落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第10拳「――これが私だから」

 

 甲高い音が音が聞こえる。見えてきた光景は、ジャージ姿にお面のレキと銀髪に甲冑姿の少女――魔剣が銃剣と大剣を打ち合う姿。

 

「レキーーーー!」

 

 叫んだ。叫んだら、

 

「おや」

 

 身を翻して、消えていった。

 

「………………あれ?」

 

 あれ? どっか行っちゃったよ?

 

「れ、レキさーん?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「おわっ!」

 

 消えたと思ったらすぐそばにいた。 ジャージじゃなくて制服になっていた。いつの間に。

 

「大丈夫か、レキ?」

 

「ええ、問題ありません――ああ、蒼一さん。下がりますよ」

 

「へ?」

 

「白雪さん」

 

「うん、行けるよ」

 

 俺がレキに引きずられるのと反対に星伽が前に出る。その背中にはかつてない覚悟が宿っていた。まるで、何かを決めたように。

 

「ほう? 私と共に行く気になったのか?」

 

「違うよ、貴女を逮捕するだけです」

 

「……出きると思うのか? 貴様にこの私を、ジャンヌ・ダルク三十代目を、この聖剣デュランダルを倒せるのか?」

 

 デュランダルって……。ホンモノかよ。だったら……トリプルアクセル土下座しなきゃ。星伽は魔剣ジャンヌの言葉に応えた様子はなく、ただ彼女は、

 

「キンちゃん」

 

 ただ、自分の想い人の名を呼んだ。

 

「なんだ?」

 

「これからのこと――ちゃんと見てて。私は星伽の禁じられた技を使う。きっとキンちゃんはありえないって思う。気持ち悪いって思う…………けど、見てて」

 

 星伽は泣き笑いのように、

 

「――これが私だから」

 

 人には過ぎた力かもしれない。自分には過ぎた力かもしれない。気持ち悪い、ありえない。自分でもそう思う。でもそれが自分だ。

 

「白雪……ありえないことは一つだよ」

 

 キンジは泣き笑いの星伽に甘く言う。

 

「俺がお前のことを嫌いになる? ――それだけは、ありえない。俺は勿論、アリアも、蒼一も、レキもな」

 

「ふん」

 

 アリアはそっぽを向いて、

 

「はい」

 

 レキはホンの僅かに微笑み、

 

「当然だろ? 白雪(・・)

 

 俺も笑って言った。それに白雪も、

 

「すぐ、戻ってくるからね」

 

 

 

 

 

 

「蒼一、アリア。超偵とはどう戦う?」

 

「相手のガス欠を待つ」

 

「ま、それだろうな」

 

 それ以外にやり方が無いわけではない。俺が奥の手を使えばジャンヌを容易く逮捕できる。しかし、それでは白雪も、もしかしたらキンジでさえも弱体化するかもしれないのだ。

 

「なら、白雪がジャンヌを倒した時、或いは明確な隙を作った時に仕掛ける。それでいいな?」

 

「ええ」

 

「おう」

 

「はい」

 

 短い、あっさりとした作戦会議。だが、それで十分なのだ。臥薪嘗胆の気持ちで時を待つ。

 

 そして、その時は、来た。

 

 ジャンヌがダイヤモンドダストを纏った。室内が一気に氷点下に――!

 その瞬間、俺たちは同時に動いた。

 

「――!」

 

 まず神崎が飛び出した。 二本の日本刀を抜き、ジャンヌの背後へ。無論、ジャンヌはそれに気付いた。

 振り返り、

 

「ただの武偵ごときが!」

 

 怒りに身を任せ剣を横薙ぎに振ろうとした瞬間、

 

「心を弾丸に――『魔弾姫君(スナイプリンセス)

 

 放たれた魔弾が正確に聖剣を逸らす。神崎はその聖剣をスライディングですり抜ける。同時に青い光の奔流が巻き上がった。それの存在は即ち、ジャンヌの精神力の枯渇を意味する。

 

「キンジ!」

 

 叫びと共にダイヤモンドダストを押しのけて、ベレッタの弾丸が放たれる。それをジャンヌは聖剣で弾いた。だか、キンジはそれを予想していたというに前に出た。

 

「ただの武偵の分際で!」

 

 途中、神崎の妨害を受けながらもジャンヌは大斬撃を繰り出した。それをキンジは、

 

「――っ」

 

 左手の人差し指と中指での白刃取りをして防いだ。驚愕でジャンヌの動きが止まる。そこに俺が飛び込んだ。体を縮込め、腰を捻る。左の拳を右の手のひらで覆う。

 

「――ッ!」

 

 腰を切り、肘を打ち出す!

 それは確実に炸裂しジャンヌの胸骨を砕いた。

 が、

 

「う、うおおぉぁぁ!」

 

 ジャンヌは動いた。そして、動いたのはジャンヌだけではななかった。

 

「キンちゃんに! 手を出すなあああぁぁ!」   

 

 白雪が俺たちとジャンヌの間に割り込む。

 

「――緋緋星伽神ーー!」

 

 紅蓮を纏った居合い抜きの刃はデュランダルを通過(・・)し、天井まで業火が焼いた。

 

「……!」

 

 ジャンヌは折れた聖剣を見つめ放心している。彼女のような策士は想定外に弱い。己の聖剣が折られるなんて思っていなかったのだろう。

 そして、

 

魔剣(デュランダル)!」

 

 ジャンヌの手首には超偵専用手錠が、掛けられており。手錠を掛けたアリアが言う言葉は、一つ。

 

「逮捕よ!」

 

 


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