落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
これはひどい
蹂躙にもほどがあった(
悪逆皇帝董卓とそれを打ち倒さんがために集結した各有力諸侯の反董卓連合の開戦地は汜水関という関所と相成っていた。洛陽からもう一つ虎牢関という砦兼関所があるわけだが、事実上その二つが董卓軍の最終防衛線である。その二つを抜ければ洛陽は目と鼻の先でしかない。
反董卓軍の先陣を担うのは黄巾の乱において名を上げた元義勇軍、現在では平原の相となった劉備軍だ。
この乱世において夢物語を語る少女。彼女自身には文も武もなにもない優しさだけの彼女。しかし、彼女の下に集う者たちは一癖や二癖もある。『美髪公』関雲長、『燕人』張翼徳、『昇り竜』趙子竜。そして『臥竜鳳雛』の諸葛孔明と龐士元。全体的な兵の練度はともかく武将の質に関しては大陸に於いても最優と言えるだろう。
先鋒という危険の大きい役目だったのはなし崩し的に袁術に押し付けられた形だが、彼女たち自身、可能であると判断したまでだ。
劉備軍は五千程度と反董卓連合でも最弱勢力なのでそれに加え袁術軍から追加された一万五千ほどの兵がいた。
故に意気揚揚と。この戦いで、未だ勢力の弱い劉備の名を世に広めるために勇猛精進と言わんばかりに汜水関へと攻め込み――
「――えい」
そんな間の抜けた言葉と共に最前線百人近くが一瞬で吹き飛んだ。
●
「――は?」
声を漏らしたのは関羽だ。そしてそれは彼女だけではなく、遠目から見ていた人々共通の想いだった。汜水関から突如として放たれた何かが先陣を打撃したという事実に誰も追いつくことができなかった。
関羽も張飛も趙雲も孔明も龐統も劉備も。あるいは遠くから見ていた曹操や孫策たちも誰もかれも。何が起きているのか理解できずにとりあえず、見た。
谷を遮る関所には人気は全くない。
いや――正確に言えば関所の門の手前に二人の人間だけがいた。
赤髪の少女と黒髪の少年だ。
戟を構えた赤と無手の蒼だった。
言うまでもなく、蒼一と恋だ。
「さぁて働くとするかねぇ」
「百姓の力、見せる」
そんな言葉と共に前に出た。掛け値なしに二人だけだ。伏兵も援護も補給兵もなにもなく、この汜水関にいる董卓軍は蒼一と恋の二人しかいない。それに誰もが目を疑った。在りえない。劉備の軍はこの反董卓連合の中でもかなり兵数が少なく二万程度しかない。
それにしても二対二万である。
一対一万という比。それこそ夢物語。一騎当千という将は確かに各軍に存在する。けれどたった一人で一万を相手にできるなどと囀るものはいない。なによりもし本当に二人で二万を倒すことが可能だとしても、この場合はもう八万以上の援軍を送ることが可能なのだ。戦力的にも戦略的にも在りえない。
在りえないのだが――、
「必殺! 大地の力ッ!」
「そい、やっ!」
頭の悪い言葉と共に放った蒼一の正拳と気の抜けた掛け声と共に恋が振った戟の一撃がそれぞれ百人ずつ兵士を吹き飛ばす。そのあたりでようやく一部の人間が動き始めた。と言ってもそれはとりあえず武器を構えたというレベルの反射行動でしかない。
「んじゃ、雑魚は頼んだぜ」
「ん」
その間にも二人は動く。蒼一は道中の兵を蹴り飛ばしながら兵の上を駆け抜け、恋は矢鱈目ったら無軌道に戟を振るう。けれどそれは破格の膂力で放たれた斬撃だからこそ莫大な威力を誇る。
「えい」
「ぐわー!」
五十人が吹き飛んだ。
「そいっ」
「うぎゃー!」
七十人は吹き飛んだ。
「とぉーうっ!」
「だわぁー!」
百人が吹き飛んだ。
どれだけ見ても間抜けた光景だ。恐ろしいことに戟から発した衝撃波だけでそれだけの数を蹴散らしているのだ。大地が抉れて、その中に落ちる者もいた。近づこうとする果敢な兵もいた。実に勇気溢れる英雄の名にふさわしき者だが、
「そぉい」
「はがあ……!」
まるで相手にならない。一振りで百人近くを吹き飛ばす衝撃波を生む恋の攻撃は単調で単純だ。けれど絶対的な格差故にどうしようもない。接敵して僅か十分と経たずに劉備軍は四分の一近くが壊滅していた。これが一騎当千の武将級というのならば近づいて、時間稼ぎがすることが出来たかもしれないが。
「わははは! これが百姓の力である!」
「く、う……!」
「愛紗!」
「このっ……!」
劉備軍が誇る一騎当千の武人三人、関羽、張飛、趙雲の三人は蒼一一人に圧倒されていた。一対三。けれどその三は大陸最上位の武威を誇る三だ。この三人を前にして戦闘行為になるのは大陸でも僅か数人しかない。
なのに、無手の蒼一はその三人をものともしない。
「貴様、これだけの力をどこに……!」
関羽たちも彼のことは知っていた。黄巾の乱の鎮圧の際に幾度か顔を合わし共闘すらしているのだ。その時には確かに蒼一も恋も強いということは関羽は解っていた。けれどどこか飄々としてつかみどころのない、ぶっちゃていえばやる気の感じない二人だったのだ。だからこそ彼らがここまでにふざけた武威を持つなど思っていなかったのだ。
この三人を以てしても歯が立たないなどと、思えるはずもない。わずか数合で自分たちは満身創痍。打撃痕や手刀による斬撃痕。全身万遍なく傷を受け、武器にも亀裂が入っている。
対して蒼一は無傷のままだ。
そして関羽の言葉に、
「そりゃあモチベ……あー、動機の違いだよ。あんなちんけなチンピラ連中相手と戦うのと明確な目的があるのとじゃあ全然違うに決まってるだろうが」
動機。
モチベーション。
つまりは誰のために、何のために戦うかだ。
関羽たちと顔合わせをした時の二人は言うまでもなく、お手軽武将としての仕事だったのだ。けれど今は違う。董卓――月。彼女の刀と槍として忠誠を誓った今、戦う理由は比べものにならない。生きる意味の恋は戦場においても隣に、愛は王城にて赤兎が守護しているからこそ憂いはない。
そして、生きる意味と戦う理由ことこそが那須蒼一の魂を震わせることに他ならない。
例え時代が、世界が変わろうとも、絶対不変の那須蒼一の真実。
何より、この世界において生きる意味である恋は時代最高の才を受けた少女だ。この時代においては間違いなく武の極地。天賦の才を持った少女と共に在るために、或は彼女を護るためにもこの時代に於いて蒼一はその武を磨き続けていた。
故に彼が保有する武威は古今東西歴史上ただ一人が至った最果てのさらに先。人間の限界をもう一歩だけとはいえ進んでしまったのだ。
「これが百姓の力だ」
「そんな、百姓など……いない……ッ」
「ははは、そうやって否定してるからそんな簡単に負けるんだよ。あ、安心しろよ? 命までは取らないから」
そうして後の世に蜀の五虎将軍と呼ばれるうちの三人。
関羽、張飛、趙雲の三人は碌な描写すら必要とせずにあっけなく蒼一に打倒された。
●
「おーい、恋?」
「ん、終わった?」
「おう、とりあえず頭潰したから後は雑魚蹴散らすだけだぜ」
「ん……大体後半分くらい?」
「そっかー、さすが早ぇなぁ。んじゃあ最後一発かまして一回飯食べに帰るか。報告もかねて」
「わかった」
馬鹿にしているとしか思えないが、二人なりに真面目なのだ。強者の余裕というのか、それにしては飯の為にというのは些か平凡だ。というより二人としてはなるべく早く反董卓連合を崩壊させて家に帰って愛娘を愛でたいのだ。こんな理由を知れば倒されたものたちが浮かばれないだろう。
「ま、終わらせますか」
そう言って蒼一は体を沈める。腕は伸ばし右膝はまげて、左膝を伸ばし腰を上げる。所謂クラウチングスタートの態勢。
恋はどこからか馬鹿でかい弓を取り出す。身の丈をも超える巨大なソレだ。常人ならば構えるのが精一杯で、弦を引くことすら不可能にも関わらず恋は当然のように使う。番えたのは矢ではなくそれまで振るっていた戟だ。矢の代わりに戟を使うという非常識な光景だが、今更突っ込むのももどかしい。
「秘奥義――天上天下唯我独尊!」
「方天我戟・二式――轟天砲」
大地が砕け、飛翔する戟が大気を爆砕する。蒼一のそれはクラウチングスタートからの超疾走と体当たり。実に光速まで至ったが故に体当たり程度でもまき散らされる衝撃波だけでも一軍を壊滅しうる。恋の弓撃も同じだ。名の通りに天を轟かせる砲撃。飛ばされた戟は言うまでもなく鉄の塊でそれが同じく光速に近い速度で飛んでいるのだ。二人とも意識無意識はともかくとして莫大な量の気を用いた、文字通りの必殺技。掛け値なしの奥義。
それを以て蒼一と恋は劉備軍をぶち抜いた。
董卓軍対反董卓連合第一戦。
汜水関の戦い。
二対二万は――二のほうが勝利することになったわけである。
奇跡というのはあまりにも滑稽な結果であった。
数の暴力などという言葉は存在しなかったのだ……
別に劉備軍アンチというわけではなくて。
あまり意味はない(
もうそろそろHYAKUSYO無双も打ち止めですかねー
まぁ実際の三国志とかはこんなんじゃないですけどね言うまでもなく。
連合の数とかノリで適当に書いてるので、あまり気にしないでくださいねー(