落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第7拳「『世界とレキだったら、やっぱり俺はレキを選ぶよ』」

 5月5日。

 夢の国、東京ウォルトランドに俺は来ていた。一人で来ていた。一人で遊ぶわけではないけれど。花火大会がこの夢の国で行われているのだ。エントラスゲートで携帯をいじりながらレキを待つ。

 そう。今日は久しぶりのデートだ。

 4月に入ってからは忙しかったし、最近は星伽の護衛もあった。ちなみにキンジたちはこっちには来ずに、葛西臨海公園から花火を眺めるらしい。だから、本当に二人きりのデートは久しぶりなのだ。まあ、いつも一緒にいるけれどやっぱりちゃんと待ち合わせをして遊びに行くっていうのは違うだろう。

 今、現在は5時半。

 待ち合わせは6時なので少し余裕もある。あれだ、あのセリフを言ってみたかった。今、来たところだっていうセリフ。なんか、憧れる。

 

「蒼一さん」

 

「ん」

 

 来たか、と思って目を上げて、固まってしまった。……何このかわいい女の子。

 あ、俺の嫁か。

 レキは浴衣を着ていた。いや、花火大会なのだから普通なのだがそれが異様に似合っていた。髪と同じ色の翡翠色の浴衣。それら負けずに輝く琥珀の瞳。普段は寝癖がそのままで適当な髪型もキチンとセットしている。どうすればこのレキの可愛さを表せるのだろうか。元々顔立ちは人形めいているし、姿勢も良く、体の凹凸が少ないから和服が合うとは思っていたけれどこれほどとは。

 俺は今、猛烈に感動している。今度ライカちゃんに頼んでフィギュアにしてもらおう。

 

「……蒼一さん? どうかしました?」

 

「ん? い、いや、なんでもない」

 

 さすがに。可愛すぎて反応に困ってた、なんて言えない。

 

「行こう、レキ……それと」

 

「はい?」

 

「すっげぇ、似合ってる。可愛いぜ」

 

「ありがとうございます」

 

 反応に困ってた、なんて言えないけどこれくらいはいえるんだぜ?

 嬉しそうに笑うレキ(それでもやっぱり俺にしか分からないけど)に手を伸ばす。伸ばした俺の手にレキの手が重なる。 重ねた指を一つずつ絡めて、彼女の体温を感じる。

 

「行きましょう」

 

「おう」

 

 そうして、俺たちは歩き出した。……あ、あのセリフ言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「射的だよー、特等はカレーだよー」

 

「パンチングだよー、特等はカレーだよー」

 

「型抜きだよー、完璧に出来たらカレーだよー」

 

「鮫釣りだよー、特等はカレーだよー」

 

 ……夢の国なのに屋台があるのは如何に。えらい、俗物な感じになってるなぁ。まぁ、お祭りっぽくていいけどさ。ていうか、何故カレーばっかり……?

 折角だから色々やってみました。で、皆忘れてるかもしれないけどここにいるの『拳士最強』那須蒼一と『魔弾姫君(スナイプリンセス)』。屋台くらいどうってことない。

 

「全部一発ってどういうことー!?」

 

「測定不能ってどういうことー!?」

 

「あれー? どっちがホンモノー?」

 

「あれれ? ホンモノ入れなかったのにー?」

 

 全部余裕だ。ていうか、最後の奴表出ろ。まぁ、カレーばかり貰ってもしょうがないので、ていうかカレー臭いデートなんてゴメンだ。レキは楽しそうに(やっぱり俺にしか分からない)ワタアメをパクついてた。と、こちらを向いて指で大きな丸を描いて、

 

「まるっ」

 

「止めとけ、それは笑顔ではきはき言うから可愛いんだ。無表情だと逆に怖いよ」

 

「大丈夫です、私の声優さんは優秀ですので」

 

「この世界アニメだったのか!?」

 

 衝撃の新事実! この世界はアニメだった! じゃあ、俺にも中の人がいるのか!?

 

「いえ、蒼一さんは声無しです。ていうか、立ち絵もありません」

 

「俺アニメ未出演!?」

 

 あれか、一時期アニメ業界で流行った原作キャラをカットしたり、アニメオリジナルキャラをやたら出したりしてたあれか! 俺一応主人公だろ!ていうか、俺がオリジナルキャラなのか!? 

 

「大丈夫です、私の声優さんが代わりに蒼一さんの声も担当しますから。『俺は巨乳派でも貧乳派でもねぇ! 美脚派だ!』どうですか」

 

「似てねぇし、言ってねぇよそんなこと! なんで人の性癖を暴露してんだ!」

 

「キンジさんや武藤さんたちと話てるのを聞いてました。

ていうか、否定はしないんですね」

 

「ぬぐっ……!」

 

「『世界とレキだったら、やっぱり俺はレキを選ぶよ』」

 

「似てねぇし、今時そんなセリフ言う場面なんか無いだろ!」

 

「言う場面があったら言ってくれる気があるんですか?」

 

「…………………………………あるっ!」

 

 なんて。

 レキは小さく微笑んで。

 俺はそっぽを向いて。

 やっぱり手は、絡めたままだった。

 

 

 




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