落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第1拳「まだ始まってもいない」

「そうだ、京都へ行きましょう」

 

「お前は誰に言っているんだ」

 

 九月十四日『修学旅行《キャラバン》・(ワン)』当日だ。本来ならば修学旅行という名目のチーム調整の場ではあるが、俺たち『バスカービル』は既にチーム申請を終わらせているので本当にただの修学旅行だ。現地集合に現地解散、神社仏閣を三か所回ってレポートを書くだけでいいというどうにも存在理由があいまいな旅のしおりを握りしめながら俺たちは京都へと降り立った。

 俺たち、とはいってもアリアは母親の裁判関係で来るのは夜くらいらしいし、キンジもそれに付き添い。白雪も京都にいることはいるのだが星伽の分社に缶詰らしく町にはこれそうもないとか。遙歌はそもそも学年も違う。だから『バスカービル』で今現在京都にいるのは俺とレキと理子だけ。その理子も彼女の友達と京都を巡るという。

 だから彼女へと手のひらを差し出し、

 

「行こうか、レキ」

 

「えぇ行きましょう、蒼一さん」

 

 それをレキが握る。

 久しぶりに二人きりのデートというわけである。

 

「わふ」

 

「あ、おい噛みつくな」

 

 ハイマキも一緒だった。

 

 

 

 

 

 神社仏閣は最低三つは回ってレポートは書かないといけない。かつての一件もそろそろ一年も経つことになるがあの時のせいで負わされた特別単位は継続している。こういうレポートを無視すればいろいろ面倒なことになるだろうからちゃんとやらなければならない。

 というわけでまず清水寺に訪れてみれば、

 

「とりあえず飛び降りてみましょうか」

 

「嫌だよ」

 

 次に金閣寺へと行けば、

 

「あれが実は金鍍金というのもケチな話ですね……」

 

「もっと他にないのかよ」

 

 三つめとしてなるべく人が少ない三十三間堂へと赴けばやたら仏像を拝み倒していて、

 

「なにやら別世界のどこかで浮気している蒼一さんに天罰を下すように仏様にお祈りしているんです」

 

「なにそれこわい」

 

 俺はそんなことは欠片もしていないのに別世界別世界云々とか言われると何故か否定できなかった。

 ともあれそんな感じで神社仏閣巡りを終わらせる。元々神様とか信じない性質なのだ。

 京都から大体一時間ほど足を運べば大阪の心斎橋へたどり着く。旅のしおりにもあったがこちらの都市を見学するのも今回の目的の一つでもある。市街地戦への心構えを学ぶというのが目的なのだろう。残念ながら俺は近づいて殴るという戦法くらいしかできないので足場や地形はともかく町並みそのものは関係ない。最悪ぶっ壊しながら進めばいい話だし。

 

「蒼一さんって基本馬鹿ですよね」

 

「……」

 

 否定できないのが悲しい。俺が馬鹿なのは――ぶっちゃけ諦めた。

 

「諦めたんだですか」

 

「頭脳労働はキンジとか理子とかいるしなぁ。俺って突撃って言われてカチコミするほうが得意だし」

 

「突撃とカチコミは随分違うと思いますが……」

 

 などと下らない話を言っている間に足を動かしていけばかなりの人混みだ。事前に武藤に聞いた話ではここら辺は東京でいう渋谷とか原宿のような場所らしい。確かに通行人も同年代が多い。

 

「どうする、フラフラ歩くか?」

 

「そうですね……」

 

 俺もレキも少しだけ困ったように周囲を見回す。元々俺たちもいわゆる今時のファッションとかには詳しくない。渋谷より秋葉原だし原宿より池袋だ。いや、後者はレキの話だけど。基本的に俺自身洋服よりも和服が好きで、そっちなら少しは解るが洋服関係は謎だ。

 レキもアリアたちと一緒に買い物に出かけることもよくあるが、大体ネタ系の服ばっかり着ているからやっぱりそれほど詳しくないのだろう。

 

「とりあえずどこか喫茶店にでも入りますか? 立っているのもなんですし」

 

「そうだなぁ、話し合うならそこかな……」

 

 周囲を見回す。よく解らない店にコンビニ、クラブハウスとあって、

 

「お、あったな。『シャトン・カフェ』……隣の店も『シャトンb』ってことは繋がってんのか?」

 

「行ってみましょうか」

 

「おう」

 

 入ってみれば中々に雰囲気のいい店だった。喫茶店くらいは東京にいてもよく行くし、夏休みには女子陣が喫茶店デザート巡りを慣行し、俺とキンジもつき合わされた。

 動物カフェというやつだろうか、秋葉原でよく見るが店内に色々な種類の猫が歩き回っていて客と戯れている。蔦やら蔓がモチーフとなった内装には結構あっていると思う。結構儲かっているらしく客も多い。

 そんなことを思いながら席に案内されれば、

 

「蒼一さん、アレ」

 

「ん?」

 

 レキが示した先には小さな黒板があって、

 

『大好評! 本日十五時より シャトンb&シャトン・カフェ合同イベント

 シャトン・コール

 優勝者には当日お買い上げのシャトンbの商品を全品半額キャッシュバック!』

 

 なんていうことが丸っこいカラフル文字で書かれていた。

 

「へぇ、だから結構なカップルいるってわけか。どうだ? ついでに服もそっちで買ってきたら。あと一時間くらいあるしな」

 

「ふむ……いいですね。行ってきます」

 

「俺はいかなくていいのか」

 

「私の女子力を見せつけてあげましょう、安心して待っていてください」

 

「激しく不安だ……」

 

 意気揚々と服屋へと去っていくレキを見送りながらもコーヒーを注文して待ち態勢だ。女の買い物なんて長いと相場が決まっているのだから気長に待つとする。

 携帯を取り出して適当にニュースなりSNSで知り合いの動向を確認していたら、

 

「すいません、相席いいですか?」

 

「え?」

 

 そんな声を掛けられた。若い男の声だった。

 

「いや、俺は連れが……」

 

 断ろうとして止めた。

 声を掛けてきた男がものごっついさわやか系イケメンだったから――という理由ではない。そんな一部女子が喜びそうな訳では断じてない。否定の言葉を途中で止めたのは一重にその雰囲気だ。

 

「……どうぞ」

 

「あぁありがとう」

 

 向かい側に座る彼は俺よりもいくつか年上だろう。おそらくは金一と同じくらい。白シャツに黒のジャケットというかなりシンプルな格好だが滅茶苦茶に似合っている。俺だったら絶対着れないし人前に出れない。

 おまけに浮かべた笑みは爽やかで嫌味の一つも感じさせない。

 

「はじめまして、那須蒼一君」

 

 当たり前のように名前を呼んでくる。でも別に驚くことじゃない。一目見て、その雰囲気で解る。

 

 この男は武人だ。

 

 俺と同種。武の世界に生きる人間。夏休みに行った川神の連中と同じような気配。それもかなりの強度だ。こんな男が、アレ(・・)と無関係なわけがなく、

 

「僕は張遼(・・)。張遼文遠――曹孟徳様の家臣の一人だよ」

 

 

 

 

 

 張遼文遠。

 先日現れた曹操と同じ三国志時代の武将だ。三国時代の動乱期には使える主が二転三転したが最終的には曹操に仕え輝かしい武功を立てた名将だ。日本ではそれほど有名ではないにしろ中国に行けば知名度はかなり高いだろう。

 そんな男が、正確にいえばそんな男の末裔が今目の前にいた。

 

「……何の用だ?」

 

 自然言葉が低くなり、身体をいつでも戦えるように準備しておく。

 

「あぁ、別に戦うつもりはないよ。今日君に会いに来たのは挨拶だけさ」

 

「……ほんとかよ」

 

「信じろというほうが難しいかもしれないけど、一応丸腰だよ」

 

 確かに武器を持っている様子はない。言葉の通りに戦意もないし、本当に会話だけのようだ。

 

「何の用だ?」

 

「先日僕らの主が押し掛けたようだからそれの謝罪、かな?」

 

「謝罪、ねぇ」

 

 この前の曹操の襲撃というか来訪は記憶に新しい。遙歌や理子にあそこまで言わせて、その上であれだけの覇気だ。忘れる方が難しい。なのに彼女自身からのアプローチはなく、不気味な空白だったが今こうしてその臣下が来ているということは、

 

「京都に来てるのか? ココは」

 

「来ているよ。僕とそれにもう二人ね。今頃京都観光じゃないかなぁ」

 

 来ているのか、いやいない理由はあれだけど。

 それはそれとして、と張遼は姿勢を正し、

 

「先日は僕の王が要らぬちょっかいをかけて申し訳ない。まだ始まってもいない(・・・・・・・・)のに些かフライング行為だったね。曹魏として正式に謝罪しよう」

 

「それは別にいいけど……いや待て、今なんて言った」

 

「? 曹魏として正式な……」

 

「違う、始まってもいない? 何の話だ」

 

 それではまるで――これから何かが始まるような物言いではないか。

 

「聞いていないのか?」

 

「知らん」

 

 張遼は驚いたように軽く目を見張り、それから注文していた珈琲を啜ってから、

 

「聞かなかったことに」

 

「しねぇよ」

 

 させるわけがない。絶対重要な話だろ。

 

「いや……しかし、それでもこれは君の姫に話を聞くべきだ。君の妹や……そうだなリュパンやジャンヌ・ダルクあたりなら知っていることだろう。少なくとも敵になる(・・・・)であろう(・・・・)僕から聞く話じゃない」

 

 今言った面子は気になる。しかしそれよりも聞き逃せないのは、

 

「敵になる、だと」

 

「そうだよ。王はかなり君たちに興味を示しているらしくてね。どうしても雌雄を決したいそうだ。だからこそこの時期に京都まで足を運んだわけさ」

 

「……また面倒事か」

 

「そうだね、それもとびっきりだよ」

 

 張遼と二人で苦笑する。イ・ウーを沈め、夏休みもいろいろやって来たわけだがまさかこんなにも早く厄介事が降ってくるとは。もうちょっと休ませてほしいものだ。

 

「まぁ慣れっこさ。それで、他になんかあるかい?」

 

「そうだね……まぁ、君への予約かな?」

 

「は?」

 

「僕たちにとって一騎打ちこそが何よりの誉だ。王は遠山君に特に興味を惹かれている。彼は必ず王と戦うだろう。必然臣下たる僕らは君や君の仲間たちと戦うことになって」

 

「その時、俺はアンタとやればいいってわけか」

 

「そうしてくれると嬉しいね」

 

 やはりこの男は武人だ。単純な肉体面ではなく、その精神が。

 

「『拳士最強』、相手にとって不足はない、寧ろ光栄なくらいだよ。できるのならば僕は君と戦いたい」

 

「……はっ。いいぜ、その時(・・・)はアンタと戦ってやるさ。生憎俺はアンタが来たからって泣いたりしねぇよ?」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 笑う。

 

「さて、僕はもう行こう。目的は達したしね。お姫様によろしく。ちなみに京都にいる間に一回は襲撃するだろうからそっちの意味でも」

 

「応、そっちも王様によろしく言っておいてくれ。返り討ちにしてやるって意味でもな」

 

 軽く拳をぶつけ合わせ、張遼は店を出ていった。

 入れ替わりにレキが来た。それまでいた張遼には気づかなかったのか得意げな顔だった。

 

 なぜか幼稚園児の恰好で。

 

「どうでしょうか、この女子力」

 

「がっかりだよ」

 




曹操陣営オリキャラその1 張遼さん
なんかwiki見たり話聞いたらかなりのキチガイのようで、男祭り要員その1です。
 

感想評価お願いします。

ちなみに番外編編現在一回戦終わったくらい。

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