落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第3拳「……………よろしくな、同僚」

「オラオラお前らぁ! ウチの嫁見たら後で皆殺しだからな! 顔覚えるぞ!」

 

「うるせぇ! 真面目にやれよ!」

 

「ちょー真面目だ!」

 

「嘘付け!」

 

「……相変わらずこの二人は余裕ですね」

 

 そういや、始業式の日みたいな展開だな。追うのと追われる違いはあったが。似てなくもない。って、いや違うだろ! レキは裸じゃん! 防弾制服も着ない下着姿に肩に掛けた狙撃銃。おまけに立っているのはキックスターター。その前で世界最強のネイキッドバイクを操るキンジ。そして、そのバイクと併走して走る俺。 凄い光景だなぁ。

 

「人工浮島の南端、工事現場です」

 

 と、レキがポツリと言った。

 

「見えたのか」

 

「工事現場の中に、足跡が見えました」

 

「さっすが」

 

 相変わらずのトンデモ視力だ。と、関心しながら俺たちは工事現場へ。レキの言うとおり、土嚢が食い破られたりして散らばった砂に足跡がある。レキが狙撃銃を胸の前に持ち直す。

 

「レキ、麻酔弾………なんか持ってるわけないよな」

 

「ええ、ありません」

 

「ん、まぁなら」

 

「通常弾で仕留めます」

 

「俺がなんとかするか」

 

「…………………とりあえず追うぞ」

 

 キンジがギアをローにし、俺は気配や足音を消してゆっくりと進む。ゆっくりと進む。周囲を警戒しながら。不審な感じはないが、なんとなく気持ち悪い。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 三人が三人とも、無言で足を進め、

 

「ーーっ!」

 

 三人同時に気づいた。俺は突如気配を感じて。レキは風の動きで。キンジはバックミラーを見たのだろう。ともかく、全員が気づいた。俺たちが進んでいた方向とは、正反対。真後ろに銀狼はいた。

 

「賢いヤツだ!」

 

「賢すぎるのも間違いだろ」

 

 キンジはとっさにバイクをスピンさせ車体を盾にし、レキを守る。ナイス判断。お前が肉盾となれ。

 

「なんか碌でもないこと考えてたろ……!」

 

 知るか。

 

 銀狼は猛スピードで突っ込んでくる。馬鹿みたいな速度だが、

 

「調子のんなや、イヌコロがぁ!」

 

 正面から両手で受け止める。そして、指を銀毛に絡める。両手がふさがるかわりに銀狼も動きが止めた。右膝をかちあげる。威力を押さえた膝を銀狼の頭にブチ当てる。銀狼はそれに悲鳴を上げながら、

 

「ったく、本当に狼かよ!」

 

 衝撃を反発せずにそのまま後ろに飛び退く。器用すぎる。そして、そのまま人工浮島にできた10メートルはあるクレパスを、飛び越え向こう側まで跳躍する。どうやら、俺たちがそれを飛び越えられないと考えたらしい。だが、甘い。

 

 キンジは左手の、ベレッタで二発発砲。工事現場の足場一つを公園の滑り台のようにする。それを即席のカタパルトとして、

 

「!」

 

 飛んだ! 

 そしてドリフト気味に荒く着地しつつ、

 

「――私は一発の弾丸」

 

 レキが立ち上がった。ドリフトしているバイクの上で。さらには狙撃銃を構えている。

 

「全てを撃ち抜く一発の魔弾」

 

 俺はといえば、レキが言葉を紡ぎ出した時にはすでに銀狼のすぐ後ろにいた。あんな、クレパスなんか余裕で超えられる。銀狼はピョンピョン跳んでいるが、俺はその数倍の速度で追う。そして、後ろについて尻尾をつかむ。ギャオンと銀狼が悲鳴を上げるが気にしない。

 

「ちぇりおー!」

 

 ぶん投げた。またも悲鳴を上げながら銀狼はレキたちの僅か手前に落ち。

 

「瞳は照準、指を引き金、意志を撃鉄に」

 

 かなりの衝撃だったであろうに、銀狼はすぐに立ち上がり、

 

「心を弾丸に――『魔弾姫君《スナイプリンセス》』

 

 銀狼へと放たれ、真鍮の空薬莢が宙を舞う。

 そして、その魔弾は、

 

「――!」

 

 銀狼の背中を掠め命中しなかった。

 

 

 

 

 

 

「んで? 何したんだよ?」

 

 外した、とは思わない。どんな状況であろうと必ず当てるのがレキの異常(アブノーマル)なのだ。絶対半径内なら必ず当たる魔弾。それは理屈とかではなく、そういうものなのだ。

 

 だから、レキの魔弾が当たらなかったのは外したのではなく、当てないのが目的だったのだ。

 

 その証拠に、

 

「……?」

 

 飛びかかろうとした銀狼は震え、動くことができなくなっている。

 

「脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾で掠めて瞬間的に圧迫しました」

 

 スゲ。キンジも目を丸くしている。だが、レキは俺たちに話しかけたわけではないらしい。

 

「今、あなたは脊椎神経が麻痺し、首から下が動かない。ですが、5分ほどすればまた動けるようになるでしょう。元のように」

 

 なんか、ひさしぶりにシリアスモードのレキだ。

 

「逃げたければ逃げなさい。ただし次は、2キロ四方どこへ逃げても私の矢はあなたを射抜くし」

 

 ちらりとレキが俺を見た。

 

「私の刀はあなたを斬る」

 

 刀、ね。まぁ、私の拳じゃあ格好つかないか。

 

「――主を変えなさい。今から、私に」

 

 その言葉に。

 その勅命に。

 その王命に。

 銀狼は動いた。未だに動きはぎこちないがゆっくりと這うように進み、キンジを通り抜け、

 

「………くぅん」

 

 恭順するかのようにレキの太ももに頬ずりをした。………アレは狼だからいいんだアレは狼だからいいんだアレは狼だからいいんだ…………………………よし。

 

「それで、どうすんだ? ソイツ」

 

「まずは手当を、蒼一さん適当に気を流し込んで下さい」

 

 銀狼の毛に触れてみる。わずかに身じろぎしたが、反抗する様子もない。ていうかさっきはそれどころじゃなかったけどめちゃくちゃ気持ちいいな。

 

「あいあい、それで? その後は?」

 

「飼います。もとよりそのつもりでしたから」

 

「飼うって、男子寮だろうが女子寮だろうがそんなでかいペットは飼えないぞ?」

 

「では、武偵犬ということで」

 

「おいおい……」

 

「まぁ、いいじゃねぇかキンジ。コイツかなり賢いし、毛並みも銀色で綺麗だしさ」

 

「? これは灰色でしょう?」

 

「え? 銀色だろう」

 

 レキと意見が別れた。

 レキと目が合った。

 

「………………灰色で」

 

「はい。ではお手」

 

 と、言われると銀……じゃなくて灰狼は素直に手を差し出した。

 やっぱり賢いなぁ。

 

「まぁ、ちょっと変わってるけど俺たちらしいペットだな」

 

「ペットはペットですが、蒼一さんからしたら一応同僚ですよ? 私の従者としては」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 俺とコイツが同僚?

 ただのペットじゃなくて。まぁ、俺だってレキの従僕名乗ってるし、レキを主としてるけど。

 

「…………………よろしくな、同僚」

 

 キンジ、可哀想なものを見る目で見るな。そして、レキは灰狼の頭を撫でながら、

 

「ふふ、でもペットはペットですから。頑張って餌代を余分に稼がないといけませんね。一家の大黒柱さん」

 

 ……………………そんなこと言われたら頑張るしかないなぁ。

 

 

 

 


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