落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
十字架を盗み出し、バイトも終わって峰が落ち合うのに指定した場所は横浜ランドマークタワー。二九六メートルの日本一高い超高層ビル。そこにキンジと神崎は向かって──俺とレキは行かなかった。
そこでなにが起きるか予想できたから。やっぱりそれはアイツら受け継いだ者たちの話しだろうから。俺が手出しする領分ではないだろうし、レキもそのつもりはなかった。だから適当に盗聴器付けて、近くのビルから見物しようとおもったが─────。
───────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────久しぶりにブチ切れた。
インカムから聞こえた単語。
遺伝子、有能、無能、長所、短所、DNA、失敗、絶望、ヒステリアス・サヴァン・シンドローム、吸血、吸血鬼、ドラキュラ伯爵、上書き、
ああ、ブチ切れたさ。
ブチ切れたけど──そんな単語はどうでもいい。
どうでもよくないことがある。
それは
「…………………た、す、け、て…………………!」
●
「言うのが遅い!!」
その瞬間、動きは四つ。神崎が飛び出し発砲。キンジが2頭の狼を無力化し。
そして、
「まったくだ、この出来損ないが」
近くのビルからこのビルの壁に飛び移り、そのまま駆け上がってきた俺がブラド目掛けて、蒼光を纏った踵落としをぶち込み。
『心を弾丸に───『
跳弾を利用して、下層ビルから飛来したレキの魔弾がブラドの肩を撃ち抜いた。
さらにその隙にキンジが峰を取り戻す。それを確認した俺は、両の拳を強く握りしめる。両肘を曲げて脇腹辺りで構え、右足を前に、左足を後ろに置く。
「蒼の一撃、第二番」
双拳が強く、蒼い光を纏って、
「────『拳蒼発破』!」
連続で、撃ち出す!それは拳が爆発したかのように! ブラドへとぶちまけられる双拳の弾幕。
「ゴガァァ!?」
一瞬で放った拳は左右合わせて五十は越える。それらをブラドは全身に受けて、吹っ飛ぶがすぐに体制を立て直す。いや、立て直すだけじゃない。
ホンの一瞬で傷が治っていた。流石は吸血鬼ってことか。
「てめぇ、那須蒼一か!?」
「だったらなんだよ!?」
「聞いてねぇのか、てめぇの妹には痛い目あわされたからよぉ! お前も痛めつけてやるよ、この失敗作がぁ!」
「ごちゃごちゃ、うるせぇ!」
お前と話すことなんてないんだよ!
開いた距離を詰めて拳をぶち込む。無論、ブラドもやられるだけでじゃなくて、
「ゲハハハ!」
生理的に受け付けない笑い声を上げながら反撃してくる。想像以上に重い一撃一撃をなんとか受け流し、避けつつもその間に、
「ママの裁判の証言台に、耳引っ張って引きずってでも立たせてやる!」
『手伝いますよ』
神崎の二丁拳銃とレキの跳弾魔弾がブラドを襲う。
だが、
「
そう笑って、神崎とビルの外──レキへと視線を向けて、
「人の女に色目使ってんじゃねぇ!」
「ゲハハハ! すぐにオレのになるんだよォ!」
「ブッ潰す!」
ビルの屋上の床を砕きながら、俺とブラドは位置を入れ替えながら拳をぶつけ合う。
「アリア! 蒼一! それからレキも聞け!ブラドには体の四カ所に弱点がある!合図したら同時に───」
「させるかよォー!」
峰からブラドの弱点を聞いたらしいキンジが叫んだが、それをブラドが敏感に反応して大きく飛び退き──五メートルはあろう携帯基地局アンテナを屋上からむしり取って振り回した。
「ゲハハハ! てめぇの妹から弱点に無警戒すぎるって忠告されたからなぁ!」
………おいおい、我が妹よ。
余分なことしてくれたな。アンテナに距離を詰めれなくて、さらにはブラドは大きく、大きく、身体を反らし。大量の空気を吸い込んで。
ビャアアアアウヴァイイイィィィィィィィィ───ッ!!
吼えた。吠えて叫んで───世界が震えた!
「ど……ドラキュラが、吼えるなんて……聞いてないわよ……!」
神崎が尻餅をついてから立ち上がって文句を言っているが、
「「『───────!』」」
俺とレキとキンジはそれどころじゃあなかった。
キンジは『
レキは『
俺は気による肉体強化が解かれていた。
─────スキルキャンセル!?
マズい!
そして、俺とキンジが驚きにより一瞬身体を膠着させた所に、
「貰ったーーー!」
アンテナ金棒がキンジが掠め俺は直撃し。
────キンジはビルから転落し。
────俺は給水タンクに背中から激突した。
●
「ぐ、が、ハァ………!」
口から血の塊が吐き出された。全身が痙攣している。かなりの骨が折れている、と思う。全身に激痛がはしった。
……ヤバ、い、な。
「キンジは……峰が、行ったか……」
なら、まぁなんとかなるか。しかし、問題は俺だ。この傷で、今の状態だとまともに動けない。これは、キツいなぁ。
と、思った所で────、
『立ちなさい、那須蒼一』
「───────」
耳元から、レキの、声が聞こえた。
『立ちなさい。相手が我らが友を縛る鎖というなら我らが鎖も同義。那須蒼一、我が従僕。ならば、戦って砕きなさい』
慰めの言葉でもない励ましの言葉でもない。
ただ勝てと。
あの絶望の吸血鬼に勝てと。
全身、傷だらけの死にかけにも関わらず。
彼女は、レキは、俺の主は。
言った。
……まったく。
「きっついなぁ……………まぁ、そういうところにも惚れたんだけどな」
震えながら、傷だらけで立ち上がって。
そして、
「委細承知!」
飛び出した。
同時に、
「撃て!!」
神崎とレキ、そして戻ってきたキンジたちによる連続射撃!
だが、直前に雷が鳴り神崎の弾丸が反れる。
しかし、
「───────!」
キンジの弾丸が空中で神崎の弾丸を掠めることによって軌道を修正する。
それで、右肩、左肩、右脇腹!
しかし、ブラドはそれに構わず、空中にいる峰に視線を向けた。
「4世ーー!」
そのバカデカい口が開き、そこに、
「ぶわぁーか」
峰の弾丸が突き刺さった。
「!」
目玉模様のある舌に。
これで、四カ所。
峰はあっかんべーしながらブラドの頭に着地し、
「任せたぞ、
「任されたぜ、
理子は跳んで俺はボロボロで意味が無くなった制服の上着もシャツも脱ぎ捨て、
「────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────瑠璃神モード」
瞬間、俺の姿が変わっていった。
黒かった髪は蒼く染まり、肩まで伸びていく。露出した上半身には幾何学的な蒼い模様がはしり、胸の十字傷も蒼く染まる。瞳はさらに爛々と輝く蒼に。全身に蒼の力を浸透させていく。いつもなら全身、あるいは局部に纏う気は全て消え去る。
否、消え去るのではなく見えなくなったのだ。全身の細胞一片一片にまで染み込ませていく。欠片の無駄もない。
そんな道理外のことはしない、認めない。
そして、ブラドは、
「ゲ、ゲハハハーーー! 残念だったなぁ! てめぇら!」
「─────!」
3人の驚きの声が上がる。 無理もない。
キンジたちが打ち抜いた弱点──魔臓というらしい──が再生していたのだから。
「ゲハハハ! てめーの妹にやられたからな、こういう状況も考えて対策打ってるのが当然だろが!」
………いや、本当余計なことするな、マイシスター。
つまり、こいつはこういう状況のために異常だか、過負荷を奪ったのだろう。
「たからよぉ、今更何したって無駄なんだよ。4世も俺からは逃げられねぇ! まして幸せになんかなれねぇ! まして、そんな弱っちそうな姿になってもーー!」
「ふざけるな」
「!?」
瞬間、俺はブラドとの距離を零にしていた。まだ、それなりにあったのに。それが一瞬で詰まっていた。何故なら───音速で動いていたから。衝撃波キャンセルノーダメージで。
「幸せになりたいって言ってるやつが幸せになれねぇ道理なんてねぇよ」
「!?」
「あと訂正しておくがな、このモードは弱そうなんじゃなくて、強く見えないだけだ。──そういう強さなんだよ」
強さには2種類あって、これは静かな強さ。
派手じゃなくて、静かで──わかりにくい強さ。
「このぉっ!」
ブラドが金棒を振り回すが、俺はそれを回避する。
間一髪、紙一重。
一分の無駄もない。一瞬の隙もない。
無駄なんか認めない。無意味な道理なんて認めない。
つまりこれは静かさと道理を極めたモード。
瑠璃神モード。
かつて───レキと心を通い合わせて、握拳裂との戦いで死にかけて得た力。
その上で、
「蒼の一撃、終の番」
もう、言うことはない。
お前の存在は見るに耐えないんだよ、吸血鬼。例え、いくらお前が不死のスキルを持っていても関係ない。
そんな道理は認めない。
ついでに俺も本気でやるけどお前ならまぁ、死なないよな。
全十三種ある『蒼の一撃』。
第一番 『乾坤一蒼』。
第二番 『拳蒼発破』。
第三番 『勇蒼邁進』。
第四番 『螺旋蒼黒』。
第五番 『支蒼滅裂』。
第六番 『天蒼行空』。
第七番 『翠蒼鎖縛』。
第八番 『蒼刀開眼』。
第九番 『豪快奔蒼』。
第十番 『蒼風十雨』。
第十一番 『疾風蒼雷』。
第十二番 『蒼和雷同』。
第十三番 『明鏡止蒼』。
それら全てを同時に繰り出す強制混成接続技────!
「────『真・天下無蒼』────!」