そのころ、ガトランティスでは、天の川銀河宙域を目前に大宴会が開かれていた。多くの将官たちが集う大宴会において一人浮かない顔をしている人物がいる。敬愛する上官がとらわれているガミラス帝国総統副官のタラン中将であった。
タランにサーベラーが話しかける。
「タラン。もうすぐ天の川銀河に到達しようとしているこのめでたい宴になぜしょげている。総統の分までお楽しみなさい。ほほほほほ...。」
タランは、皮肉な笑いを浴びせかけるサーベラーの後姿をにらみつけた。
(この傲慢さゆえにガトランティスは滅びるだろう。あのヒダカマイはサーベラーなどとは比較にならない恐ろしい女だ。むしろヤマトにガトランティスを滅ぼしてもらい、ヤマトにはわるいが満身創痍のヤマトをわれわれが討つことも考えられるな...。)
タランの怒りは、ヤマトよりむしろガトランティスの幹部に向けられつつあった。
地球とガミラスは、お互いの星の存亡をかけた戦いをしてきた。しかしガトランティスはどうだ?ただ貪欲に侵略と破壊を繰り返すだけだ。
(総統....。)タランの心には牢に幽閉されたデスラーの姿が影を落としていた。
一方デスラーの閉じ込められた牢は、犯罪者が逃亡しないかどうか看守がみまわりにくるだけで、その環境は劣悪だった。
「ええい。看守はいないのか。一度もシーツを変えていないではないか。」
デスラーは叫ぶものの、同盟国の総統ではなく、犯罪人扱いのデスラーに看守は嘲笑の一瞥をくれるのみで、シーツを変えるなど配慮などをするはずもなかった。
大広間では、大帝ズォーダーが大きな酒盃をかかげてみせる。
「諸君。いよいよ天の川銀河に突入だ。行く先の星々はわれわれに征服されるためだけにある。それからまもなくあの地球を支配下に置くのだ。わっはっは...。」
ヤマト艦内では、春香と律子がテレサを訪問したときの報告をする。
「そうね。地球に報告して。それから、ここで白色彗星を迎え撃つわ。」
「え!どうなさるんですか。」
「律子。」
「白色彗星の艦隊から兵装やら管制装置やら探ったけど敵艦隊のシステムダウンをねらえるだけのデータを得られなかった。」
「でも、敵は今、ヤマト一隻でなにができるかとたかをくくっている。さらにいえば、分厚い高速中性子ガスは、その流れている部分を撃ったところでまったく効果はないけど、高速中性子ガスが高速で流れてバリア効果を発揮できないと思われるところが一箇所だけあるわ。」
「それはどこですか。」春香が律子と舞にたずねる。
「渦の中心核よ。」舞はつぶやく。
「そこだけが、高速中性子ガスが高速で流れてバリア効果を発揮できない場所。そこをねらえば、ヤマト一隻の波動砲でもなんとかできるのではと思う。わたしの勘なんだけどね。」
「あの実は....。」
春香はテレサの提案を話す。
「そう...。」
「じゃあ、監視衛星をテレザート宙域に飛ばしておきましょう。運よく、高速中性子ガスの層がとりはらわれて、中身の都市帝国がむき出しになるようであれば、その都市帝国を観測して新たな作戦がたてられるわ。」
「武田さんにいわれなかった?戦いを制するのは情報。そして空気を読むんじゃなくて空気をつくる。戦況は読むんじゃなくていつでもつくれるようにする。」
ヤマトからの連絡を受けた防衛軍司令部は、詳しい状況の報告のため、大統領の来訪していただくよう大統領秘書官に通知を行い、大統領が防衛軍司令部を訪れることとなった。
「さっそくだが、長官、ヤマトからの報告をお願いしたい。」
「大統領。お待ちしていました。早速こちらをご覧ください。」
スクリーンに白色彗星が映し出される。
「大きさは直径約6600kmで、地球の約半分にあたります。高速中性子ガスに包まれており、波動砲でも吹き飛ばせないと考えられます。万一、これが地球にぶつかれば、地球はひとたまりもなく吹き飛びます。」
「それで、長官、彗星はいつ地球に到達するのだ?」
「銀河系に入ってからスピードを落としていますが、あと36日で地球に到達すると考えられます。」
「36日か...。」
「きわめて緊迫した事態です。」
「地球を狙っているということか。」
「残念ながらそのとおりです。銀河系内の惑星を征服しつつ、地球に向かってきます。」
「なんとか太陽系外で処理できないのか。」
「現在の戦力では困難といわなければなりません。」
ここで土方が具体的な説明をする。
「アンドロメダ級の戦艦が10隻はほしいところですが...。」
大統領は、長官と土方をみて
「それで防げるのか。」
「はっきりと申し上げられませんが...。」
「あのアンドロメダを10隻完成させるには、すべての工場のラインをアンドロメダ用に切り替えたとしても最低2ヶ月はかかります。長官とわたしは、この事態を予想していたので、なんとか5隻は完成させられそうですが。」
「そうであっても、なんとしてでも地球を守らなければならない。」
「はい。古今東西の戦史と舞君がヤマト一隻でガミラスと戦った戦訓を参考に現有戦力にこれから完成する新鋭艦を加えてどう戦うか作戦を練っています。」
「白色彗星、針路微修正、テレザート星まであと15万宇宙キロ。」
「あと1日だわ。」
「本当にもう小ワープではひきはなせないわね。」
「!!」雪歩がおどろいた様子になる。
「か、艦長。春香ちゃん。」
「どうしたの、ゆっきー?」
「テ、テレサさんが...彗星帝国に...。」
「雪歩、傍受してみて。お願い。」
『わたしは、テレザートのテレサ。進撃を中止してください。もし...拒否するなら...テレザートへの侵略とみなします。進撃を中止してください。』
ヤマト第一艦橋にテレサの澄んだ声がさわやかに響く。
『わたしはテレサ。お応えなさい。ズォーダー大帝。....もう一度警告します。進撃を直ちに中止しなければ、あなた方の行いはテレザートへの侵略とみなします。』
伊織は
「そんなやさしいよびかけじゃ聞きやしないわよ。もっと...。」
「いおりん、どうするの?」
「ズォーダー!変態!ど変態!der変態!わたしが相手よ。容赦しないんだから。」
艦内放送が響く。
「って、亜美!なんでこっちの様子がわかるのよ?」
にやにやしている亜美の顔が伊織の席の小ディスプレイに映し出される。
その瞬間、伊織は何が起こったか気がついて思いっきり赤面する。
「伊織ちゃん、ごめんなさい。間違って艦内放送のスイッチ入れちゃった。こんなわたしは...。」
「雪歩、いいから。」真、春香、千早、律子がとっさにスコップをもった雪歩の腕を抑える。
「お約束ね。もう怒る気もしないわ。」
伊織は伏目であきれたように両腕を折り曲げ両手のひらを外へ向けてつぶやく。
ガトランティスでは...
「警告?笑止な。このガトランティスに指図とは。はっきり拒否してやるがよい。たかが小娘が。」サーベラーが通信士に指示していた。いつのまにか大帝が姿を現し、
「サーベラー...。」とつぶやく。
「そろそろテレザートだ。十分用心して進むのだ。」
サーベラーとゲーニッツは不服そうな表情になる。
「テレサを見くびるな、と言っておるのだ。お前たちもそう言っていたではないか。」
大帝は玉座にゆったりと座って言葉を続ける。
「テレサとの争いはわしも好まぬ。いまのうちにテレザートを放棄して脱出するよう伝えよ。もっとも、素直に聞く女とは思えんが。」
「ほほほ...偉大な大宇宙の支配者でおられるあなたさまが、あのような小娘を...。」
そのように反射的にへつらってしまうサーベラーを大帝はじろりとにらみつける。
「サーベラー、テレサはお前とは違うぞ。」
「大帝...!」サーベラーは愕然とする。
そのとき通信機に火花が飛び、いくつかの計器がショートしてはじけとぶ。
「どうした!?」ゲーニッツが叫ぶと
「テレザートからの入電です。負荷が大きく計器が耐えられません。」
「ゲーニッツ。回路をつなげるのだ。」
大帝の命令で回路がつながれ、メインスクリーンにテレサの姿が映し出される。
「テレサか。わしがガトランティスの大帝ズォーダーだ。我が帝国に対し警告とやらを発したそうだが?」
ヤマト艦内にドスの効いたバスとバリトンの中間音の声が響く。(これが、大帝ズォーダーの声!!)
『やっと出ましたね。ズォーダー大帝。ただちに進撃を中止しなさい。』
「うわっはっはは...。」
『なにがおかしいのです。ズォーダー!?。』
「ガトランティスの旅は、わが先祖の意思、はるかな過去から未来永劫へと続くガトランティスの心ともいうべきものだ。たかが小娘の言葉でやめるなどということはありえぬ。」
『それは「お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの」と言っているのと同じで、あなた方の勝手な論理でしょう。あなた方の行いは、宇宙の平和な営みを破壊する無法者の行為でしかありません。』
「ふふ、それはどうかな。テレサよ。」
(テレサを「小娘」と置き換えても通じるのは気のせいかしら。)
それはヤマト第一艦橋の面々のおなじ気持ちだった。
『この宇宙に命を得たものは、皆等しく生きる権利があります。どの星も他の星の力によって侵略され、破滅させられることがあってはなりません。』
「テレサ(小娘)よ。ご忠告とやらは聞いておいてやる。」
「ふふ。この宇宙はすべてガトランティスの遠大なる旅のためにあるのだ。力をもたぬひ弱な部族や貧しい部族は、わしと出会い、滅ぼされるか支配されることに喜びをみいだすのだ。」
『それは違います。宇宙にあるすべての生命はともに協力して助け合って生き行かねばなりません。』
「テレサ(小娘)よ。宇宙の秩序は力によって築かれ、法によってのみ保たれる。その法こそわしなのだ。このわしの力こそが正義であり、宇宙に調和と秩序をもたらすのだ。」
『それは愚かな思い上がりというものです。いいでしょう。あなたがたがこのまま侵掠を続けるというのであれば...。』
「どうするというのだ?」
『私は命がけであなたがたを阻止します。』
「ええい。何という物言い。おそれおおくも大帝に小娘風情が。テレザートなど一気に踏み潰してしまえ。」サーベラーがわめきちらす。
「強情な小娘だ。まだ逃げ出さずにがんばっているようだな。」ゲーニッツがつぶやく。
「ほほほ...強がりを言ってるだけだわ。」
しかし、さすがにズォーダーであった。デスラーの遺体からその執念と優れた資質を見抜いた眼は曇ってはいない。
「いや。テレサは逃げん。本気でわれわれと戦うつもりだ。」
「お言葉ですが大帝。戦うには人、武器、資金が要ります。いったいいまあの小娘になにがあるとおっしゃるのですか。」
「さようです。大帝。あの小娘に戦う力があるならなぜヤマトを呼び寄せたのでしょう。そのヤマトでさえ彼女の意にそわぬとみえて引き上げていくではありませんか。」
「お前たちにはわからないのだろうな。テレサは....本気で戦うつもりだ。」
ズォーダーは、険しい顔でスクリーンを見つめる。
スクリーンに映ったテレザート星の中心に一条の光が現れた。その光は、テレザート星をつつむようにひろがっていった。そして祈っている姿のテレサが輝きを放ちながら浮かび上がる。
サーベラーたちは、思わず身じろぎして、声が出ない。
ズォーダーだけがスクリーンをにらみつけていた。
テレサの姿が白色彗星を阻止するように両手を広げた。ガトランティスの士官たちの顔に恐怖がひろがる。
「つまらぬ目くらましよ。こけおどしよ。恐れるな、進め。」サーベラーが士官たちを叱咤するが、見方によっては強がってわめいているようにしか見えなかった。
テレサが大きく手を頭の上にかざすと、手の指輪から発したと思われる光が画面上に光を放っているテレザート星の本体に吸い込まれるように見えた。テレザート星は輝きを増し、大きく膨らみ輝きを増していく。それはあたかも太陽が赤色巨星にならずにそのまま膨張してリゲルのような青色巨星になったように見えた。
テレサの姿は、その輝く「青色巨星」の中に包まれて消え、次の瞬間、超新星でもあらわれたかのような激しい閃光がスクリーンいっぱいに広がり、ホワイトアウトした。
「うわああああああつ」
「何事だ!」
サーベラーたちはのけぞって倒れた。ズォーダーは閃光を免れるために目を覆っていた。
テレザートの爆発光は強力な衝撃波とともに白色彗星におそいかかり、その高速中性子ガスをすべて吹き飛ばした。都市帝国が丸裸になったのみならず都市帝国全体にショートが起こり、爆発が各所で起こる。
「第二ブロック損傷。」
「第三ブロック被害甚大です。」
「南東方向、北西方向の回転ベルトミサイル帯破損!」
「第五ブロック半壊しました。」
被害報告がガトランティスの司令部にあがってくる。
ズォーダーは
(わが帝国と刺し違えるつもりか。小娘とはいえたいしたものだ、)
「はやく...はやく...なんとかゲーニッツ!」サーベラーは金切り声をあげる。
「大帝、ここは危険です。どうかおひきとりを。」
サーベラーやゲーニッツはおろおろと動揺している。
「うろたえるな。各機関に至急伝えろ。早急に修理を行い、すべての体勢をたてなおせとな。」
ズォーダーは、二人をしかりつけた。ズォーダーはたしかにひとかどの英傑ではあった。この時点までは。
観測員が何かを発見して伝える。
「帝国の下方より反応あり。こ、これは...。」
「何だ?」
「ヤ、ヤマトです!。」
ガトランティスの作戦司令室のスクリーンには弱点である艦載機発射口を正確にねらっていまにも波動砲を発射しようとしているヤマトの姿が映し出された。
テレサが命がけの戦いをガトランティスに挑む。テレザートが大爆発を起こし、彗星帝国は高速中性子ガスを吹き飛ばされた。