落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「ぬおぉぉぉぉ!」
「をおぉぉぉぉ!」
「……………………」
後ろにはレキが、横にはキンジがいる。グラウンドを走る。自転車を漕ぐ。だだ走っているのではない。
爆走である。
何が悲しくて、四月始めから自転車で爆走しなければならないかというと。
俺とキンジの後ろ。
数メートル離れて俺達を追いかけてくるのは。
「な、なんでーー」
キンジか横で叫んだ。
「なんで朝から
…………うむ。
やたら長い説明口調ありがとう。
◆
キンジが叫んだ通り、俺とレキにオマケ一で登校し。
セグウェイである。ただのセグウェイじゃあなかった。UZI装備である。ボイスは某ボーカロイドである。二機同時である。
需要ねぇよ。
「蒼一、なんとかならないか!?」
「なんとかって言われてもなぁ……レキ?」
「難しいです」
レキは愛銃ドラグノフに目を遣り、
「今の状況では流石に二機同時に落とすのは難しいですし、落としても増援が来ないとも限りませんし」
「だよなぁ……」
ちょっと考えてみる。
ふむ。
「キーンジ! プランA出来たけど聞くか!?」
「聞かせろ!」
態度がデカい気がするか今は気にしない。後で締めるが。
「まず、俺がレキを抱えて跳ぶ」
「それで?」
「自転車はこの際諦めて、一度キンジに引き付ける」
「それから?」
「キンジが何か新しい力に目覚めるのを期待して俺とレキは登校する」
「目覚めるかーー!」
やかましい。そこか主人公属性でどうにかしろ。
「なんでお前は自分と自分の嫁の事しか頭にないんだよ!」
おいおい、なんてこと言うんだ。そんなこと言われたら、
「照れるなぁ」
「照れるなー!」
「……案外余裕ですね、二人共」
◆
と、まぁ。
案外余裕を持っていた俺たちだが。
いい加減どうにかしたいなぁ、と思いだした頃だった。
「ん?」
先に気づいたのはキンジだった。視線の先はとある女子寮の屋上。いたのは一人の少女だった。武偵校のセーラー服にピンクのツインテールの小柄な少女。何か背負っているようだか、よく見えなかった。
とりあえず視力をあげてみた。
確認すれば、
「……パラグライダー?」
「そのようですね……まさか」
素でも両目の視力6.0を誇るとんでも視力の、レキも確認したらしい。
そのレキの僅かに驚いた声と同時に。
「はぁ!?」
飛んだ。キンジの間抜け声が響く。空中にてパラグライダーを展開。そのままこちらに飛んでくる。
「バ、バカ! この自転車には爆弾が……」
今更遅い。だが、キンジの叫びももっとだ。こっちには自転車付き爆弾と、UZI装備の誰得セグウェイがある。そんなのに突っ込むのは自殺行為だ。ある程度の実力が伴わないかぎり。しかし。彼女は相応の実力の持ち主だったらしい。両太腿のホルスターから銃を抜く。黒と銀のガバメントによる二丁拳銃。
それらを構え、
「ほら、そこのバカども! さっさと頭を下げなさいよ!」
発砲。連続する銃声は四発分だ。
四発が四発ともセグウェイのタイヤに命中する。後ろに転がっていった。それは実に歓迎すべきことだが、
「異議あーり! バカはそこの根暗だけで……うおっ!」
「そんなのに引っかかってる時点で十分バカよ!」
おっしゃる通りで。それはともかくかなりの腕前だ。パラグライダー装備での精密射撃などそうできはしない。少なくとも俺にはまず無理だ。銃火器の類は苦手である。
謎の飛行少女は俺とキンジを交互に見るが。
「バカじゃないこと証明してやるからあっちのバカを頼む」
判断は一瞬。少女は意識をキンジに向ける。その上で姿勢を変える。頭を下に、持ち手に足を引っ掛ける。そのままキンジをかっさらうのだろう。向こうはもういいと判断。俺達も逃げるとしよう。
「レキ」
「はい」
「飛んでくれ」
「――はい」
飛んだ。
荷台から後ろへ。
なんの迷いもなく。
なんの躊躇いもなく。
なんの疑いもなく――跳んだ。
車体が重さを無くす。かなりのスピードで走っていたため、地面落ちたら最悪死ぬ。がしかしこの俺がそんなことをさせる訳がない。かつて実家とのいざこざがあり人間不信の人間嫌いだったがとある吸血鬼もどきのように美少女だけは例外だと謳ってきたこの俺に限っては有り得ない。コンマ数秒の差をもって俺自身も跳んだ。ただ跳んだだけではない。
「おりゃ!」
思い切り蹴飛ばした。自転車がひしゃげぶっ飛ぶが、確認せずに後ろを向く。着地。特殊合金を仕込んだ靴底から火花が散ったが気にしない。スライディング気味に飛び込んで。
「お待たせ、ハニー」
「お気になさらず、ダーリン」
受け止めた。お姫様抱っこである。キンジに視線を移せば、
「ふぼっ!」
謎の飛行少女の胸に頭を突っ込んでいた。
自転車が爆発した。
そんな感じで。美少女をお姫様抱っこして。美少女の胸に頭突っ込んで。俺達はセグウェイから逃れた。
◆
「しつこいなぁ」
セグウェイから逃れたはずだった。
しかし、
「これ、倒しても倒しても出てくる無限ループじゃないよな」
「さすがないと思いますけど」
先ほどレキが予想したように。お姫様抱っこでセグウェイから逃れた俺達に。やっぱりUZI装備のセグウェイが来た。今度は7台。俺達2人を半円で囲うように来た。
「やれやれ、しつこい奴は嫌われるって相場がきまってるぜ?」
「私はしつこくても蒼一さんが好きですよ」
「当然俺もだ」
さてと。構える。足は大きく開き、腰を深く落とし――
左足を前に出して爪先を正面に向けて。右足は後ろに引いて爪先は右に開き。右手を上に左手を下にして、手は平手。相手に壁を作るような構え。
「『拳士最強』、那須蒼一推して参る」
◆
「行っくぜー」
呟きながら、セグウェイとの距離をゼロにした。ただ近づいたのではない。気を宿した脚で地面を蹴り、そのまま前蹴りである。
一機破壊。
さらに隣の二機掛けて、独楽の如き後ろ回し蹴り。右端の奴に近づき、気を宿した鋼の如き貫手を繰り出す。セグウェイの車体に突き刺さり、そのまま左端のにぶん投げる。激突、破壊。五機破壊。其処にしてようやく他のセグウェイが動いた。残りの二機がこちらを向き、連続で発砲した。
がしかし。
着弾点に俺はもういない。セグウェイがこちらを向いたと同時に跳躍。そのまま脚を足刀に見立てた、前方三回転のかかと落とし――!
一機がまるでプレスされたように縦にひしゃげた。六機破壊。続いて最後の一機を狙おうとして、セグウェイのそれよりも最後の一機が吹き飛ばされ、大破する。見ればレキが立ち膝でライフルを構えていた。全機破壊。戦闘終了。
「ふぅ」
予期せぬ無駄な戦闘に溜め息一つ。
「サンキュ、レキ」
「いえ、夫を支えるのも妻の役目ですので」
おおう。
そんなこと言われたらテンション上がっちゃうぜ!
どうしょう。どのようにしてこのハイテンションを表現しようか。
「蒼一さん」
レキがこちらに来た。
おお、ここは抱擁からのキスだろうか、いやしかし朝からグランドの真ん中でそれはどうなのだろうか、まぁいいか。いや、ほら頑張ったしね俺。だからご褒美が必要であって、それがたまたまレキとのハグアンドキスなだけで別にそんなにしたいわけじゃないから。だって別にこんなタイミングじゃなくてもできるし、いや本当いう仕方ないっていうかでもレキが、してくれるのなら受け取らないと悪いし。だから、まぁいいか。
うん。
心のなかで、言い訳を展開し尽くし、
「さぁ、カモンハニー!」
両腕を広げて待ちかまえる。
「はぁ」
別にそれはいいですけど。
「キンジさんたちのこと、忘れてません?」
「……………あ」
◆
体育倉庫。ちょっとした戦場になっていたそこを俺達は二人して覗いていた。もっともキンジも謎の飛行少女ももういないのだが。
事の一部始終を覗いていて、
「なぁ、レキ」
「はい」
「友人が性犯罪に走った場合どうすればいいのだろうか」
「笑えばいいんじゃないですか?」
そうか。
「はははは」
……笑えねぇよ。そんな安いネタでもねぇし。セグウェイどもはこちらにも来ていたがすでに破壊されていた。問題はそれを破壊したのがキンジだということだ。基本的に、素のキンジにはできないだろうから、つまり
問題は、
「状況的にさっきの飛行少女だろ……どう見ても中学生か下手したら小学生だぞ」
「あれだけ周りに女性がいるのに何もなかったのは――なるほど、
「だな……」
これは一武偵として捕まえなければならないだろうか。 でも部屋が広くなってラッキーかも。それに一人暮らし。魅力的な単語。まぁ、飯が問題だけど……待てよ。
「キンジがいないと星伽が来ない……あの飯が食えなくなるのはなぁ」
それは惜しい。仕方ないので見逃してやろう。脅しのネタ程度で許してやろ。俺って優しい。腕の裾を引かれた。
「蒼一さん、料理なら私もできますよ」
「……言っておくが、この前のカロリーメイトの盛り合わせは料理じゃないぞ」
「もちろんですーーSOYJOYの和え物なんてどうでしょうか」
「それも料理じゃねぇよ」
栄養食品から離れろ。