落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「ぬ、ぐ、ぐーーー!」
ジャンヌやひたすらに銃剣を防御していた。回避という選択肢は――できない。
「ーーっ!」
細い刃が首元を掠める。頸動脈スレスレ。頸動脈だけではない。眼球に。心臓に。手首に。首元に。異常なまでの精度で刃が来る。
「ーーっはぁ!」
反撃しようにも、振った途中でたたき落とされる。まるで精密機械。冷静沈着に。冷たく、静かに、鋭く。急所を狙う。
『
本来なら銃弾に作用する
突き出せば、当たる。回避に意味はなく、防御して凌ぐしかない。
「……ああ」
一度距離をとって、ポツリとレキ、否、風織が口を開いた。
「安心してくださいね。目に当たったら脳に刺さる前に止めますし、首元や手首に当たったらすぐに止血しますし、心臓は心臓に届く前に止めますので」
「……っ!」
背筋が凍る。だが、それを押し殺し、
「……もう一度聞くぞ、ウルスはイ・ウーに敵対するというのか」
「だから私はそんなのと関係ないです……が、そうですね」
彼女は嘆息したようにし少し悩む。
「こんな話をしましょうか」
あるところになにも知らない女の子がいました。
あるところになにも感じない男の子がいました。
「二人はある日出逢って、文句言ったり言われたり、嫌ったり嫌われたり、嫌々一緒にいました」
女の子は周りに誰がいようとも関係なかった。男の子はいつも一人でいたかった。
そういう二人が一緒で。そんな二人が一緒だったのだ。噛み合うわけがない。
「男の子は女の子を疎んでましたし、女の子はそれでも構わなかった」
それでも――緒にいた。
2ヶ月間一緒にいたのだ。嫌々だったはずなのに――
「――いつの間にか男の子と女の子は恋をしました」
本当にいつの間にか。なにが切欠だったんだろう。
男の子は女の子と一緒にいたいと思いました。
女の子も男の子と一緒にいたいと思いました。
抱きしめたいと、抱きしめてもらいたいと思いました。
「で、まぁいろいろあって二人は一緒にいることになりました」
「……なにが言いたいんだ」
「わかりませんか?」
「わからんな」
「愛は人を変えるという話しですよ」
「っ、まさか貴様。そんなことでウルスを裏切ったのか!」
「そんなこととはなんですか」
お金よりも。名誉よりも。なによりも。信頼できるのが――愛だ。
「それに裏切ったとかそういうのではありません。ただ決別して、自立しただけですよ。その女の子は」
「わからん! わからんな! 何故自らの血から目を背ける!」
ジャンヌは剣を構え、銀氷を纏う。
「目を背けたわけではないですよ。ただ、他に見るべきものがあるだけです」
風織も銃剣が構える。
「そうですね、貴方も恋でもすればいいんじゃないてすか?」
●
「くそ、どうなってんだ?」
俺は地下倉庫を走っていた。キンジと神崎に配置された場所では何も起きなかった。恐らく、レキの所。
「つーか、キンジたちも無茶な作戦考えるなぁ」
星伽を囮にし、一度捕まえさせてから魔剣を捕まえるなんて。魔剣が俺たちを盗聴していたのはキンジが熱を出した時に、気づいていた。くーちゃんが気づいてくれたのだ。
「盗聴機が発する電波で携帯の会話に僅かにノイズがあったとかなんとか言ってたけど、なあ?」
よくわからん。わからんが、まあいいだろう。
「大事なのは、魔剣が存在するのが分かったってことだな」
そのおかげで策が立てられた。いや、立てたのはキンジなんだけど。なんか最近アイツスペック上がってるなぁ。まあ、いいけど。
一度魔剣を誘き出してから撤退させる。撤退させたその先に俺かレキを置いて、足止め。その後集合し全員で捕まえる。簡単に言えばそんな作戦だった。
「……ん」
レキがいるであろう場所目掛けて走っていたその時。曲がり角の向こうに気配を感じて体をコマのように回し、
「シッ!」
腰をのせた回し蹴りを叩き込んだ。
「!」
叩き込んだ瞬間に見覚えのある拳銃が眼前に突き出された。
「おっと」
それを確認し、足を止める。
「……なんだ、蒼一か」
「なんだとはなんだ。てか、なんだよその格好」
銃を突き出した人物、キンジはずぶ濡れだった。なにしてたんだか。
ていうか。
「お前またかよ……」
キンジの気配は何時もと違った。『
「……那須くん?」
「お前かーー!」
「ひっ!?」
「ちょっと、なに叫んでんのよ! 蒼一!」
よく見れば、後ろに神崎と星伽がいた。星伽の顔が赤いから、そういうことだろう。
「お前さぁ……まあいいや。今はそんなことはどうでもいいや」
そうだ、今はこんな話しはどうでもいい。 レキの所に行かなければ。