そのセドナにヤマトは近づいていた。
セドナの表面は、メタンやエタンが紫外線を受けて変化したソリンという物質に覆われ赤茶色に見える。表面温度はマイナス240度と考えられまさしく極寒の死の世界とされていたが、22世紀末に豊富な地下資源があることが確認されていた。そして資源調査を目的とする基地と外周艦隊の停泊及び空間騎兵隊による辺境警備基地が築かれていた。
ナスカの太陽系方面軍前衛艦隊は、そのセドナ基地に総攻撃を開始していた。
セドナ基地からの入電を雪歩が捉えて伝える。
「き、緊急通信、SOSですぅ。4時の方向、準惑星セドナ付近からの入電ですぅ。」
「準惑星セドナ??」
「基地に何かあったのかしら。」千早と律子が顔を見合わせる。
「千早、両舷全速、取り舵一杯。」舞が千早に命じる。
「はい。両舷全速、取り舵一杯。」千早が舵を切り、準惑星セドナへ向かう。
「前方に未確認飛行物体を多数確認。メインパネルに切り替えます。」
メインパネルにカブトガニ状の戦闘機デスバーテーターが多数映し出された。
「あれって...。」春香がなにかに気がついたようにつぶやくと、
「最近、よく見かける攻撃機ね。」律子がそれに答えるようにつぶやく。
「セドナ基地を襲っているわけね。」千早がつぶやく。
「やっぱり...いたんだ...地球を狙っている新たな敵が...。」春香が再びつぶやいた。
「有効射程にはいったわ。」伊織が春香の方をむいて伝える。
「パルスレーザー砲、発射。」
ヤマトの近くにいた攻撃機がたちまち火を噴いて撃墜されるものの、砲火をのがれたデスバーテーター群は、旋回しつつ反撃してくる。
セドナ基地は、ナスカ艦隊の攻撃によって火の海になっていた。
対空砲火で応戦するものの数百機に及ぶ敵の攻撃に基地の建物は次々に破壊され炎上していく。
「隊長、エネルギー基地がやられました。伝導管を切らないと爆発の恐れがあり、危険です。」必死に叫ぶ部下に対し、空間騎兵隊隊長の斉藤始は、
「切りたいなら、かってに切れ。いいか、敵は奇襲しなければ勝てないような腰抜けどもだぞ。落ち着け。」
斉藤は、通信士をみつめて、
「通信回路はどうだ?」とたずねる。
「だめです。非常回線もつながりません。」
そのとき至近弾が命中し、通信士が跳ね飛ばされる。
「おい、大丈夫か、死ぬな!」
斉藤は通信士にかけよったが、通信士はこときれていた。
「くそ...。」斉藤は、空中を飛び回るデスバーテーター群をにらみつけて歯軋りしながらつぶやく。
そのころセドナ上空では、ナスカ艦隊がヤマトの接近に気がついて攻撃機の帰還を命じていた。
「敵機が退却していったわ。」
伊織の言葉を聞いて春香は
「コスモファルコン、発進してください。」と命じる。
「春香ちゃん、敵さんを撃墜してくればいいの?」
小鳥の言葉に春香は微笑んで、
「セドナ基地の救援を優先してください。」と伝える。
「了解!」小鳥が返事をしてコスモファルコン隊は次々と飛び立っていく。
セドナ基地の様子がメインスクリーンに映し出される。
「これは...ひどい....。」
「基地の守備隊は全滅してるかもしれないわね...。」
律子と千早は顔をみあわせる。
「千早、あと距離はどのくらい?」
舞の問いに
「約3宇宙キロです。」
と答える。
「前方に敵艦隊。約20宇宙キロ。急速接近中。」
「きたわね。」律子がつぶやく。
「律子、今回は主砲を使うわ。理由はわかるわね^^。」
「はい。」律子は舞が何か思いついたことを悟る。
「春香!。」
「はい、主砲発射準備。」
「ターゲットスコープオープン、方位プラス4度。」
「敵艦隊距離17宇宙キロ。方位修正プラス0.03。照準完了。」
「発射!」
ショックカノンの光条が十数隻の敵艦を貫く。ナスカ艦隊の艦艇は、炎上し、煙を吐き、次の瞬間には爆発光を発して次々に四散していく。ナスカ艦隊はあわてて散開を図るが隊列をみだしてぶつかる艦もある。
「にひひっ。方位プラス二度、修正0.1、発射!」
散開しようとしているものの、どうしても隊列にむらが出る。艦が多い方向へ向けて伊織の放つショックカノンの光条がさらに十数隻の敵艦を貫いた。主砲が繰り返し発射され、敵艦が応戦を試みるものの艦隊戦の趨勢は完全にヤマトに傾いていた。それが地上戦にもじわじわと影響を及ぼしはじめている。
(もうすぐいくからね...もちこたえて....)春香は祈るような気持ちで命じる。
「両舷全速。セドナ基地救援に向かいます。」
時間をすこしさかのぼる。
炎上するセドナ基地にとどめをさすようにナスカ艦隊は地上制圧部隊を送り込んだ。
それを発見したのは、分隊長の永倉であった。
「隊長、敵の地上部隊が接近してきます!」
「何だと」
斉藤が振り返ると地平線から煙をたてて装甲車の大群が押し寄せてくるのが見える。
「おいでなすったか。この空間騎兵隊をなめるなよ。地面の戦闘ならこっちのもんだ。通信ブロックに集まれ。こんどこそやつらをたたきのめしてやる。」
「おおつ!」
空間騎兵隊の猛者たちは雄たけびを上げてふるいたつ。
機銃や対戦車砲で激しく抵抗を続ける。敵装甲車も炎上し撃破されるものの、それ以上に数が多く、ミサイルの雨がふりそそぎ、隊員たちは次々に戦死していく。
「地球への通信は回復しないか?」
「隊長、まだだめです。メインアンテナがやられています。」
「死ぬ気で修理しろ。この状況を地球に伝えなければならん。」
斉藤はそう命じると、ふたたび機銃を撃ち始める。
「隊長、全滅も時間の問題だ。」
副隊長の永倉が半泣きのような悲鳴の混じったような口調で斉藤に伝える。
「わかった。俺が敵をひきつける。第一小隊と第二小隊はついてこい。ほかのやつはこの通信ブロックを死守しろ。」
斉藤に率いられた第一小隊と第二小隊は手榴弾をもって装甲車部隊に突撃していった。
この様子をみていたナスカはセドナ基地制圧は時間の問題と考えていた。
しかし、レーダー手がナスカにヤマトの接近を告げる。
「ヤマト接近。17宇宙キロ。」
「ヤマトより発射反応あり。」
ヤマトより放たれたショックカノンの光条は、ナスカ艦隊の艦艇を次々に貫く。
貫かれた艦艇の内部は炎上し、その内部は同様から悲鳴に変わる。
「ぎゃあああああ。」
艦艇が引き裂かれて次々に四散する。
ナスカは旗艦の窓からその様子を見るや舌打ちして
「全艦散開しろ!照準をあわせにくくするんだ。」
と命じるが、爆発光や煙が立ち込め、思うように隊列が保てない。そうしている間にさらにヤマトからショックカノンが放たれ、さらに四散する艦艇が増える。
「巡洋艦25、戦艦15、空母5撃沈されました。もはや当艦しか...。」
「て、撤退だ。反転180度!」ナスカが命じると、
「反転180度!」と復唱され、ナスカの旗艦である高速空母が反転する。
「敵空母、反転します。」
「逃げる敵などほうっておいていいわ。春香!」
「はい、千早ちゃん、セドナ基地へ降下用意。」
「了解。セドナ基地へ降下します。」
その頃、斉藤たちが装甲車群に攻撃をしかけていたとき、それを発見したコスモファルコン隊が装甲車におそいかかる。
「ハヤブサだ!」「地球軍が来てくれた。」
空間騎兵隊の隊員たちの表情に明るさがもどる。
対照的に悲劇だったのは装甲車隊であった。上空のナスカ艦隊は主砲の連射で全滅したために、動揺がひろがりつつあった。
装甲車は、コスモファルコンの空爆に火と煙をふいて次々に破壊される。わけがわからずに動揺する装甲車隊はおたがいにぶつかったり、破壊されて火を噴いている装甲車の火炎に巻き込まれて誘爆するものもあった。帰る場所をなくしたデスバーテーターは右往左往するところを次々と撃墜された。
コスモファルコンに敵機及び装甲車の掃討をまかせて、ヤマトは二隻の救命艇をしたがえて降下してきた。
「生存者は...これだけなの?...隊長はいるの??。」
伊織が空間騎兵隊員を見回して尋ねる。
「お嬢さん。俺が空間騎兵隊、セドナ基地守備隊長の斉藤始だ。」
「副隊長の永倉です。」
「わたしは、宇宙戦艦ヤマト、技術班班長、秋月律子。あなたたちをヤマトに収容します。」
律子の言葉に斉藤をはじめとする空間騎兵隊員は、思わず空を見上げる。
「ヤマトか...。いっぺん乗ってみたいとおもってたんだ。」
斉藤は部下に指示して、救命艇に乗り込む。
敵を全滅させたため、時間的な余裕ができ、律子は、部下たちに敵の装備や兵器の破片を収集させた。波動砲を使うより情報収集を優先したのだ。救命艇は空間騎兵隊50名を収容し、ヤマトへ戻っていき、けが人は医務室で手当てを受ける。
律子は敵の装備や兵器の破片を分析し、舞に皆に内容を知らせて、今後の方針のために中央作戦室に皆をあつめる必要性があることを説いた。舞はその進言を入れて第一艦橋など主だった乗員を集めることにした。
原作で第11番惑星となっているのは、カイパーベルト天体のひとつセドナとしました。
クワオアーやマケマケにしようか迷いましたが、冥王星よりも常に遠い天体ということで選びました。
空間騎兵隊の副隊長の名は、隊長の斉藤にならって新撰組の隊士の中から選んでいますが、史実イメージは、反映していません。