落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第8拳「私、零崎風織といいます」

魔剣(デュランダル)──ジャンヌ・ダルクは地下倉庫(ジャンクション)を駆け抜けていた。

 

 星伽白雪の拉致計画。

 途中、協力者のリュパン4世が退場するというアクシデントが起きたが万事順調だった。彼女が住んでいる部屋に盗聴器を仕掛けてホームズと遠山を巻き込んでハプニングを起こしたり、のんきにも祭りに出かけた星伽白雪に脅迫メールを送ったりした。ホームズやなにやら動いていたようだが許容範囲内だし、何もしていなかった遠山は問題外。何よりも予測不可能だった『拳士最強』と魔弾の姫君はいちゃついていただけだった。

 

 アドシアード当日に白雪を地下倉庫《ジャンクション》に呼び寄せることも成功した。やはりと言うべきか、遠山も後から現れたが通常のモードの遠山など脅威になりえない。

 

 星伽を拉致した後に、やたら絶妙(・・・・・)()タイミング(・・・・・)でホームズが現れたのは予測外だったが。いや、拉致された後だったから絶妙とは言えないが。白雪は倉庫の壁際に鎖で縛り、後始末の用意も完了した。だから、後は時間が経つのを待つだけだと一息つこうとして――。

 

「――心を弾丸に――『魔弾姫君(スナイプリンセス)』」

 

 頸動脈スレスレで狙撃弾が通過した。

 

「っ!」

 

 カツンカツン、と倉庫の暗闇から足音が聞こえてくる。確認するまでもない。火薬庫である地下倉庫(ジャンクション)で周囲に引火させないように狙撃が出来る人間なんて、武偵校には一人しかいない。

 

 魔弾の姫君レキ。

 いや、

 

「源義経!」

 

「誰ですか、それ」

 

 現れたのは予想した姿では無かった。翡翠色のジャージにドラグノフ。そして何故か、狼の仮面。顔が隠れてても誰かなんて一目瞭然だ。

 

「ふざけているのか! いや、それ以前にウルスはイ・ウーを敵に回すつもりか!」

 

「なんのことですか? ウルスとかイ・ウーとか知りませんね、そんなこと。私、零崎風織といいます。始めまして」

 

 零崎風織。明らかにふざけた偽名だった。いや、そんなことよりも、

 

「何故貴様がここに……? 狙撃競技(スナイピング)に出場しているはずだ」

 

「おやおやなに言ってるんですか? ――友達のピンチに駆けつけるのは当然でしょう……まあ、私はアドシアードなんかに出てませんが」

 

「……っち。魔弾の姫君も伊達ではないということか」

 

「……何を勘違いしているか知りませんが、私をここに配置したのはアリアさんとキンジさんですよ」

 

「何……?」

 

「あなたは色々仕掛けてみたいですが全部バレてたんですよ、あの二人に」

 

「バカな! そんな素振りは……」

 

 無かった、と言えなかった。思い当たることが、あったのだ。

 

「見舞いの時か!」

 

「正解です」

 

 あの時、ホームズと遠山に不自然な間があった。その時は気にならなかったが、あの時に盗聴器に拾われないように話ていたのなら。そして、武偵には声に出さずに会話する方法がある。

 マバタキ信号(ウインキング)

 音を用いない会話。盗聴器では――――拾えない会話。

 

「……っつ!」

 

「あなたはキンジさんたちを手のひらの上で操っていたつもりでしょうが、あなたが操られてたんですよ」

 

 策士、策に溺れる。

 策士である彼女にとってはどうしようもない屈辱だ。 

 

「……なる、ほどな。さすがに舐めすぎていたわけか」

 

「私も予想以上でしたけどね、思ったよりパートナーをやっているようです。……それで、投降しませんか? アナタを捕まえればアリアさんのお母さんの冤罪がマシになるらしいです」

 

「断る」

 

 ジャンヌは剣を掲げる。古めかしい、しかし手入れが行き届いた洋風の大剣(クレイモア)。鍔の宝石が青く輝く。同時にジャンヌの周囲に銀氷が舞う。

 

「ここでお前を倒して、失点を取り戻させてもらおう」

 

「……やはり、そう来ますか」

 

 そう言って、レキ――ではなく零崎風織はドラグノフに銃剣を取り付ける。さすがにこんなところ乱射するつもりはないらしい。

 

「ふっ。狙撃手であるお前が近接戦か?」

 

「あなただって策士でしょう」

 

 ジャンヌは下段に。風織はまっすぐに構える。

 

「さあ、アリアさんたちが来るまで付き合ってもらいます」

 

 『魔弾姫君《スナイプリンセス》』――応用編。

 


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