落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第1拳「ずっと、俺の弟で、戦友だ」

 飛び乗った流氷の上を俺たち三人が疾走する。シャーロックはすでにイ・ウーの甲板の上だ。

 周囲にはダイヤモンド・ダストが吹きすさび、足元には霜が降りているが、そんなもの関係無い。俺は気の強化で寒さとかは関係ないし、今のキンジも俺と変わらない状態な上に、あの着流しは特別製らしい。金一なんかはいかにもなアンダースーツだ。

 一番先頭を走るのは俺だ。その少し後ろにキンジと金一。 

 ここ最近のたび重なる瑠璃神モードの使用で、すでに俺の髪は目は黒ではなく蒼に近い。それに伴い、ただ気で強化するだけでも僅かながら、スキル無効化の効果がある。だから、俺は先に進む事で少しでもダイヤモンド・ダストを軽減できる。

 

 それでもシャーロックから感じる魔力は尋常じゃない。

 

「ーーけど、こんなものサーカス芸と変わんないよなぁっ!」

 

 キンジが咆える。そして金一も、

 

「そうだ! 俺たちには拳銃《これ》がある! 完全装甲《フルメタルジャケット》の弾丸が! 音速飛翔《ソニックムーブ》の弾丸が! --拳銃こそが人類の生み出した至高の近接戦器! そしてその拳銃をこの世で最も有効に使いこなせるのが、『性々働々《ヒステリアス》』という異常《アブノーマル》なのだ!」

 

 叫び、胸と背中から血を流しながらも駆ける。

 その叫びに苦笑しながらもさらにダイヤモンド・ダストの中を疾走し、流氷を渡りきる。 

 そして、甲板へと飛びあがり、

 

「ハッ! いい空気吸ってるみたいだけどよぉ、金一!」

 

 飛びあがり、拳を振りかぶる。拳に蒼の光が集まり

 

「----男の武器はやっぱ拳《コイツ》だろぉ!!」

 

 甲板に飛び乗ると同時に拳を叩きつける!

 雪と氷を弾かせながら衝撃がシャーロックへとはしる。蒼の一撃ではないとはいえ、潜水艦全体が僅かに軋むほどだ。

 だが、

 

「……ふむ」

 

 一度止まり、軽く踵を鳴らした。

 とん、という音がなり、

 

「っ!」

 

 衝撃がかき消された。多分、踵から同じように衝撃を放って相殺したのだろうか。

 かき消されたの同時にキンジと金一が甲板に降り立った。

 

「蒼一!」

 

「飛べっ!」

 

 ぱんぱん!

 

 銃声が背後で二つ。それともに叫ばれた。叫ばれたから、

 

「委細承知!」

 

 跳んだ。全力で、前にだ。今の脚力でなら軽く数十秒は空中に留まれる。

 そしてその数十秒間は、多分拳銃使いとしては世界最高レベルだったはずだ。なるほど金一が『性々働々《ヒステリアス》』が拳銃使いの最高峰《ハイエンド》と言っていたのも納得の光景だった。

 

 キンジと金一の二人の銃口から放たれた二つの弾丸は跳び上がった俺がいた場所を負い越し、シャーロックへと飛ぶ。

 

 だが----その二つの銃弾はシャーロックの背後十メートルほどで弾かれた。

 あれは、『銃弾撃ち《ビリヤード》』と『不可視の銃弾《インヴィジビレ》』!

 その二つの遠山姉妹の妙技をシャーロックは使った。なるほど、さすがと言うべきか。

 だが、

 

「キンジ!」

 

「ああ!」

 

 血のつながった二人の義の担い手は臆する事は無い。弾かれた二つの弾丸。それをさらに弾くために銃弾を放った。

 

 ぱんぱん!

 

 先と同じ音。だが結果は違う。弾かれた弾丸を再び弾き、Nの字を描いてシャーロックへと迫る。だがその上で、

 

 ぱんぱん!

 

 二度ある事は三度ある。またもや同じ音を響かせ、今度はN字の銃弾をさらに弾いてMの字を作った。

 シャーロックが僅かに振り向き微笑する。

 

「……!」

 

 そして、その微笑を見て落ちついてられ訳が無い。

 

 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん!

 

 金一がリボルバーで四発放つ。さらに空中リロードで六連射。その上で隠し持っていったもう一丁のコルト・ピースメーカーでも六連射!

 

 驚愕の神業に対し、

 

 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん!

 

 同じように十六連射することで防ぐ!

 

「う、お、おおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 キンジが咆え、ベレッタに長弾倉を指し込み弾丸をばらまく。

 それらも全て弾かれるが、諦めるかとばかりにキンジも金一もさらに弾丸を吐き出す。

 

 ぱん! ぱんぱん! ぱんぱんぱんぱん! ぱんぱんぱんぱんぱんぱん! ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん! ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん! ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん! ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん!ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

 最早、俺でも全て把握しきれないほどの弾丸が甲板上を駆け巡っている。

 ただ撃ちあうだけでなく『銃弾撃ち《ビリヤード》』『鏡撃ち《ミラー》』『不可視の銃弾《インヴィジビレ》』。それら妙技を用い、百を越える弾丸が三次元の火花を咲かせる。

 

 名づけるならば、『冪乗弾幕戦』ーーーー!!

 

 俺や握拳裂がかつて行ったような拳での弾きあい、拳による弾幕戦でなく、弾幕による弾きあいだ。

 半年前、半壊した武偵高で行われた俺と拳裂のが拳撃の最高峰《ハイエンド》ならば、今ここで行われているのは、銃撃の最高峰《ハイエンド》だ。

 

 跳び上がってまだ十秒もたっていないにも関わらず、これだけの攻防だ。さらに同時に二人は距離を詰めている。

 前方方向に跳躍し、なにに遮られるわけでもなく進んでいるが、下の二人はそういうわけでもないだろう。それでも、弾幕の暴風の中を二人は進む。

 

「アリ、アッ……!」

 

 キンジが名前を叫び、神崎の瞳が揺れる。そして、それをどう思ったのかはわからないが、シャーロックが跳んだ。

 たった一歩で七メートルは跳躍し、一気に艦橋まで。

 キンジとカナの動きが一瞬止まる。だからこそ、

 

「忘れてんじゃねぇッ!」

 

 空中に留まったまま中空を蹴った!

 

 走法、宙弾き!

 

 空中で加速し、姿勢を直しながら向かう先は勿論艦橋上のシャーロックだ。その上で叩き込むのは踵落とし。

 まぁ、少しくらいの怪我に文句言うなよ神崎。

 そう思いながら叩き込もうとし、

 

「----スゥ」

 

 シャーロックが大きく息を吸いながら、神崎に耳を塞がせた。

 

「----!」

 

 驚愕は俺とキンジだ。吸いこみは終わらず、ネクタイを破り、ボタンは弾き飛ばす。

 風船のように膨らむ。

 それはかつて喰らった『ワラキアの魔笛』ーーーーーー!

 

 

 イヴェェェェェェェァァァァァァァアアアアアアアーーーーーーーー!!!

 

 

 放たれた咆哮。叫ばれた絶叫。響かれた轟音。

 雲はちぎられ、流氷には亀裂が入り、水面は沸騰するかのように泡立つ。

 物理的な衝撃波すら纏った咆哮《バインドボイス》だ。すんでの所で俺とキンジは耳を塞ぎ、

 

「ぐ、ああああああああああっっ!!」

 

 吠えた。

 先日の理子の一件で受けた『ワラキアの魔笛』、すなわちスキルキャンセルの咆哮。気の強化も異常も解除される凶悪なスキル。

 そんなものに俺たちがなんの対策をしてない訳が無い。

 『ワラキアの魔笛』つまりそれは爆音による強制能力解除だ。

 そして音とはつまり空気の振動。だったら対策は簡単だった。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」  

 

 ならば自分も叫んで音撃を相殺すればいい。同時に地に足をつけていたキンジは震脚。とにかく振動を生みだすことで減衰させればいい。もちろん両耳は塞いでおく。

 

 衝撃が全身を蹂躙し、空中で姿勢が崩れて背中から甲板に落ちる。

 だが、

 

「効かねぇ、よっ!」

 

「ああっ!」

 

 耐えきった。気の強化は消えていない。そして、キンジも異常は解けていない。

 だが、振り返って気付く。

 

「おい金一!」

 

「兄さん!」

 

 金一は耳を塞いでいなかった。両耳から血を流し、シャーロックへと手を伸ばした姿勢で硬直している。これは俺たちの不注意というか不覚としかいいようがない。

 金一は『ワラキアの魔笛』を喰らったことがなく----対処できなかったのだ。

 同時に俺たちはさとった。

 金一の異常が、『騎士戒性《エンドナイト》』が解けている!

 それに、キンジがかけよろうとし、

 

「兄さっーー!」

 

「おいっ、キンジ!」

 

「----避けろっ!!」

 

 金一がキンジを突き飛ばした。キンジをカッと目を見開き、俺は背中から落ちたせいでの硬直により動きが遅れた。

 だから、硬直した視界の中で俺は何もできず、

 

「----!!」

 

 それまでキンジの心臓があった所に、今金一の心臓がある位置に、

 

「ぐっ、あ……!」

 

 血の尾を引いて、弾丸が貫通していくーーー!

 

「くっそ……!」

 

 そこまで見届けてようやく体の硬直が解ける。同時に金一の身体がキンジへと倒れ込む。

 それはキンジに任せ、一足跳びに艦橋へと飛びあがり、シャーロックの姿を探すが、いない。艦内に入られた。

 舌打ちしつつも、艦橋を跳び下りキンジたちの下へと戻る。

 そこでキンジが金一に握らされていたのは、白と黒に着色された弾丸だ。

 

「武偵弾……!」

 

 武偵の必殺武装とでもいえる、強化弾だ。レキは各種を数発ずつ持っているが、本来なら一流の武偵にしか持てない必殺兵器だ。

 

「キンジ、蒼一、行け----攻めろっ! 俺たちはここまで来た、来て、しまったのだ……!」

 

 ゴホッと金一が血を吐き出す。漏れる声はかすれかすれで、だがそれでも力は、魂は消えていない。

 

「俺は始めて、お前や蒼一に条理も道理も通らんことを言っているのかもしれん……この原潜《イ・ウー》に、ただ知っているだけの人外に、一丁のベレッタで、たった一本のナイフで、己の拳で挑めと……! だがキンジ、蒼一! 分るだろう、お前たちも男ならば……

そういったものを超越し挑ばねばならない時があると……!」

 

 もたれていたキンジと、その隣にいた俺を無理矢理艦橋へと向けさせる。

 

「行け……! 男の戦場だ、己の女を取り返し、本懐を遂げて来い!」

 

 その激励と共に、俺とキンジの背中へと衝撃。金一の頭突きだ。

 いつか----キンジからも喰らった頭突き。遠山家の隠し技らしい頭突きだ。

 それで、金一は俺たちに心を、魂を、誇りを託してくれる。

 だからこそ、俺たちはもう後ろを向かない。

 

「ああ、見てろよ兄さん。分ってるさ。こんな不条理、俺がぶっ壊してやる」

 

「極めて諒解だ。兄弟、そんな道理は俺は絶対認めない」

 

 男は背中で語る。それを以って俺たちの兄貴への返答としよう。

 俺たちの居場所に帰る為に。

 

「兄さん----死んだら、あんたの弟をやめるからなッ!」

 

「おーおーそうだ。死んだら、兄弟でも戦友でもなんでもねぇ」

 

 そんな俺たちの言葉に金一は微笑し、

 

 

 

 

「それなら、キンジ、蒼一。お前たちは----ずっと、俺の弟で、戦友だ」

 

 

 

 

 

 

 


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