落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第6拳「僕たちが世界の中心にいる」

 星伽分社の大広間で俺たちは朝食を取っていた。

 一口に俺たちと言ってもなかなかの大人数だ。俺、レキ、キンジ、アリア、白雪。昨夜からこの星伽分社にいた五人。それから理子とジャンヌ。朝、府内ホテルから呼び出した二人。理子は言うまでもなく俺たちバスカービルの一員であり、ジャンヌはこれからの話には必要な人員とのこと。これで七人。

 そしてもう一人――曹魏軍軍師司馬懿仲達。曹操からの使者だという少年に他ならない。

 つまりは都合八人で、俺たちは食卓を囲んでいた。いや、囲んでいたというのは正確ではない。星伽分社は言うまでもなく純和風の空間だ。正確にいえばセキュリティ面や家事の設備――IHヒーターや空調設備――に関しては最先端だが、外装上は極めて純和風、時代錯誤も甚だしい領域である。故に食事の場も椅子などは使わずに座布団と足の短く縦長の長方形の食卓が使われている。

 縦に十人近く並べるそれに、

 

「ふん、中々にシュールな光景だな。七対一。これは虐めというべきか、僕が優遇され過ぎていると取るべきか」

 

 司馬懿の言葉通りに右側にバスカービルとジャンヌ。左側に司馬懿という極めて偏った配置で座っていた。

 

「そりゃあお前、一緒に飯喰うのはともかくとしても区別は必要じゃね? せっかく広いんだからさ」

 

「はっ、貴様にしては中々に殊勝な言葉だ。てっきり殴る蹴るしか能がない人間破壊機だと思っていたがそういった気遣いはできるようだ。評価を改めよう」

 

「……」

 

 腹の立つガキだった。腹の立つことにこの配置は白雪とジャンヌ発案だったので俺の考えでもなんでもないことだ。しかし言ったら負けな気がするので無言で箸を進める。

 目の前に並んだ食事は白米、豆腐とわかめの味噌汁。鮭の切身に沢庵。ほうれん草のお浸し。日本食のお手本のようなメニューが俺たちの前に並んでいた。シンプルだがそれ故に美味い。

 それぞれに手を進めながら、

 

「では話を進めよう。いや、せっかくの食事の最中というのは不躾はことではあるが、僕にも時間の都合というのがある。ここでお前たちに話を付けたらあの唯我独尊を極めた金髪ツインテ女のごますりに行かなければならないんだ。まったく気が滅入る。いや、ごますりというか機嫌取りというか、勝手に京都に来たら、不覚にもあっけなく発見されて説教されそうになったからこうして使者役を買って出てのだからな」

 

「ちなみになんで見つかったんだ」

 

「土産屋でばったりな」

 

「エンジョイしてるわねー」

 

「ふん、京都だぞ? この古の都に来たならば観光しないなどと馬鹿のすることだろう。東京には素既に行ったからな。旅行に行く代名詞であるこの街には一度来たかったんだよ。……そうだ、京都に行こうだったか?」

 

「それは鉄道会社のフレーズで……いや、いい。本題に入れよ」

 

「ああ。さてどこから話したものか」

 

 頷き、

 

「そも、イロカネとは何だ」

 

 そんなことを言った。

 

「……ラブパワー?」

 

「電波発信源ですかね?」

 

「ステルスの源?」

 

「すっごいステルス?」

 

「歴史の裏に存在する超特殊金属ですね」

 

「プラスの塊だよね。腹立つ」

 

 上から俺レキキンジアリア白雪理子である。

 

「星伽巫女の答えで及第点だ。残りは論外だ。間違っているわけではないにしろもう少しものを考えろ」

 

 何故か敵に怒られた。

 いやしかしだ。

 

「シャーロックが色々言ってたけど、あんまよく解ってないんだよなぁ」

 

 心につながる金属とか凄い重要なものであるということしか知らない。そんな詳しい話をしている余裕はなかったわけだし。

 

「まぁ今はイロカネの真実など関係ない。貴様らの認識を聞きたかっただけだしな。ただ、いいか? 今僕の話を聞くにあたって、イロカネというのは世界を左右する力を秘めたものだということを頭に入れておけ」

 

 勿論、それはおぼろげながら解っている。あの人外が遺していったものなのだ。世界をどうこうするくらいの価値がなければ寧ろ拍子抜けだ。

 

「さて、話は数か月前。どこぞの馬鹿どもが秘密結社イ・ウーを滅ぼしたことから始まった」

 

 ばっとその場にいた人間の視線が俺とキンジに集まった。俺とキンジはお互いを見ていた。目が合って、

 

「……」

 

 俯くしかなかった。

 

「ふん、我々からすればよくやったと褒めてやりたい所だがな。ただ知っているだけの人外、『悪平等(ノットイコール)』シャーロック・ホームズ。人でない存在として僅か百歳程度と若いほうだが全能ではなくても全知であるあの男が率いる組織はあらゆる組織にとっては目の上のたん瘤だった」

 

 その言葉に理子やジャンヌ、元イ・ウー組は苦笑する。俺にはそこらへんよく解っていないのが、我が師ただ戦うだけの人外と並び立つ人外が長だというのだからいろいろぶっ飛んでるのは納得できる。

 

「『条理予知《コグニス》』などというふざけた予知能力の前では常に後手に回るしかなかったからな。もっと言えばイロカネ金属に関する研究ですらもシャーロック・ホームズは最先端を行っていた。他の世界中の組織も研究していたがあの男のそれとは比べるべくもない。……一部では、シャーロック・ホームズが研究しきれていないのならだれにも解らないなどという腑抜けた言葉を吐く奴もいたがな」

 

 全知である彼もイロカネについては研究していた。研究せざるをえなかった。

 

「シャーロックも、イロカネについては推理できないとか言ってたな」

 

 キンジの呟きの通りだった。アイツはあの戦いに於いて、俺とキンジ、レキにアリアだけはその推理の外にあると言っていた。イロカネの姫と守護者であるからと。

 

「ふん……それも今となっては過去のことだ。ともあれ貴様らのおかげて世界の頂点は消え去った。それによってなにが起こるか、解るか?」

 

「……おじい様の後釜狙い、かしら?」

 

「そうだ、緋弾の後継者よ。あぁ、そう憤るな。あの男の後は貴様とそこの遠山侍だと世界はちゃんと認識している。まぁ、最初は『化物』那須遙歌だと思っていたのだが、それは置いておこう。今はあまり関係ない。この場合は世界第一の組織の称号のことだ」

 

 そして司馬懿は食事を終えて、箸を置いた。行儀よく手を合わせていた。中々に日本文化に詳しい。同じように俺たちもまた食事を終えていた。

 それが本題へ入る合図だっただろう。

 

「故の――『宣戦会議(バンディーレ)』だ」

 

 『宣戦会議(バンディーレ)』、それはこの京都において既に二度も聞いた単語。

 何一つ詳細を知らないが、張遼や曹操が発してきた言葉。そして今、三度目。

 

「これに関してはそこの魔女に聞いた方が早いだろうな」

 

 指さした先は――、

 

「ふむ」

 

 ジャンヌ・ダルク。食卓の一番端に、一人分開けた座っている彼女は俺たちの仲間ではない。友達ではあるけど所属は違うのだ。イ・ウー残党ともいえる銀氷の魔女は俺たちの視線を集めて、

 

「……まぁ、隠すことでもないか」

 

 軽く頷いて、

 

「大体の事情は今の司馬懿の話通り……崩壊したイ・ウーの後の世の支配域を決める戦争――それの開戦の為に各勢力が集まる会議のことだ。この修学旅行の直後に東京で行われる」

 

 その言葉にキンジが声を上げた。

 

「ちょっと待ってくれジャンヌ」

 

「なんだ」

 

「何で今まで言わなかったんだ?」

 

「驚かせようと思ってなぁ……」

 

「お前ぇー!」

 

 全員から声が上がった。

 

「あ、いや、冗談だ。当然だろう? ……おほん。まぁ正直いつ話しても同じだからな、お前たちバスカービルの参戦は決定事項だ。最後の休息として修学旅行を愉しんで貰いたいという私なりの優しさだよ」

 

「てめぇもう二度と策士とか呼ばないからな」

 

 このなんちゃってめ。そんな優しさは要らない。

 いや、待て。確定事項というのは、

 

「だってお前たちが原因だぞ? 責任とれよ」

 

「……」

 

 こいつなんか正論を!

 

「ははは、そういうことだ。寧ろお前たちが主役と言ってもいいだろうよ、解るか? 『宣戦会議』はただのよーいどんだ。これから戦うという合図に過ぎん。今この星が迎えている興亡期――この世の趨勢を決める戦が始まるのだよ」

 

 ぞくりと、背筋が凍る。

 星の興亡期。世の趨勢。

 シャーロック・ホームズは言った、新世界は頼むと。

 あぁ、あの男はやはり全てを見透かしていた。自らの死後に何があるのかを理解し、俺たちに託したのだ。それはあの人も同じ。

 人から外れた人外である彼らは、誰よりも何よりも世のことを考えていた。

 

 彼らの想いの先に――俺たちがいる。

 

「そして話は戻る。『宣戦会議』では眷属と師団の二つに分かれるのだ」

 

「あぁ、私を初めとしたイ・ウー残党は師団。バスカービルもそうだし、レキがいるから必然ウルスもこちら側だな。他の組織はなんとも言えないが……」

 

「我らの王様はお前たちと敵対することを決めていた。故に我らは眷属だ。この時点でどちらに付くかを明確にしているの結社はそれほど多くないだろうが」

 

「……あぁ、なるほど」

 

「そういうことだ」

 

 張遼と曹操の話が繋がっていく。

 当然それまでの話はその場にいなかったレキやキンジたちにも伝えている。ようやく理解する。この京都での戦いの意味を。

 

「その各世界の結社に向けてのデモンストレーションというわけですか」

 

「その師団と眷属のどちらに付くかを判断させるためってわけね」

 

 レキとアリアの言葉に司馬懿は答えず笑みを浮かべるだけだったが、それが全ての答えだった。

 

「そしてここからが本題となる」

 

「えーまだあるのぉ?」

 

 空気読め理子。全員が思い心の中で突っ込んだ。話を進めるためにスルーした。

 司馬懿は指を四本立てて示した。

 

「こちらから将を三人、王が一人出そう。故にお前たちからも四人だせ。この古都を舞台にして尋常の一騎打ちを行おうではないか。戦役の前哨戦。興亡期最初の戦いが我らとなる。喜ぼう、今間違いなく――僕たちが世界の中心にいる」

 

「お前――言ってて恥ずかしくない?」

 

「いや、全く」

 

 心臓から毛が生えた子供だ。できるならお近づきになりたくなかった。

 だけど、

 

「ま、那須と遠山の相手は決まっているからな。貴様らは強制参加だ」

 

「ですよねー」

 

「……すげぇ嫌だ」

 

 キンジの背中に闇が見えた。全員から同情の視線が向けられる。初めて遭遇した時に遙歌と同等とか言っていて、実際に目にするまでは半信半疑だったが最早疑うべくもない。アレと戦うのは嫌すぎる。

 まぁ避けられないのだが。

 

「夏侯淵さんは私がやりましょう」

 

 静かに闘志を燃やしていたのはレキだ。常と変わらずの無表情に、感情を感じえさせない声。けれど俺は当然として、仲間内の誰もが彼女の意思に気付いていた。

 一度負けた。完全無欠に敗北した。

 だからこそ――今度は負けない。

 静かな炎は確かにレキに宿っている。

 

「ふむ。ならばあとは一人。我が軍で最もやる気のない常に死んだ目をしている廃人系将軍夏候惇元譲の相手は誰がするのかな?」

 

 残ったのは、アリア、白雪、理子の三人。

 緋弾の継承者と星伽の巫女と過負荷の大怪盗。

 

 そして、手を上げたのは――




ひさびさ本編ー。

さて次はどっちか……
まぁどっちになっても京都は崩壊けてーい(

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