落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第4拳「負けるな、センパイっ!」

「肘を腰に当ててー、手のひらを上にー」

 

 せーの。

 

「支配者のポーズ、はっはっはっは!」

 

 …………

 

「……虚しい」

 

 夕方の廃工場の中で一人俺はうなだれる。そこらへんにコンテナが転がっていて、視界は悪い。一人ぼっち。言っておくが別に俺は一人で意味もなく、廃工場で支配者のポーズをするような根暗キャラではない。那須蒼一はクールが売りなのだ。

 ザ・クール。

 ちゃんとした理由がある。意味もなく、廃工場で支配者のポーズをする理由が。いや、支配者のポーズの理由じゃなくて。支配者のポーズに意味は無いよ。

星伽の護衛を放り出してここいる理由が。こんなところで一人で待ち伏せをしている理由があるのだ。

 

「――来たか」

 

 呟いた瞬間。転がっていたコンテナから人影が飛び出した。二人だ。黒髪赤眼と金髪翠眼。刀とトンファーを構えた少女。金髪の方が先に来た。

 

「おりゃっ!」

 

 両手で顔の前に構えたトンファーの右が来た。中々するどい。それはぶつかる直前に左の手の甲で払いのける。

 

「はあっ!」

 

 次は黒髪。若干長めの日本刀。なんでも彼女の得物のレプリカらしい。ていうか、刃潰してあるのか、コレ?

 唐竹割り。縦一直線。

 避けようとして。ふと、思い出す。

 そういえば、最近キンジと神崎がおもしろい訓練してたなぁ。だから、というわけではないが。

 

「っ!」

 

 二指真剣白羽取り。右の人さし指と中指での白羽取り。白羽取りなんて余裕だ。余裕の余っちゃんだ。視界の隅で金髪の方がさらに動いた。同時に背後に気配。奇襲狙いの二つだ。これで今回(・・)一年生(・・・)チームは全員。一年にしては良い連携だ。連携としては一年でもトップクラスだろう。

 まぁ、だからこそ。

 先輩として、二年生として。後輩に、一年生に。格の違いを見せつけてやろう。

 白羽取りの指を外さずに右足を下げる。半身になって、後ろの気配の小さい方を見る。茶髪紫眼の小さい体をさらに姿勢を低くしていたから、

 

「ほれ」

 

「ふぎゃ!」

 

 右足で茶髪の肩を踏みつける。同時にその足を支点にして左手を首の前に。

 

「なんと!」

 

 掲げた指で苦無を止めた。黒髪翠眼が目を見開いている。そこで金髪がリカバリ。再びトンファーを突きだしたので、少し膝を曲げながらトンファーごと蹴りあげる。そのまま足は顔の前に。もう少し、膝を伸ばせば顎に直撃ルートだ。

 さて。

 右手、佐々木志乃の刀を白羽取り。その気になれば二指で折れる。

 左手、風魔陽菜の苦無を白羽取り。右と同じ。

 右足、間宮あかりの肩を踏みつけている。余裕で肩を砕ける。

 左足、火野ライカの顔の前。膝を伸ばしたら思い切り直撃。

 

「はっはー、元気いいなお前ら。なにかいいことあったのか?」

 

 

 

 

 

 

 さて、何故俺が廃工場で一年相手にバトっていたのかというと。説明するとものすごーく面倒なのだ。昨日、蘭豹に捕まっていろいろ言われたのだ。

 と言うわけで。

 以下、回想。

「おい、那須。お前、アドシアードの格闘競技(ファイテング)出ろや」

「なにぃ? いややとぉ? ほおぉ、いい度胸やなぁ。四か月前に事忘れたとは言わせんでぇ?」

「ほー。それでも断るんやな。んー。ええやろ、勘弁したるわ

「なんや、その目は。勘弁したるゆうてるやろ

「その代わりや、その代わりにやってもらいたいことがあるんや

「ええか? ええな

「出なくていいから代わりをお前が決めろや。方法は……そうやな。何人かとまとめて模擬戦とかでええから

「嫌とは言わせんで? これでも譲歩したったんやからな?

「な?」

 以上、回想。

 ……何も言うまい。

 そんなこんなで、朝から2年の強襲科(アサルト)諜報科(レザド)近接格闘型の連中と模擬戦をしまくった。

 ……いや、マジで殺しに来るんだよなぁ。アイツら。キチガイすぎる。ナイフも刀も刃潰してないし。まぁ、全員ぶん殴ったけど。そんなこんなで、2年が終わり。

 それで終わりだと思ったら、1年パーティーが1組いた。なまじ知り合いだったが故に、無碍にも出来なかった。間宮ちゃんと佐々木ちゃんと風魔ちゃんは神崎と星伽とキンジの戦妹だったりするし、ライカちゃんはとあるルートで知り合った。

 

「まぁ、いいんじゃねぇの? お前ら。1年にしちゃあソコソコだな。けどなぁ、先輩から言わせえ貰えば……」

 

「そんなことはどうでもいいですから白雪お姉さまのことを教えてください」

 

「……」

 

 ……ええー。

 コイツ先輩の話し飛ばしたよ。おまけに間宮ちゃんも風魔ちゃんも当り前の顔してるし。ライカちゃんだけは苦笑い。いい奴だなぁ、ほんと。

 実は、常識人。

 

「うん、まぁ。楽しそうにやってるぜ? 魔剣(デュランダル)がホントにいるかわかんないから四六時中いっしょにいるし」

 

「アリア先輩とですか?」

 

「師匠とでござるか?」

 

「……」

 

「おいコラ、些細な事でガンとばしあうな」

 

 こいつら実は仲良くないだろ。絶対、風魔ちゃんだけは間宮ちゃんたちにくっついてきただけだ。腕試しとか言って。

 

「基本はキンジだなぁ。それに俺と神崎がローテでウチの嫁が遠距離から警戒みたいな感じだ」

 

「そうですか……、大丈夫でしょうか……」

 

 頬に手を当てて、溜息を付く佐々木ちゃん。ここだけ見れば星伽に続く大和撫子なんだけどなぁ……。中身も星伽に続くヤンデレなのだ。

 ヤンデレちゃんだ。

 

「アリア先輩がいるなら大丈夫だよ、志乃ちゃん!」

 

 鳶穿(とびうがち)というけったいな技を使う謎の間宮ちゃん。神崎中毒の間宮ちゃん。

 アリアコンプレックス。

 ……なんかのタイトルみたいだ……。

 

「いやいや、師匠がいるのでござるから万事問題ないでござるよ」

 

 腕を組みながらうんうんと頷く風魔ちゃん。あいては違えど間宮ちゃんと同じ。キンジ中毒のニンジャもどき。

 キンジコンプレックス。

 他にも患者がいそうだな。

 

「そ、そうですよね! 狙撃科(スナイプ)のレキ先輩もいるなら大丈夫ですよね!」

 

「そうだよ!」

 

「うむ」

 

「……」

 

 …………

 あのさぁ、お前ら。今さっきお前ら4人同時に抑えた先輩がいるのに無視か?無視なんだな?一応、『拳士最強』なんて呼ばれてんだぜ?

 綴なんかは強襲科(アサルト)切り札(ジョーカー)とか言ってたんだぜ?

 ……ちくせう。

 ぽん、と肩に手が置かれた。見れば、温かい目をしたライカちゃん。

 

「負けるな、センパイっ!」

 

 泣いても、いいですか?

 

 

 

 

 

 

「あ。あとセンパイ、頼まれてたレキセンパイのフィギア18号(軍服版)できたましたよ。今日の朝郵送しときました」

「おお! すまんな、いつもいつも」

「いいですって。アタシもやりたくてやってるんですから」

「ありがとな、これでまた嫁コレクションが増える……!」

「ていうかセンパイ、フィギアとかどこに保管してるんですか?」

「ん? ほら、俺って4人部屋を二人で使ってるからな。空き部屋をゲームやら漫画とかで埋めて、本棚の裏にショーケースを作ってあるんだぜ」

 

 

 


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