宇宙戦艦YAM@TO白色彗星帝国戦役編   作:Brahma

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ガミラス戦役後、1年数ヶ月がたち、ヤマトのクルーは一階級昇進し、地球は再び繁栄をとりもどしていたが、その一方で異変の兆候が起こっていた。第10輸送船団の護衛艦隊を指揮していた春香と科学局の律子をはじめ元ヤマトクルーは、繁栄を極める現在の地球のあり方に疑問を感じつつ、宇宙に起こっている異変を感じ取っていた。


第1話 なぞの通信波と白色彗星

西暦2201年、ガミラス戦役から1年数ヶ月後、天海春香と萩原雪歩は、第10輸送船団の護衛艦144Mの艦長及び通信班長の任務についていた。

「ただいま、火星付近を通過。」

「雪歩、定時連絡の時間だよ。現在位置と地球への到達予定時間を地球防衛軍司令部に連絡して。」

「春香ちゃん、了解。」

そのときビーッビーッツと異音がした。

「春香ちゃん、地球との交信回路が混信してるみたい。連絡が取れないよぉ。」

「緊急回路は使える??」

「う...。やっぱ、だめみたい。」

「なんか、だれかが信号を送ってるみたい。念のため記録しとくね。なんらかの雑音かもしれないけど。」

「なんか、気になるね。地球に帰ったら、律子さんに分析してもらおう。」

 

そのころ、地球防衛軍司令部では、護衛艦隊からの定時連絡を受けていた。

「第一区船団、木星の衛星カリストを出発しました。」

「第二区船団、金星付近をスウィングバイして加速中。」

「第三区船団からの連絡はどうか。」

「第三区船団、第10護衛艦隊からは連絡がありません。通信トラブルと思われます。」

「長官、アンドロメダ進水式の時間ですが...。春香の艦になにかあったんでしょうか。」

「ヤマトで君の部下だった彼女のことだ。心配するほどのことはないと思う。」

通信回路はまもなく回復した。雪歩は現在位置と地球への到達予定時間を地球防衛軍司令部に伝えることができた。

そのころ、地球では、アンドロメダ進水式が全世界に放送され、地球連邦大統領の演説が行われ、アンドロメダはテスト航海へ出航した。

 

それから3時間後...

「地球まで35宇宙キロ。あと3時間半後に地球へ到着予定。」

「!!」

そのとき144Mに接近してくる大型戦艦があった。艦首には波動砲口を二つもっている。進水式後、テスト航海へ出たアンドロメダであった。

「あれが、アンドロメダなんだ。大きいね春香ちゃん、地球はあんな大戦艦を造れるほど復興したんだね。」

「.....」春香は無言でうっすら怒りを含んだ真剣な顔つきになる。

「春香ちゃん??」

「雪歩、私、このごろね、あのガミラスとの戦いはなんだったんだろうと思うんだ。地球はほんとうにこのままでいいのかなって。」

雪歩もそれを聞いて無言になる。アンドロメダはまもなく144Mとすれ違って小さな光点となった。

 

3時間後、144Mは地球の衛星軌道上に到達した。

「こちら第10輸送船団の護衛艦144M、ただいま地球の衛星軌道上。」

そのとき市街地と宇宙港の明かりが突然消えて真っ暗闇になった。

「春香ちゃん、今度は停電みたい。」

「回復するまで衛星軌道上で待機しましょう。」

「了解。」

それは大規模な停電で地球の衛星軌道上にある太陽電池衛星のマイクロ波が広い範囲で20分以上も遮断されて一時的に地球は闇に覆われた。

春香は地球到着後、律子の所在をたずね、地下都市の研究所にいることをつきとめ、火星付近での通信障害を記録した通信メモリをもっていった。

「律子さん。」

「春香じゃない。いつ帰ってきたの。」

「さっきの大停電のあとですよ。なんか地下都市のほうが不思議と落ち着きますね。」

「わたしは、非常用エネルギー発電機で解読したいものがあってここへきたのよ。地上の電力が最近不調なことが多くて。まあ、わたしも半分は春香のように昔をなつかしむのが目的ってのもあるけど。」律子は春香のほうを向いて苦笑する。

「昔、スターシャさんからの通信カプセルを解析した装置を使うわね。」

 

「春香は、火星付近で例の強力な通信のエネルギーのために通信障害で定時連絡ができなかったようだけど、あの直後に太陽系外縁部で戦闘があったのよ。」

「第七輸送艦隊が襲われたようです。こちらもSOS信号を傍受しましたが...」

「わたしが分析しようとしているエネルギー信号のその直後に入電したのがその艦隊のSOSなのね。ただ、それからの消息がわからないのよ。」

「防衛軍司令部はどのような判断を?」

律子は伏目になり、両腕を折り曲げて手のひらを上に向け、

「ぜ~んぜん危機感がないわ。いまは平和で太陽系外縁部でよくある突発的な事故という扱いね。」とはき捨てるように言った。

「司令部が問題にしないけど、最近いろいろおかしなことがあるのよ。」

「え...あのガミラスが復活したわけではないですよね...」

 

律子は春香が持ってきた通信メモリを分析機にかける。

分析機は、異音を発し、火花が飛び散る状態である。

「通信エネルギーが強力すぎる...それから1年以上放置してあったからこの通信エネルギー量ではうまく作動しないわ。分析は明日やり直しね。」

「まあ、今日はわたしが春香に見せたいものがあるの。」

「さっき言っていた「おかしなこと」と関係があるんですか。」

「ええ、防衛軍司令部の記録映像をだすわ。春香、よくみてね。」

「中心に光点が見えるでしょ。3日ほど前から見え始めたのよ。」

「どこにこの星?はあるんですか?」

「地球から108万光年ね。」

「突然見え出した理由は?」

「わからないわ。それにこの星はパルサーとかクエーサーのような電波を発する星のように思われるんだけど...それにしては奇妙なのよ。」

「普通、パルサーとかクエーサーは地球から遠ざかるものばかりですよね。それが突然見え出すなんて...まさかとは思いますが近づいているってことですか?」

「うん、普通は赤方偏移で赤に色ずれして見えるんだけど、この星は青方変移して見えるのよ。」

「それ知ってますぅ。救急車が近づくときには、波長が短いサイレンの音だけど遠ざかるときには波長の長い音になるのと同じですぅ。」

「雪歩、いつのまに??」

「わたしも気になってきちゃいましたぁ。えへへ。」

「いい?二人とも、拡大投影するわよ。」

「こ、これは...ハレー彗星??」

「律子さん、彗星ですよ!彗星!1843年の第一彗星みたいな大彗星じゃないですか??

...ってはしゃいでいる場合じゃないですよね...。」

「彗星状のクエーサーなんて常識では考えられないんだけど...高速中性子ガスと重力波を発して前面にあるものを破壊して進んでいると考えられるわ。」

「律子さんは、この彗星と高出力の通信波となにか関係あると考えているんですか。」

「そう考えてはいるけどこれを完全に再生してみないと。」

 

「春香。」後ろから聞き覚えのある落ち着いた女性の声がした。

「千早ちゃん。」

「空間輸送隊をやってるって聞いたけど。」

「ちょっと退屈かもね。まあひまをみてヴォイストレーニングしたりしているわ。」

「ほんとは、アイドルじゃなくて歌手としてデビューしたいっていってたもんね。千早ちゃんは。」

「こんな時代で、家族がばらばらっていうことじゃなければ、訓練学校には入らなかったわね。まあ、操縦や機動部隊の指揮とか戦史とかもそれなりに面白かったし、自分の才能が歌だけじゃないことに気づけたのはよかったかもしれないけど...戦争だから人が死ぬのよね…本当ならそういう才能が必要でない世の中であればいいという気持ちには変わりないわ。家族のために、お客さんのために歌を歌う歌手でいたかった..。」

「千早ちゃんは、強力な電波で通信障害はなかったの。」

「あったわ。それで予定より地球への到着がおくれたわね。」

「わたしの船とは太陽系の反対側だったよね?」

「都市のエネルギーをパンクさせて停電になったくらいの通信波だから。」

「こんな全宇宙規模で影響する通信エネルギーとはまったく異常としかいいようがないわね。でも、防衛軍司令長官以外の政府首脳はまったく気に留めていないみたいなのよ。」

「ココハ、ワタシノ出番カモシレマセン。」

「アナライザー!」

「アナライザーさん。」

「春香サン、雪歩サン、千早サン、オヒサシブリデス。律子サン、手ヲオカシシマス。分析装置ノ強化ニ役立と思イマス。」

「ブレーカーを増やしたから大丈夫だと思うけど、ヒューズ役をしてもらえれば助かるわ。」

「スターシャさんの通信カプセルを分析した装置よ。なつかしいね。千早ちゃん。」

「あのときは、私も春香も新任で火星基地に配属されたばっかりのときだったわね。あのカプセルでわたしたちの運命が変わった。」

アナライザーの頭が分析装置に接続される。律子は、

「オーバーヒートしそうになったら、いつでも離れていいわよ。アナライザー。」

「少シクライ焼キツイテモ壊レナケレバカマイマセン。ワタシモ男デス。」

律子は苦笑しながら

「全回路作動正常。」と装置の状態をアナライザーに伝える。

「コチラモ回路ニ接続完了シマシタ。」

「分析装置、スイッチオン。アナライザー気をたしかにもってね。」

ブウウウーンと音を発して分析装置が作動する。

「ナニカガ...ナニカガ私ノ頭ノ中ヲカケメグルヨウ...。」

バシューンという空気が抜けるような音がして再生が始まる。

「わたしたちの...巨大な....あなた方の....危機が.....時間がありません。早く....この通信を....だれかが...。」

「アタマガ、アタマガ割レソウデス。」

プシューという音がして通信文の再生は途絶える。

「コレ以上ノ再生ハ不可能デス。私ハ死ニソウ。」

「何か救いを求めているような、警告を発しているような内容ですね。」

「発信源はわかりませんか。」千早が律子に尋ねる。

「宇宙のどこかで起こった異変を知らせようとしてるのかもしれないわね。スターシャさんの場合と違うのは、カプセルに封入されたメッセージではなく、高出力の通信機器を使用しているということね。」

「いずれにしてもただごとじゃない。春香、レポートまとめてくれないかしら。防衛会議に提出する資料にしたいわ。」

「わかりました。」

 

数日後...地球連邦政府本部ビル前で律子と春香は反重力車を降りる。

「春香、やっぱりあなたも呼ばれたのね。」

「はい、参考人ということでした。」

「律子さん、参考人として呼ばれたってことは防衛会議の議員が白色彗星の脅威について検討する気になったってことですよね。」

「それはどうかしらね...。」

「おい、そこの女、どこへ行く?」議場へ向かう廊下で数人のガードマンが二人を呼び止める。

「秋月律子に天海春香です。防衛会議に参考人として出席を求められましたので...」

「そんな連絡は受けていない。出頭命令書と身分証明書を見せてみろ。」

「電話命令だったので身分証明書しかありませんが...。」

ガードマンは顔を見合わせる。

(大佐に少佐だ...)

「失礼いたしました。確認いたします。」やがて「どうぞお通りください。真に失礼いたしました。」

二人はエレベーターに乗って顔を見合わせて苦笑する。

「身分証をみただけで顔色変わりましたね。」

「まあ、わたしたちは佐官だからね。ただの小娘となめていたら仰天ってとこでしょうね。」

議場に入ると守衛に案内される。

「秋月律子と天海春香です。参考人として出頭しました。」

「一番端の席になります。」守衛はあくまでも事務的に隅の席を手で示した。

 

防衛会議で資料とレポートが提示され、例のメッセージが再生され、科学局長から説明がなされる。

「要するに科学局長が心配されているのは、その彗星が地球に接近して衝突するのではないか、ということなんですかね。」

「人騒がせな話だ。約300年前のハレー彗星騒ぎのようなものだ。」

「もっかのところ、正確な軌道、進路がつかめておりません。まして地球への影響については...。」

「なあに、たとえ地球に接近してきたところで、先日完成したアンドロメダをはじめ、艦首波動砲を装備した戦艦だけでも200隻もあるんだ。

しょせん巨大な雪だまだ。波動砲を何発かくらえば容易に吹き飛ぶだろう。」

武田長官は

「日高少将、いや今彼女は中将だったな。それに秋月君があえて防衛会議に資料を提出したのは、ひとつ間違えば地球だけの問題ではないと考えたからだ。太陽系のみならず、銀河系全体の問題にもなるということだ。現にわれわれは、1年数ヶ月前に大マゼラン雲のイスカンダルから放射能除去装置をいただいて、今のような繁栄を築けたことを忘れてはならない。」

「そうはいってもね。ガミラスが滅びた今、どんな脅威があるというのかね。」

「こんな不確かな資料で、宇宙のはるかかなたでおこっていることなんかに相手にしていられん。」

「地球は、ようやく復興の途についたばかりだ。ガミラスを倒した名将だかなんだかしらないが所詮アイドルあがりじゃないか。」

「そうだ、そうだ、まぐれあたりでうまくいっていい気になってるんじゃないか。仕事がないならまたアイドルやったほうがもうかるんじゃないか。」

「くだらん。生物がいる惑星さえもまともにみつからないというのに人騒がせな話だ。」

 

たまらなくなって春香が立ち上がる。

「あの...わたし、録音でしたけど護衛艦の艦内でアンドロメダの進水式での大統領の演説を聞きました。地球は宇宙の平和をまもるリーダーだって聞きました。」

「春香...」律子は思わず春香の袖を握った。

「自慢じゃないですけど、私にもたくさんファンがいました。でも地球の危機に対して何ができるかと思い訓練学校へ行きヤマトに乗りました。皆さんの言うようにアイドルをやっていたほうがいいのかもしれない。でもそのファンのうちひとりがヤマトにいたんです。地球到着寸前にガミラスの総統が執念で襲ってきたとき、彼はテストをしていない放射能除去装置を作動させて、酸欠空気が発生し、死亡しました。」

「今、地球人が真に宇宙の平和と人々の共存を願うなら、あのメッセージの内容を真剣に分析、解明して、たとえ宇宙の果てであっても、救いの手を...」

「春香、やめて。」律子が春香の袖を引っ張ってひきとめる。

「君は、たかが一少佐でオブザーバーにすぎん。防衛会議で意見する資格はない。ただちに出て行きたまえ。」

春香と律子は守衛にひっぱられ、議場から外へ連れ出されてしまった。

 




律子と春香の感じた危機感は防衛会議で一蹴されました。しかし、何のためにイスカンダルまで放射能除去装置をとりにいったのか、何のためにスターシャは地球人に放射能除去装置を渡して希望を与えたのか考えるヤマトクルーには納得できない結果でした。彼らは静かに断固たる決断を行動であらわすことにします。

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