救命艇が到着し、あずさが降りてくる。
「これをテレサさんにわたしてください。」
あずさは、小さな花束を春香にわたした。ヤマトの艦内農園からとってきたものだろう。
春香は、内心に気恥ずかしさを覚えるとともに、笑顔になる。
(わたし、目の前の戦闘のことばかり考えちゃって恥ずかしい。)
「あずささん、ありがとう。必ず渡します。」
「お願いね。」
あずさは、救護隊員とともに負傷者を救命艇に乗せていく。救命艇やがて飛び去っていった。
「春香、わたしも実はちょっと恥ずかしかったわ。だけど、今のわたしたちのすべきことはテレサさんを探すこと。」律子が春香の気持ちを察して話しかける。
「そうですね。」春香は気を取り直し、ひきしまった表情になる。
「テレサさんは、都市の廃墟のはずれの鍾乳洞にいらっしゃるとのことだわ。」
律子が揚陸艇を操縦して、戦車の残骸のみが残る荒涼とした平原から飛び立った。
さて、砂漠のように広がる平原では、斉藤たちとヘルサーバーの残存部隊の戦闘がおこなわれていた。斉藤たちの乗った戦車はザバイバルの生き残り戦車を砲撃でつぶしたものの、一両は逆撃を受けて破壊され、斉藤の戦車も履帯を破壊されうごけなくなっている。
サバイバルの戦車は砲弾を打ちつくし、にじり寄ってくる騎兵隊員をキューボラの上から機銃で撃っていた。騎兵隊員は、ひとり、またひとりと撃ち倒されていく。
斉藤はザバイバルの背後から戦車をよじのぼり、ザバイバルに踊りかかった。
ザバイバルも必死に抵抗した。さすがに相手も陸上戦、白兵戦の猛者である。
戦車から落ちて、激しいもみあいになった。さながら二匹の猛獣がころげまわって相手を噛み殺そうとしているようであった。斉藤が組しかれそうになり、ザバイバルは自分の勝利を一瞬確信した表情でにやりと笑みをうかべる。
(なんて力だ。さすが陸上部隊をまかされているだけあるな。)
しかし、斉藤は、ザバイバルがコスモガンを腰から抜こうとした一瞬の力の緩みを見逃さなかった。斉藤はザバイバルに足蹴りを食らわせ、ひるんでザバイバルがコスモガンをとりおとすと、さっと拾い上げザバイバルの上半身を撃った。
ザバイバルはかっと目をみひらいて斉藤をにらむが、致命傷であり、どうと倒れる。
「隊長!」
「隊長...。」
生き残った隊員たちが斉藤にかけよる。
「横山。ヤマトに連絡しろ。負傷者の手当てだ。」
「リボン...じゃない、天海少佐と、めがね、じゃなくて技師長はどうした?」
隊員のひとりが大きな岩のほうを指差して
「あっちのほうへ走っていきました。」
「そうか。技師長たちの後を追うぞ。敵からお嬢さん方を守るんだ。俺らと違ってここはいいみたいだからここを使った仕事をこれからもしてもらわねばならん。」
斉藤は頭を指差して、隊員たちも豪快に笑った。
さて、ガトランティス帝国では、ズォーダーが酒盃を傾けながら居間でくつろいでいた。
「大帝!」ラーゼラーが訪れて報告する。
「何事だ!」
「まことに残念な報告をしなければなりません。ザバイバルの機甲師団が...全滅いたしました。」
「何だと!?お前は絶対に大丈夫だといったはずではないか。」
「真に申し訳けありません。しかし、地上戦だけではすまず、上空からの攻撃があって全滅しました。これは、デスラー総統が撤退をしなければ防げた事態です。」
「ザバイバルを見殺しにしたということか。」
「ヤマトをテレザート宙域で撃破していればこんなことにはならなかったはずです。」
「ふうむ...。」ズォーダーはあごをあてて考え込む。
「所詮その程度の男だったのか....。」
ズォーダーの心に疑問としてのこったデスラーへの態度が9割の失望と確信に代わり、皮肉とあざけりの笑みが浮かんだ。
そのころ謁見室では、ようやく現れたサーベラーにデスラーが怒りを抑えてたずねていた。
「大帝はなぜいらっしゃらないのだ。」
「大帝は、ご多忙の身です。」
「では、改めて伺うことにする。私も決して暇ではないのでね。」
デスラーは立ち去ろうとしたが、サーベラーは語気を強めて呼び止める。
「お待ちなさい。デスラー。話を聞こうともせず失礼ではありませんか。」
「失礼なのは、どっちかね。サーベラー長官。なにか勘違いをなさっているようだが、わたしは同盟国の総統であって、あなた方の部下ではないのだ。従って、わたしに話があるといえるのは、この帝国の中では大帝以外にはおられないはずだ。」
「サーベラー長官は大帝の代理だ。なぜ本星に召還されたのか聞きたくないのか。」
「ゲーニッツ君。聞いてどうするというのかね。わたしは、ヤマトとの戦闘の続行を大帝にお願いに来たのだ。召還されたとは思っていない。」
「デスラー、あなたの戦闘は、私闘にすぎません。ですから帝国の大戦略の見地から不必要と判断したのです。」
「誰が?」
「もちろん大帝です。」
「それはおかしい。わたしは、大帝の許可を得て出撃した。サーベラー長官のおっしゃる大戦略とは何かね。大帝は高所にたった見地から必要と判断したからわたしの出撃を許可したはずで、そう気まぐれに判断を覆される大帝ではないはずだ。」
「情勢の変化ということもある。」ゲーニッツが言葉をつなぐ。
「何の情勢が変化したというのかね。ゲーニッツ君。わたしの見るところ何も情勢は変わっていない。当初の作戦通りで差し支えないはずだ。」
「テレサを無用に刺激して我が帝国の進路を妨害されたらそれこそ大変です。」
デスラーは笑いをこらえたが、含み笑いがもれてしまう。
(やはり、思ったとおりだ。この奸臣どもが。)
「何がおかしいのです。」サーベラーは、ヒステリックに表情をゆがめてデスラーをなじった。
「とうとう本音をはかれたな。サーベラー長官。」皮肉な笑みをうかべつつデスラーはサーベラーを軽くにらむ。
「何ですって!」
「大帝は、テレサの存在など意に介していない。わたしに戦闘中止を命じたのは、あなたがたの独断だと思うがいかがかな。」
サーベラーは動揺が隠せなくなり、ゲーニッツは視線をそらす。
「どうりで、大帝がこの場に姿をお見せにならないはずだ。いや、恐れ入った次第。ふふふ。」デスラーはにやりとして一礼し、出撃しようと歩き始めた。
「どこへ行くのです。デスラー。」
「知れたことを。戦場にもどるのだ。」
「その男は、我が帝国にとって危険人物です。逮捕しなさい。」サーベラーはさけび衛兵がデスラーに銃をつきつける。さらに衛兵がデスラーの腕をとろうとすると、
「やめたまえ。わたしは逃げはしない。」
といってデスラーはその腕をふりはった。銃を突きつけられながら廊下に出ると
衛兵の銃を静かに払いのけて、
「私にそんな必要はない。どこへ行けばいいのだね。」と衛兵に尋ねた。
タランは、衛兵に抑えられているが、もがいてふりはらおうとする。
「はなせ。」
連行されていくデスラーの姿を見ていられず必死に叫んだ。
「総統!わたしもお供します!」
「タラン、時を待つのだ。いつか大帝に会える日が来る。そのときまで頼んだぞ。」
「はつ。」(はい。総統。あなたが再び指揮をとられるときが来たら万全な体制で望めるよう準備いたします!)タランは心の中で強く誓った。
「そうか。デスラーが自白したか。」
「私の思ったとおりでした。あの女が不思議な力を使ってくるのを恐れたのです。」
「うむ...。あの男はこの程度だっととは...同士と見込んだわし自身に腹が立つ。」
「まもなくテレザート宙域に到達します。もうあの男のことなどお忘れになってください。
テレサはしょせんメッセージをおくっていただけ。いざ我が帝国が通過するとなれば、大帝のご威光をおそれて何の抵抗もしないでしょう。」
「そうだな....。」
「後は、大帝がふだんからおっしゃっているように地球へ向かって驀進することだけ。今夜はゆっくり飲み明かしましょう。」
サーベラーはおもねるようにしなをつくって大帝の酒盃に美酒を注いだ。
春香と律子はテレサがいると思われる鍾乳洞の前まで来ていた。
「アナライザー?方向は判る?」
アナライザーのクロノメーターが回転し、止まると一定の方向を指す。
「コッチデス。」
「春香、こっちみたいね。」律子は手招きする。
そこには高さ5m、幅4mほどはあろうか、巨大な岩がそそり立っている。その陰に人が多って通れるくらいの高さの横穴があいていた。
「鍾乳洞ね。」
「テレサさんはこの奥に?」
鍾乳洞の通路は、数十メートル過ぎると右に曲がり、そのつぎは左へと、狭く曲がりくねっている。足場は坂になっている部分はごつごつしており、上に上がったり、下に下がったりする。春香はなんどもころびそうになった。
「戦闘班長、スゴイデス。マダイチドモ転ンデナイ。」
「アナライザー!」春香は少し顔をあからめてアナライザーをどなってしまう。
「静かにして。」
「はい..。」
少し広い「広間」に出ると、上から鍾乳石が垂れ下がり、天井には無数のつらら石がある。
静かな空間でポターン、ポターンと水滴がしたたり落ちる音だけが聞こえる。
また床からは石筍がそそり立っている。
二人の脳裏にはなぜかnamugo時代の緑色のベストを着て超ミニのボディコンをはいて、顔をほんのり赤らめながら太ももをこすりあわせるエロい小鳥の姿が思い浮かぶ。
「小鳥さんをここへ入れないほうがいいですね...。」
春香が苦笑をうかべながらつぶやくと
「そうね。」と律子も苦笑する。
そのとき、春香のそばの石筍が銃声とともに倒れる。
「!!」(あきらかに狙われている。)
「春香!」
律子と春香は近くの岩陰にかくれて敵の存在をうかがう。
春香は一瞬現れた狙撃兵を打ち倒して、すこし進んで別の岩陰に隠れる。
律子と春香は撃っては隠れを繰り返し進んでいく。
「リボ、じゃない戦闘班長。追いついたぜ。」
「斉藤さん。」斉藤たちが追いつく。
その瞬間前方の大きな鍾乳石が銃撃によってひびわれる。
「大声をださないほうがいいわ。」
律子がつぶやいて敵兵を撃ち倒した。
「アナライザー、ここまでの方向は正しいの?」
「ハイ、反応ガ強クナッテキテイマス。間違イアリマセン。」
「春香、どうやらあれのようね。」
前方に穴があるがてつとびらでふさがれていて5~6人ほどの兵士に守られている。
「技師長、ここはまかせてくれねえか。」
斉藤がうしろからつぶやく。
「これをなげるのさ。」コスモ手榴弾を二人に見せる。
斉藤が器用にコスモ手榴弾を投げると爆音と爆風、煙が立ち込めた。
煙がうすれると敵兵はすべて倒れ、鉄扉がひしゃげてちぎれ、そのまま穴に入れる状態になった。しかしまたしばらく進むとまた別の鉄扉に突き当たる。
律子は、岩の壁を丹念に眺め、フェイクの岩壁を見分けるとその部分を押すと、スライドし、ボタンが現れた。律子がそのボタンを押すと鉄扉は左右に開いた。
中は10mほど下り坂になっているが、この鍾乳洞の中でもっとも広い「広間」になっていた。形は楕円形と思われ、天井までの高さは20~30mほど、奥行きは1km、幅500mはあろうか。「床面」は、地底湖になっており、霧が立ち込めている。
「ココデス。」
律子、春香と斉藤たちがしばらく進むと空中にぼうっと光るものがある。
さらに進むと青い卵形の物体に枝のようなものがいくつかついていてその先端にはライトのようなものがついて光っている。テレサの宮殿テレザリアムである。
「テレサさんの宮殿か..。」
「ようこそ。ヤマトの皆さん。」
青い長衣をまとったテレサが宮殿の前に空中に浮かんだ状態で現れる。
「私がテレザートのテレサです。」
「私の全霊を尽くした祈りに応答してくれたのは、あなた方だけでした...。」
「テレサさん、わたしたちはあなたのメッセージに応えようと必死でここまで来ました。これは、そのメッセージへの感謝のしるしです。」
春香があずさから託された花束をとりだしてテレサに見せる。
「きれいな花...この星ではご存知のように花は咲きません。こんなすばらしい贈り物ははじめてです。ありがとう。」
「この花束をおとどけしたいのですが...それからメッセージで警告なさった内容をもっと詳しく聞かせていただきたいのですが....。」
春香の言葉にうなずいて、テレサが地底湖の水面に手をかざすと白くうっすらと光を放つ橋が現れ、春香や律子のいる岸まで伸びてきた。
「さあ、どうぞいらしてください。」
春香と律子は渡って、斉藤たちもついてくる。
テレザリアムにはいるとアラバスターのような透き通った楕円形のテープルと円形状の椅子が並んでいた。
「どうぞおかけください。」
一同が座ったのを確認して、テレサはテレザリアムの壁にてをかざすとスクリーンが現れる。そこに映し出されたのは白色彗星であった。
「あなた方は白色彗星のことはもうご存知ですね。」
「はい。」春香と律子は答える。
「白色彗星は、120日前、4ヶ月ほど前にアンドロメダ銀河を征服。現在テレザートから三千光年、地球へ二万七年光年の位置まで来ています。
大きさは直径6600km、あなたがたの地球およそ半分くらいです。アンドロメダ銀河と天の川銀河の間の空間では、物質が少ないために一日一万光年のスピードで移動していましたが銀河系にはいるためにスピードを大幅に落とし始めています。」
やがて画面に星が吸い込まれたり、壊されたりする画像が映し出され、春香は叫んでしまう。
「ああっ..星が、星がこわされていく...。」
「つまり、あの白色彗星は、ただの彗星ではありません。長大な楕円軌道を描いて進んでいき、軌道上で役に立ちそうな惑星は侵略、征服、植民地化し、役に立たないとみなされると高重力によって破壊する彗星帝国とも言うべきものです。つまり人工の彗星でひとつの国家としての国号がありガトランティスと名乗っています。君主はズォーダー5世といい、ズォーダー大帝の名で知られ恐れられています。」
「テレサさん、あの白色彗星はどこへ向かっているのでしょうか?」
「彼らは銀河系へ向かってきています。3日後にこのテレザート、銀河系に入ってから征
服活動を行うためにさらにスピードを落としますが、オリオン腕方面に向かい、36日後にあたたがたの地球に到達します。」
「テレサさん、地球の科学力をもってしてもあの彗星の正体を明らかにすることはできませんでした。どうすればあの白色彗星を止める、ないしは破壊することができるのでしょうか。」
「白色彗星帝国ガトランティス本星の構造は、分厚い高速中性子ガスに覆われた小惑星を改造してそのうえに都市帝国を築いています。次元断層を滑走しているためにワープしなくても快適に光速を超えるスピードで移動できるのです。白色彗星を止めるには、あの高速中性子ガスをまず取り払わなければなりません。しかしそれはヤマトの波動砲をもってしても破ることはできないでしょう。」
「では、どうすれば...。」
「それは、わたしにもわかりません。しかし、いかに優れていて悪魔的ともいえる知恵や技術とはいえ、しょせんは人間が考えたことです。どこかに弱点があるはずです。それを見抜くのは宇宙を救いたい、宇宙の平和を守りたいと願うあなた方の意志、知恵、勇気、熱意です。」
「テレサさん、わたしたちといっしょにヤマトへ。ガトランティスとともに戦いましょう。」
「いえ。わたしは、ここにとどまります。」
「どうしてですか?あと3日で白色彗星はテレザートへ到着して、その後銀河系の星々を征服して、36日後に地球へ到達するんですよね。その間に多くの犠牲者がでることになります。」
「白色彗星帝国ガトランティスにもふつうの住民がいるのです...。」
「!!」
「わかりました。」
春香は、はればれとした表情になった。
(わたしは、地球の問題を、わたしたちの問題をテレサさんに押し付けてしまうところだった。これからは、わたしたちが考えなければいけないんだ...。)
「律子さん、ヤマトへ帰りましょう。」
「そうね...。春香、成長したわね。」律子が微笑む。
春香は律子に微笑み返すとテレサに向き直り、
「テレサさん、ありがとうございました。」とお礼を言った。
「わたしは、あなた方のために祈り続けます。それは、ヤマトや地球のためではありません。あなた方のように宇宙を救いたい、宇宙の平和を守りたいと願うすべての生命のために、そしてそういった意志、知恵、熱意をもつあなた方の勇気のために祈り続けます。それから...」テレサは間を置いて静かな決心を話した。
「無駄かもしれませんが、大帝ズォーダーと話してみます。おそらく聞き入れないことと思います。そのときは、テレザート星を自爆させてあなたがたが戦い続けられるよう時間を差し上げようかと思います。それがわたしのメッセージに答えてここまでいらしたあなたがたへの精一杯の気持ちです。」
「そこまでなさらなくても...。」春香は言いかける。
「いいえ。あなたがたが心をひとつにするためにはどうしても必要なことなのです。」
春香はテレサの気持ちを感じ取った。いまでこそ空間騎兵隊は春香たちに従っているがそれは春香たちが有能だから自分たちを納得させて従っているだけであって、女性のエリートで上官というだけで胸糞悪いに違いなかった。しかもある意味自分たちに似た存在のテレサが何もしないとなったら、また艦内で以前のようにさわぎたてないとも限らない。
「はい。」春香は満面の笑顔でテレサに答えた。
春香と律子はついにテレサと会うことができた。テレサの口からは敵の正体ガトランティスと都市帝国、大帝ズォーダーについて語られた(6/7加筆)。