落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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エピローグ「じゃあ、帰ろうぜ。俺たちの帰るべき場所へ」

「友情、か……」

 

 もう既に初老を超え、50代ほどになったシャーロックは仰向けにぶっ倒れながら、ポツリと呟く。

 

「それは、今の僕には持っていないものだ。一世紀以上前に親愛なるワトソン君は死に、そして半年前にはあの馬鹿も先に死んだ。……1世紀半近く生きているが友情なんてそんな簡単には手に入らないし、それを保つのは困難だ」

 

 目線が、俺とキンジに。倒れかけて、もう全身ボロボロで。それでもお互いに肩を預け合い、支え合う俺たちを見て、

 

「本当に君たちを見てると、昔の自分を思い出すよ。若くて、青臭くて、みっともなくて、それでいてなによりも輝いてた。……ああ、そんな君たちの、勝ちだ」

 

「シャーロック……」

 

「お前……」

 

 こうやって喋っていく間にもシャーロックの老化は進んでいく。いままで戦っていた間よりもずっと早い。

 もうすでにかなりの高齢だった。

 

「安心したまえ、僕にはもう何もできないよ。君たち二人のおかげで、体も動かないしね」

 

 目線がズレる。それは俺たちの後ろの、神崎だ。

 彼女に淡く微笑み、

 

「……」

 

 神崎が歩いてくる。それは恐る恐るという動きだった。それでも、シャーロックへと歩いていく。

 一度キンジと目を合わして、それからシャーロックの下で跪き、

 

「曾おじい様……いいえ、敢えてこう呼びます……シャーロック・ホームズ」

 

 じゃきんと。

 その皺が増えた手首に、手錠を掛ける。

 

「--あなたを、逮捕します」

 

 そう、涙を流しながら呟いた神崎に、

 

「----ああ。だがそれは出来ない」

 

「……ッどういうこと、で」

 

「単純だ、もうそれほど僕は保たない……ああ、少し待ってくれ、時間だ」

 

「……時間?」

 

 シャーロックの視線が動く、それに釣られて見た先はICBMだ。

 下部からの噴射炎が増していき、今にも飛びあがりそうなそれは、

 

「あれは中が改造されていてね。ちょっとしたロケットで……中には我が伊・ウーの残党幹部たちが乗っている」

 

「な……!」

 

 驚愕は、遅い。何かをする前に炎と煙が増していき、今の身体ではどうしようもない。

 轟音が轟く中、シャーロックの声だけは何故か鮮明で、

 

「伊・ウー現艦長、シャーロック・ホームズが宣言しよう。今この瞬間、秘密結社伊・ウーは解散とする。我が同胞諸君各々これから好きに生きてくれ。今日まで付き合ってくれた君たちに感謝を。達者でいてくれ」

 

 言葉が届いたのかは俺には分らなかった。

 ただ、八つのICBMはシャーロックの言葉が終わった瞬間に、

 

「----!」

 

 飛び立った。 

 

「君たちもだ。行きたまえ。言うだろう? 『老兵は死なず、ただ去るのみ』と。……いい加減疲れたよ。……蒼一君」

 

「なんだよ」

 

「アイツの生き様は?」

 

「……一応、な」

 

「そうか。まぁアイツほど長くはないが、それでも150年は中々に長い。愛する人も友も死に……はは、さっきからこう何回も言っていればまるで僕がアイツのことを恋しいみたいで腹が立つが……同類も死んだ」

 

 声はしわがれ、皺が増えていくシャーロックは目を閉じ、ポツポツと、訥々と語る。

 その横顔の表情は安らかなようで、同時に寂しそうにも見えた。

 俺には、少なくとも理解できない。俺にも、レキにも、キンジにも、神崎にも。

 キンジは神崎の下へ行き、肩を浅く抱く。

 

「……」

 

 レキも俺の隣に来たから、腰を軽く抱きしめる。

 ICBMが飛び去ったから、この部屋の中は驚くほどに静かだ。

 でもそれはただ音が無いというよりも、目を伏したシャーロックがどうなるか----俺たちにはわかっていたから。

 

「……独りというのは寂しいものだよ。キンジ君、どうか僕の曾孫を頼むよ。僕のようには----しないでくれ」

 

「……ああ。誓うよ」

 

 その身の緋色は次第に薄れていく。だが、それでも。神崎の肩をしっかりと抱き、応えた。

 

「コイツは俺が護る。なにがあっても。…これから、ずっと」

 

「頼む。……蒼一君、レキ君」

 

「ああ」

 

「はい」

 

「あの馬鹿の意思は君たちが受け継いでくれ。僕の意思がキンジ君とアリア君に受け継がれるように。大切な人を、護るんだ。アイツは酒に酔うと何時も護れなかったと嘆いていたから、ね。君たちはそうは、ならないでくれ」

 

「……ああ、わかってるさ」

 

「大丈夫、ですよ。……この人は、強いんです」

 

「そうだね。僕も知ってるよ。君の想い人には、驚きの一言だ。普通(ノーマル)でもなく、特別(スペシャル)でもなく、異常(アブノーマル)でもなく、過負荷(マイナス)でもなく、悪平等(ノットイコール)でもなく。過性能(プラス)に見える気というスキルは己の命を燃焼してるに過ぎない。もし君が瑠璃の護り手でなければかなりの若さで死んでいただろう。過負荷(マイナス)に見える飛び道具が使えないという呪いというは、今の君には意味を成さない。結果的に見れば、プラマイ打ち消しだ----分るかね? 君は何も持っていない」

 

 何も、ない? 俺が?

 意味の分らないことを、シャーロックは語る。

 何も持ってないなんてことはないはずなのに、それでも彼の言葉は大切なことのように感じる。

 プラマイゼロ。

 過性能(プラス)もなく過負荷(マイナス)もない。

 気を使える。代わりに飛び道具が使えない。なるほどプラマイゼロだ。でも、それはそういうことなのだろうか。

 

「キンジ君のように主人公体質なわけではない。無論、神崎君やレキ君のようにヒロイン体質でもない。遙歌君と再開出来たことは、キンジ君の体質に釣られたのと、僕が操作した所以だ。友達の死んだはずの妹と戦う、なんてまぁあり得なくもないだろう? つまり、君自身に運命はない。そして、君自身が僕に啖呵切ったようにご都合主義も持っていないのだろう。だからこそ、運命にも筋書きにも縛られない。君はそんな愚かな存在なのだよ」

 

 

 

 

 プラスでもマイナスでもない『持たざる者(ゼロ)』。

 

 

 

 

「那須蒼一君。君こそがソレだ、悪平等()が押す、新世界の主人公だよ」

 

 

 そう、本当に意味不明なことを言って来る顔には見憶えがある。

 あの人と同じだ。あの人の死に顔にそっくりなのだ。

 

「なんだ、それ……意味わかんねぇよ」

 

 訳の分んないこと言いまくって、それだけで勝ってに死のうとする。 

 本当に迷惑だ。こっちの気持ちなんかなんにも解ってない。頭の固い糞爺だ。

 

「すまないね、年をとると、どうにも話しが長くなる」

 

 そうして、俺に言うことは終わったらしい。視線は戻り、  

 

「曾、おじい、様……」

 

 自分と血のつながった曾孫の下へ。

 神崎の瞳から涙が流れる。

 

「はは、泣かないでくれアリア君。これも自然の摂理だよ。生まれて、生きて、死ぬ。それだけだ。それを泣いてくれる曾孫に、自分の後を任せられる君たちに見守られて僕は、幸せだよ……」

 

 シャーロックはその涙を拭う。だが、もうその動きにすら力が抜けていく。

 先ほどまであれだけの死闘を繰り広げていた男とは思えなかった。

 

「アリア君。君に最後の贈り物をしよう。僕の探偵としての二つ名、『緋弾のシャーロック』。この名を君に」

 

「名、前……」

 

「『緋弾のアリア』。……はは、キンジ君の『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』と相まっていい感じじゃないか」

 

 そんな、力の無い笑みを浮かべ、やりきったという顔をして、

 

 

 

「さよなら----僕の、愛し児たち。君たちが、後の世を創りあげてくれると……信じてるよ」

 

 

 

 そうして、目を閉じ---- 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『教授(プロフェシオン)』!!」

 

「!!」

 

 振り返る。

 突然の声に、思わず振り返り、シャーロックですら閉じかけていた目を開けた。

 そこには、

 

「どういう、ことじゃ……!」

 

「……」

 

「なんで、あなたが!」

 

 遙歌と、パトラ、そして彼女に肩を貸した金一だった。

 各々ボロボロだった。

 遙歌や金一は言うに及ばず、パトラだって俺との戦闘で結構負傷していたはずだった。

 パトラと遙歌は治癒スキルがあったはずだけど、見た感じ動きはそれほどよくないから治癒しきれてないんだろう。

 でも、それなのに、

 

「お主! 人のこと退学させといて解散とはどういうことじゃ! 妾がお主の技術とか全部奪ってやるんじゃからそんな所でぶっ倒れてるでないわ!」

 

「『教授(プロフェシオン)』! 何で、何で、何も言ってくれないんですか、酷いじゃないですかっ」

 

 遙歌とパトラの二人は目を潤ませていて、

 

「……」

 

 金一は、何かを言おうとして、結局なにも言わなかった。

 

「とっと、傷治さんか! こっちはお主に勝つために色々手を打ってじゃなぁ!」

 

「勝手に死なないでくださいよっ! 私、これから兄さんたちと生きることにしたんですよっ。だからっ」

 

 そんな二人の叫びに、シャーロックはあっけにとられていた。目を丸くし、ポカン、という効果音で、

 

「……ふふふ」

 

 そんな顔に笑みを浮かべたのは神崎だった。

 いや、それは神崎だけではなかった。俺もキンジもレキもだ。そんな俺たちに、遙歌とパトラは怪訝そうな顔をする。

 まぁ、無理もないけどさ。

 そうだな、やっぱそうだよな。

 

「なんだよ、あんた独りじゃないじゃねえか」

 

「自分のことはさすがのシャーロック・ホームズでも推理できてなかったわけだ」

 

「!? 蒼一君、キンジ君、なにを……」

 

 あっけにとられていたシャーロックを俺とキンジが両側から腕を持って引き上げる。そのまま、肩を担いだ。

 思ったよりもずっと軽いし、腕も細い。

 

「シャーロック、アンタだって、独りなんかじゃななかったてことだろ。ていうか、アリアは神様みたいに接してる、理子やジャンヌ、パトラに兄さん、それに遙歌にだって嫌われてないだろ。どこが独りだよ」

 

「……それ、は」

 

 駆け寄って来る遙歌やパトラ、それに肩を貸す俺たちは勿論、寄り添っている神崎を見て、シャーロックは未だに目を丸くしていた。

 なんだよ、爺になるにつれて推理力も落ちたのだろうか。

 

「案外独りには成れないんだよ、人間なんてさ。少なくと俺はそうだったしな。ああ、後それにな、アンタ人のこと『持たざる者(ゼロ)』なんて呼んだけどさ。……それは違うよ」

 

「……?」

 

「回り見て見ろって」

 

 キンジがいる、神崎がいる、金一がいる、ついでにパトラなんかがいて、ここにはいないけど、白雪もいて、理子もいて、ジャンヌもいて、くーちゃんもいて、アヤポンもいて、風魔ちゃんもいて、間宮ちゃんもいて、佐々木ちゃんもいて、ライカちゃんもいて、島ちゃんもいて。あとはまぁ、蘭豹とか綴とか高天原とかチャンとか矢常呂とか南郷とか先生連中もいて。

 

 んでもって、七年ぶりに仲直りできた遙歌がいて。

 そしてなにより、俺が惚れた、俺に生きる意味を、戦う理由を教えてくれたレキがいるんだ。

 

 

「こんな奴らがいてさ、持たざる、なんて口が裂けても言えないよ。俺には、必要なものは全部持ってる。ゼロはゼロでも俺は『持たざる者(ゼロ)』じゃない----俺はやっぱり『落ちこぼれ《ゼロ》』なんだよ」

 

 

 それに----あの人からだって意思を受け継いでるんだ。

 

「そう、か……」

 

 シャーロックは言葉を漏らしながら、俯いた。何度か納得したように頷き、顔を上げて、

 

 

 

「そうだね、僕は----孤独なんかじゃなかったよ!」

 

 

 

 泣き笑い、言った。

 嬉しそうに、本当に子供みたいな清々しい笑顔だった。

 その笑顔に、正確な意味はわからずとも、誰もが口元を歪め、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーああ、だからこそ心残りはないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっーーーー!?」

 

「曾おじいさま!?」

 

「シャーロック!?」

 

「教授ッ!?」

 

 瞬間----俺たちは全員そろって部屋の外の廊下へと吹き飛ばされていた!

 

「僕の寿命は変わらない。だがありがとう、諸君。僕も独りじゃなかった。ならば例え一人でここに沈んだとしても、寂しくないさ」

 

 部屋の中央に自分自身の足で立つシャーロックは先ほどと変わらずに清々しい笑顔のままで両手を広げていた。

 恐らくはさっきの一瞬でなにかしらのスキルで俺たちを部屋の外へと押し出したのだろう。

 だが、

 

「どういうことだ、糞爺!」

 

「はは、言っただろう。僕の寿命が今日までだ。それはどうにもできんよ」

 

 言って、シャーロックはボロボロのズボンのポケットからなにかを取り出した。

 一辺数センチ程度の長方形の物体で黒地だが、なんだか大きな赤いボタンがついていた。

 

「んだその一昔前の自爆ボタンみたいなそれは!」

 

「おおよくわかったね。これは一昔前の自爆ボタンだよ」

 

 ………………。

 

 

「はぁーーーーー!?」

 

 

 全員が異口同音に叫んだ。

 いや、叫ばずにはいられないだろ!

 なんでそんなヤバいの無造作にポケットに入れてんだよ。さっきそれで俺と殴りあっていただろうが!

 

「はは、確かに蒼一君ももってたね。まぁこれもキンジ君の主人公補正かな? あ、ついでにその刀はキンジ君にプレゼントだよ。大事に使ってくれ。」

 

 シャーロックの刀がキンジの元に転がり。

 ぽちっとな。

 

 

「押したぁーーーーー!?」

 

 

 押しやがった。

 

「うむ、押した。十分くらいでこの船は沈むので急いで出たまえよ」

 

 だめだ、なんだこれ、ついていけない。

 ええとつまりなんだ? シャーロックの持ってるのは自爆ボタンで、そいつを今押して、ということはこの船爆発すると言う事で、

 

「……ってヤバいじゃねえか!!」

 

「うむ、ヤバいから早く脱出したまえ。君たちならなんとかなるであろう。まぁ核積んでる艦だがそこらへんは上手くやるので心配しないでくれ」

 

 言っている間に空間が振動する。いや、床や天井が震えているのだ。ただそれだけじゃなくて、なんかヤバい音が聞こえてくる。

 こんなデカイ船のことなんかまるで詳しくないが、それでも不味そうなのはわかる。

 事実、

 

「いかん……! すぐに脱出しなと不味いぞ!」

 

 金一が叫ぶ。金一があんな声出してるってことはかなり不味いのだろう。

 振動はどんどん強くなっていく。

 

「曾おじいさま……!」

 

「教授……ッ!」

 

 揺れて安定しない視界の中、神崎と遙歌が手を伸ばす。でも、

 

「生きたまえ。というか、さっき思いっきり辞世の句みたいな事を言ってしまったからさすがに恥ずかしいよ。もう年寄りには引退させてくれ」

 

「そんな……」

 

「アリア、もうヤバい行くぞっ」

 

「でもっ!」

 

「お前が死んだら意味無いだろうが!」

 

「っ……!」

 

 連れ戻そうとするキンジに抵抗するが、それでも叱咤めいた叫びにひるみ、抵抗する力が消える。

 

「遙歌」

 

「……わかって、ます……!」

 

 口から血が零れる、拳からも。

 そうだ、きっと俺にとってあの人が父親だったように、遙歌にとってもシャーロック・ホームズは父親のような存在だったのだろうか。それこそ、俺には解らない。

 だから、まぁなにも言わずに、肩に手を置き引き寄せ、

 

「大丈夫です、行きましょう……」

 

 でも、最後です。

 もう崩壊が始まったのか、パイプやらなんやらが崩れだして、その中のシャーロックに、

 

「教ッ授!」

 

 思い切り腰を曲げて、涙を流しながら、

 

 

「今までっありがとうございましたっ! これから、私は生きていきます!」

 

 

 生きることを決意した俺の妹は、そう誓っていた。

 同時に神崎も同じように、

 

 

「曾おじい様! あたしは、絶対曾おじい様の意思を、繋げますからっ! 見ていてください!」

 

 

 シャーロック・ホームズの直系である神崎は涙を流しながら叫んだ。

 

「ああ、遙歌君、アリア君。ちゃんと見守っているから。がんばってくれたまえ」

 

 そして、やはりシャーロックは笑みを。子供のような、清々しい笑みを浮かべたままで。

 思わずその笑顔に向けて俺とキンジは思わず叫んだ。

 

 

「あんた-----性格悪いぞ!」

 

 

 そんな、最後の会話としてはどうかと思うことを叫んで。

 

「ああ、そうだろうね」

 

 まなじりをさげ、シャーロックは笑みの種類を変える。

 力が抜けて、でも誇らしげに、謳うように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はアイツの親友で、戦友で、腐れ縁なんだ。まともなわけないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、あんなことがあったとは。未だに信じられないぜ俺は。なるほどシャーロックがまだ序曲なんて言ってたのには納得だ。崩壊する原潜の中であんなことがあるなんて思いもしなかったぜ」

「そうだな。きっとここにいる誰ひとりでも欠けていたら、今こうして皆でのん気にこの青空を目にしながら浮かんでられなかっただろうな」

「ああ、そうだな。それにしても未だに興奮が抑えられないぜ。まさか神崎……いや、ここに来てそんな他人行儀な呼び方は出来ないな。アリアと呼ばせてもらうぜ……まさかアリアにあんな秘められた力があるとはな。イロカネってのは驚天動地だ。そうだな、是非あの技に、『緋色の勝利(オーバーロードレッド)』という名を付けさせてくれ」

「なに言ってるのよ。そんな大そうなものじゃないわ。もう一回やれって言われてもできないしね。それよりも密かに皆の力になってくれたのは遙歌でしょう。縁の下の力持ちとはこのことね、まさか千以上のスキルをあんな風に合わせるなんてね」

「いえいえ、私なんてただ地味なだけですよ。皆さんに比べればなんとも。キンジさんのに比べればショボイものですよ。さすがは兄さんの親友ですか、遠見のスキルで見た時は、よくわからないスキルだと思いましたが、あんなに器用な事が出来るとは思いませんでした」

「いや、あんなの偶然が都合よく重なっただけさ。それに技術というならやっぱりレキだろう。魔弾の姫君の名は伊達じゃないな。その異常の力は十分解っていたつもりだったが、まったく俺は理解できなかったよ。まさか『魔弾姫君(スナイプリンセス)』にあんな使い方があったとは。発展編、いや、究極編と言っていいなあれは」

「いえいえ。器用ではなく、器用貧乏ですよ。あんなの大したことではありません。少しだけ視点を変えただけですしね。それよりもやはり金一さんの活躍は大きいでしょう。年の功とはなるほど良く言ったものですね。あの複雑怪奇な迷路と化した艦内を先導してくれ名くればどうなっていたでしょうか」

「なにを言うか、俺はただ道案内しただけにすぎない。それよりも驚きというな蒼一だろう。まさか蒼の一撃シリーズをあのように複雑に連携させることで全ての技を効率よく、さらに複数個所に放てるとはな。『真・天下無蒼』いや、あれは最早『神・天下無蒼』と言うべきか」

「かはは、そんなに褒めるなよ。そして皆も謙遜するなよ・言っただろう? この場の誰一人欠けても、俺たちは生きられなかったんだ。そのことを誇ろうぜ。……だがまぁ、俺たちの中で最も白眉だったのが誰かなどという問いはいうまでもないな」

「そうね」

「ですね」

「ああ」

「はい」

「だな」

「ああ……俺たちが生きているのは----敢えて言うならパトラ、アンタのおかげだ」

「……は? いや、しかし妾は」

「いやはや、まさかあんな風にスキルを使うとは私でも思いませんでしたよ。脱帽もの。吃驚仰天です」

「そうですね、私も魔弾の姫君なんて二つ名がありますがパトラさんの前では霞まずにはいられません」

「い、いや、妾は出来ることをじゃな」

「そのできることがアレっていうのが凄いな。俺も新しいスキル手に張って、浮かれてる場合ではないということが分ったよ。上には上がいるな」

「そうね、私もSランク武偵で満足してないでこれから先に進まないとだめね。ありがとうパトラ。アンタは大事な事を教えてくれたのよ。これまでの私ではとても曾おじい様の後継者として恥ずかしかったわ」

「え、い、いや、そうかえ……?」

「ああ、そうだ。恥じるなパトラ。お前は掛け値なしに素晴らしかった。思わず見惚れてしまったぞ」

「な、なんじゃと!? なにを……」

「いや、言わせてくれパトラ。今回の件を通してお前という存在のありがたみがしみわたった。……どうだろう、パトラ…………俺と結婚してくれないか?」

 

「な、なんじゃとーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーしかしどうするんだこれ?」

 

 突然すぎる金一の電撃プロポーズにパトラ……いやパトラさんは嬉しさのあまりに気絶してしまったのだろう。今は新旦那である金一の腕の中だ。さっきは海面に全員で円を描くように浮かんでいたわけだが、今では思い思いに立ち泳ぎで浮かんでいる。

 先ほどのボストーク号大脱出大冒険で全員が力を使い果たして浮いているのがやっとだ。

 レキは俺の首にしがみついて、軽く抱き上げて、遙歌なんかは俺の背中にしがみついている。

 

 キンジとアリアは抱き合っているというか、アリアがキンジに一方的にしがみついてるようだ。そういう泳げないんだったか。さっきよく浮けてたな。あれか大冒険の後で泳げないということすら忘れていたのだろうか。

 

「どうにも成りませんよね……ボストーク号も完全に沈んで撃つて無しです」

 

「もうしばらく時間があれば、回復して波乗りのスキルで移動できるんですけど」

 

「それでも限界あるだろうしなぁ……ん?」

 

「蒼一さん?」

 

「兄さん?」

 

「どうかしたのか?」

 

 キンジたちも俺の様子に怪訝そうに見てくる。それでも俺は、水平線を見る。

 なんとかできるだけの気で視力を上げ、同じようにレキたちも見る。

 

「む」

 

「あ」

 

 気付いたのやはり素で身体能力が高いレキと遙歌だ。

 

「ボート、ですね」

 

「ほんと!?」

 

「マジか!」

 

 そう確かに水平線の向こうに確かに救命ボートらしきものが見える。

 だが、いくらなんでも、

 

「遠い、ですね……」

 

 そう、結構遠いし、さらには、

 

「こっちに気付いてないだろうなぁ」

 

 ボートは何かを、つまり俺たちを探すようにうろちょろしているが距離があるから見つけられない。

 だが、さっきも言ったように動く力はないし、まさか叫ぶわけにはいかないだろう。

 お手上げ。

 だからまぁ、

 

「どうにかしてくれよー」

 

「ああ、まかせろ」

 

 俺の間延びした声に意気揚々とキンジは応えた。アリアの腰に回してた手を離し、ホルスターから拳銃を抜いた。それを天へと向け、

 

「ほう」

 

 金一が意図を察したらしく、感心したように声をあげ、

 

「下むいとけよ」

 

 言われた通りに全員が下を向いて----引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 ---------!

 

 

 

 

 

 

 閃光!

 昼というのにも関わらず、世界を照らしたのは、

 

「兄さんから貰ったもう一つの武偵弾だ。まさかこんなところに使い道があったとはな、使わなくてよかった……どうだ?」

 

「んーーお、上手く行ったみたいだぜ」

 

 閃光弾の光でこちらに気付いたらしい。ボートがこっちに向かってくる。

 どうやらなんとかなりそうだった。

 

「よーし」

 

 ここにいる皆の顔を一人一人見まわして、それでいてレキを抱きしめる力を少し強めて。

 

 

 

 

「----じゃあ、帰ろうぜ。俺たちの帰るべき場所へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後は数話の番外編を挟み、本編前の過去編を連載予定です。

感想、アドバイス等いただけると幸いです。
  

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