落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「はじめましてこんにちは」
掌の中のUSBメモリが爆散する。
それは弾丸が飛来してきたわけではなかった。またどこからかナイフや小石のような投擲物でもないし、俺自身が握りつぶしたわけでも無かったし、斬撃や拳撃が飛来したというわけでもなく、異常や過負荷によるスキルでもなかった。
まず最初の亀裂が入った。
長方体の形の真ん中を中心として突如として亀裂が入った。そしてその亀裂を認識するよりも早く――爆散したのだ。中の電子回路だかなにかがショートででもしたのか小さい炎が上がる。
「っ、お、う、お!?」
咄嗟に平手で薙ぎ払った。
蒼の一撃第六番『天蒼行空』の劣化版というには些か劣化が激しい。常人の平手打ちと威力はそれほど変わらない程度。払い飛ばした破片がアスファルトを転がって行く。手のひらに僅かな傷があったが問題になるほどではなく、問題になったのは、
「そして――あら? さようならにはならなかったわね。遣い方がいまいちわからないわ……」
「――」
そんなよくわからないことを言う女だった。
初めて見る女だった。
初めて見るほど――綺麗な女だった。
落ちついた色合いのコートにロングスカート姿で校門の正面の街灯の上に腰かけているが、それだけが非常に絵になっていた。時間が止まったかと思うほどの美貌。腰まで伸びる三つ編みの茶の髪に、白い肌。整いすぎた顔立ちにモデル顔負けのスタイル。無論、武偵高にだって美人美少女は多い。普段一緒にいるレキは見た目だけなら美少女だし、星伽や峰も顔に関しては文句のつけようもない。教師陣だって性格はアレだが外見はレベルが高い。
そんな彼女たちが比較にならないくらいほどの美貌だった。
匹敵するのは――胸の中にしまいこまれたたった一人の妹くらい。
「改めまして、はじめましてこんにちわ。カナよ」
「……っ、なにがこんにちわ、だ」
思わず見とれた自分に自己嫌悪。不覚にも思考が停止して動き出すタイミングを見失った。出てきた言葉はありきたりすぎた。
「何者だお前っ……!」
「だから、カナよ。名乗ったでしょう?」
知るか。自分が有名人だと思ってるのか。
「生憎お前なんて知らねぇよ。どこのどいつだ」
「……?」
カナが不思議そうに首を傾げる。それは、確かにどうして自分の事を知らないのかという様子で、しかしそれはカナからしたら純粋に不思議だった。
「キンジから聞いていないのかしら……?」
「あ?」
「私はキンジの姉よ」
「……まじかよ」
こんなのが姉か。言われてみればどこなとなく顔立ちが遠山に似ているような似ていないような。どうだろう。正直微妙だ。さすが主人公体質、周囲に美女美少女が多い。
いや、それはまぁいい。俺だった妹はかなりの美少女だった。
「てめぇ、なんのつもりだ」
「なにがかしら?」
「人のUSBメモリぶっ壊しておいてどういうつもりだったって話だよ」
異常か過負荷か超能力かなにか知らないが、何かしらの能力で手にしていたメモリがぶっ壊された遠山の姉というのは別にいい。あれの家族の話なんて碌に聞いたことが無いしどうでもいい。ともあれ、せっかく手に入れたレキの情報の欠片が入ったのに即効で失うとはどういうことだ。中空知になんて言えばいいのだ。
「んー、ちょっとした試しと、弟の顔を見に生きたんだけどね。あの『拳士最強』握拳裂の弟子がいるって聞いたから顔を見に来たのよ。それにメモリは小物みたいに指で遊ぶものじゃないわ」
「……」
知るか。
この場合の試しと言うのは、この時すでにイ・ウーの『ただ知っているだけの人外』シャーロック・ホームズと接触し、断片ながら
そして既にイ・ウーに参入することを半ば決めていたカナ、表舞台から離れる前に弟の顔を見に来たというのが今回の襲撃の実態だ。
そして最後の一つの理由は。
ある意味では納得だった。というよりは、まず最初に俺が思いついた襲撃がそれだった。
『拳士最強』握拳裂。
その知名度は言うまでもない。『拳聖』『零拳』『一騎当仙』『案ずるより穿つが易し』『拳撃昂進曲』『無間掌拳増地獄』。超人ランクぶっちぎりの一位。単純な無手で白兵戦では他の追随を許さぬあの男が有名でないわけではない。――そしてその唯一の弟子である俺も又然りだ。名前自体はともあれ存在そのものは広範囲に知れているだろう。実際現在イギリスにいる神崎・H・アリアは弟子の存在は知っていても、那須蒼一という名前自体は知らなかった。まぁそれはあの男が打倒されるということ自体が眉つばものだったというのもあるだろうが。
「なんだよ。決闘か? あぁ、いいぜ。そういうことなら大歓迎だよ。最近色々 溜まってんだよ」
「あぁ、そういうのじゃないから」
違うのかよ。
なんだよつまらない。この女多分かなり強い。多分、というのはこのカナという女の強さが測りきれないからだ。見ればわかる、というよりわからない。俺の全力と同等かそれ以上。あるいは『拳士最強』に匹敵するのではないかと思わせる可能性すらある。
静かな強さ。
その強さが解り難い、他者から理解させない強さ。俺の知る限り、俺とレキくらいしかいなかったがカナもまた同じだ。俺が同じ類の強さだったからこそある程度の推測が出来るが、他からしたら計り知れないはずだ。
「……じゃあなんなんだよ」
「だから、顔見に来たのよ。なるほど、強いわね。戦いたくないわ」
「……どの口が言う」
瓢々とした女だった。掴みどころが無い。遠山とはまったく似てない。こんなのいたら疲れてしょうがない。
「ま、メモリは悪かったわね。自分でどうにかして頂戴」
お前がどうにかしろよ、とか思わなくもない。というかどうにかしてくれ。マジでどうしよう。出来る事ならば真剣に悩みたい所だが、こんなのが前では悩むに悩めない。
「あぁ、でもそうね」
「なんだよ」
「貴方を前にして、遊ぶだけと言うのも失礼な話なのかしら?」
「なに?」
そして――カナが動いた。
●
「っーーが!?」
なにをされたのか理解できなかった。ただ気付いた時には眼前に弾丸があり、条件反射で咄嗟に弾き、二撃目を肩に喰らう。気による肉体強化と防弾製服により負傷は少ないがしかし、何をされたのか気付かなかった。
「――『
『
カナの小さな呟きのそれが今の能力の名前か。異常だか過負荷だか超能力だかなにかは知らないし、言葉という概念すら当時は知らなくて、ついでに言えば単純な技術であることすら気付かなかったが、ここらへんが俺が落ちこぼれたる所以だ。俺のこの呪い染みた体質は自己だけではなく他人の狙撃スキルにも適応される。瑠璃神モードを会得し、イロカネの力で異能無効という性質を宿すことになるから関係なくなるとはいえ、鑑定眼に関してはどうしようもない。
だから理解できない。
だから続いてきた銃声音と光のみしか認識できず、吐き出された後の弾丸のみしか認識できなかった。
「ッ!」
弾き飛ばす。気で強化した手刀で叩き落とす。先ほどは咄嗟の事で二撃目は処理し損ねたが、今度はそうはいかせない。連続する不可視の弾丸を弾き飛ばし、
「やるわね」
カナが背後に現れる。同時に何かの刃物が空気を切り裂く音。咄嗟に膝を沈めながら振り返った。
「っーー!」
振り返って見たカナは変わらず無手だ。銃も刀剣の類も持っていない。だがしかし今斬撃音があったし、銃弾は放たれた。透明化とか認識阻害という言葉がよぎるが確証は無いし、実際に違った。
カナはその三つ編みを翻しながら、
「これはどう?」
蹴り足が伸びる。速い。空気を切り裂く鎌の如き蹴撃だった。写真でも取れば実に絵になる脚線美だったが威力は破格を有していた。
だがそれは悪手だ。
同じ様に蹴りを繰り出し、
「……クッ」
上がったうめき声は俺ではなくカナだった。
当然だろう。銃弾も斬撃も俺にとっては門外漢だが、こと体術ならば話は別だ。『拳士最強』の弟子として負けるわけにはいかない。
「さすがっ」
カナが距離を取ろうと後退する。正しいが、そんな簡単にやらせるわけがない。地面を蹴って追う。五指を揃え、手刀を作り、振う。
「シッ!」
「おっと」
それに対し、カナはその場で回った。それの回転に伴うように三つ編みが舞う。
なにを、と思った。たかだか髪の毛で俺の手刀に相対するとは意図が理解できず、しかし舐められていると思い、怒りを追加し手刀と髪が交わり、
「!」
金属音染みた高い音。手刀と三つ編みが弾かれ合う。まるで刀と刀がぶつかり合ったような音。実際、気で強化された俺の手刀は本物の刀剣と同等の強度を持つ。そしてカナの三つ編みはその中に分解された処刑鎌が仕込まれていたのだからその結果は納得だった。
だが、しかしだ。この当時の俺はそんなことは知らない。
認識できた事実は自らの手刀がたかだか髪程度を打倒しきれなかったという事実。
「……ふざけんな」
そんなのは認めることは出来ない。認めていいはずが無い。胸の中で生じた子供染みた怒りは体内を巡り、それまで以上の強化となるがしかし、制御できない感情によって生じる気は身体からこぼれ周囲の空気をざわめかせる。空気がギチリという音を立てて軋ませ、
「ちょっと。
「……」
明らかに殺る気のないカナに少し萎える。戦う気もない相手を無抵抗に殴るのはさすがに抵抗がある。無抵抗、と言うには些か語弊があるだろうが。
「やれやれ、余裕が無いわね少年。そんなんじゃ彼女もできないわよ」
「……生憎不本意ながら、結婚迫られたよ」
「あらおめでとう。結婚式には呼んでね?」
誰が呼ぶか。つか、上げる予定はねぇよ。
「さて、そろそろ弟の顔を見に行こうかしらね。また会いましょうそしてさようなら」
笑みを浮かべて――というよりドヤ顔っぽのを浮かべて去ろうとし、
「おい、こら待て!」
言うが、遅かった。というよりも即座に消えた。後々知るが言葉『正言遣い』で離脱したらしい。だが、最早言うまでもなくそんな言葉の存在を知らぬ俺からすれば目の前の相手を見失ったという事実を突きつけられた。
「くそっ……!」
負けたわけでもないが――どうしようもなく敗北感が胸に広がった。
それでもこれは顔見せで、遊びだった。
勝負といえる勝負は――もう少し先だ。
主人公がさっき出したのはじつはこれが初めて。
そしてドヤ顔に定評があるうちのカナである
言葉とかイ・ウーメンツに装備させたいな。チーム負け犬みたいな!
感想評価お願いします。