!」

「ステルス仕様でようやく発見できました。」

「何ということだ。われわれの動きは筒抜けだったのか。」

「どうやら...そのようです。」

「退却だ。」

「いえ、その必要はないようです。」

ヤマトはゴーランド艦隊をふりきってみるみる離れていく。

 

『ヤマトの皆さん、よく宇宙気流から脱出されましたね。心から祝福します。』

「こちら、宇宙戦艦ヤマト通信班長、萩原雪歩ですぅ。」

『わたしはテレサ。テレザートのテレサ。』

「テレサさん、教えてください。宇宙では何が起こってるんでしょうか...。」

『宇宙の危機は刻々と迫っています。あの白色彗星は圧倒的な力と速度で銀河系へ向かっています。一刻の猶予も...』

通信はいったん途切れる。

『わたしのいるテレザート星はそこから...』

再びつながったものの、一瞬のことだった。雪歩があわただしくダイヤルを調整するなど機器を操作するが回復しない。

『ザザザザ...。』

「強力な妨害電波が送られていて...これ以上はだめですぅ。」

「雪歩、発信源の座標、方位を送って。航路を修正するから。」千早が雪歩に伝える。

「了解ですぅ。」

 

春香は超光速通信を地球へ向かってつなげた。現在の状況を伝えるためである。二万光年までであればほぼリアルタイムで減衰せずに伝えられる。

武田長官の姿が映し出される。

「天海君か...だいぶ遠くまでいったようだな。」

「はい。イスカンダルに比べればたいしたことではありませんが。」

「何か、新しい情報や資料ははいったか。」

「セドナ上空戦と地上戦、外周艦隊が撃滅された宙域で敵艦隊や敵の兵器の残骸を採取し、かなりのデータが得られました。秋月技師長によると地球にもガミラスにもない特殊合金だそうです。また、セドナ上空戦では、波動砲をつかわずに敵艦の残骸の収集につとめました。管制コンピューターが残骸のなかにないか、あった場合に復元できないか総力で探っているところです。」

「そうか。ありがたい。情報を制するものが戦いを制するのだ。普段はきみたちのような優秀な士官が情報を生かして頭脳で戦う。そしてこれといった場面、たとえば白兵戦が必要なときなどに空間騎兵のような連中をうまく使うのだ。かって戦史好きで文弱とよばれた将軍がいたが、その将軍は、荒くれ者ということで忌避された白兵戦部隊を厚遇して、自分の部隊にいれた。その隊長と隊員は感激してその文弱な将軍に忠誠を誓ったそうだ。その将軍は白兵戦部隊をどこでどう使うか熟知していた。それで、難攻不落な要塞を味方の血を一滴も流さずに制圧したそうだ。」

「はい。」

「舞君は何か言っていたか。」

「わたしは、普段は怠け者に徹するから春香お願いね、っていっていました。」

「そうか。君はアイドル時代にアリーナライブでリーダーをつとめ、イスカンダルまでの航海を経験している。その成長振りを見ているから舞君は君を実質的な後継者と考えているんだろう。アンドロメダで土方君とにらみあったときに思うところがあったはずだ。彼女は司令長官になれる器だ。後進を育てるつもりなのだ。ただ...」

「ただ?」

「あの性格だから、前線指揮をとりたがるかもしれないな。」

武田は愉快そうに笑う。

「いいか、天海君。戦いを制するのは情報だ。...それを知って...舞君は秋月君を重用......たいへんだろうが....。これからも情報....努めて....しい。僕...命令....どうも通信状態...失礼...。」

とぎれとぎれになり、雑音で地球との交信はとだえたが武田が伝えたかったことを春香は理解した。

 

春香は、「斉藤大尉にね。『大の男たちがたばになっても勝てなかったガミラスに小娘でしかないわたしがなぜ戦って勝てたのか考えてほしい。』と話したわ。春香にはすぐ解答がわかるでしょう。」と舞がいっていたことを思い出していた。

 

「雪歩、これから交信が思うようにできなくなるかもしれない。だけど極力つながるようお願い。」

「任せてくださいですぅ。」

雪歩は両手をこぶしにして返事をしてみせる。

さて、一方、ゴーランド艦隊は、テレザート星からわずか5光年の位置にあるスペクトルG型の恒星の近くに集結していた。その恒星から1億5000万キロ、ちょうど地球と同じくらいの位置に地球上の中生代の環境にある惑星が公転している。恐竜惑星と呼ばれているその惑星にはシダ類が茂り、小山のような恐竜がのしのしと歩いている。

「恐竜惑星に降下。」

ゴーランドは演習と称してライフルをもって恐竜惑星に降りる。

「今日は、恐竜を敵に見たたて演習する。2200時に発進するものとする。」

ゴーランド艦隊の幕僚や乗組員も降りて恐竜狩りを楽しむ。

アパトサウルス、イグアノドン、トリケラトプスに似た恐竜を狩り、

ゴーランドは、アロサウルスやゴルゴサウルスのような敏捷な肉食恐竜もたくみに狩る腕前を見せ、乗組員たちを驚嘆させる。

「全員の乗艦を確認しました。」

「よし、出撃。」

「全艦、破滅ミサイル発射用意。」

「発射用意。」

「目標、恐竜惑星。」

ゴーランドのミサイル艦隊から発射された超大型ミサイル「破滅ミサイル」は14弾が恐竜惑星に命中し、恐竜惑星の地殻は引き裂かれ、惑星全体がひびだらけになってマグマが噴出し、大爆発を起こして四散した。

「あれがヤマトの運命だ。」

ゴーランドはうっすらと含み笑いをし、得意そうにあごをなでる。

 

「はあ...。」春香はため息をついていた。

「春香、テレザート星は近いわ。」

「千早ちゃん?」驚いたように春香は千早を見る。

「わたしも千早に同感ね。ここのところ、小規模な戦闘が続いている。何かに近づけたくないからいやがらせをしているような感じ。」律子が千早を支持する発言をする。

「テレサさんのメッセージ受信しましたぁ。」

『私はテレサ....テレザートのテレサ...。』

「こちら宇宙戦艦ヤマト。太陽の位置を銀径0度として銀径72度38分、銀緯プラス20度38分ですぅ。精密座標送りますぅ。航路の指定をお願いしますぅ。」

『あなた方の位置から十一時の方向、上下角プラス4度、30宇宙ノットで6日の位置に手レザート星はあります。ただし...。』

雑音にかき消されてテレサからの通信は途絶える。

「ジャミングですぅ。」

 

ゴーランド艦隊から妨害電波が発せられてテレサの通信はかき消された。

その様子はデスラー艦隊の把握するところとなる。

「ゴーランド艦隊から妨害電波が発信されているようです。」

副官のタランがデスラーに伝える。

「むだなことを。ひきつけて叩くのが作戦だと伝えたはずなのだが。タラン、妨害電波を

消してやれ。」

「はつ!!」

タランが発信装置へ向かおうとすると、

デスラーにサーベラーによってつけられた監視艦隊司令ミルが血相を変える。

「デスラー総統。どういうおつもりですか。テレサとヤマトを接触させるとは。」

「獲物を捕まえるには、その獲物がほしがるエサをぶらさげてやるということだ。

わたしがヤマトをしとめることは、大帝もご承知ずみのことだ。」

「し、しかし...。」

ミルは、サーベラーによって、デスラー個人を監視するとともに、ガトランティス以外のよそ者に「獲物」を与えないために派遣されていた。しかし、ミルは、サーベラーの腹心というだけでたまたま裏切りそうな将帥を監視するというだけの人物であり、デスラーのような根っからの武人の気持ちは理解できない。デスラーからしても小役人でしかないミルはただ邪魔なだけの存在だった。

また、ナスカもゴ-ランドも、損害をこうむっても最終的には白色彗星本体が敵国を粉みじんにするために、力任せに勝ち進む戦いばかりしてきたという性質の将帥であった。

 

「本星へ報告するかね。ミル君。したければ勝手にするがいい。無駄なことだ。わたしは、簡単に信念を曲げぬ男でな。」

ミルは艦橋をとびだしていった。

 

(物量に任せた大味な戦い方しかしらないのでは先が思いやられるな...しかもミルのようなくだらない人物が就くような役職までつくって前線指揮官を信用しないで、掣肘することばかり考えてるようでは...肥大化して悪しき官僚主義がはびこってるとしか思えん。)

デスラーは、ガトランティスの行く末をおぼろげながら予感し始めていた。




テレザート周辺宙域でヤマトを待ち構えるゴーランドとデスラー。しかしそれは同床異夢の艦隊だった。

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