落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第9拳 「ええ、キンジとアリアがチュッチュッすれば叶うのよ」

 蒼一が蹴破った巨大な門。それが吹き飛ぶと同時に俺は飛び出す。部屋の殆どが黄金でできているが、そんなことはどうでもよくて。

 パトラは蒼一に任せる。

 見据える先は、趣味の悪い格好させられたアリアだ。

 

 蒼一がパトラを挑発しているから、こっちへの警戒は薄い。

 

「アリア……!」

 

 叫びは我ながら情けないような、縋るような声だ。いつの間にか、あの暴走女が俺のなかでこんなにも大事になっていたらしい。

 まったく、蒼一のこと言えない。僅かに苦情しつつも、走って、

 

 

 

 スフィンクス像が動き出した。

 

 

 

「ッ…………それが」

 

 それ自体は分かっていた。事前にゴーレムという存在は分かっていて、そういう類のモノがあったら白雪から注意を受けていた。

 同時にまず逃げろとも。

 だが、

 

「ふざ、けるな」

 

 逃げる訳がない。

 背後では蒼一とパトラが相対しているし、なにより足元にはアリアがいるのだ。

 確かに相手は十メートル以上もある馬鹿デカい像で、なにより今自分は『性々働々《ヒステリアス》』を発動していない。それはつまり、今の自分には並より少し上程度の実力しかないということで。

 そして、

 

「それが、どうした……!」

 

 そんなことは関係ない!

 俺は遠山金一の弟で!

 俺は那須蒼一の親友で!

 俺はアリアの奴隷なんだから!

 

「負けられるかよーー!」

 

 全身の血が沸騰したかと思うほど、体が熱を持つ。体を灼熱が宿していく。それは『性々働々(ヒステリアス)』を発動した時と似ているけど決定的に違う感覚。

 いつも以上の感覚。

 いつも異常の感覚。

 

 これがどういうことかなんてのはよくわかるさ。ああ、つまりは男の矜持だろ。

 返せよ、そいつは、

 

「----俺の女だぞ!」

 

 

 いままで加速した分を乗せて----前へと跳んだ。全身を捻り、螺旋運動を描く。

 

 曰く、千本の矢をスリ抜け。曰く、一触れでを打ち込む。曰く、死体に傷が残らない。

 

 強襲科(アサルト)の後輩の間宮あかりに一度だけ見せてもらった技。あの時は通常モードで出来なかったけれど、今ならできる。

 

 螺旋運動で全身の力の流れを増幅、集約させて、スフィンクス像へ掌底を叩き込む。

 

 ----『鷹捲(サイクロン)』。

 

 それは叩き込んだ同時にスフィンクス像に亀裂が走り。

 同時に蒼一の震脚が室内を襲って。

 

「アリア!」

 

 足の間をすり抜けた時にはスフィンクスは崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、すげえなキンジの奴。あんなコトできるようになったか」

  

 異常(アブノーマル)発動してないはずなのにできるもんなんか。それに確かあれは間宮ちゃんの鷹捲だったか。  

 

 流石は我が親友。

 

「ま、まだ、じゃ……」

 

「あ?」

 

 振り向けば、パトラが立ち上がっていた。おいおい、全身の骨折れててもおかしくないんだけど。

 

「な、なめるでない。妾はファラオじゃぞ? この程度で負けるものか」

 

「へぇ……」

 

 よく見れば全身に青白い光が光っている。それが傷を治しているのか。なるほど、便利な能力だ。さらにはパトラは膝を震わせながらも、パチンと指鳴らして、

 

「……おお、なんかデジャヴ」

 

 大量の犬人間がどこからともなく現れた。カジノの時と同じだ。

 

「遙歌の奴が使ってくれと言うからのう。せっかくじゃから使わせてもらうかのう」

 

「はははもう何も言わねえよマイシスター」

 

 どうせ、これくらいどうにかしろってことだろ。しかし、問題はキンジの方にも大量に出ていることだ。少し面倒かな、と思い、

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 ピラミッドの外からなんか音が聞こえた。 それは斜面を駆け上がるように響き渡り、ガラスの天蓋が砕ける。そこから現れだの赤く着色されたオルクス。それは大量の犬人間を蹴散らしながらも室内に乱入し、俺とパトラの中間で止まる。

 ハッチが開き、そこから出てきたのは、

 

 

「ハーイ、助っ人参上よ」

 

 

「……トオヤマ、キンイチ……! いや、カナ!」

 

 パトラが顔を赤くしながら、叫ぶ。え、なに、お前らそういう関係?

 

「おーいおい、カナ。なんだよ風情がない登場だな。こういうときは夜を背景にして窓に立つものじゃないか? イベントCG確実だぞ?」

 

「そのつもりだったけど、さっきの衝撃で狙いが狂ったのよ。アナタのせいね」

 

「知るかそんなもん」

 

「そう……キンジ!」

 

 カナはおざなに答えて、キンジの名を呼ぶ。

 

「私があげた緋色のバタフライナイフ持ってるわね!? あれを持ってアリアに口づけしなさい!」

 

「は? は、はあああーー!?」

 

 なんか面白い感じで叫んでいた。

 

「……あのなぁ、どういうつもりだよ。アンタ、敵じゃなかったのか?」

 

「そのつもりだったけどね、賭けてみることにしたのよ。『第二の可能性』に」

 

「それはキンジと神崎がチュッチュッすれば叶うのかよ」

 

「ええ、キンジとアリアがチュッチュッすれば叶うのよ」

 

 んなアホな。

 あとパトラにももう少し反応してやれ、顔真っ赤にしてなんか叫んでるぞ。

 

 

 

 


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