落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第8拳「……おいしい、です」

 あれから見城某先輩以外にも模擬戦を吹っかけてくるような連中はいた。勿論尽く返り討ちにして、軽くは無い負傷をお見舞いしてやった。それでも未だに模擬戦を申し込んでくる奴は後を絶たない。三年生が相手ならば話が違うだろうが、ほぼプロである連中は無駄な模擬戦で怪我をするという危険をおかしたりしない。蘭豹も初日こそ実力の一端を垣間見せたがその後は何時も通りの酔っ払いだ。結果として相手をさせられるのは一、二年だ。

 つまらない。

 雑魚といえば魚に申し訳ないような連中ばかりだ。ストレスは溜まっていく一方だが、どうしようもない。

 というかもう三年や教師陣との戦闘は諦める。雑魚を蹴散らしてもストレス解消にはならないが、蹴散らし続ければ身の程知らずもいなくなるだろう。それまでは我慢するしかない。

 だからこっちはいい。

 もう一週間もすれば減って行き、十二月にも入ればほとんどなくなるのだから。

 だから、当時の俺の最も大きなストレス、頭を悩ませる原因がなんだったのかは。

 言うまでもなく――

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 一週間だ。一週間、なにも変化が無い。無論、一切合財というわけではなく、秋であるが気温は段々低くなり、冬の訪れを感じさせている。フローリングの上の毛布一枚で寝るのはだんだん辛くなってきた。それでも、さすがに遠山もいる寝室にレキを連れ込むのはどうかと思って自室で寝泊まりしている。まぁ、それなりに悪いと思っているのだ。アイツは女が苦手気味らしいし。その割には女受けはいいのだが。それはいいとして。

 

「……」

 

 変わらないのはこの女だ。レキ。狙撃科(スナイプ)のお姫様。遠山に聞いた話では一年にして武偵ランクSらしい。言われてみれば納得だ。いや、それはどうでもいい。問題なのはそんなしょうもないランク分けじゃなくてコイツ自身だ。

 考えてみても欲しい。

 四六時中、それこそトイレ、風呂、授業中を除いたほぼ全ての時間、背後にこの女につきまとわれているのだ。例えどれだけ見てくれがいいとしても、どちらかと問われなくても即嫌いだと言える女だ。苦痛で仕方が無い。

 少しくらい冗談でも言えればまた変わるのだろうがコイツにそれを期待するのは馬鹿だろう。

 

「……」

 

「……」

 

 結果として沈黙がある。

 すでに日が沈み、夕飯も食べ終わっている。例によってレキはカロリーメイトで俺はコンビニのカルボナーラだった。ワンコインにしては美味いのだ。美味いが、しかし監視されながら食べていれば美味しさも半減だ。

 どうにかしたい。

 だが、どうすべきだろう。

 やはりこういう人形女への対策というならば人間味を出させるというのが正攻法だろう。ゲームや漫画ではわりかしよくある方法だろう。だがしかしこの女にそんな正攻法でいいのかとも思う。コイツは普通じゃあない。かなりの強度の異常者。おまけに風とかいうわけのわからない存在の端末みたいのものだ。風がなんなのかまったくわからない以上は対処が難しい。

 だが、それでも。だったらどするのかと問われれば答えが無い。

 

「ぬぬぬ……」

 

 駄目だ。それらしく考えても答えが出ない。残念ながら俺はそれほど頭がよくないのだ。複雑な考え事には向いていないし、人間関係についてだって碌な答えはでない。

 

「どうかしましたか」

 

「いや、別に……」

 

 正攻法が使えなさそうだから、邪道だけど効果的な作戦X。

 そういうのが理想的だけど、そんな仮定Xは思いつかない。そこらへんは友人知人戦友零の苦しい所。こういうことを考えるのが面倒だったから友達を作らなかったのに友達飛び越えて、主兼嫁ができるとは思わなかった。

 読めとか絶対認めたくないけど。

 女に興味ないとは言わないが、それにしたってもっとちょっと人間味が欲しい。そんなこと考えていたら数カ月後にはかなりはっちゃけてひどいことになっていたけど。これのルーツはもう少し後だ。

 ともあれ、まずどうするべきかを足りない頭で考え、

 

「なぁ」

 

「はい」

 

「明日、学校の帰り寄り道してもいいか」

 

 

 

 

 

 放課後、授業が終わって学校を出る。が、普段のように直帰せずに寄り道。といってもそれほど遠くに行くわけでも無く、帰り道の途中から少し外れた程度。お台場のテレビ局を背後にした場所にある移動屋台。

 『エステーラ』

 ここらへんの中高生では結構有名な軽食系の移動屋台だ。最初は師匠の道楽で連れまわされて来て、結構気にいっている。まぁ、放課後直後でないとすぐにものが売り切れるし、だからこそ人が多くなるから最近は滅多に来なかった。

 相変わらずの人気のようで十数人の行列が出来ていた。武偵高だけでなく他の学校の生徒もいるがほとんどが女子、男子は二、三人程度で若干行きにくいが、気にしないことにする。 

 

「よし、レキ」

 

「はい」

 

「並ぶぞ」

 

「どうぞ」

 

「いや、お前も行くんだよ」

 

「……? 何故ですか?」

 

「お前も、ここの菓子を食べるからだよ」

 

「別に必要ないです」

 

「いいから、どこにでもついてくるんだろ」

 

 些か強引であるがレキを引きつれて列の最後尾へ。レキも付いてきたが若干不満げのようだった。一週間も観察されたわけだが、こっちだってそれなりに観察してきたがコイツも表情の筋肉がまったく動かないわけではない。一応動く。

 ミリ単位でだが。

 よっぽど観察眼がよくて、気をつけていないとわかりにくいだろう。眉のあたりとか目じりとか口の端あたりとか。そして今は眉が数ミリ程度だがひそめている。

 

「なぁ」

 

「……はい」

 

「お前、こういう菓子食ったことあるか?」

 

「ありません」

 

「ふうん。じゃあ好きな食べ物とか嫌いな食べ物は」

 

「ありません」

 

「さよけ」

 

 だと思った。というより、そういう経験がまったくないのだろう。食わず嫌いとかそういう感じで、経験が全くないのだ。その辺りは修行時代に世界各地色々連れまわされた俺の方が経験が豊富だ。人間関係は困るが。

 

「あ、お前金持ってんの?」

 

「あります」

 

「どのくらい」

 

「今はカードで一千万程あります」

 

「なに!?」

 

 驚くほどの金持ちだった。一体どこで稼いだのだろうか。風に持たされたのか、それとも任務(クエスト)で稼いだのだろうか。今の感じだと貯金はもっとたくさんありそうだった。聞くのが怖いので聞かないけど。

 まさかのレキの懐事情を知っていたら、順番が来た。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 店のお姉さんの笑顔がまぶしい。営業スマイルだろうが、他人の笑顔を見るのは久しぶりだ。そんなので感動するようなキャラじゃなかったはずだが、最近はこの無表情と一緒だったから新鮮だ。

 

「リーフパイ二つ」

 

「かしこまりましたー!」

 

 癒されるなぁ。リーフパイ二つ分のお金を払う。レキがカードしか持っていないので、しょうがないので二人分だ。ついでに癒してもらったのでポイントカードを作ってみた。今後使うかは知らんけど。ショーケースを見る限り、ラスト三つのうち二つだったようだ。

 ラッキーである。

 リーフパイを受け取って、

 

「ほら」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 レキに渡す。困惑気ながら受け取ってくれた。近くの自販機で二人分の缶コーヒーを買って近場のベンチで腰掛ける。

 俺はベンチの右端に。レキは左端に。

 若干尽くし過ぎじゃあないか思うが一応従僕という立場だし、今後への投資ということで割り切る。

 

「んぐ」

 

 リーフパイにかじりつく。文字通りの葉っぱの形をしたパイで表面に砂糖がまぶしてある。結構甘いが美味しい。

サクサクとした触感も小気味いい。

 

「うまいな」

 

  コンビニ弁当も別に嫌いではないが好きでも無い。最近は種類も増えてきたが、こういう所で食べるのはやはり格別だろう。たまにはこういうのも悪くない。少しだけ上機嫌な俺だったがそのせいで隣を忘れていた。思い出して、視線をレキに向ければ、

 

「……」

 

 右手にリーフパイを、左手に缶コーヒーを持って固まっていた。というかその二つを凝視して動かなかった。

 

「食べないのか」

 

「いえ……」

 

 言われて、思い出したように動きだす。食べる気はあるようで、リーフパイを口に運び、その小さな唇で一齧り。サクッという小さな音が響き、

 

「……おいしい、です」

 

「そりゃ重畳」

 

 味覚は正常らしい。それを美味しいとい言うこともできたようだ。無言で食べて、食べ終わってノーコメントというのもあるかと思ったんだが。

 

「カロリーメイト以外も悪くないだろ」

 

「……」

 

 答えは無かった。

 もぐもぐあるいはサクサクと全く同じリズムでリーフパイを齧り、たまに缶コーヒーを傾けている。お気に召したようだ。こうしてみれば普通の女の子、とは言えないがそれでも普段の監視カメラみたいなのよりも人間味はある。

 なるほど。前言を撤回しよう。

 リマ症候群(シンドローム)、試してみる価値はありそうだ。人形女でも一応は人間なんだから、風とかの端末としてではなく、自分に目覚めてもらってそれで離れてくれれば御の字である。人間として目覚めてくれれば、決闘して強制契約がどれだけ頭おかしいのか理解できるだろう。

 なれば、これからもこういうことをしなければならないと考えるとそれはそれで面倒臭いが。

 それでも、こんな空っぽの無表情女と四六時中いるよりはちょっとは人間味があるほうが言いに決まってる。

 

「……」

 

「……」

 

 二人でベンチに座って無言でリーフパイを齧り、缶コーヒーをすする。なんとなくぼんやりしていたら武偵高の中等部あたりの女子二人が別のベンチで一つのパイを分け合っていた。さっきの最後の一個だろうか。仲がいいことで。仲良きことは美しき哉。勿論この二人、間宮あかりと佐々木志乃は仲がいいという言葉では済まされないような、片方が済まさないという色々アレな二人だ。勿論、現時点では赤の他人。友達未満知り合い未満の無関係。

 

「なぁ」

 

「はい」

 

「また、来る気あるか?」

 

「蒼一さんが行くのであれば」

 

「……そーかい」

 

 つくづくつまらない。主体性がない。心が無い。人形女。ここでまた来たいですとでも言ってくれればいいのに。期待するだけ無駄だろうか。

 解らない。解らない。解らない。

 結局なにも解らない。

 考えれば考えるほど思考は泥沼で、無軌道になって意味不明になっていく。大体俺は落ちこぼれだ。そんなのがこんな異常の気持ちなんかわかるわけがない。解り合えるわけがない。

 ――俺はもう失敗(・・)したのだ。六年前に。

 俺には異常や天才を理解できずに、拒絶したのだ。

 どうしても噛み合わない。どうやたって噛み合えない。

 彼女にだって心は在るのに。それが無垢過ぎて、何も知らなさ過ぎて、どうしていいか解らないだけだったのに、俺は勘違いしていた。

 なのに当時の俺は、落ちこぼれの俺と異常であるレキ。解り合えないのを前提としているのに、レキに心を生もうとしていた。

 なんだそれは。笑えてくる。あぁ、本当に。

 

「くっだらねぇ」

 

 後々の俺は、悲しいと思った。




原作おもいだそうとすると、蒼一がいなかったり、レキに違和感がある病気。とか言ってたら友人にそういう人がいて笑った。
これが調教である(え
もっといたらうれしいなぁ。


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