落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
曹操たちの襲撃から一夜明け、俺たちは京都にある星伽の分社に滞在していた。
東北に本社を居を構える星伽神社だが京都という古の京には当然というように、その分社があった。京都というと陰陽師のイメージが強くて、苦手だったがそうも言ってられない。何でも位階の高い妖怪だかなんだかが裏で京を治めているらしいが、ある程度の実権も星伽神社側にもあるらしい。
実際、俺たちの交戦に気付きキンジたちへと連絡したのは、分社にいた白雪だったのだ。
「どうやってアリアからキンちゃんをNTRすればいいのか占ってって、ついでに寝る前に蒼一君とレキさんの分も占ったら大凶なう、とか出たから慌ててキンちゃんに連絡したんだよ」
いい加減諦めろ、とはさすがに言えないので前半部分は突っ込まない。大凶なう、ってなんだとかも聞かない。その連絡で命を救われたのは確かなのだから。それで既に京都に入っていたキンジたちが連絡を受けたのが、ちょうど俺たちが最初の狙撃を受けて旅館を脱出したあたりらしい。そこからあの不思議バイクで俺とレキがいた森までかっ飛ばしたという。
そこから先は言うまでもない。
「……思いっきりやられたなぁ」
「アレと戦うのってやっぱ俺なのか……」
朝、六時前。日が昇ってそれほど時間が経っておらず、周囲が森に囲まれていて空気も澄んでいる中で俺とキンジは昨夜のことを振り返りながら軽くブルーになっていた。
神社の石階段の下、それぞれ神社の方からもらった作務衣姿。俺は階段に座って、キンジはとんでもバイクの車体を洗っていた。
「試作型PAD『緋影』、ねぇ……」
「あぁ。アリアのPADのついでだったけど、先に完成していたのを俺が一時的に借りたんだ」
どこからどう見ても往来のマスク騎乗者のバイクだ。全体的な緋色と前傾姿勢、それに昨日見た馬鹿げた機動。先端科学兵装で作られたそれは色々な方面に喧嘩売ってるんじゃないだろうか。
「つかよく貸してもらえたな」
「なんでも作ったはいいけど碌に乗りこなせるのがいなかったらしい。それで
こいつはいつからロボットアニメの主人公にまでなった。というかこれと似たようなのをアリアまでもが持つとかゾッとする。
キンジは濡れた布巾で車体を磨きながら、
「それで、ココ……曹操のことだ」
俺に背中を向けたまま言う。ぬかるんだ森の中という悪条件の中を走行し、車体事態には全く影響がないとはいえ汚れはついている。それらを一つ一つ丹念に落としていく。
どんな顔をしているかは見えないが、多分似たようなものだろう。
昨日見せつけられた圧倒的な暴力。武術とかそんなレベルではなくてただ単に腕を振っただけなのに森を吹き飛ばしたのを思い出して、
「変わってくれ」
「絶っ対やだ。頑張れ、ロリはお前の担当だろ」
「悪いがアリアだけで精一杯だ」
いやほんと目を付けられているこいつにはご愁傷様としか言いようがない。精々アリアを泣かせないように頑張ってほしい。死んだら白雪とかあと追いそうだから気を付けろよ。お前らが戦う時は絶対近づかないでおこうとか思った。
思ったことをそのまま言ったら殴りかかって来たので殴り返す。
五分ほど取っ組み合い、互いにボロボロになってから元の位置に戻る。
荒い息を整えてから、
「まぁ俺はたぶんあの張遼が相手になるだろうからな。どうしたって手助けとか無理だぜ? あいつもかなり強いしなぁ」
「そいつだけじゃなくて夏候兄妹もだろ? 相手が四人だけだったのが不幸中の幸いって言っていいのか……俺たちだけじゃ対処できない」
それは違いない。まず間違いなく俺もキンジも自分の相手だけが精一杯だろう。そうするとあの夏候兄妹の相手がいない。こちらの戦力に数えていいのはこの分社にいて、おそらくはまだ寝ているだろうレキ、アリア、白雪。それにホテルにいるはずの理子くらい。ギリギリでジャンヌを入れていいか迷うところ。遙歌は東京だし、金一とパトラさんは婚前旅行。まさか他の生徒を巻き込むわけにもいかない。
修学旅行二日目。
あと一泊二日の旅はまだまだ長くなりそうだなぁとか、思わず空を見上げ、
「――ふむ。ココの力の切れ端を前にしても心は折れない、か。そこはさすがだと言っておこう」
そんな声が俺とキンジへ掛けられた。
一見普通の幼い少年だった。アリアなどは一見小学生にも見えるし、ココも同じくらい。そんなロリ属性とほとんど同じくらいの身長だった。服装も極々一般的に短パンとパーカーにスニーカー。リュックサックを背負い、腕時計だけが幼さに似合わぬごついものだった。それでも外見だけ見れば普通極まりない少年だった。俺の周囲には珍しいショタ属性の男の子であるというだけだった。
普通ではないのはその中身だった。
「さて、こんな朝早くから僕が来たのは他でもない。悪いが僕は見た目通りの年齢で朝五時起きといのは苦にはならないがしかしそれでも体にいいというわけでもないだろう。緋弾のように年齢だけ上がっても体の年齢はとまっているなんてことになるつもりはないし、これでも成長は計算しているんだ。最終的には百八十前後まで。ともあれ、僕の名は司馬懿仲達。言うまでもニアが曹魏の者であり、お前たちバスカービルに対する使者だ」
そこまで一気に言った。この幼い少年は息を継ぐ間もなくこれだけの長台詞を一度に言い切った。
司馬懿仲達。
言うまでもなく、本人が言った通り。三国の世においては曹魏の軍師であった武将。あの諸葛孔明のライバル的な存在である権謀術数の策士と少年は名乗っていた。
「……お」
「お前が、本当に? なんて月並みでつまらない言葉はやめてほしい。せっかく少し上げた僕の評価を落とす気か? そういう気はお前たちには確かに強そうだが、男でもイケるというのは些か問題だと思うし僕としては少なくない吐き気を抑えきれないね」
「いや、それはない」
思わず即答して、
「そうか、ならばいい。ではこの星伽神社を案内してくれた。我らが王様から、お前たちバスカービルへの伝言がある」
「……なんだ」
本物かどうかなんて、最早問うことはしない。これが偽物であっても、その名を語るメリットを俺もキンジも考えられなかったし、伝言があるならば偽ることなど不可能。
それに目を見れば解る。
武術に秀でているわけではないだろう。頭は回るのだろう。けれどそれ以上にその眼はあらゆるものを俯瞰し、支配しようという棋士染みた視線であるというのがはっきりと理解させられていた。
だから疑うことはできず、思わず聞いてしまった。
一体何を伝えに来たのかと。
その問いにそれまでは一貫して無表情だった司馬懿は口端を歪めた。
「『
●
敵地だというのに全く臆することない、慇懃無礼で、あるいは号外不遜とも言えるような態度で乗り込んできた司馬懿を中に通した、寝所にいた女子たちを起こしたのだがなぜかレキだけいなかった。散歩でもして入れ違いになっただろうかと思い、司馬懿をしばらく任せて俺が探しに行った。アリアや白雪は身だしなみに準備はあるだろうし、ちょうど朝飯の時間だ。早々からの伝言も朝食と一緒に、ということになった。
レキは神社から少し離れた小さな沢にいた。
何故か――変なポーズを決めて。
「まずは金的。次も金的――そしてとどめの金的……!」
なにやら恐ろしく物騒なことを叫びながら拳や蹴りを振るっていた。狙撃主が何をやっているのだ。
「おや、蒼一さん。おはようございます」
「お、おう、おはよう……。あ、朝から何やってんだ……? あと、身体はもういいのか?」
「えぇ、白雪さんの治癒術で既に万全です。そして何をやっているかというと夢になにやら属性が近そうな良妻狐さんが一夫多妻去勢という最終奥義を教えてくれたのでそれの練習を」
「なにそれこわい」
「安心してください――すでに習得済みです」
「誰に使うんだよ、というか習得しちゃったのかよ!」
「はい、しました。いつ使うかは……正直私にも解らないですが覚えておいて損はないでしょうし、それにいつか使う時がくるきがするんですよはい。平行世界で私以外にうつつを抜かしている蒼一さんとかに」
「だからお前平行世界とかいうのやめようよぉ!」
昨日は昼間に仏陀さんに天罰を祈っていたがホントにやめてほしい。俺の人生で仏陀とかと合う訳はないだろうし、神様とか信じてないけど、それにしたって仏様からの天罰なんて嫌すぎる。
「それで、なにかありましたか?」
「あったよ。曹操の使いでショタい司馬懿まで現れたんだよ。なにやら伝言があるとかないとか」
「……」
レキは口を閉ざした。表情を消して空を見上げて、
「蒼一さん」
「なんだ?」
「……昨日は、思い切りやられましたね」
「……だなぁ」
俺もレキも。彼女の言葉通りに思い切りしてやられた。レキの新技はなにかしらの夏侯淵のスキルで防がれ、俺も張遼の一撃で軽くない怪我を負った。俺もレキももうほぼ治りかけているとはいえ、事実は帰られない。本当に、キンジたちが来なけれなば危なかったのだ。
「……悔しいです」
レキは言った。
「私もまだまだですね。浮かれていた、或は焦っていた、というのは言い訳でしょうか。ここ最近貴方と肩を並べたのは久しぶりでしたから」
そういえば共闘というのは何時ぶりだろう。単なる任務で一緒にこなすというのはあったが今レキが言っていることとは違った。もしかしたら夏休み前のカジノでパトラさんのゴーレムを倒した時依頼かもしれない。イ・ウーの時は共闘どころか俺とレキが戦うことになったし、その後のシャーロックはキンジとの二体一だった。
あぁなるほど。
ずっと一緒にいるのに、一緒に戦うというのは本当に久しぶりだ。
いやでも、俺は――、
「蒼一さんは戦ってほしくないっていうんでしょうね。貴方は私を護ってくれるから。その想いはたまらなく嬉しいし、護ってもらうのは私にとってなによりも幸せな事ですけど――」
護られるだけじゃ嫌だと、レキは言う。
「私は愛する男に全部任せて護られているだけの柔い女じゃ、ないですから。そんな女は死んだほうがいいと思いますし。だから、昨日のことは凄く、悔しいんです。結果として私が足手まといになったのですから」
「レキ……」
「だから――次は絶対に勝ちます。負けません」
「……おう」
レキの顔には悔しさが確かにあった。それでもそれはネガティブなものではなく次へと進むための原動力だ。敗北の悔しさをばねにするという、ある意味では単純で、しかし難しいことをレキは当然のことのようにやってのける。
あぁ、本当にいい女だ。
探している間にあれこれ考えていた慰めの言葉が全て消えていく。さすがは俺のが惚れた女だ。かっこいい、惚れ直す。こんないい女が隣にいてくれるなんて俺は本当に幸せもんだ。
だからこそ、
「俺も、絶対に次は負けない。勝とう。一度負けても、俺たちは生きてるんだから、まだ終わりじゃねぇ」
「はい」
悔しさは何倍にもして再起への燃料に。
この後さらに二度渡り合うことになる曹魏の武将たちへの必勝の誓いは、敗北から生まれていた。
臣下は三人だけではなかった……!(
そこらへんは次話でバンディーレとかについて一緒に解説します
レキさん「メメタァ」
いろいろ電波フルスロットル。
タマモをキャス孤風にするか迷う(
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