落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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この本編で100万字超えたぜい


第3曲『子守歌《Berceuse》――』

「……ここまでするのか?」

 

 武装配置や魔方陣結界設置が進む竜の港を眺めながら原田静刃は言葉を漏らした。

 竜の港はそれまではカモフラージュされて、ただの入り江でしかなかったがここ数日ですっかりと様子が変わってしまった。

 遠山キンジの処刑にロケットの発射が行われた時は簡易な設備であったが今は全く違う。海岸線沿いに対空砲や機関銃、ロケット発射台が設置され、武器弾薬が保管されたコンテナがあちこちに置かれている。所々に突き出ているアンテナはそれらの火器を統率するレーダーだろう。まるで戦争でもするかのような光景だ。数週間前に魔女連隊の火器はほとんど消費されたが、こんなにもすぐに兵器を集められるとは恐るべき経済力だ。

 そしてそれだけではない。

 湾内のあちこちには怪しげな石や符が展開され、様々な魔術的効果を生み出している。侵入者察知だけではなく地雷や自動迎撃術式のようなものであり、そのどれもが極めて高い殺傷力を持つものばかり。

 科学的にも魔術的にも今の竜の港は紛れもなく要塞となっていた。

 それらの要塞化をタブレットPCで統括していたカツェは静刃の呟きを聞き、顔を上げる。その表情は理解ができないくらいに楽しそうに歪んでいて、

 

「これで足りると思うか?」

 

「……」

 

 静刃は何も言えなくなる。

 誰に対する言葉かは言うまでもなかった。

 絆の勇者、遠山キンジ。

 彼の逸話に対して静刃ははっきり言って眉唾ものだと思っていた。

 やれ敵を倒すのに街が吹き飛んだとか零距離で撃たれたのに平気だったとか睨んだだけで何十人も卒倒させたとかたった数年で世界超人ランクの一位をもぎ取ったとか、挙句の果てには宇宙人とか異星人を追い返したとか。かつて通っていた学校ではその名前や姿は半ば神格化され、男が彼一人だった故によく比較されていた。

 だから好きじゃない。

 そして先日、この時代(・・・)に来て直に対面した時はやはり噂だと思った。簡単にカツェの罠には嵌るし、すぐに逃げ出すし。

 だけどその考えはカツェとの戦いを見て、無理矢理変えられた。

 かつて彼とその戦友たちが死力を尽くして戦車一台倒した。けれど遠山キンジは仲間と共にあまりにも容易く戦車の群れを突破した。その上で軍隊と言っても差し支えない戦力を一人で担ったカツェを倒した。

 挙句の果てにはロケットを使った処刑すらも逃げ延びたのだ。

 噂が眉唾ものではないかと思わずにはいられない。

 

「ケケッ」

 

 静刃は眉を潜めていたが、しかしカツェは変わらずに笑うだけだった。

 

「そんな辛気臭い顔すんなよ、アイツ来た時にそんな顔のままじゃ笑われるぜ?」

 

「……あの男は、来るのか?」

 

「来るさ」

 

 確信を持った言葉だった。

 加えて、何故か誇らしげでもある。

 

「アイツの武器はうちの長官が持っている。あれはアイツの繋がりの形の一つだしな。聖剣は言うまでもなくナイフやデザートイーグルは父親から貰ったもんのはずだ。ベレッタは……ベレッタはほら、あいつベレッタ社のスポンサーしてるしよ」

 

「……詳しいんだな」

 

「敵を知り、己を知ればなんとやらってな。どーもアタシは肝心な所で爪を誤るからなぁ。できるだけ最初に準備しとかないといかんのだよ。新兵君。他のお仲間はどうした?」

 

「いつも一緒ってわけじゃない。……聖銃はそのあたりフラフラしているだろうし、魔剱は環剣の整備をしているはずだ。俺はこの武器配置が気になったから来てみただけだしな」

 

「へぇ、珍しいか? この光景が」

 

「まぁな」

 

「いまいちよく解んねぇ奴だなぁ。ちと派手だが別に珍しいもんでもねぇと思うけど、まぁいいさ。傭兵の事情なんて深く突っ込む気はねぇ。物珍しいなら好きに見てろ、邪魔はするなよ」

 

「……あぁ」

 

 小さく頷いてから、周りを見回し、

 

「しかしあとどのくらいで終わるんだ?」

 

「終わらねぇよ」

 

「はぁ?」

 

「この程度じゃ足りねぇだろ? つかアタシは魔女連隊の全兵装ぶち込んでも勝てなかったという我ながら情けない過去があるしな。アイツが来るまでひたすらに防備を固める。こんな普通の武器や魔術やらであの愛すべき戦友をどうにかできるとも思わないけれど何もしないよりマシだろ」

 

「……意味がないと思っているのにやるのか? こんなにも金を掛けて?」

 

「あぁそうだ。全部終わって布団の中で泣いて悔やむのは御免だからな。無駄だと思う努力は無駄に終わるかもしれねぇ。別にそういうのは珍しい話でもねぇしな。んでもやれること全部やってたらまぁ、自分の全力が足りなかったて笑えるだろ?」

 

「……理解できないな。笑えるもんかよ。負けて楽しいのか? 俺は……二度と御免だね」

 

 リフレインするのは血に染まった白い背中だ。

 かつての戦いでは、カツェのいうやれることは全部やった。だけど足りなかった。だから仲間を犠牲にして自分たちだけがのうのうと生き延びた。何度思い出しても胸が痛むし、自分の無力さに死にたくなる。

 笑えるわけが、ない。

 

「ケケッ」

 

 なのに、カツェは笑う。

 静刃の悔恨に対してどう思っているのかは解らない。

 それでも愉しそうに。

 少しだけその笑顔が静刃は怖い。何を考えているか解らないからだ。今まで自分が得てきた価値観とはあまりにも違いすぎる。

 たった数年(・・)の誤差なのに――その差は大きすぎる。

 

「……アイツはいつ来るんだ? 推測くらいないのか?」

 

「うん? まぁ無くはないけど――」

 

 首を傾げた瞬間だった。

 

 ――湾内全体に警報が鳴り響いた。

 

『報告します! 竜の港に高速飛行物体、っ、ミサイルです! ミサイルが接近中ですが――壁面に『遠山キンジ様一行、夜露死苦』なんて書かれています!』

 

「……アイツ関わると推測とか無駄なんだよなぁ」

 

 やっぱり、肩を竦めながら楽しそうにカツェは笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セーラ・フッドはその類まれなる視力から接近するミサイルを見た。

 ミサイルとしてはかなり小型だが、しかし相応の速度を持って竜の巣に接近している。どんな種類や量の爆薬が仕込まれているか解らないが、それでも着弾すれば相応の被害をもたらすだろう。

 

「でもあんなものどこから……リサ?」

 

 遠山キンジの手腕でミサイルを手に入れるのは難しいはずだ。けれど向こうにはリサがいて、彼女はかつてイ・ウーの経営を一人で任されていた手腕の持ち主だ。彼女がいれば例え一文無しであろうともミサイルの一つくらい入手できるだろう。

 無線から響くのはこの場の指揮系統のトップであるカツェの雄叫びだ。

 

『総員に通達! 戦闘配置につけ! 馬鹿がミサイルで来るぞぉ! セーラ、打ち落とせるか!?』

 

「流石に無理、遠すぎるし私の矢はミサイルを打ち落とすものではない」

 

『しゃーねぇな! 折角沢山玩具そろえたんだ! 射程範囲入ったら対空砲で打ち落とせ! ケケッ、あの野郎ミサイルで飛ばされた意趣返しか!』

 

『射程入りました!』

 

『撃て!』

 

『ヤヴォール!』

 

 無線越しに行われるカツェと配下の魔女のやり取りに淀みは無い。元より軍隊だ。こういった指示に対するレスポンスは早く、半ば自動的に行動は進む。竜の巣の多くの魔女は代表戦士ではない一介の魔女に過ぎない。FEWにおいて代表戦士以下の雑兵の参戦は認められないが、別にそのことに対してセーラが文句を言うつもりもない。元より彼女も傭兵だ。稼ぎ口になるからこの戦役に参加しているだけであって新世界を誰が担うかは興味外。

 故に飛来するミサイルへ叩き込まる対空弾も他人事のように眺めていた。

 そしてそれは呆気なく命中し、空に爆炎の華を咲かせた。

 

『命中しました!』

 

「どうだぁ!?」

 

『と、特に異変は――』

 

 目を凝らす。

 炎と煙が中空に広がり、さらにそこからミサイルの残骸が落下してくる。

 湾の外で爆発したそれには特に変わったことはなかったように見えた。

 見えただけで、

 

「――違う」

 

 セーラは見た。

 どの魔女よりも、レーダー機械よりも。

 誰よりも早く彼女は目撃した。

 

 ――爆炎の中から落下してくる勇者と侍女の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速落下特有の浮遊感と風の音が全身を叩き付ける。

 視界の中、竜の巣とそれらに設置された大量の火器があり、

 

「――怖いか?」

 

 お姫様抱っこで抱えたリサに語り掛ける。

 爆撃と落下に晒され、彼女の身体は微かに震えていた。元より荒事に慣れている彼女ではないのだ。当然だろう。

 けれど、それでも彼女は気丈に俺へと微笑み、

 

「ご主人様と一緒なら、大丈夫です」

 

「――あぁ、そうだな」

 

 そして共に前を向く。 

 俺とリサのことを発見したのだろう。新たに砲火が叩き込まれてくる。俺一人だけなら対処は容易い。体重移動と桜花を繰り返せば無傷で湾内にまでたどり着ける。だけどリサがいる以上それは不可能。

 それでもリサと共に行くと決めた。

 故にその決意と、それに応えてくれたリサの想いは何よりも強い力だ。

 腕の中のリサが俺の首に両腕を回し、強く抱き付いて来る。

 俺もまたそれに応えるように抱き返し、

 

『――天喰らい・地揺らし・月追い・世統べる我こそ命の王、なればその息吹は万象導く星の慕情』

 

 世界が震える。

 腕の中のリサの姿は消失し、二人が一人になる。緋色の髪が一筋だけ黄金となり獣のように逆立ち、頭部には狼の耳。爪も牙も伸びきって、筋肉も大きく膨張する。武偵高制服もまた姿を変えていく。上半身は纏うものは無く、緋色の呪術的な文様が刻まれ、下半身は腰までしかない金色の鎧。

 そして変化は姿だけではない。

 発せられるその気配こそが何よりの改変。

 遠山キンジという人類の世の王。

 ジェヴォーダンの獣という動物の世の王。

 その二つが融合した故に、新たに生み出される姿はこれまで地球上に存在するどの生物をも超越した強度を持つ。そこにいるだけで空間が軋む、あまりにも圧倒的すぎる存在強度は周囲に負荷を与えて世界そのものに負荷を与えていくのだ。

 その双王の覇気は曹操のそれすらも上回るほどの圧倒的覇道。

 発せられた覇気に振れただけで飛来してきた砲火が爆発する。それに一切意に介さず水面へと降り立ち、しかし水面すらも俺たちに従うかのように確固たる足場として形成し、

 

「RUOOOOOOOOOOOOOOOOO――――ッッ!!」

 

 咆哮が一瞬で竜の巣内の領域が俺たちのものへと塗り替えられる。

 それこそが、

 

子守歌(Berceuse)――月光天導の(La roi loup)星王狼(du Gévaudan)

 

 俺とリサが紡ぐ反撃の狼煙だった。

 




多分、単純なプラス値ならキンちゃん様融合においてほぼ最強です(
曹操? 考えたくもないなぁ(震え声

反撃開始じゃー

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