落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
蒼一が蹴破った巨大な門。それが吹き飛ぶと同時に俺は飛び出す。部屋の殆どが黄金でできているが、そんなことはどうでもよくて。
パトラは蒼一に任せる。
見据える先は、趣味の悪い格好させられたアリアだ。
蒼一がパトラを挑発しているから、こっちへの警戒は薄い。
「アリア……!」
叫びは我ながら情けないような、縋るような声だ。いつの間にか、あの暴走女が俺のなかでこんなにも大事になっていたらしい。
まったく、蒼一のこと言えない。僅かに苦情しつつも、走って、
スフィンクス像が動き出した。
「ッ…………それが」
それ自体は分かっていた。事前にゴーレムという存在は分かっていて、そういう類のモノがあったら白雪から注意を受けていた。
同時にまず逃げろとも。
だが、
「ふざ、けるな」
逃げる訳がない。
背後では蒼一とパトラが相対しているし、なにより足元にはアリアがいるのだ。
確かに相手は十メートル以上もある馬鹿デカい像で、なにより今自分は『性々働々《ヒステリアス》』を発動していない。それはつまり、今の自分には並より少し上程度の実力しかないということで。
そして、
「それが、どうした……!」
そんなことは関係ない!
俺は遠山金一の弟で!
俺は那須蒼一の親友で!
俺はアリアの奴隷なんだから!
「負けられるかよーー!」
全身の血が沸騰したかと思うほど、体が熱を持つ。体を灼熱が宿していく。それは『
いつも以上の感覚。
いつも異常の感覚。
これがどういうことかなんてのはよくわかるさ。ああ、つまりは男の矜持だろ。
返せよ、そいつは、
「----俺の女だぞ!」
いままで加速した分を乗せて----前へと跳んだ。全身を捻り、螺旋運動を描く。
曰く、千本の矢をスリ抜け。曰く、一触れでを打ち込む。曰く、死体に傷が残らない。
螺旋運動で全身の力の流れを増幅、集約させて、スフィンクス像へ掌底を叩き込む。
----『
それは叩き込んだ同時にスフィンクス像に亀裂が走り。
同時に蒼一の震脚が室内を襲って。
「アリア!」
足の間をすり抜けた時にはスフィンクスは崩壊した。
●
「おお、すげえなキンジの奴。あんなコトできるようになったか」
流石は我が親友。
「ま、まだ、じゃ……」
「あ?」
振り向けば、パトラが立ち上がっていた。おいおい、全身の骨折れててもおかしくないんだけど。
「な、なめるでない。妾はファラオじゃぞ? この程度で負けるものか」
「へぇ……」
よく見れば全身に青白い光が光っている。それが傷を治しているのか。なるほど、便利な能力だ。さらにはパトラは膝を震わせながらも、パチンと指鳴らして、
「……おお、なんかデジャヴ」
大量の犬人間がどこからともなく現れた。カジノの時と同じだ。
「遙歌の奴が使ってくれと言うからのう。せっかくじゃから使わせてもらうかのう」
「はははもう何も言わねえよマイシスター」
どうせ、これくらいどうにかしろってことだろ。しかし、問題はキンジの方にも大量に出ていることだ。少し面倒かな、と思い、
「ん?」
ピラミッドの外からなんか音が聞こえた。 それは斜面を駆け上がるように響き渡り、ガラスの天蓋が砕ける。そこから現れだの赤く着色されたオルクス。それは大量の犬人間を蹴散らしながらも室内に乱入し、俺とパトラの中間で止まる。
ハッチが開き、そこから出てきたのは、
「ハーイ、助っ人参上よ」
「……トオヤマ、キンイチ……! いや、カナ!」
パトラが顔を赤くしながら、叫ぶ。え、なに、お前らそういう関係?
「おーいおい、カナ。なんだよ風情がない登場だな。こういうときは夜を背景にして窓に立つものじゃないか? イベントCG確実だぞ?」
「そのつもりだったけど、さっきの衝撃で狙いが狂ったのよ。アナタのせいね」
「知るかそんなもん」
「そう……キンジ!」
カナはおざなに答えて、キンジの名を呼ぶ。
「私があげた緋色のバタフライナイフ持ってるわね!? あれを持ってアリアに口づけしなさい!」
「は? は、はあああーー!?」
なんか面白い感じで叫んでいた。
「……あのなぁ、どういうつもりだよ。アンタ、敵じゃなかったのか?」
「そのつもりだったけどね、賭けてみることにしたのよ。『第二の可能性』に」
「それはキンジと神崎がチュッチュッすれば叶うのかよ」
「ええ、キンジとアリアがチュッチュッすれば叶うのよ」
んなアホな。
あとパトラにももう少し反応してやれ、顔真っ赤にしてなんか叫んでるぞ。