宇宙戦艦YAM@TO白色彗星帝国戦役編   作:Brahma

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波動砲を使わずに戦ったことによりセドナ周辺空域での白色彗星艦隊の兵器の破片を豊富に収集することに成功したヤマト。また白色彗星の動きと、なぞのメッセージの発信源もだんだん明らかになっていく。一方、空間騎兵を救出したことにより乗組員とのいざこざも起こりつつあった...


第5話 太陽系縁辺最後の戦い

「みんな、第二艦橋の中央作戦室に集合。」

舞が命じて春香、千早、小鳥、伊織など第一艦橋のクルーが集まってくる。

律子がセドナ周辺空域で技術班や救助隊が採取した機械部品として用いられた金属破片を見せて説明する。

「これは、セドナの空間騎兵隊と外周艦隊を襲った敵戦闘艦及び戦闘機の破片と思われる金属よ。分析してみたら、地球のものでもガミラスの物でもない特殊合金だと判明したわ。」

「律子さん、ということは...。」

「そう、外周艦隊とセドナ基地を襲ったのはまったく新しい敵ということよ。」

「さっきの艦隊が地球攻略部隊のすべてってことじゃないですよね。」

「前衛艦隊だと見るべきね。」舞がつぶやく。

 

「みんな、こっちを見て。」

律子がスクリーンを見るよう皆をうながす。

「これが、地球の位置。いまわたしたちはこの地点よ。」

スクリーンに映った画像の一点を律子は指差す。

「そしてこれが例の白色彗星。発見時は108万光年だったけど現在90万光年の位置ね。一日一万光年のスピードで進んでくる。ワープもしないのに猛スピードよ。おそらく高速中性子の雲におおわれ、次元断層をつくってすべるようにすすんでいるのかもしれないわね。それから、おもしろいことがわかったんだけど」

「これが白色彗星の進路、スピードをあらわした図なんだけど、不定期にスピードがときどき落ちるのよ。これは自然の天体とは思えない動きね。」

「推定でしかないけど、スピードを落とす必要があるときは、艦隊など人工的なものを収容、停泊させるときでしょうね。おそらく彗星の後方から出入りしているんでしょう。」

舞がつぶやく。

「問題は、なぞの敵艦隊と白色彗星の関係、あとあのなぞの女性からの強烈な通信波によるメッセージとの関係ね。」

「メッセージの発信源の星がわからないと、ヤマトの進路が決められないわ。」

千早が不安そうにつぶやく。

 

そのとき、通信スピーカーから雪歩の声が聞こえた。

「艦長、皆さん、地球からの入電ですぅ。至急第一艦橋にもどってください。」

「何??」

「地球から?」皆は顔を見合わせながら第一艦橋にもどる。

 

舞、春香をはじめとする第一艦橋のクルーがもどってみると、天井のメインパネルに武田司令長官の顔と上半身が映し出されている。

「長官...!」

「ヤマト、聞こえるか?カイパーベルト宙域を警備している外周艦隊とセドナ基地の通信が絶たれた。何か情報はつかんでいるか?」

春香は答える。

「長官、残念ながら外周艦隊は全滅で、生存者はおりませんでした。ただし、セドナ基地で空間騎兵隊の斉藤大尉以下50名を救出いたしました。」

「そうだったか...敵の動きが速いな...まあ、空間騎兵隊が救出できたのは幸いだった。斉藤大尉にはよろしく伝えてくれ。」

「長官...。」

春香は、武田が命令違反の話をおくびに出さないので、自分から謝罪しようとした。

武田はほほえんで、舞のほうを見る。舞は、春香にウィンクした。

「土方君から聞いたよ。ヤマトは太陽系外へでてしまって行方不明だとね。宇宙で一二を争う美人な虎に出くわしたらアンドロメダを沈められるところだったと苦笑していた。

舞君、『将の軍に在りては、君命も受けざる所有り』だろう。」

「長官、ご理解いただけて光栄です。それから空気は作るものだとおしえていただいています。」

「ははは、一本とられたな。」武田は苦笑しながら、今度は春香を見る。

「とにかくヤマト諸君の身柄は僕があづかった。ガミラスを破った名将がそこにいるだろう。前線指揮官の判断を僕が止められるものではない。防衛会議の決定など気にしないで初志を貫徹してほしい。それから白色彗星が以前より大きく見えている。何か情報をつかんだら...。」

突然強力な通信波が受信され、地球からの通信波が途切れ、画面が消失した。

「例の通信波ですぅ。」

雪歩が皆に伝える。

「宇宙の皆さん....私は....テレサ。」

「発信源を探って。」律子が技術班とアナライザーに命じる。雪歩も

「恐ろしい危機が...宇宙に....よく聞いてください...この危機は、銀河系ばかりではなく...」

「発信源は、なにか特殊なバリアというか、ファイアウォールみたいなもので遮断されていますぅ。」

「方位だけはなんとか確認できたわ。2時の方向ね。」

「千早ちゃん。」

「了解。左舷全速、面舵いっぱい。」

律子は正確な方位を知ろうとコンピューターをにらめつけたり、ときおり操作したりしている。雪歩は受信機の出力を大きくし、メッセージが鮮明に聞こえるよう調整に余念がない。

「巨大な彗星は....次々と壊滅....時間がありません。....このまま....一刻も早く....この危機を救う....。」

「どうやら、なぞの艦隊は、白色彗星となんらかの関係がありそうね。」

律子がつぶやく。

「わたしたちの予測が正しかったってことだね。」春香が答えるようにつぶやく。

「一刻も早く発信源の星を発見して、実態を究明する必要があるわ。」千早がつぶやく。

「なんとかあのメッセージの主を救出しないとだね。そのためにヤマトは出航したんだから。」

「春香...。」

「艦長?」

「あのメッセージは救いを求めてるんじゃなくて、宇宙に警告を発してるんだと思うわ。」

 

「艦長、春香、どうやら発信源がつきとめられたわ。」

「ここがヤマトの現在位置で、ここから17万宇宙キロ、白色彗星の左側25度、銀河系のはずれにある星が発信源ね。ヤマトの速度で35日ほど。地球まで往復80日...ただこれは戦闘とか、異常事態とか航路上に一切何の障害もなく過ぎた場合で実際には、何日か余計にかかると考えていい。」

「それから、例の白色彗星だけど、現在90万光年。一日1万光年という猛スピードで進んでいる。白色彗星がスピードを変化させられることから人工物の可能性もある。場合によっては10日くらいワープなどで短縮する可能性も考えられる。」

「10日の余裕がありそうだけど事実上ぎりぎりってことね。」

伊織が伏目をして腕を折り曲げ両手をひらいてつぶやく。

 

そのとき

「次元レーダーに反応。」

「パネルに映して。」

パネルにはうっすらと潜水艦のような姿の艦艇が映し出される。

「セドナ基地の戦闘にはこういうタイプはいなかったわね。」

伊織がつぶやく。

「春香、警戒する必要があるわね。」

「はい。総員警戒態勢。」

「機雷発射準備。それから総員戦闘配備。」

「機雷発射準備します。総員戦闘配備。」

小鳥たち航宙隊員はコスモファルコンに乗り込み発進に備える。

「機雷発射準備完了。」

伊織がアナウンスすると春香が

「発射!」

機雷が発射され、潜宙艦が爆発光でくっきり姿が浮かび上がる。

「にひひっ。主砲発射準備。1時の方向、仰角3度。」

「発射!」

「次、11時の方向、仰角10度。発射!」

ショックカノンが発射され、潜宙艦は次々に貫かれる。

 

艦内では空間騎兵がうろついて、主砲塔にはいってくる。

「なあ、俺にもうたせろよ。」

「じゃまするな。」砲手は気色ばんで拒否する。

「俺だって対戦車砲、撃ってたんだ。かたいこというなよ。」

 

「どうしたの?射線がずれてるわよ。」

「砲術長、空間騎兵が...。」

「そんなのはじき出しなさい。」伊織が砲手に命じる。

 

春香は潜宙艦隊にとどめをさすため、艦載機に出撃を命じる。

「コスモファルコン発進!」

「了解!」

小鳥がウィンクして発進する。

 

艦内をうろうろした斉藤が医務室にはいってきた。

「あのう...入るときはノックしてほしいのですが...。」あずさが少々困った顔して斉藤を見る。

「おお、この船はうわさにたがわずベッピンぞろいだな。それに姉ちゃんいい度胸してるな。」

「戦闘中だからって医者がいちいちびくびくしていたらつとまらないですよ。」

あずさは、笑顔を斉藤に向ける。

「やることがないなら、飲みますか?」あずさは小首をかしげて微笑んで酒をすすめる。

「待ってました!美人と酌み交わす酒はうまいな。」

(よかったわ。みんな邪魔されて困ってたみたいだし。)

しかし、このあずさの安心は数日後にあっさりと覆されることになる。

 

「春香ちゃん(ピヨッ)」

「どうしたの小鳥さん。」

小鳥の困惑した表情からは、いかにも擬声語が聞こえてきそうだ。

「空間騎兵さんが(ピヨッ)...。」

「小鳥さん、落ち着いて。」

小鳥は首を振る。

「もう...だめ...これ以上は...(ピヨッ)。」

春香と舞は顔を見合す。舞はかすかにうなずくと格納庫に向かうことにした。

 

格納庫では、航宙隊と空間騎兵の乱闘がはじまっていた。

「どけ!安全な鉄の壁にまもられたお前たちに空間騎兵の心意気がわかるものか。仲間には指一本ふれさせねえ。」

斉藤も乱闘に加わる。

「やめて!」

小鳥がとめようとするが、乱闘している航宙隊員と空間騎兵隊員の耳には入らない。騎兵隊員の一人が小鳥によろけかかると、斉藤が殴りかかる。

(きゃああ、もうだめ、ピョ)

小鳥が目を閉じた瞬間、それを見た副隊長の山本が

「やめろ!斉藤」と殴り返す。

「副隊長、がんばれ!」

「隊長、負けんでください!」

と周囲はやんややんやとはやし立てる。

 

そこへ舞がやってきた。

「何してるの?持ち場へ戻って。」

斉藤と山本は舞の大声にわれに帰り、周囲を見回すとそばにだれもいないことに気がつく。

「どうしたの?やるなら徹底的にやりなさいよ。」

舞の言葉に力が抜けてとっくみあう気持ちがいつのまにやら雲散していた。

「艦長...。」

「えへへへ...」

斉藤は照れ笑いをする。

「山本君。あなたは小鳥をささえて航宙隊を指揮する立場でしょう。そんなあなたが冷静さを失ったら敵とどうやって戦うの?」

「すみません。」

「わたしたちは、反逆者の汚名を負ってまで出航したのよ。汚名がそそがれたってことはむしろ地球の不幸なのよ。状況は厳しくなってることがわからないの。」

「はい...。」山本はやっとのことで返事をする。

「艦長、先に手を出したのは俺なんだ。」

「斉藤さん、あなたは、多くの猛者たちを率いて戦ってきた空間騎兵隊長よね。そんなことでいいの?」

「艦長、俺は部下をたくさん死なせちまった。だから、もう一人も傷つけたくねえんだ。」

「気持ちはわかったわ。」舞はしばらく間をおいて言葉を続ける。

「斉藤さん、わたしと春香はあなたがたを含めて、全地球、もしかしたら全宇宙の生命を預かっているのかもしれない。だからこそ、大の男たちがたばになっても勝てなかったガミラスに小娘でしかないわたしがなぜ戦って勝てたのかよく考えてほしいの。」

斉藤はほつりとつぶやく

「艦長、あんたは…。」

「何?」

「元アイドルだけあってほれぼれするくらいの美人だ。」

「まあ、当然ね。元が余計だけど。それで?」

「とびっきりいい女だ。小娘なんかじゃねえ。」

「ありがとう。」舞は微笑む。

「つうことは、つまりだ。」斉藤はにやりとする。

「つまり?」

「おばさんってことだ。」

舞もにやりとして言い返す。

「お姉さん、の間違いね。」

「おばさん。」

「お姉さん。」

「おばさん、おばさん、おばさん。」

「お姉さん。お姉さん。お姉さん。」

二人は大笑いすると、斉藤は後ろ向きに手を振ってのしのしと格納庫を出て行った。

 

舞と春香は第一艦橋にもどる。

「例のメッセージが入電しましたぁ。」

雪歩が告げる。

「雪歩、メッセージの発信されている方向を測定して。」

千早が雪歩に告げる。

「はい。」

『白色彗星が....ますます....危機....一刻も早く...宇宙は....この通信を...』

メッセージは途切れ途切れであったが雪歩は発信方向をある程度絞り込むのに成功する。

「現在の位置からは、左右角12時10分、上下角72度39分ですう。」

「一刻でも短縮するためには、ワープしかないわね。」千早がつぶやく。

「艦長、メッセージの発信源までワープしたいと思いますが。」

「春香にまかせるわ。わたしは普段は怠け者に徹するつもりだから。」

舞は微笑みながら答える。

「総員、ワープ準備。」

「了解!」

「あのう...テストしなくていいんでしょうか...イスカンダルから帰って以来1年以上もワープしていなんですが...。」

雪歩が不安そうに口を開く。

「大丈夫だよ。十分に点検してあるから心配しないで。」

真が答える。

舞が艦内放送を行う。

「今から5分後にワープに入ります。全員ベルト着用してショックに備えて。」

「ワープ準備完了」

「波動エンジン異常なし。」

「ワープ1分前、各自ベルト着用。」

千早は上下に振っている光点をみながらアナウンスする。

「10,9,...3,2,1、ワープ!」

ヤマトは太陽系縁辺部から姿を消した。




白色彗星との戦いが終わり、舞と斉藤のやりとりを愛が伝え聞いたときのこと。
「ママ~、また同じことしたの?」
「あら、何のことかしら。」
「ママがはじめて私と同じオーデイションを受けたときのこと覚えてない?おばさん。」
「お姉さん!」
「おばさん、おばさん、おばさん!」
「お姉さん、お姉さん、お姉さん!」
「ぷっ。」
二人は大笑いしたのは言うまでもない。ちゃんちゃん。

『将の軍に在りては、君命も受けざる所有り』(將在軍,君命有所不受)は、『史記』孫子呉起列伝の一節です。

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